平沢市の料理

提供: 韓食ペディア
ナビゲーションに移動 検索に移動
この記事はウィキペディアではありません。「韓食ペディア」はコリアン・フード・コラムニストの八田靖史が作る、韓国料理をより深く味わうためのWEB百科事典です。以下の内容は八田靖史の独自研究を含んでいます。掲載されている情報によって被った損害、損失に対して一切の責任を負いません。また、内容は随時修正されます。
烏山空軍基地

平沢市(ピョンテクシ、평택시)は京畿道の南西部に位置する地域。本ページでは平沢市の料理、特産品について解説する。

地域概要

英文表記の看板が並ぶ新場洞の街並み

平沢市は京畿道の南西部に位置する地域。市の北部は京畿道華城市、北東部は京畿道烏山市龍仁市、東部は京畿道安城市、南東部は忠清南道天安市、南部は忠清南道牙山市と接する。また、西部は西海岸に面し、忠清南道唐津市と橋で結ばれている。人口は59万9580人(2025年2月)[1]

代表的な観光地としては、笑風庭園(소풍정원)、ペダリ生態公園(배다리 생태공원)、平沢国際中央市場(평택국제중앙시장)などがある。

ソウル市からのアクセスは、ソウル駅から平沢駅までITXセマウル号、ムグンファ号などの鉄道で1時間前後。ソウル高速バスターミナルから平沢高速バスターミナルまで高速バスで約55分。首都圏電鉄1号線で、振威(진위)、松炭(송탄)、西井里(서정리)、平沢芝制(평택지제)、平沢(평택)の各駅と結ばれている。

食文化の背景

北東部の新場洞(シンジャンドン、신장동)、西炭面(ソタンミョン、서탄면)一帯には朝鮮戦争中の1952年から米軍の烏山空軍基地(오산공군기지)があり、南部の彭城邑(ペンセンウプ、팽성읍)には2018年にソウル市の龍山(ヨンサン、용산)から在韓米軍司令部が移転したハンフリーズ基地(캠프 험프리스)がある。基地周辺には米軍関係者が多く居住することから、英文表記を中心とした店や、両替店などが目立つ。食文化においても米軍基地の影響を受けたものがあり、京畿道議政府市とともにプデチゲ(ソーセージ鍋/부대찌개)の発祥地とされるほか、基地関係者のニーズから生まれたソンタンバーガー(松炭式のハンバーガー、송탄버거)が名物として知られる。

  • 旧・松炭市
松炭市(ソンタンシ、송탄시)は、かつて京畿道に属していた地域で、1995年5月に平沢市と統合された。市の北東部に位置する中央洞(チュンアンドン、중앙동)、新場洞(シンジャンドン、신장동)、松炭洞(ソンタンドン、송탄동)などの地域が相当し、新場洞には鉄道駅の松炭駅(ソンタンヨク、송탄역)がある。現在もこの地域一帯を松炭と呼ぶことは多く、名物料理のプデチゲ(ソーセージ鍋/부대찌개)を他地域と比較して松炭プデチゲ(송탄부대찌개)と呼び分けたり、ローカル料理のハンバーガーをソンタンバーガー(松炭式のハンバーガー、송탄버거)と呼んだりする。

代表的な料理

ソンタンプデチゲ

ソンタンプデチゲ(松炭式のソーセージ鍋/송탄부대찌개)

ソンタンプデチゲ(송탄부대찌개)は、松炭式のソーセージ鍋(「プデチゲ(ソーセージ鍋/부대찌개)」の項目も参照)。市北東部の松炭(ソンタン、송탄)地区に専門店が多く、京畿道議政府市とともに、プデチゲの発祥地とする説があり、地名を冠してソンタンプデチゲと呼ぶ。その違いは必ずしも明確ではないが、議政府式がマルグンユクス(澄んだダシ、맑은육수)と呼ばれる野菜ダシを用いるのに対し、松炭式はサゴルユクス(牛骨ダシ、사골육수)などで濃厚に仕上げるのが特徴と語られることが多い。現在は一般的なトッピングであるスライスチーズを載せるのも松炭式であったとされる。1969年創業の「チェネチプ(최네집)」をはじめ、「ファンソチプ(황소집)」「テンチプ(땡집)」「キムネチプ(김네집)」といった有名店がある。

ソンタンバーガー(松炭式のハンバーガー/송탄버거)

ソンタンバーガー
ソンタンバーガー(송탄버거)は、松炭式のハンバーガー。発音は「ソンタンボゴ」が近い。松炭(ソンタン、송탄)地区に位置する米軍の烏山空軍基地(오산공군기지)周辺で、基地関係者のニーズから1980年代前半に屋台料理として生まれたとされる。自家製のビーフパテや、スライスチーズ、目玉焼き、キャベツなどの千切り野菜などを挟んでボリューミーに仕上げるのが特徴である。発祥当時、ソウル市には1979年に1号店をオープンしたロッテリア(롯데리아)があったものの、全国的にハンバーガーは馴染みのある料理ではなく、基地関係者にとっては貴重な存在であった(バーガーキングとKFCは1984年、マクドナルドは1988年にオープン)。草創期からの代表的な店舗として、「Miss Leeハンバーガー(미스리햄버거)」「Miss JINハンバーガー(미스진햄버거)」がある。
  • 歴史
ソンタンバーガーの歴史は諸説あり、古株店の「Miss Leeハンバーガー」と「Miss JINハンバーガー」のどちらを元祖と見るかも人によって意見が分かれる。ネット上の情報を集約する限り、以下のような経緯と推測される[2][3][4]
1982年創業を掲げる「Miss Leeハンバーガー」は、創業者であるキム・ジョンス(김정수)氏、クァク・ミラン(곽미란)氏夫妻が烏山空軍基地前でリヤカーの屋台を開いたことを始まりとする。夫婦ふたりの姓がどちらも「李(Lee)」でないのは、米軍関係者らが発音しやすいようにとの配慮であったとされる。1990年代に入って営業を中断することになり、近隣の屋台でティギム(天ぷら/튀김)などを販売していたチョン・ムヌァ(전문화)氏へと引き継いだが、のちに営業を再開したことからチョン・ムヌァ氏は「Miss JINハンバーガー」と屋号を変えて別に店舗を構えた(創業は1985年を掲げる)。こちらもまた店名と姓が異なるが、「JIN」は真実の「真(JIN、진)」を意味すると説明される。その後、2010年代に入って「Miss Leeハンバーガー」は創業者一家から、現代表のチェ・ウォンミン(최원민)氏へと引き継がれた[5]。創業年を基準とする場合は「Miss Leeハンバーガー」のほうが店の歴史は古く、ソンタンバーガーの生みの親と言えるが、人によっては休業期間中に引き継いだチョン・ムヌァ氏が事業を育てたと評価するほか、途中で経営者も変わっていることから「Miss JINハンバーガー」を元祖とする見解も多い。

ペゲダク(廃鶏の炒め煮/폐계닭)

ペゲダク
ペゲダク(폐계닭)は、廃鶏(採卵期間を終えた雌鶏)を炒め煮にしたもの。ペゲ(폐계)は廃鶏、ダク(=タク、)は鶏を意味し、料理名としては「鶏」が重複している。平沢市では1970年代から養鶏が盛んになり、その副産物として廃鶏を利用した料理が発達した。ぶつ切りにした鶏肉に、鶏の内臓(닭내장、主に腸)、キンカン(닭알집、卵巣と未成熟卵)を加え、タマネギ、ジャガイモなどの野菜とともに甘辛く炒め煮にして作る。廃鶏だけあって食感は固いものの、締まった身を噛みちぎるようにして味わうのが妙味である。甘さ、辛さだけでなくショウガ、ニンニクなどの香味野菜もたっぷりと使われていてパンチがある。残った煮汁には、ごはん、キムチ、海苔、ゴマ油を加え、ポックムパプ(チャーハン/볶음밥)にして味わう。平沢駅近くの蛤井洞(ハプチョンドン、합정동)、平沢洞(ピョンテクトン、평택동)一帯に専門店が集まっており、「サンヨンペゲダク(쌍용폐계닭)」「クンゲペゲダク(군계폐계닭)」「平沢ペゲダク(평택폐계닭)」といった有名店がある。

チャンポン(激辛スープの海鮮麺/짬뽕)

新場洞「迎賓楼(영빈루)」のチャンポン
チャンポン(짬뽕)は、激辛スープの海鮮麺(「チャンポン(激辛スープの海鮮麺/짬뽕)」の項目も参照)。新場洞(シンジャンドン、신장동)には「韓国5大チャンポン」のひとつ、「迎賓楼(영빈루)」の本店がある。

カンジャンケジャン(ワタリガニの醤油漬け/간장게장)

カンジャンケジャン(간장게장)は、ワタリガニの醤油漬け(「カンジャンケジャン(ワタリガニの醤油漬け/간장게장)」の項目も参照)。

クルバプ(牡蠣ごはん/굴밥)

クルバプ(굴밥)は、牡蠣ごはん(「クルバプ(牡蠣ごはん/굴밥)」の項目も参照)。西海岸でとれる天然の牡蠣()をごはんに加えて炊き込んで作る。市西部の浦升邑晩湖里(ポスンウプ マノリ、포승읍 만호리)に専門店の集まる一画があり、牡蠣がとれる11~2月頃にのみ提供される。地元の漁業関係者が飲食店に持ち込んで卸しているもので、シーズンが終わるとメニューから外されるか、またはオフシーズンになると店を閉めるところもある。通年で営業する店では、シーズンオフに養殖の牡蠣を用いるほか、アワビ(전복)やテナガダコ(낙지)などのソッパプ(釜飯、솥밥)や、他の魚介料理を提供する。

代表的な特産品

米、梨、キュウリなどの生産が盛んである。

代表的な酒類・飲料

ホランイペコプマッコリ(右)とホランイペコプエピソード

伝統酒

農林畜産食品部が推進する「訪ね行く醸造場(찾아가는 양조장)」として、2018年に「ホランイペコプ醸造場(호랑이배꼽양조장)」、2019年に「チョウンスル(좋은술)」の2ヶ所が選定されている。

  • ホランイペコプ醸造場
名称の「ホランイペコプ(호랑이배꼽)」は、「虎のへそ」を意味し、朝鮮半島の形を虎に見立てたとき、へそのあたりに位置することから名付けられた。原料米を加熱せず、生米と生玄米を100日かけて熟成させる製法を特徴とする。梨を思わせるすっきりした香りの「ホランイペコプマッコリ(호랑이배꼽막걸리)」と、リンゴ、ユズ、ローズマリー、蜂蜜を加えた「ホランイペコプエピソード(호랑이배꼽에피소드)」の2種を代表銘柄とする。敷地内の韓屋はドラマ『恋のスケッチ〜応答せよ1988〜(응답하라 1988)』で、ジョンボンが宝くじを当てたシーンのロケ地として使用された。
  • チョウンスル
代表銘柄の「千備饗(천비향)」は清酒と濁酒の2種があり、これを蒸留した焼酎の「火酒(화주)」も生産する。

飲食店情報

以下は韓食ペディアの執筆者である八田靖史が実際に訪れた店を列挙している。

  • Miss Leeハンバーガー(미스리햄버거)
烏山空軍基地前に露店を構え、初めてハンバーガーを販売したソンタンバーガー(松炭式のハンバーガー、송탄버거)の元祖店。1982年4月23日を創業日としている。創業者夫妻が家族で運営していたが、2010年代に入って別の経営者に引き継いだ。
住所:京畿道平沢市ショッピング路33(新場洞324-9)
住所:경기도 평택시 쇼핑로 33(신장동 324-9)
電話:031-667-7171
最終訪問日:2013年3月31日
  • Miss JINハンバーガー(미스진햄버거)
烏山空軍基地前に位置するソンタンバーガー(松炭式のハンバーガー、송탄버거)の専門店。当初はティギム(天ぷら/튀김)などを販売していたが、「Miss Leeハンバーガー」が休業した際に屋台を引き継いだ。
住所:京畿道平沢市ショッピング路3-1(新場洞302-91)
住所:경기도 평택시 쇼핑로 3-1(신장동 302-91)
電話:031-667-0656
最終訪問日:2013年3月31日
  • サンヨンペゲダク本店(쌍용폐계닭 본점)
平沢市のローカル料理、ペゲダク(廃鶏の炒め煮、폐계닭)の専門店。ぶつ切りにした廃鶏の身を、鶏の内臓、キンカンとともに辛口の炒め煮にしている。残った煮汁でポックムパプ(チャーハン/볶음밥)を作るのも定番。
住所:京畿道平沢市自由路20番キル9(蛤井洞728-16)
住所:경기도 평택시 자유로20번길 9(합정동 728-16)
電話:031-652-2646
最終訪問日:2024年11月22日
  • 迎賓楼(영빈루)★
1945年創業の老舗中国料理店。有名グルメブロガーの緑豆将軍(녹두장군)氏によって、「全国5大チャンポン」のひとつに選定されて有名になった。2013年8月にソウル市の弘大(ホンデ、홍대)地区で「弘大迎賓楼(홍대영빈루)」を開いたのを皮切りとして各地に支店を増やしている。平沢市の本店では、チャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺/짜장면)タンスユク(酢豚/탕수육)などの大衆的なメニューを揃えるが、支店によっては高級中国料理も扱う。
住所:京畿道平沢市炭峴路341(新場洞212-10)
住所:경기도 평택시 탄현로 341(신장동 212-10)
電話:031-666-2258
最終訪問日:2013年3月31日
  • チョンマンデ(전망대)
牡蠣()、テナガダコ(낙지)、アワビ(전복)など魚介のソッパプ(釜飯、솥밥)を種類豊富に揃える店。11〜2月頃には西海岸でとれた天然の牡蠣を用いたクルバプ(牡蠣ごはん/굴밥)を自慢とする。センソンフェ(刺身/생선회)カンジャンケジャン(ワタリガニの醤油漬け/간장게장)などの魚介料理も提供する。
住所:京畿道平沢市浦升邑沿岸キル98-1(晩湖里260-7)
住所:경기도 평택시 포승읍 연암길 98-1(만호리 260-7)
電話:031-681-8333
最終訪問日:2025年3月17日
  • チェネチププデチゲ本店(최네집부대찌개 본점)★
1969年創業のプデチゲ(ソーセージ鍋/부대찌개)専門店。松炭(ソンタン、송탄)地区では元祖格とされる。牛骨ベースのスープに、ソーセージ、細切りのハム、ミンチ肉などの具が入る。1人前からの注文が可能。10時開店。
住所:京畿道平沢市京畿大路1401(西井洞779-3)
住所:경기도 평택시 경기대로 1401(서정동 779-3)
電話:031-663-8922
最終訪問日:2025年3月16日
  • ホランイペコプ醸造場(호랑이배꼽양조장)★
2009年に認可を受けたプレミアムマッコリの醸造場。原料米を加熱せず、生米と生玄米を100日かけて熟成させる製法を特徴とする。梨を思わせるすっきりした香りの「ホランイペコプマッコリ(호랑이배꼽막걸리)」と、リンゴ、ユズ、ローズマリー、蜂蜜を加えた「ホランイペコプエピソード(호랑이배꼽에피소드)」の2種を代表銘柄とする。
住所:京畿道平沢市浦升邑忠烈キル37(希谷里66-2)
住所:경기도 평택시 포승읍 충열길 37(희곡리 66-2)
電話:031-683-0981
最終訪問日:2025年3月17日

エピソード

韓食ペディアの執筆者である八田靖史は2013年3月に初めて平沢市を訪れた。韓国5大チャンポンのひとつとされる「迎賓楼(영빈루)」を訪れたのち、ソンタンバーガーの老舗店を2軒ハシゴした。ソンタンバーガーはただのハンバーガーであろうと思っていたが、実際に食べてみて「どことなく韓国式のトストゥ(韓国式トースト/토스트)に似ていないか!?」との印象を受け、もともとは外国料理であっても「これは松炭の郷土料理なのだ!」との結論に至った[6]

脚注

  1. 주민등록 인구 및 세대현황 、行政安全部ウェブサイト、2025年3月20日閲覧
  2. 평택 미스리햄버거, 송탄식 수제 햄버거의 원조 、地域N文化、2025年3月22日閲覧
  3. 『깊고 심심한 우리동네 읽기』,平沢文化院, 2014年(P59-60) 、京畿道メモリー、2025年3月22日閲覧
  4. 이것이 평택의 토종 7 - 미쓰리·미쓰진 햄버거 、平沢時事新聞(2012年9月20日記事)、2025年3月22日閲覧
  5. 평택 SOUL을 담아낸 수제 버거 - 평택의 명물 '미스리햄버거' 최원민 대표 인터뷰 、『아는동네』(2020年8月13日記事)、2025年3月22日閲覧
  6. コリアうめーや!!第292号「松炭が誇るアメリカンなグルメ!!」 、韓食生活、2023年10月11日閲覧

外部リンク

関連サイト
制作者関連サイト

関連項目