この記事はウィキペディアではありません。「韓食ペディア」はコリアン・フード・コラムニストの八田靖史が作る、韓国料理をより深く味わうためのWEB百科事典です。以下の内容は八田靖史の独自研究を含んでいます。掲載されている情報によって被った損害、損失に対して一切の責任を負いません。また、内容は随時修正されます。 |
順天市(スンチョンシ、순천시)は全羅南道の中東部に位置する地域。本ページでは順天市の料理、特産品について解説する。
地域概要
順天市は全羅南道の中東部に位置する地域。市の北部は全羅南道の谷城郡、北東部は全羅南道の求礼郡、東部は全羅南道の光陽市、光陽市は全羅南道の麗水市、南西部は全羅南道の宝城郡、西部は全羅南道の和順郡と接する。また、南部の一部は南海岸に面する。人口は27万7342人で、全羅南道ではもっとも多い(2024年4月)[1]。
代表的な観光地としては、アシ(葦)の群落地で知られる広大な干潟の順天湾湿地(スンチョンマンスプチ、순천만습지)、2013年と2023年に国際庭園博覧会が開かれた順天湾国家庭園(スンチョンマン クッカジョンウォン、순천만국가정원)、朝鮮時代からの城郭や家並みを残す楽安邑城(ナガンウプソン、낙안읍성)、韓国三大寺院のひとつに数えられる松広寺(ソングァンサ、송광사)、ユネスコの世界文化遺産に「山寺、韓国の山地僧院」のひとつとして登録された仙岩寺(ソナムサ、선암사)などがある。
ソウル市からのアクセスは、ソウル駅から順天駅まで高速鉄道で2時間40~3時間程度。ソウル高速バスターミナルから順天総合バスターミナルまで約3時間40分の距離である。釜山市の釜山西部市外バスターミナル(沙上)から、順天総合バスターミナルまで市外バスで約2時間20分の距離である。
食文化の背景
南海岸に面して広大な干潟を有する地域であり、ムツゴロウ(짱뚱어)、ハイガイ(꼬막)、マテガイ(맛조개)、アゲマキガイ(가리맛조개)、ヤマトオサガニ(칠게)、ワラスボ(개소겡, 대갱이)といった海産物が豊富である。市の中心地は南東部にあって、北部、西部は山の多い地形であり、松広寺(ソングァンサ、송광사)、仙岩寺(ソナムサ、선암사)といった山寺の参道には山菜料理の専門店が並んで名物となっている。鶏料理のバリエーションが豊富で、タクチャン(鶏鍋、닭장)、タクチャントックッ(鶏肉の雑煮、닭장떡국)、タックイ(鶏焼肉、닭구이)、マヌルトンダク(ニンニクチキン、마늘통닭)といった名物料理がある。
- 地理的表示
- 海洋水産部が地域の名産品を認証する地理的表示水産物として順天湾アゲマキガイ(순천만가리맛조개、第25号)が登録されている[2]。
代表的な料理
チャントゥンオタン(ムツゴロウ鍋/짱뚱어탕)
- チャントゥンオタン(짱뚱어탕)は、ムツゴロウ鍋。チャントゥンオ(짱뚱어)はムツゴロウ、タン(탕)は漢字で「湯」と書いては鍋料理、スープの意。下煮をしたムツゴロウをすりつぶし、白菜や大根の葉などの野菜やエゴマ粉(들깨가루)を一緒に煮込んで作る。専門店ではムツゴロウを丸ごと煮込んだ鍋料理のチャントゥンオジョンゴル(짱뚱어전골)を一緒に提供するところもある。夏に旬を迎えることから、地元では夏負けを防ぐスタミナ料理として親しまれる。
サンチェジョンシク(山菜定食/산채정식)
- サンチェジョンシク(산채정식)は、山菜定食。松広寺(ソングァンサ、송광사)、仙岩寺(ソナムサ、선암사)といった山寺の参道には山菜料理の専門店が並んでおり、ナムル(和え物、나물)や、チャンアチ(漬物、장아찌)、チョン(チヂミ/전)などに利用して定食に仕立てる。サンチェピビムパプ(山菜ビビンバ/산채비빔밥)を提供する店も多い。
タクチャン(鶏鍋/닭장)
- タクチャン(닭장)は、鶏鍋。タク(닭)は鶏、チャン(장)は漢字で「醤」と書いて醤油のこと。ぶつ切りにした鶏を醤油ダレに漬け込んで下味をつけ、長ネギ、ニンニクなどと一緒に鍋仕立てにする。餅を入れたものはタクチャントックッ(鶏入りの雑煮、닭장떡국)と呼び、正月料理として親しまれる。専門店ではオッタク(漆鶏/옻닭)、タッペクスク(丸鶏の水煮/닭백숙)、タットリタン(鶏と野菜の鍋料理/닭도리탕)といった鶏料理のほか、同じく順天市の名物であるタックイ(鶏焼肉、닭구이)を提供するところも多い。
タックイ(鶏焼肉/닭구이)
- タックイ(닭구이)は、鶏焼肉。タク(닭)は鶏、クイは焼き物を総称する。鶏の各部位を炭火焼きにして味わう。もともとは山間部の渓谷沿いに設けられた「山荘(산장)」と呼ばれる水遊び場や飲食店を兼ねた観光施設の名物料理である。専門店ではオッタク(漆鶏/옻닭)、タッペクスク(丸鶏の水煮/닭백숙)、タットリタン(鶏と野菜の鍋料理/닭도리탕)といった鶏料理のほか、同じく順天市の郷土料理であるタクチャン(鶏鍋、닭장)を提供するところも多い。
マヌルトンダク(ニンニクチキン/마늘통닭)
- マヌルトンダク(마늘통닭)は、ニンニクチキン。丸鶏に衣をつけて揚げ、みじん切りのニンニクをまぶして味わう。長泉洞(チャンチョンドン、장천동)にある1984年創業の「プンミトンダク(풍미통닭)」が専門店として有名。
オリプルコギ(アヒルの焼肉/오리불고기)
- オリプルコギ(오리불고기)は、アヒルの焼肉(「オリプルコギ(アヒルの味付け焼肉/오리불고기)」の項目も参照)。竹島峰公園(チュクトボン コンウォン、죽도봉공원)の付近に専門店が集まっており、一帯を「アヒル通り(오리골목)」とも呼ぶ。専門店ではオリプルコギのほか、オリジョンゴル(アヒルの鍋、오리전골)などの料理も提供する。
代表的な特産品
イヌヤクシソウ(고들빼기)
- イヌヤクシソウ(コドゥルペギ、고들빼기)は、市南部の別良面(ピョルリャンミョン、별량면)に位置するケレンイ村(개랭이마을)の名産品。根から葉までを漬け込んだコドゥルペギキムチ(イヌヤクシソウのキムチ、고들빼기김치)として味わうことが多く、特有の苦味と根の食感を楽しむ。
- 名前に関する逸話
代表的な酒類・飲料
マッコリ
- 地元銘柄として、順天酒造(순천주조)の「ハヌルダム6(하늘담6)」「ハヌルダム9(하늘담9)」や、スルコッ研究所(술꽃연구소)の「順天生マッコリ(순천생막걸리)」などがある。
クラフトビール
- 梅谷洞(メゴクトン、매곡동)に位置する「順天ブルワリー(순천 브루어리)」では、地域食材を使用したクラフトビールを生産している。醸造場はビアレストランを兼ねており、一連の銘柄をその場で味わうことができる。
老舗
飲食店情報
以下は韓食ペディアの執筆者である八田靖史が実際に訪れた店を列挙している。
- 南道パプサン(남도밥상)
- 住所:全羅南道順天市トンノリキル8(大龍洞132-2)
- 住所:전라남도 순천시 동너리길 8(대룡동 132-2)
- 電話:061-742-1145
- 料理:チャントゥンオタン(ムツゴロウ鍋)
- 冬柏食堂/ヨッポハルメチプ(동백식당/욕보할매집)
- 住所:全羅南道順天市別良面別良長キル36(鳳林里208-20)
- 住所:전라남도 순천시 별량면 별량장길 36(봉림리 208-20)
- 電話:061-742-8304
- 料理:チャントゥンオタン(ムツゴロウ鍋)
- ソソサンシク/筏橋食堂(소소산식/벌교식당)
- 住所:全羅南道順天市松広面松広寺アンキル125(新平里132-7)
- 住所:전라남도 순천시 송광면 송광사안길 125(신평리 132-7)
- 電話:061-755-2305
- 料理:サンチェジョンシク(山菜定食)
- 花月堂(화월당)
- 住所:全羅南道順天市中央路90-1(南内洞76)
- 住所:전라남도 순천시 중앙로 90-1(남내동 76)
- 電話:061-752-2016
- 料理:チャプサルトク(大福)、ボールカステラ
エピソード
韓食ペディアの執筆者である八田靖史は、2011年11月に初めて順天市を訪れた。このとき食べたチャントゥンオタン(ムツゴロウ鍋、짱뚱어탕)がたいへん美味しく、日本に帰ってその魅力を語ろうとしたが、ムツゴロウという食材のインパクトが強すぎたせいか、料理自体の感動をうまく伝えることができなかった。その経験をもとに、自らの拙い話術は棚にあげつつ、メールマガジン『コリアうめーや!!第258号』にて「出オチ料理」と勝手なレッテルを張って紹介をした[4]。
脚注
- ↑ 주민등록 인구 및 세대현황 、行政安全部ウェブサイト、2024年5月7日閲覧
- ↑ 지리적표시수산물현황 、国立水産物品質管理院ウェブサイト、2024年5月7日閲覧
- ↑ 고들빼기김치 、デジタル順天文化大典、2024年5月7日閲覧
- ↑ コリアうめーや!!第258号 順天で味わう出オチ料理!! 、韓食生活、2024年5月7日閲覧
外部リンク
- 関連サイト
- 制作者関連サイト
- 韓食生活(韓食ペディアの執筆者である八田靖史の公式サイト)
- 八田靖史プロフィール(八田靖史のプロフィール)