この記事はウィキペディアではありません。「韓食ペディア」はコリアン・フード・コラムニストの八田靖史が作る、韓国料理をより深く味わうためのWEB百科事典です。以下の内容は八田靖史の独自研究を含んでいます。掲載されている情報によって被った損害、損失に対して一切の責任を負いません。また、内容は随時修正されます。 |
牙山市(アサンシ、아산시)は忠清南道に位置する地域。本ページでは牙山市の料理、特産品について解説する。
地域概要
牙山市は忠清南道の北部に位置する地域。市の北部は京畿道の平沢市、東部は忠清南道の天安市、南部は忠清南道の公州市、南西部は忠清南道の礼山郡、西部は忠清南道の唐津市と接する。また、市の北西部は牙山湾(아산만)に面し、黄海へとつながる。人口は33万6690人(2023年3月)[1]。韓国でも有数の温泉地として知られ、温陽温泉(オニャンオンチョン、온양온천)、牙山温泉(アサンオンチョン、아산온천)、道高温泉(トゴオンチョン、도고온천)などを有する。中でも温陽温泉の歴史は記録上、百済時代、統一新羅時代までさかのぼるとされ、高麗時代にはこの地域を温水郡(オンスグン、온수군)と呼んだ歴史もある。朝鮮時代には歴代の王も温陽温泉を訪れ、休養をしたり、病気の治療を行っている[2]。ソウル市(東ソウルバスターミナル、南部バスターミナル)から高速バスで約2時間の距離。またはソウル駅から高速鉄道のKTXに乗れば天安牙山駅まで約40分で到着する。ソウル市の地下鉄1号線が温陽温泉駅まで伸びているので、時間はかかるものの例えば市庁駅から乗ると約2時間20分で到着する。
食文化の背景
牙山市の北部は牙山湾に面し、かつては汽水域でとれるウナギ(장어)をはじめ多くの海産物が名産であった。ところが1970年代になって牙山湾防潮堤、挿橋川防潮堤などが相次いで建設されたことで、それまで海だった場所は人造湖へと変貌を遂げた。現在は仁州面傑梅里などにわずかな海が残るのみとなっており、漁業人口は激減している。一方で、ウナギ料理の専門店は仁州(インジュ、인주)地区にまだ多く、現在は養殖物が主となってはいるが、仁州ウナギ(インジュジャンオ、인주장어)の名前で地元の名物になっている。また、一部店舗では数少ないながら天然物のウナギも扱う。そのほか市内の塩峙(ヨムチ、염치)地区には牛焼肉の専門店が集っており、松岳面駅村里の「外岩民俗村(ウェアムミンソクチョン、외암민속촌)」では自家製の味噌や酒などを販売するとともに、入口付近の飲食店ではススブクミ(タカキビ餅、수수부꾸미)が名物となっている。
代表的な料理
牙山市の料理には国内有数の温泉地としての姿が密接にかかわっている。他地域から大勢の観光客が訪れるためウナギ焼きや牛焼肉といった高級料理が発達した。
チャンオグイ(ウナギ焼き/장어구이)
- 仁州チャンオ
- 牙山市の仁州(インジュ、인주)地区にはチャンオグイの専門店が集まっている。韓国観光公社が配布する『韓国の味紀行』という冊子(WEBでも閲覧可)ではその始まりを以下のように紹介している。
- 「1973年に牙山湾の防潮堤が建設され牙山湾は塞がれ湖になりましたが、1977年には観光地として開発されることになり、観光客のための飲食店が立ち並び始めました。牙山湾の防潮堤と挿橋川の防潮堤の間の仁州面にうなぎの蒲焼きの食堂ができたのは、その直後の1980年代からだと言われています。昔ならではのノウハウを生かした韓方ソースを考案し、観光客の口コミで牙山湾のうなぎの蒲焼きが全国的に知られるようになりました。初めは数軒だったお店も徐々に増え、現在ではうなぎの蒲焼き村が形成されています。」[3]
- 老舗のチャンオグイ
- 牙山市の得山洞(トゥクサンドン、득산동)には1936年創業の老舗チャンオグイ店「恋春(연춘)」がある(老舗 恋春(연춘)参照)。
ソゴギグイ(牛焼肉/소고기구이)
- 1980年代後半から市内の塩峙(ヨムチ、염치)地区には韓牛(한우)を扱う焼肉店が集まり始め、塩峙韓牛村、塩峙韓牛特化通りなどと呼ばれている。韓牛を使った焼肉のほか、ユッケジャン(牛肉の辛いスープ/육개장)なども名物に数えられる。古株店の「京東食堂(경동식당)」にはコドゥンシム(고등심)と呼ばれる希少部位があり、これはトゥンシム(牛ロースの焼肉/등심)の一部を指すものだが、カットしたときの形状がコドゥンオ(サバ、고등어)に似ていることからコドゥンオトゥンシム(サバロース、고등어등심)、それを略してコドゥンシムと呼んだものである。
ススブクミ(タカキビ餅/수수부꾸미)
- 松岳面駅村里にある外岩民俗村の入口付近には飲食店があり、白あんを入れて焼いたススブクミが名物となっている。
農家レストラン(농가맛집)
- 牙山市では農家の食文化を観光アイテムとして活用する「農家レストラン(농가맛집)」の発掘、開発、普及に力を入れている。また、これは国が地方と連携して行っている施策の一環でもある。農家の家屋や、その一部を飲食店、または体験プログラムの場として利用するもので、牙山市の農業技術センターによれば、2014年11月時点で松岳面江長里の「オドルゲ(오돌개)」、外岩里民俗村内の「豊徳古宅(풍덕고택)」の2ヶ所が稼働している(八田靖史の取材記録より、2014年11月6日)。
代表的な特産品
牙山市では農業、畜産業が盛んで、一部の特産品ではブランド化も進められている。
牙山マルグンサル(아산맑은쌀)
- 米は牙山市の特産品であり「牙山マルグンサル(아산맑은쌀)」というブランド米を流通させている。マルグンサルとは澄んだ米、清浄な米という意味である。
道後温泉硫黄豚(도고온천유황돈)
- 硫黄泉で有名な道後温泉地区では、硫黄を飼料に加えて育てた豚を特産品として育成している。市内の精肉店で販売されるほか、飲食店でも提供されている。
代表的な酒類・飲料
牙山市のマッコリ
- 特産品の牙山マルグンサルを利用したマッコリなどが流通しており、オナ濁酒共同製造場(온아탁주공동제조장)、陰峰醸造場(음봉양조장)、タウォン酒家(다원주가)といった酒造会社がマッコリを造っている。
牙山蓮葉酒(아산연엽주)
- 忠清南道牙山市松岳面外岩里の李家に伝わるハスの葉を加えた民俗酒。もち米とうるち米を混ぜて原料とした醸造酒で、忠清南道の無形文化財第11号に指定される[4]。
老舗
- 恋春(연춘)
- 牙山市の得山洞(トゥサンドン、득산동)に位置するウナギ料理店の「恋春(연춘)」は1936年創業である。牙山市においてはもっとも古い飲食店であり、また韓国内でもウナギ料理の専門店としてもっとも古い。1926年に造られた人造湖の神井湖(シンジョンホ、신정호)湖に位置し、日本統治時代に建てられた家屋をそのまま残している。店主によれば「温泉地である牙山には創業当時、日本人が休養地としてよく訪れており、日本人に向けた高級料理としてウナギを出すようになった。当時は近くに光興楼という楼閣があったため、『光興楼観光食堂』という名前を掲げ、ウナギ料理と韓定食を扱った。後に『迎春』と名前を変え、また現在は『恋春』としている。春を迎える、春に恋するというのは、もともとウナギのオフシーズンである9月末から3月は営業をせず、春を待って営業を始めたことに由来する」(八田靖史の取材記録より、2014年12月17日)。現在もメニューにはチャンオグイ(ウナギ焼き、장어구이)を筆頭に掲げ、ウナギと同じタレで焼いたタックイ(鶏肉焼き、닭구이)も他店ではあまり見ない名物として親しまれる。
飲食店情報
以下は韓食ペディアの執筆者である八田靖史が実際に訪れた店を列挙している。
- ソルメジャント(솔뫼장터)
- 住所:忠清南道牙山市松岳面講堂路36(駅村里71-1)
- 住所:충청남도 아산시 송악면 강당로 36(역촌리 71-1)
- 電話:041-544-7554
- 料理:ススブクミ(タカキビ餅)、チャンチグクス(にゅうめん)
- 恋春(연춘)
- 住所:忠清南道牙山市神井湖キル67(得山洞15-3)
- 住所:충청남도 아산시 신정호길 67(득산동 15-3)
- 電話:041-545-2866
- 料理:チャンオグイ(ウナギ焼き)、タックイ(鶏焼き)
- 塩峙食堂(염치식당)
- 住所:忠清南道牙山市塩峙邑塩星キル110(塩峙邑268-10)
- 住所:충청남도 아산시 염치읍 염성길 110(염치읍 268-10)
- 電話:041-542-2768
- 料理:ソゴギグイ(牛焼肉)
- イルシンチョクタン(일신족탕)
- 住所:忠清南道牙山市市民路382(温泉洞221-11)
- 住所:충청남도 아산시 시민로 382(온천동 221-11)
- 電話:041-545-2696
- 料理:ウジョクタン(牛の足のスープ)
エピソード
- 韓食ペディアの執筆者である八田靖史は2014年11月に初めて牙山市を訪れた。以後、2014年12月、2015年2月の計3度訪問している。
- 2014年12月に八田靖史が牙山市観光課を訪れた際、担当者にチョクタン(牛足のスープ、족탕)の店を尋ねたつもりが、同音異義語である足湯のパンフレットを出され、慌てて訂正したことがある。
脚注
- ↑ 주민등록 인구 및 세대현황 、行政安全部ウェブサイト、2023年4月9日閲覧
- ↑ 1300년 온천역사 、牙山市ウェブサイト、2015年5月22日閲覧
- ↑ 忠清南道味紀行 、韓国観光公社ウェブサイト、2015年6月25日閲覧
- ↑ 1300년 아산연엽주 、文化財庁ウェブサイト、2015年6月24日閲覧
外部リンク
- 関連サイト
- 制作者関連サイト
- 韓食生活(韓食ペディアの執筆者である八田靖史の公式サイト)
- 八田靖史プロフィール(八田靖史のプロフィール)