この記事はウィキペディアではありません。「韓食ペディア」はコリアン・フード・コラムニストの八田靖史が作る、韓国料理をより深く味わうためのWEB百科事典です。以下の内容は八田靖史の独自研究を含んでいます。掲載されている情報によって被った損害、損失に対して一切の責任を負いません。また、内容は随時修正されます。 |
ムルフェ(물회)は、水刺身。
名称
ムルフェのムル(물)は水、またはスープ。フェ(회)は漢字で「膾」と書いて刺身の意(「センソンフェ(刺身/생선회)」の項目も参照)。発音によっては「ムルェ」のように聞こえる場合もある。発音表記は〔물회/물훼〕。
- 日本語訳
- 直訳として「水刺身」が使われるほか、「冷や汁刺身」「冷や汁風の刺身」「刺身の冷や汁」「刺身の冷製スープ」「冷製スープ刺身」といった訳が見られる。本辞典では「水刺身」を用いる。韓食ペディアの執筆者である八田靖史は、「冷や汁風の刺身」もよく用いる。
概要
どんぶり状の器に刺身と、キュウリ、サンチュ(상추)などの生野菜を加え、コチュジャン、酢、粉唐辛子、長ネギ、ニンニクなどを混ぜ合わせた薬味ダレとともに氷水を入れて作る。スープ自体をシャーベット状に作ることもある。刺身はカレイ(가자미)、ヒラメ(광어)などの白身魚を中心に、スルメイカ(오징어)、ヤリイカ(한치)、サザエ(소라)、アワビ(전복)、ナマコ(해삼)、カキ(굴)など多様な魚介が用いられる。メインとなる魚介の名前を前につけて、オジンオムルフェ(スルメイカの水刺身、오징어물회)、ハンチムルフェ(ヤリイカの水刺身、한치물회)などと呼ぶことも多い。具に素麺(국수)やマッククス(そば麺、막국수)を加えることも多く、ムルフェグクス(水刺身麺、물회국수)という麺料理としてメニューに載る。主に刺身店や、海鮮料理店で味わう料理であり、海沿いの地域で広く食べられるが、中でも江原道束草市、慶尚北道浦項市、済州道といった地域が有名である。
地方ごとの食べ方
- ムルフェは地方ごと、季節ごとに、身近な魚介を用いて作られる。主材料となる刺身から、地方色や、旬の移ろいを感じ取れるのがひとつの魅力となる。味付けや食べ方が異なる場合もあり、代表的なものに、以下の束草式(江原道式)、浦項式(慶尚道式)、済州道式がある。
- 束草式(江原道式)
- 江原道束草市を中心に、江陵市や東海市など、東海岸沿いの地域で広範囲に食べられている。江原道式とも呼ぶ。東海岸の名産品であるスルメイカ(오징어)や、カレイ(가자미)、ウニ(성게)、ツブ貝(골뱅이)などを主材料として用い、スープにはコチュジャン、酢を加えてさっぱり爽快な味に仕上げる。一般的にムルフェと言うと、束草市のスタイルを指すことが多い。
- 浦項式(慶尚道式)
- 慶尚北道浦項市では、ムルフェを名乗りつつもスープが入らずに出てくることがある。カレイ(가자미)や、ヒラメ(광어)などの白身魚を主材料に、キュウリなどの生野菜や千切りのナシを加え、辛味ダレをかけてフェムチム(刺身和え/회무침)のように提供する。これに別途、冷水か、または酸味と辛味のある冷たいスープを用意し、食べる人が好みで加えてムルフェとするが、そのまま混ぜて食べたり、ごはんを入れてフェトッパプ(刺身丼/회덮밥)として食べたり、それらを複合的に楽しんだりもする。
- 済州道式
歴史
時期的なことは定かでないが、古くから漁師料理として、船上での簡易的な食事として親しまれていたとされる。
具体的な記録としては、1958年11月4日の東亜日報に掲載された済州道料理のコラムがあり、名称こそ「チャリフェネンクッ(スズメダイの刺身の冷製スープ、자리회냉국)」となっているが、調理法を見るに現在で言う「チャリムルフェ(スズメダイの水刺身、자리물회)」と共通する。飲食店の店主が記者に対し、「先生、『チャリフェネンクッ』お召し上がりになりますか?」[1](【原文1】参照)と声をかけていることから考えるに、当時の済州道ではチャリフェネンクッと呼ばれていた可能性がある。
1950年代から60年代にかけて慶尚北道浦項市では、ムルフェを看板料理とする「浦項ムルフェ(포항물회)」(1951年創業?)、「嶺南ムルフェ(영남물회)」(1961年創業?)などの専門店が登場し、浦項市における元祖格として親しまれた(いずれも現在は閉店)[2]。1973年8月4日の朝鮮日報には、「松島海水浴場(송도해수욕장)内、80ヶ所の飲食店で販売されるこの地方の特味、ムルフェは最高の人気」とあることから、この時期には郷土料理として広く定着していたと考えられる[3]。
江原道束草市は、1980年代に入って観光地として注目されるようになった。そのため束草市は1981年に、オジンオスンデ(詰め物をした蒸しイカ/오징어순대)や、サンチェピビムパプ(山菜ビビンバ/산채비빔밥)などとともに、ムルフェを含む10種類の料理を郷土料理(토산음식)に指定した[4]。
- 【原文1】『선생님ー「자리회냉국」 자셔보시렵니까?』
種類
- 主材料の種類
- その他の種類
- テンジャンムルフェ(味噌仕立ての水刺身、된장물회)
日本における定着
- 在日コリアンの家庭料理として、イカ、アジ、アカエイ、スズメダイを用いたムルフェが定着している。夏の季節メニューとして飲食店で提供されることもある。
- 2023年頃から、BTSのメンバーであるJINさんの好物であることから、ファンを中心としてムルフェの注目度が高まっている。 SUGAさんが司会を務めるトーク番組「シュチタ EP.7」(2023年3月27日配信)では、ゲストのJIMINさんにより、兵役中のJINさんにムルフェを差し入れたところ、その前週にもスタッフがムルフェを差し入れていたとのエピソードが紹介された。それに対してSUGAさんが、「ムルフェを食べられずに死んだおばけにとりつかれたのかな?」[5](【原文2】参照)と語ったことで、日本ではムルフェ好きのJINさんを指して、「ムルフェおばけ」との用語が広まった。この場合の「おばけ」とは原語で「鬼神(クィシン、귀신)」であり、なにかを夢中で食べる人に対する表現としてまま用いられる。
- 【原文2】「물회 못 먹어서 죽은 귀신이 붙었나?」
エピソード
地域
飲食店情報
以下は韓食ペディアの執筆者である八田靖史が実際に訪れた店を列挙している。
<江原道>
- 鳳浦モグリチプ(봉포머구리집)
- 住所:江原道束草市永郎海岸キル223(永郎洞148-30)
- 住所:강원도 속초시 영랑해안길 223(영랑동 148-30)
- 電話:033-631-2021
- 料理:ムルフェ(水刺身)
- チニャンフェッチプ(진양횟집)
- 住所:江原道束草市青草湖畔路318(中央洞478-35)
- 住所:강원도 속초시 청초호반로 318(중앙동 478-35)
- 電話:033-632-7739
- 料理:オジンオスンデ(詰め物をした蒸しイカ)、ムルフェ(水刺身)
<慶尚北道>
- ハボンソクテゲフェタウン(하봉석대게회타운)
- 住所:慶尚北道浦項市北区三湖路468番キル16-1(環湖洞513-8)
- 住所:경상북도 포항시 북구 삼호로468번길 16-1(환호동 513-8)
- 電話:054-252-1110
- 料理:刺身、ズワイガニ料理、ムルフェ(水刺身)
- ファンヨフェッチプ(환여횟집)
- 住所:慶尚北道浦項市北区海岸路189-1(斗湖洞190-9)
- 住所:경상북도 포항시 북구 해안로 189-1(두호동 190-9)
- 電話:054-251-8847
- 料理:ムルフェグクス(水刺身麺)、ムルフェ(水刺身)
<忠清南道>
- トガーデン(터가든)
- 住所:忠清南道保寧市川北面洪保路666(長隠里115)
- 住所:충청남도 보령시 천북면 홍보로 666(장은리 115)
- 電話:041-641-4232
- 料理:牡蠣料理、クルムルフェ(牡蠣の水刺身)
<済州道>
- ムルコギセサン(물고기세상)
- 住所:済州道済州市アラン4キル33(我羅1洞2180-5)
- 住所:제주도 제주시 아란4길 33(아라1동 2180-5)
- 電話:064-743-5152
- 料理:郷土料理、ムルフェ(水刺身)
脚注
- ↑ 八道江山 발 가는대로 붓 가는대로(15) 、NAVERニュースライブラリー(東亜日報1958年11月4日記事)、2023年8月13日閲覧
- ↑ [경상도 맛길기행 .76 日食 이야기- (10) 물회] 、嶺南日報2006年9月5日付記事、2023年8月13日閲覧
- ↑ [「비키니 群像」…原色의 파노라마 、NAVERニュースライブラリー(朝鮮日報1973年8月4日記事)、2023年8月13日閲覧
- ↑ [都市의 鼓動 港口는 적적…観光은 북적 、NAVERニュースライブラリー(東亜日報1981年9月22日記事)、2023年8月13日閲覧
- ↑ [슈취타 EP.7 SUGA with 지민] 、YouTube(BANGTANTVチャンネル)、2023年8月14日閲覧
外部リンク
- 制作者関連サイト
- 韓食生活(韓食ペディアの執筆者である八田靖史の公式サイト)
- 八田靖史プロフィール(八田靖史のプロフィール)