この記事はウィキペディアではありません。「韓食ペディア」はコリアン・フード・コラムニストの八田靖史が作る、韓国料理をより深く味わうためのWEB百科事典です。以下の内容は八田靖史の独自研究を含んでいます。掲載されている情報によって被った損害、損失に対して一切の責任を負いません。また、内容は随時修正されます。 |
江華郡(カンファグン、강화군)は仁川市に属する地域。本ページでは江華郡の料理、特産品について解説する。
地域概要
江華郡は仁川市の一部であり、仁川市北部に位置し、同じ仁川市の西区と甕津郡、京畿道の金浦市と接する。また、北部は川を挟んで北朝鮮の黄海北道開豊郡や、黄海南道白川郡、延安郡と向かい合う。人口は6万7118人(2015年1月)[1]。郡全体が黄海に浮かぶ島嶼地域であり、韓国で5番目の面積を誇る江華島(강화도)をはじめ、喬桐島(교동도)、席毛島(석모도)といった15の島で構成されている。観光地としても人気が高く、古代から近現代に至るまで幅広い歴史遺産を残しているのが大きな特徴である。ユネスコの世界文化遺産にも指定された青銅器時代の支石墓群(高敞、和順、江華の支石墓群跡)や、神話上の始祖である檀君が天に祭祀を行った摩尼山(マニサン、마니산)、高句麗時代の381年に創建されたとされる伝燈寺(チョンドゥンサ、전등사)、高麗時代の13世紀に臨時首都として使用された宮殿跡の高麗宮址(コリョグンジ、고려궁지)、朝鮮時代の19世紀後半に諸外国と対峙した防衛拠点の草芝鎮(チョジジン、초지진)など、各時代における歴史がこの地域に凝縮している。ソウルからのアクセスは、新村、弘大入口などの各バス停から江華郡の市外バスターミナル「江華旅客自動車ターミナル」まで約2時間の距離。
食文化の背景
島嶼地域という特性から漁業、養殖業が盛んに行われている。郡内では四季折々の魚介が食卓にのぼり、春はイイダコ(주꾸미)、メフグ(황복)、春から初夏にかけてはワタリガニ(꽃게)や、マナガツオ(병어)、ツマリエツ(반지, 밴댕이)、秋はコノシロ(전어)や、コウライエビ(대하)、冬はボラ(숭어)といった魚介が旬を迎える。塩辛用として使われるアキアミ(젓새우)は5~6月を中心に秋冬もとれる。また江華郡は漢江(ハンガン、한강)、臨津江(イムジンガン、임진강)、礼成江(イェソンガン、예성강)という3つの河川が流れ込む河口地域に位置するため、堆積地として肥沃な土壌を有することから、漁業のみならず農業も盛んに行われている。米(쌀)、サツマイモ(고구마)、カブ(순무)、ブドウ(포도)、高麗人参(인삼)、ヨモギ(쑥)といった特産品があり、これらを利用した加工品も多く作られている。食品以外では、花紋席(화문석)と呼ばれる花ござの生産が盛んである。
代表的な料理
江華郡の料理には旬の魚介を使った料理が多い。また、高麗時代に臨時首都が置かれた経緯から、王に献上された料理との逸話を持つものもある。
ペンデンイフェ(ツマリエツの刺身/밴댕이회)
- ペンデンイフェはツマリエツの刺身。ペンデンイ(밴댕이)の和名はサッパであるが、仁川・江華島地域では見た目のよく似たツマリエツ(반지)をペンデンイと呼んでいる。4~7月を最盛期とするが、最近は冬でも全羅南道から冷蔵品が直送されており、旬以外の時期でも見かけるようになった。ペンデンイフェは新鮮なものを刺身にしたものか、または刺身を生野菜とともに辛いタレで和えたフェムチム(刺身和え、회무침)でも味わう。フェムチムの場合は丼ごはんが用意され、フェドッパプ(刺身丼、회덮밥)のように混ぜて食べることも多い。華道(ファド、화도)地区の後浦港(フポハン、후포항)には「船首ペンデンイ村(ソンスペンデンイマウル、선수밴댕이마을)」と呼ばれる地域があり、ペンデンイフェを中心とした刺身専門店が集まっている。
チャンオグイ(ウナギ焼き/장어구이)
- チャンオグイ(장어구이)は、ウナギ焼き(「チャンオグイ(ウナギ焼き/장어구이)」の項目も参照)。江華島と金浦市を分かつ江華海峡(カンファヘヒョプ、강화해협)は、塩辛い川のようだという意味で塩河(ヨマ、염하)と呼ばれ、一帯では古くからウナギがよくとれた。近年は天然物の減少から漁獲量は激減しているが、それでも塩河沿いのトリミ(더리미)地区にはウナギ料理の専門店が集まっており、養殖、または天然環境で育てた養殖ウナギのチャンオグイを味わうことができる。
コッケタン(ワタリガニ鍋/꽃게탕)
- コッケタン(꽃게탕)は、ワタリガニ鍋(「コッケタン(ワタリガニ鍋/꽃게탕)」の項目も参照)。江華島沖はワタリガニの好漁場であり、4~6月には卵を持ったメスが西海岸の各漁港に水揚げされる。地元ではこの時期をいちばんの旬と考えるが、秋にももう1度旬があり、9月にはオスのワタリガニを、10~12月にはメスのワタリガニを味わう。内可面外浦里(ネガミョン ウェポリ、내가면 외포리)にはコッケタンや、カンジャンケジャン(ワタリガニの醤油漬け/간장게장)を提供するワタリガニ料理の専門店が集まっており、「外浦里ワタリガニ村(ウェポリ コッケマウル、외포리 꽃게마을)」と呼ばれる。
チョックッカルビ(豚カルビの塩辛鍋/젓국갈비)
- チョックッカルビ(젓국갈비)、は豚カルビの塩辛鍋。チョックッ(젓국)は塩辛の汁、カルビ(갈비)はあばら肉を意味する。ぶつ切りにした豚カルビを白菜、カボチャ、長ネギ、豆腐などとともに鍋で煮込む際、特産品であるアミの塩辛(새우젓)で味付けをするのが特徴である。料理の発祥として、高麗時代に臨時の都となった際、王に献上するための料理として開発されたと語られることがある。ただし、それを裏付ける史料はなく、あくまでも俗説のひとつと言わざるをえない。
ファンボクフェ(メフグの刺身/황복회)
- ファンボクフェ(황복회)は、メフグの刺身。ファンボク(황복)がメフグ、フェ(회)は刺身の意(「センソンフェ(刺身/생선회)」の項目も参照)。春を旬とするが、近年は漁獲量が減っている。倉後里(チャンフリ、창후리)に専門店が集まっている。
スンムキムチ(カブのキムチ/순무김치)
- スンムキムチ(순무김치)は、カブのキムチ。スンム(순무)がカブを意味する。カブを大きめの角切りにし、カクトゥギ(大根の角切りキムチ/깍두기)のように漬け込む。韓国ではあまりカブを食べる習慣がなく、カブのキムチといえば江華郡を連想するほど珍しい存在である。大根のカクトゥギに比べて食感がしんなりとしており、カブの風味が活きているのが特徴である。
喬桐島の料理
- 喬桐島(キョドンド、교동도)は、仁川市江華郡に属する島。江華島の北西部に位置し、2014年7月に開通した喬桐大橋にて結ばれている。島の北部と西部は海を挟んで北朝鮮と向かい合っており、対岸までもっとも近いところで2.6kmしか離れていない。対岸地域であるかつての黄海道延白郡(ファンヘド ヨンベックン、황해도 연백군、現在の黄海南道延安郡、白川郡)から、朝鮮戦争時に避難してきた人たちが多く住んでおり、黄海道式のネンミョン(冷麺/냉면)を提供する飲食店があったり、旧正月には鶏肉を具とする黄海道式のマンドゥクッ(餃子スープ/만두국)を作って食べるなどの食文化が残る。島の中心地域である大龍市場(テリョンシジャン、대룡시장)は観光客からの人気が高く、日本統治時代に祭祀餅の代替として作られたカンアジトク(大福餅、강아지떡)や、伝統菓子のトゥルケカンジョン(エゴマおこし、들깨강정)、昔ながらの喫茶店(다방)で提供されるサンファチャ(双和茶/쌍화차)などが名物として知られる。
- カンアジトク(大福餅/강아지떡)喬桐面
- ネンミョン(冷麺/냉면)喬桐面
- サンファチャ(双和茶/쌍화차)喬桐面
- トゥルケカンジョン(エゴマおこし/들깨강정)喬桐面
代表的な特産品
島嶼地域であることから魚介類が豊富であり、また農業も盛んに行われている。高麗人参の産地として知られるほか、獅子足ヨモギ(사자발쑥)と呼ばれる薬用ヨモギの栽培も盛んであるなど、漢方材の生産地という側面もある。
高麗人参
- 江華郡は高麗人参の名産地であり、その経緯を江華郡のウェブサイトでは、「朝鮮戦争が起こると高麗人参の本拠地である開城の人たちがここに避難し、1953年から本格的に栽培が行われた」(原文1)[2]と説明している。現在も江華郡では高麗人参の栽培が盛んに行われており、また2010年頃からは田んぼを再利用しての栽培も始まっている。もともと高麗人参栽培は畑作が中心であるが、土地の栄養を吸い尽くしてしまうため連作ができないとの特性があり、農地の確保が難しかった。田んぼでの栽培はまだ技術的に難しい部分も残るが、農地拡充の可能性を広げるため江華郡でも盛んに技術が研究されている。また、江華高麗人参農協では外部へのPRを目的として、観光客向けに高麗人参堀りの体験プログラムなども実施している(八田靖史の取材記録より、2015年3月30日)。
- 【原文1】한국전쟁이 터지자 인삼의 본거지인 개성사람들이 이곳에 피난와 1953년부터 본격 재배가 이루어 졌다.
- 江華高麗人参センター
- 江華郡庁や江華市外バスターミナルからほど近い中心部の江華邑甲串里(カンファウプ カプコンニ、강화읍 갑곳리)には、五日市場の江華風物市場(カンファプンムルシジャン、강화풍물시장)と並んで江華高麗人参センター(강화인삼센터)がある。交通の便利な場所であるため、江華島観光では人気のスポットとなっており、生の高麗人参をはじめ、蜂蜜漬けや韓方茶、菓子などの高麗人参製品も購入できる。なお、生の高麗人参を日本に持ち込む場合は、丁寧に土を除いたうえで検疫を通す必要がある[3]。
アミの塩辛
- 江華郡は韓国を代表するアミの塩辛(セウジョッ、새우젓)の一大生産地である。江華島西部の外浦里(ウェポリ、외포리)には外浦港塩辛水産市場(ウェポハンチョッカルスサンシジャン、외포항젓갈수산시장)があり、毎年10月頃には「江華島アミの塩辛祭り(강화도새우젓축제)」が開催される。郡内の市場ではアミの塩辛を豊富に扱っており、5月に漬け込むオジョッ(오젓)、6月に漬け込むユッチョッ(육젓)、秋に漬け込むチュジョッ(추젓)、冬に漬け込むトンベッカジョッ(동백하젓)が代表的な分類である。これらはキムチを漬け込む際の調味用に使われるほか、茹で豚につけて食べたり、鍋料理の味付けにも利用する。
獅子足ヨモギ
- 獅子足ヨモギ(사자발쑥)は江華郡で栽培されるヨモギのブランド名である。食用としてよりも薬用としての利用が多く、ヤクスッ(薬ヨモギ、약쑥)との呼び名でも広く浸透している。特産品としての歴史は古く、1530年に編纂された『新増東国輿地勝覧』を見ると、第12巻江華都護府の項目に特産品として「獅子足艾」との記載がある[4]。郡内ではエキスを搾ったものを生薬として服用したり、または灸や、スッチム(ヨモギ蒸し)の素材としても利用される。石鹸や化粧品に利用することもあり、これらは土産物にもなっている。食用としての利用は少ないが、ヨモギ茶(쑥차)にしたり、または獅子足ヨモギを飼料として育てた韓牛(한우)を提供する飲食店もある。
代表的な酒類・飲料
江華郡のマッコリ
- 江華温水醸造場(강화온수양조장)
- 仁川市江華郡吉祥面に位置する江華温水醸造場は1924年の創業(実際は1923年の創業で法的な登記が1924年)で、ソウル、京畿道地域においてはもっとも古い醸造場である。3代目の社長によれば「ソウル、京畿道地域で現在営業する醸造場の多くが、江華温水醸造場で必要な技術を学んでおり、その人数は3~400人になるだろう」とのことである(八田靖史の取材記録より、2015年3月30日)。醸造場の建物は築100年を超えるもので、建築的な価値も高いとされる。
老舗
- ウリオク(우리옥)
飲食店情報
以下は韓食ペディアの執筆者である八田靖史が実際に訪れた店を列挙している。
- <江華島>
- 江華島ヨモギ韓牛(강화섬약쑥한우)
- 住所:仁川市江華郡仙源面仙源寺址路32(新井里247-1)
- 住所:인천시 강화군 선원면 선원사지로 32(신정리 247-1)
- 電話:032-934-1212
- 料理:焼肉料理
- ソンチャンチプ(선창집)
- 住所:仁川市江華郡仙源面海岸東路1199(神井里320-3)
- 住所:인천시 강화군 선원면 해안동로 1199(신정리 320-3)
- 電話:032-933-7628
- 料理:チャンオグイ(ウナギ焼き)
- 三郎城(삼랑성)
- 住所:仁川市江華群吉祥面伝燈寺路56(温水里660)
- 住所:인천시 강화군 길상면 전등사로 56(온수리 660)
- 電話:032-937-0397
- 料理:ポリパプ(麦飯の定食)
- ワンジャジョンムッパプ(왕자정묵밥)
- 住所:仁川市江華郡江華邑北門キル55(官庁里750-7)
- 住所:인천시 강화군 강화읍 북문길 55(관청리 750-7)
- 電話:032-933-7807
- 料理:チョックッカルビ(豚カルビの塩辛鍋)
- ウリオク(우리옥)
- 住所:仁川市江華郡江華邑南山キル12(新門里184)
- 住所:인천시 강화군 강화읍 남산길 12(신문리 184)
- 電話:032-934-2427
- 料理:ピョンオチゲ(マナガツオの鍋)
- 忠南瑞山家(충남서산집)
- 住所:仁川市江華郡内可面中央路1200(外浦里385)
- 住所:인천시 강화군 내가면 중앙로 1200(외포리 385)
- 電話:032-933-8403
- 料理:コッケタン(ワタリガニ鍋)、カンジャンケジャン(ワタリガニの醤油漬け/간장게장)
- <喬桐島>
- 宮殿茶房(궁전다방)
- 住所:仁川市江華郡喬桐面大龍アンキル36-1(大龍里508-2)
- 住所:인천시 강화군 교동면 대룡안길 36-1(대룡리 508-2)
- 電話:032-934-0078
- 料理:サンファチャ(双和茶)
- テプン食堂(대풍식당)
- 住所:仁川市江華郡喬桐面大龍アンキル54番キル21(大龍里457-12)
- 住所:인천시 강화군 교동면 대룡안길54번길 21(대룡리 457-12)
- 電話:032-932-4030
- 料理:ネンミョン(冷麺)
- 青春ブラボー(청춘부라보)
- 住所:仁川市江華郡喬桐面大龍アンキル54番キル32(大龍里516-8)
- 住所:인천시 강화군 교동면 대룡안길54번길 32(대룡리 516-8)
- 電話:032-933-8403
- 料理:カンアジトク(大福餅)、トゥルケカンジョン(エゴマおこし)
- チョウォン食堂(초원식당)
- 住所:仁川市江華郡喬桐面大龍アンキル36(大龍里514-1)
- 住所:인천시 강화군 교동면 대룡안길 36(대룡리 514-1)
- 電話:032-934-5102
- 料理:テハチョックッカルビ(コウライエビと豚カルビの塩辛鍋)
エピソード
- 韓食ペディアの執筆者である八田靖史は留学時代である2001年11月に語学堂の卒業旅行として初めて江華郡を訪れた。そのとき観光中にふざけていた八田靖史は城壁から落下しかけ、危ういところで命が助かるという衝撃的な事件があった。
脚注
- ↑ 강화군정보 일반현황 、江華郡ウェブサイト、2015年4月4日閲覧
- ↑ 특산물 강화인삼 、江華郡ウェブサイト、2015年4月7日閲覧
- ↑ 韓国から生の高麗人参を持ち帰る方法(個人消費用)。 、韓食生活、2015年4月9日閲覧
- ↑ 신증동국여지승람 제12권 、韓国古典総合DB、2015年4月8日閲覧
外部リンク
- 関連サイト
- 制作者関連サイト
- 韓食生活(韓食ペディアの執筆者である八田靖史の公式サイト)
- 八田靖史プロフィール(八田靖史のプロフィール)
- 韓国語食の大辞典アプリ版(八田靖史制作の韓国料理専門辞典)