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2024年7月23日 (火) 12:02時点における版
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ソボロパン(소보로빵)は、そぼろ状のクッキー生地を表面に貼ったパン。日本での名称もソボロパンである。
名称
ソボロパンのソボロ(소보로)は、日本語の「そぼろ」に由来し[1]、表面に貼ったクッキー生地がそぼろ状であることから名付けられたと考えられる。パン(빵)はパンの意。ソボルパン(소보루빵)との表記も見られる。韓国国立国語院が編纂する標準国語大辞典によれば、ソボロパン(소보로빵)は非標準語の扱いで、コムボパン(곰보빵)を標準語としているが[1]、コムボ(곰보)とは「あばた(天然痘の後遺症で顔に残ったくぼみ)」を意味し、病気と外見にかかわる表現であることから、近年は差別的な名称だと避けられる傾向にある。日本語では「ソボロパン」「そぼろパン」との表記が大半であり、表記上での揺れは少ない。本辞典では「ソボロパン」を使用する。発音表記は〔소보로빵〕。
- 日本語訳
- 名称の「ソボロ」が日本語由来であり、見た目もそぼろ状で伝わりやすいことから、そのまま「ソボロパン」「そぼろパン」を訳として用いることが多い。ただし、それだけだと肉そぼろを入れた惣菜パンを連想する可能性もあるため、「そぼろ状のクッキー生地を表面に貼った~」などと説明を添えることも少なくない。また、表面にクッキー生地を貼ったパンであることから、メロンパンに例えて「韓国メロンパン」「韓国のメロンパン」などとする訳も見られる。本辞典では「ソボロパン」を使用する。
概要
丸型のパンにそぼろ状のクッキー生地を貼って焼いて作る。韓国ではタンパッパン(あんパン/단팥빵)や、クリームパン(크림빵)、コロケ(揚げパン/고로케)などとともに定番パンのひとつであり、町のベーカリーから、大手のフランチャイズ店に至るまで、ほとんどのベーカリーで販売をしている。コンビニやスーパーマーケットでの販売も多い。ベーシックなソボロパンに具は入らないが、あんこやクリーム、チョコレートなどを加えたバリエーションも存在する。
歴史
詳細は明らかでないが、名称の「ソボロ」が日本語であることを考えると、日本統治時代を前後して日本から伝わった可能性が高いとされる。ソボロパンの「ソボロ」は、もともとはドイツのシュトロイゼル(streusel)がルーツと見られ、小麦粉、バター、砂糖などを混ぜ合わせた生地をサクサクとしたそぼろ状に焼いて菓子、ケーキなどのトッピングに利用するものを指す。このシュトロイゼルを「そぼろ」と訳し、パンに載せて焼いたものを日本では「ソボロパン」(ソボロバンズとの名称も見られる)と呼んで、少なくとも1920~30年代には書籍への記述が確認できる(下記参照)。また、同時期にはパン以外にもソボロを載せた焼き菓子が作られている[2][3][4][5]。
日本のそぼろパンに関する記録
下記の資料は見つかった範囲内のもので、さらにさかのぼる可能性があるが、少なくとも1920~30年代には一定の普及が見られる。
- 『現代食糧大観』(1929年)の記述
- 1929年4月2日に東京の上野公園で開催された「糧友会主催食糧展覧会」にて市販パンの審査会が行われ、出品された菓子パンの中に「ソボロバンズ」が含まれている[6]。「バンズ(buns)」は丸パンを意味し、「シュトロイゼル・バンズ(streusel buns)」を「ソボロバンズ」と訳したものと見られる。
- 『全国商工精励青年大会出席者研究録 第2回』(1934年)の記述
- 1934年10月12~14日に大日本聯合青年団主催の「全国商工精励青年大会」が開催され、佐賀県でパン製造販売業を営む香月一氏が「パン原料竝に製造研究」との題目で発表を行い、菓子パンの種類を「アンパン、クリームパン、ジャムパン、ソボロパン、バタパン」と列挙している[7]。
- 『糧友 第9巻第11号(第106号)』(1934年)の記述
- 1934年11月に刊行された雑誌『糧友 第9巻第11号(第106号)』に「発酵パンの作り方」との記事があり、発酵パンの種類に触れて「菓子パンは、生地を甘くしたものと詰物を使ったものとある。前者に『そぼろ』かけパン、バターロール、シナモンロール等があり、後者には餡パン、ジャムパン、クリームパンなどがある」と説明している[8]。
- 『パンの話』(1949年)の記述
- 1949年3月に刊行された書籍『パンの話』(著・筑田勇弥)に、ソボロパンのレシピが掲載されている[9]。
- 『最新各種製パンの秘訣』(1949年)の記述
- 1949年12月に刊行された書籍『最新各種製パンの秘訣』(著・締木新太郎)には、メロンパンのレシピに補足する形で、「メロンパンと系統を同じくするものにソボロパンがある。これは表皮のビスケット生地を硬くボロボロに造って大小無数の粒上にしたものを丸めた発酵パンの生地に付着させたものである。ホイロのとり方も焼き方もメロンパンと同じである」と述べている[10]。
- 『小麦粉 原料とその加工品』(1964年)の記述
- 1964年に刊行された書籍『小麦粉 : 原料とその加工品』では、菓子パンのひとつとして「バンズ(buns)」の項目で、「ソボロ・バンズ(streussel buns)」のレシピを紹介している。原語を「シュトロイゼル・バンズ」として付記している[11]。
1910~40年代
- 韓国においてソボロパンが作られ始めた時期は明らかになっていない。1910年代には日本人経営の製菓店を中心にパンの製造、販売が始まっており、1919年に満洲製粉株式会社が鎮南浦工場を設立したのを皮切りとして大規模な製粉工場ができてゆくと[12]、1920年代後半には製菓店やベーカリーが増えて多くのパンが販売された。あくまでも参考ではあるが、1917年に釜山市大庁町3丁目(現在の大庁洞3街、대청동3가)のベーカリー「トミナガ」が出した新聞広告には、「アンパン、クリームパン、ジャムパン、ロシヤパン」といった菓子パンの名前が並んでいる[13]。これらの菓子パンと並んで、日本統治時代のどこかでソボロパンが作られ始めた可能性は推測できる。
1980年代
- ティギムソボロの誕生
- 大田市の有名ベーカリー「聖心堂(ソンシムダン、성심당)」では、1980年5月25日に現在の看板商品であるティギムソボロ(揚げソボロパン、튀김소보로)を発売した(ティギムソボロ(튀김소보로)参照)。
種類
ソボロパンには以下のような種類がある。
ティギムソボロ(튀김소보로)
- ティギムソボロ(튀김소보로)は、あんこ入りのソボロパンを揚げたもの。ティギム(튀김)は揚げ物、ソボロ(소보로)はソボロパンを意味する。1980年5月25日に、大田市の有名ベーカリー「聖心堂(ソンシムダン、성심당)」にて、当時の主力商品であったタンパッパン(あんパン/단팥빵)、ソボロパン、ドノッ(ドーナツ/도넛)を同時に味わえる商品として考案、発売された[14]。サクサクとしたソボロ生地の食感が揚げることでよりクリスピーになり、中に詰まったあんことも相まって濃厚な味わいに仕上がる。クッキー生地をコーティングしたあんドーナツのようなパンである。
マンモスパン(맘모스빵)
- マンモスパン(맘모스빵)は、マンモスサイズのソボロパン。あんこ、またはうぐいすあんを具として入れた巨大なソボロパンを2個用意し、間にジャムや生クリーム(またはバタークリーム)を塗って、栗、ナッツなどを挟んで作る。発祥の時期は不明だが、1970~80年代に食べた懐かしのパン(추억의 빵)として語られることが多く、近年のレトロブームや、切ったときの断面が層状になって見た目に映えることから、再び人気が高まっている。名称のマンモス(맘모스)は大きなサイズの例えであるとの説や、慶尚北道安東市の有名ベーカリー「マンモスベーカリー(맘모스베이커리)」(現在はマンモスパンの扱いがない)が考案したなどの説があるが、いずれも根拠に乏しくはっきりしていない。
その他
- タンパッソボロパン(あんこ入りソボロパン、단팥소보로빵)
- アンボトソボロパン(あんバターソボロパン、앙버터소보로빵)
- クリームソボロパン(クリームソボロパン、크림소보로빵)
- チョコソボロパン(チョコソボロパン、초코소보로빵)
日本における定着
もともと日本から韓国に伝わったパンであり、現在でも販売しているベーカリーはある。韓国からUターンしてきたソボロパンはまだ数少ないが、2024年1月25日に東京、新大久保で済州道スタイルのベーカリーカフェ「大久堂(OKUDO)」がオープンし、ソボロパンを看板商品として販売している。
エピソード
- 老舗店での取材記録
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- 韓食ペディアの執筆者である八田靖史は、2010年4月に全羅北道群山市の老舗ベーカリー「李盛堂(이성당)」を取材した際、「創業当時からの人気商品に、タンパッパン(あんパン/단팥빵)、ヤチェパン(野菜パン、야채빵)、ソボロパン、コロケ(揚げパン/고로케)」があるとの話を聞いた。きちんと踏み込んで確認した話ではないので根拠とするには心もとないが、「李盛堂」の創業は1945年なので、その時期にはソボロパンが普及していたとの推測ができる。
- ソボロパンに関する執筆記事
- 韓食ペディアの執筆者である八田靖史は、2024年5月15日に「モランボン」のウェブサイトにて、ソボロパンのルーツを紐解く記事「新大久保の新トレンドグルメ『ソボロパン』のルーツを探ってみた」を書いた[16]。東京、新大久保にソボロパンを看板商品とするベーカリーカフェ「大久堂(OKUDO)」がオープンことを伝えるとともに、ソボロパンのルーツを紐解きながら、日本に残る事例のひとつとして東京、銀座の老舗ベーカリー「銀座木村家」の「バターそぼろバンズ」を紹介した。
- 韓食ペディアの執筆者である八田靖史は、2024年6月24日に韓国で発売された雑誌『ESQUIRE KOREA(에스콰이어 코리아)7月号』に、日韓の食文化を比較した記事「참외와 소보로빵 모두 멜론에게 지다(マクワウリとソボロパン どちらもメロンに負ける)」を寄稿した[17]。
地域
飲食店情報
以下は韓食ペディアの執筆者である八田靖史が実際に訪れた店を列挙している。
<ソウル>
- ソボロパンチプ(소보로빵집)
- 住所:ソウル市龍山区漢江大路62キル26(漢江路1街231-23)
- 住所:서울시 용산구 한강대로62길 26(한강로1가 231-23)
- 電話:02-792-0085
- 料理:ソボロパン
- Jean Boulangerie(쟝 블랑제리)
- 住所:ソウル市冠岳区落星垈駅キル8(奉天洞1660-7)
- 住所:서울시 관악구 낙성대역길 8(봉천동 1660-7)
- 電話:02-889-5170
- 料理:マンモスパン
<地方>
- 聖心堂(성심당)
- 住所:大田市中区太田路480番キル15(銀杏洞145)
- 住所:대전시 중구 대종로480번길 15(은행동 145)
- 電話:042-256-4114
- 料理:ティギムソボロ(揚げソボロパン)
- 李盛堂(이성당)
- 住所:全羅北道群山市中央路177(中央路1街12-2)
- 住所:전라북도 군산시 중앙로 177(중앙로1가 12-2)
- 電話:063-445-2772
- 料理:パッアングムパン(あんパン)、ソボロパン
脚注
- ↑ 1.0 1.1 소보로-빵、国立国語院「標準国語大辞典」、2024年2月27日閲覧
- ↑ 『最新菓子製法講義 : 特輯録』, 日本製麺麭製菓学校出版部, 1932年(P81) 、国立国会図書館デジタルコレクション(コマ番号49-69)、2024年2月28日閲覧
- ↑ 小川昌作 著『近代的焼菓子の研究 : 附・洋生菓子初歩,キヤンデー初歩』, 製菓実験社, 1934年(P16) 、国立国会図書館デジタルコレクション(コマ番号24-80)、2024年2月28日閲覧
- ↑ 吉川尚正 著『製パン法全解』,製菓実験社, 1934年, 製菓実験社, 1934年(P72) 、国立国会図書館デジタルコレクション(コマ番号47-61)、2024年2月28日閲覧
- ↑ 畑山一雄 著『焼菓子の製法と解説』第1巻, 製菓書院, 1937年(P16-17) 、国立国会図書館デジタルコレクション(コマ番号17-75)、2024年2月28日閲覧
- ↑ 糧友会 編『現代食糧大観』, 糧友会, 1929(P475) 、国立国会図書館デジタルコレクション(コマ番号250-395)、2024年2月28日閲覧
- ↑ 『全国商工精励青年大会出席者研究録』第2回, 大日本聯合青年団, 1934(P173) 、国立国会図書館デジタルコレクション(コマ番号92-120)、2024年2月28日閲覧
- ↑ 『糧友』9(11)(106), 食糧協会, 1934年(P69) 、国立国会図書館デジタルコレクション(コマ番号52-104)、2024年2月28日閲覧
- ↑ 筑田勇弥 著『パンの話』, 富民社, 1949年(P201) 、国立国会図書館デジタルコレクション(コマ番号107-112)、2024年2月28日閲覧
- ↑ 締木新太郎 著『最新各種製パンの秘訣』, 太洋書院, 1949年(P147) 、国立国会図書館デジタルコレクション(コマ番号80-122)、2024年2月28日閲覧
- ↑ 『小麦粉 : 原料とその加工品』, 日本麦類研究会, 1964年(P479) 、国立国会図書館デジタルコレクション(コマ番号256-373)、2024年2月28日閲覧
- ↑ 『朝鮮に於ける製粉業の現在及將來』, 朝鮮銀行調査課, 1934年(P3) 、国立国会図書館デジタルコレクション(コマ番号5-29)、2024年2月28日閲覧
- ↑ 광고, アンパン(1917年7月30日付『朝鮮時報』3面) 、韓国国立中央図書館、2024年2月29日閲覧
- ↑ 김태훈, 2016, 『우리가 사랑한 빵집 성심당』, 남해의봄날, P82-83
- ↑ 八田 靖史、カン・ハンナ, 2022, 『NHKラジオ ステップアップハングル講座 2022年10月号』, NHK出版, P12-14
- ↑ 新大久保の新トレンドグルメ「ソボロパン」のルーツを探ってみた 、モランボン公式ウェブサイト、2024年7月23日閲覧
- ↑ 참외와 소보로빵 모두 멜론에게 지다 、ESQUIRE KOREA、2024年7月23日閲覧
外部リンク
- 制作者関連サイト
- 韓食生活(韓食ペディアの執筆者である八田靖史の公式サイト)
- 八田靖史プロフィール(八田靖史のプロフィール)