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'''ユッケジャン'''([[육개장]])は、牛肉の辛いスープ。牛のブロック肉を茹でてスープを取り、大豆モヤシ、ワラビ、芋茎、長ネギなどの野菜とともに煮込む。牛肉は細く裂いて具としても使用する。味付けには醤油、塩、唐辛子油、みじん切りニンニク、コショウなどを用いる。ほぼ通年で食べられているが、夏バテを防ぐ滋養の料理としても親しまれ、また葬礼の際に食べる厄払いの料理という側面もある。類似の料理には、牛肉の代わりに鶏肉を使った[[タッケジャン(鶏の辛いスープ/닭개장)]]がある。 | '''ユッケジャン'''([[육개장]])は、牛肉の辛いスープ。牛のブロック肉を茹でてスープを取り、大豆モヤシ、ワラビ、芋茎、長ネギなどの野菜とともに煮込む。牛肉は細く裂いて具としても使用する。味付けには醤油、塩、唐辛子油、みじん切りニンニク、コショウなどを用いる。ほぼ通年で食べられているが、夏バテを防ぐ滋養の料理としても親しまれ、また葬礼の際に食べる厄払いの料理という側面もある。類似の料理には、牛肉の代わりに鶏肉を使った[[タッケジャン(鶏の辛いスープ/닭개장)]]がある。 | ||
− | [[ファイル: | + | [[ファイル:17071001.JPG|thumb|400px|大邱式のユッケジャン]] |
== 名称 == | == 名称 == | ||
− | [[ファイル: | + | [[ファイル:17071002.JPG|thumb|300px|ユッケジャン]] |
ユッケジャンは牛肉の辛いスープ。ユッ([[육]])は肉(牛肉)、ケジャン([[개장]])は犬肉のスープ(「ポシンタン(犬肉の鍋/보신탕)」の項目も参照)。ケジャンを牛肉で代用したことから名付けられた。日本ではユッケジャンスープといった表記も見られるが、厳密にはケジャンの部分にスープの意が含まれる。本辞典ではユッケジャンを使用する。発音表記は[육깨장]。 | ユッケジャンは牛肉の辛いスープ。ユッ([[육]])は肉(牛肉)、ケジャン([[개장]])は犬肉のスープ(「ポシンタン(犬肉の鍋/보신탕)」の項目も参照)。ケジャンを牛肉で代用したことから名付けられた。日本ではユッケジャンスープといった表記も見られるが、厳密にはケジャンの部分にスープの意が含まれる。本辞典ではユッケジャンを使用する。発音表記は[육깨장]。 | ||
== 概要 == | == 概要 == | ||
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ユッケジャンは牛のブロック肉を茹でてスープを取り、大豆モヤシ、ワラビ、芋茎、長ネギなどの野菜とともに煮込んで作る料理。スープを取った牛肉は細く裂いて具としても使用する。味付けには醤油、塩、唐辛子油、みじん切りニンニク、コショウなどを用いる。たっぷりの具とスープを大き目の器に盛り付け、ごはん、副菜とともに定食の形式で提供されることが多い。家庭料理として作られるほか、定食店でもよく見るポピュラーなメニューであり、また専門店も一部存在する。 | ユッケジャンは牛のブロック肉を茹でてスープを取り、大豆モヤシ、ワラビ、芋茎、長ネギなどの野菜とともに煮込んで作る料理。スープを取った牛肉は細く裂いて具としても使用する。味付けには醤油、塩、唐辛子油、みじん切りニンニク、コショウなどを用いる。たっぷりの具とスープを大き目の器に盛り付け、ごはん、副菜とともに定食の形式で提供されることが多い。家庭料理として作られるほか、定食店でもよく見るポピュラーなメニューであり、また専門店も一部存在する。 | ||
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=== テグタンバンとユッケジャン === | === テグタンバンとユッケジャン === | ||
+ | [[ファイル:17071003.JPG|thumb|300px|日本の焼肉店で提供されるテグタン]] | ||
20世紀初頭には大邱式のユッケジャンがソウルなどで流行した。これをテグタンバン(大邱湯飯、[[대구탕반]])、またはテグタン(大邱湯、[[대구탕]])と称し、それぞれ大邱式の湯飯(スープごはん)、大邱式のスープを意味する。現在の韓国ではほぼ消えてしまった料理名であるものの、ごく一部には少数ながら残っており、また日本の焼肉店などで提供されるテグタンはこのテグタンバンに由来する。大邱でユッケジャンが発達した理由としては、大邱が盆地地域で夏場は特に暑く、暑さに打ち克つ料理として頻繁に食べられたからと説明されることが多い。 | 20世紀初頭には大邱式のユッケジャンがソウルなどで流行した。これをテグタンバン(大邱湯飯、[[대구탕반]])、またはテグタン(大邱湯、[[대구탕]])と称し、それぞれ大邱式の湯飯(スープごはん)、大邱式のスープを意味する。現在の韓国ではほぼ消えてしまった料理名であるものの、ごく一部には少数ながら残っており、また日本の焼肉店などで提供されるテグタンはこのテグタンバンに由来する。大邱でユッケジャンが発達した理由としては、大邱が盆地地域で夏場は特に暑く、暑さに打ち克つ料理として頻繁に食べられたからと説明されることが多い。 | ||
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*「朝鮮屋」の事例 | *「朝鮮屋」の事例 | ||
+ | [[ファイル:17071004.JPG|thumb|300px|「朝鮮屋」のテグタン]] | ||
:ソウル市中区乙支路に位置する「朝鮮屋(조선옥)」は1956年創業の老舗焼肉店であり、現在もテグタンの名称で牛肉を煮込んだスープを提供している。現在の韓国においてテグタンバン、テグタンという料理名はまず見ることがなく、料理名としてメニューに残しているのはほぼ唯一といってよい事例である。 | :ソウル市中区乙支路に位置する「朝鮮屋(조선옥)」は1956年創業の老舗焼肉店であり、現在もテグタンの名称で牛肉を煮込んだスープを提供している。現在の韓国においてテグタンバン、テグタンという料理名はまず見ることがなく、料理名としてメニューに残しているのはほぼ唯一といってよい事例である。 | ||
=== 1940年代 === | === 1940年代 === | ||
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*イェッチプ食堂の開店 | *イェッチプ食堂の開店 | ||
:大邱市中区市場北路に位置する「イェッチプ食堂(옛집식당)」は1948年創業で、現存するユッケジャンの専門店としてはもっとも古い。 | :大邱市中区市場北路に位置する「イェッチプ食堂(옛집식당)」は1948年創業で、現存するユッケジャンの専門店としてはもっとも古い。 | ||
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*タッケジャン | *タッケジャン | ||
− | + | [[ファイル:17071005.JPG|thumb|300px|鶏モモ肉を丸ごと入れたタッケジャン]] | |
:タッケジャン([[닭개장]])は牛肉の代わりに鶏肉を使ったユッケジャン。タッユッケジャン([[닭육개장]])とも呼ぶ。茹でた鶏肉を裂いて具とする([[「タッケジャン(鶏の辛いスープ/닭개장)]]」の項目も参照)。 | :タッケジャン([[닭개장]])は牛肉の代わりに鶏肉を使ったユッケジャン。タッユッケジャン([[닭육개장]])とも呼ぶ。茹でた鶏肉を裂いて具とする([[「タッケジャン(鶏の辛いスープ/닭개장)]]」の項目も参照)。 | ||
*ユッケジャンカルグクス | *ユッケジャンカルグクス | ||
+ | [[ファイル:17071006.JPG|thumb|300px|ユッケジャンカルグクス]] | ||
:ユッケジャンカルグクス([[육개장칼국수]])は、ユッケジャンのスープに[[カルグクス(韓国式の手打ちうどん/칼국수)]]の麺を入れた料理。略称としてユッカル([[육칼]])とも呼ばれる。食べ方としては以前からあったものの、2000年代後半から2010年頃にかけて話題となって広範な知名度を獲得した。2016年2月には大手食品会社のプルムウォンがインスタントの袋麺「ユッケジャンカルグクス」を販売した。大邱(テグ)にはユッケジャンのスープに素麺を入れたユッククス([[육국수]])が郷土料理として存在する。 | :ユッケジャンカルグクス([[육개장칼국수]])は、ユッケジャンのスープに[[カルグクス(韓国式の手打ちうどん/칼국수)]]の麺を入れた料理。略称としてユッカル([[육칼]])とも呼ばれる。食べ方としては以前からあったものの、2000年代後半から2010年頃にかけて話題となって広範な知名度を獲得した。2016年2月には大手食品会社のプルムウォンがインスタントの袋麺「ユッケジャンカルグクス」を販売した。大邱(テグ)にはユッケジャンのスープに素麺を入れたユッククス([[육국수]])が郷土料理として存在する。 | ||
*タロクッパプ | *タロクッパプ | ||
+ | [[ファイル:17071007.JPG|thumb|300px|タロクッパプ]] | ||
:タロクッパプ([[따로국밥]])はごはんと汁を別盛りにしたスープごはんの総称([[「タロクッパプ(別盛のスープごはん/따로국밥)]]」の項目も参照)。大邱ではユッケジャン(=テグタンバン)から派生した料理としてタロクッパプを位置づけており、かつてスープにごはんを入れた状態で提供していたものを、客の要望によってごはんを分けて出したのが始まりとしている。現在の大邱におけるタロクッパプは牛肉や牛骨スープでダシを取り、長ネギ、芋がらなどの野菜と一緒に煮込んだ辛いスープという点で共通するが、多くの店でソンジ(牛の血、[[선지]])を具として加えており、その点でユッケジャンと異なる。 | :タロクッパプ([[따로국밥]])はごはんと汁を別盛りにしたスープごはんの総称([[「タロクッパプ(別盛のスープごはん/따로국밥)]]」の項目も参照)。大邱ではユッケジャン(=テグタンバン)から派生した料理としてタロクッパプを位置づけており、かつてスープにごはんを入れた状態で提供していたものを、客の要望によってごはんを分けて出したのが始まりとしている。現在の大邱におけるタロクッパプは牛肉や牛骨スープでダシを取り、長ネギ、芋がらなどの野菜と一緒に煮込んだ辛いスープという点で共通するが、多くの店でソンジ(牛の血、[[선지]])を具として加えており、その点でユッケジャンと異なる。 | ||
*コサリユッケジャン | *コサリユッケジャン | ||
+ | [[ファイル:17071008.JPG|thumb|300px|コサリユッケジャン]] | ||
:コサリユッケジャン([[고사리육개장]])は豚肉とワラビのスープ。済州島の郷土料理として知られており、チェジュユッケジャン([[제주육개장]])とも呼ばれる。牛肉ではなく豚肉を煮込んで細く裂き、特産品のワラビとともに煮込んで作る。味付けは塩と醤油で整え、仕上げにはそば粉を振りかけてとろみをつけるのも特徴のひとつである。 | :コサリユッケジャン([[고사리육개장]])は豚肉とワラビのスープ。済州島の郷土料理として知られており、チェジュユッケジャン([[제주육개장]])とも呼ばれる。牛肉ではなく豚肉を煮込んで細く裂き、特産品のワラビとともに煮込んで作る。味付けは塩と醤油で整え、仕上げにはそば粉を振りかけてとろみをつけるのも特徴のひとつである。 | ||
== 日本における定着 == | == 日本における定着 == | ||
− | [[ファイル: | + | [[[ファイル:17071009.JPG|thumb|300px|叙々苑が販売する家庭用のユッケジャン]] |
日本では戦前に朝鮮半島から渡ってきた人たちがユッケジャンを伝えた。焼肉店にテグタンという名称が受け継がれているのは、在日コリアンに慶尚道出身者が多いことも影響していると考えられる。飲食店ではユッケジャンとテグタンを別に扱っているところもあり、ユッケジャンとテグタンの定義は作り手によってさまざまある。現在はユッケジャンに麺を入れたユッケジャンうどんや、ユッケジャンラーメンといったアレンジメニューを提供する店もあり、また家庭用としてレトルトや、カップスープスタイルのユッケジャンも販売されている。 | 日本では戦前に朝鮮半島から渡ってきた人たちがユッケジャンを伝えた。焼肉店にテグタンという名称が受け継がれているのは、在日コリアンに慶尚道出身者が多いことも影響していると考えられる。飲食店ではユッケジャンとテグタンを別に扱っているところもあり、ユッケジャンとテグタンの定義は作り手によってさまざまある。現在はユッケジャンに麺を入れたユッケジャンうどんや、ユッケジャンラーメンといったアレンジメニューを提供する店もあり、また家庭用としてレトルトや、カップスープスタイルのユッケジャンも販売されている。 | ||
*モスバーガーの事例 | *モスバーガーの事例 | ||
+ | [[[ファイル:17071009.JPG|thumb|300px|「モスバーガー」のユッケジャン]] | ||
:ファストフード店の「モスバーガー」では2007年3月30日から、季節限定メニューとして緑の看板を配したファストカジュアル業態の「緑モス」にて、「スープごはん ユッケジャン」を発売した。 | :ファストフード店の「モスバーガー」では2007年3月30日から、季節限定メニューとして緑の看板を配したファストカジュアル業態の「緑モス」にて、「スープごはん ユッケジャン」を発売した。 | ||