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'''オデン'''([[오뎅]])は、おでん。日本語のおでんという言葉が、韓国でも定着して使われている。オデン([[오뎅]])は料理名だけでなく、オデンに使用される魚肉練り製品(揚げかまぼこ)の総称としても使用される。主に屋台料理として町中で販売され、棒状ないし板状の揚げた練り製品を串に刺して煮込み、好みによって薬味醤油をつけて食べるのが一般的である。居酒屋などではオデンを鍋料理として提供し、これを[[オデンタン(おでん鍋/오뎅탕)]]という名前でも呼ぶ。 | '''オデン'''([[오뎅]])は、おでん。日本語のおでんという言葉が、韓国でも定着して使われている。オデン([[오뎅]])は料理名だけでなく、オデンに使用される魚肉練り製品(揚げかまぼこ)の総称としても使用される。主に屋台料理として町中で販売され、棒状ないし板状の揚げた練り製品を串に刺して煮込み、好みによって薬味醤油をつけて食べるのが一般的である。居酒屋などではオデンを鍋料理として提供し、これを[[オデンタン(おでん鍋/오뎅탕)]]という名前でも呼ぶ。 | ||
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+ | [[ファイル:17110301.JPG|thumb|400px|餅やコンニャクなども入った市場のオデン]] | ||
== 名称 == | == 名称 == | ||
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オデンは、日本語の「おでん」に由来する。料理名であるとともに、魚肉練り製品(揚げかまぼこ)のこともオデンと呼ぶことが多い。韓国語の固有語ではオムク([[어묵]])とも呼ぶ。オムクの「オ(어)」は魚を意味し、ムク(묵)はでんぷんなどを固めた食品を意味する。韓国ではオデンが日本語であることから、固有語であるオムクに置き換えることが推奨されてもいるが<ref>[https://www.korean.go.kr/front/mcfaq/mcfaqView.do?mcfaq_seq=3835 '오뎅'의 순화어] 、国立国語院ウェブサイト、2017年11月3日閲覧</ref>、本辞典では広範に使用されている「オデン」を使用する。発音表記は[오뎅]。 | オデンは、日本語の「おでん」に由来する。料理名であるとともに、魚肉練り製品(揚げかまぼこ)のこともオデンと呼ぶことが多い。韓国語の固有語ではオムク([[어묵]])とも呼ぶ。オムクの「オ(어)」は魚を意味し、ムク(묵)はでんぷんなどを固めた食品を意味する。韓国ではオデンが日本語であることから、固有語であるオムクに置き換えることが推奨されてもいるが<ref>[https://www.korean.go.kr/front/mcfaq/mcfaqView.do?mcfaq_seq=3835 '오뎅'의 순화어] 、国立国語院ウェブサイト、2017年11月3日閲覧</ref>、本辞典では広範に使用されている「オデン」を使用する。発音表記は[오뎅]。 | ||
== 概要 == | == 概要 == | ||
+ | [[ファイル:17110302.JPG|thumb|300px|ワタリガニでダシを取っている屋台のオデン]] | ||
オデンは魚肉練り製品(揚げかまぼこ)を串に刺し、煮干し、昆布、大根などを煮込んだスープで煮込んで作る。日本料理のおでんにルーツがあるが、韓国では主に屋台料理として発達し、[[キムパプ(海苔巻き/김밥)]]、[[トッポッキ(餅炒め/떡볶이)]]などとともに、小腹を満たすための軽食として定着している。日本料理のおでんに比べると具の種類が少なく、練り製品を主として、稀に餅やコンニャクが同じく串に刺した状態で加わる。練り製品としてはきりたんぽのような棒状に成形したもの、薄い板状に仕上げたものの2種類が大半であり、板状のものはジグザグに折り畳んで串に刺す。大根、卵、はんぺん、ちくわといった日本で定番の具はまず見かけない。南部の地域を中心にワタリガニでダシを取る屋台もある。 | オデンは魚肉練り製品(揚げかまぼこ)を串に刺し、煮干し、昆布、大根などを煮込んだスープで煮込んで作る。日本料理のおでんにルーツがあるが、韓国では主に屋台料理として発達し、[[キムパプ(海苔巻き/김밥)]]、[[トッポッキ(餅炒め/떡볶이)]]などとともに、小腹を満たすための軽食として定着している。日本料理のおでんに比べると具の種類が少なく、練り製品を主として、稀に餅やコンニャクが同じく串に刺した状態で加わる。練り製品としてはきりたんぽのような棒状に成形したもの、薄い板状に仕上げたものの2種類が大半であり、板状のものはジグザグに折り畳んで串に刺す。大根、卵、はんぺん、ちくわといった日本で定番の具はまず見かけない。南部の地域を中心にワタリガニでダシを取る屋台もある。 | ||
=== 食べ方 === | === 食べ方 === | ||
+ | [[ファイル:17110303.JPG|thumb|300px|屋台ではオデンのスープを飲むためのプラスチックのひしゃくが用意されている]] | ||
屋台では串に刺さったオデンを自由に取って食べてよい。会計は最後に食べた本数を申告して計算する。 | 屋台では串に刺さったオデンを自由に取って食べてよい。会計は最後に食べた本数を申告して計算する。 | ||
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*薬味醤油 | *薬味醤油 | ||
+ | [[ファイル:17110304.JPG|thumb|300px|オデンの前に置かれた薬味醤油]] | ||
+ | [[ファイル:17110305.JPG|thumb|300px|霧吹きに入った薬味醤油をオデンに振りかけるところ]] | ||
:屋台の店頭には薬味醤油が用意されており、串に刺したオデンをこれにつけて味わう。薬味醤油には刻んだ青唐辛子も入ってピリ辛に仕上げてある。店によっては薬味醤油を刷毛で塗ったり、スプーンでかけたり、霧吹きに入れてシュッと吹きかけるといった方式を採用しているところもある。 | :屋台の店頭には薬味醤油が用意されており、串に刺したオデンをこれにつけて味わう。薬味醤油には刻んだ青唐辛子も入ってピリ辛に仕上げてある。店によっては薬味醤油を刷毛で塗ったり、スプーンでかけたり、霧吹きに入れてシュッと吹きかけるといった方式を採用しているところもある。 | ||
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== 歴史 == | == 歴史 == | ||
+ | [[ファイル:17110306.JPG|thumb|300px|店頭でオデンなどの屋台料理を販売する食堂]] | ||
オデンに用いられる魚肉練り製品に関する文献上の初出は18世紀前半だが、本格的に日本から伝えられたのは19世紀後半から20世紀初頭にかけてと考えられる。韓国では日本から近い[[釜山市の料理|釜山市]]がオデンの本場とされており、1876年の釜山港開港を機に、日本人が増加したことがきっかけになった。新聞の報道によれば、1916年にはすでに[[釜山市の料理|釜山]]だけで16軒の「蒲鉾屋」があり<ref name="kamaboko01">[http://db.history.go.kr/item/imageViewer.do?levelId=npbs_1916_10_21_v0005_0800 蒲鉾屋に注意 ▽虎疫予防に就て] 、韓国史データベース、2017年11月2日閲覧</ref>、1920年代には[[釜山市の料理|釜山]]、また同じく南部の港町である[[慶尚南道の料理|慶尚南道]]の[[統営市の料理|統営]]にて製造業者向けの講習会も開催されるなど<ref name="kamaboko02">[http://db.history.go.kr/item/imageViewer.do?levelId=npbs_1925_09_17_v0003_0480 蒲鉾製造講習 二十日より二十日間] 、韓国史データベース、2017年11月2日閲覧</ref><ref name="kamaboko03">[http://db.history.go.kr/item/level.do?setId=1&itemId=npda&synonym=off&chinessChar=on&page=1&pre_page=1&brokerPagingInfo=&position=0&levelId=npda_1925_10_02_v0004_1020 慶南水産會에서 蒲鉾講習會(釜山)] 、韓国史データベース、2017年11月2日閲覧</ref>、この時期から広く普及していったと考えられる。また、1920年代後半の[[ソウル市の料理|ソウル]]には料理としてのオデンを販売する屋台が登場している。 | オデンに用いられる魚肉練り製品に関する文献上の初出は18世紀前半だが、本格的に日本から伝えられたのは19世紀後半から20世紀初頭にかけてと考えられる。韓国では日本から近い[[釜山市の料理|釜山市]]がオデンの本場とされており、1876年の釜山港開港を機に、日本人が増加したことがきっかけになった。新聞の報道によれば、1916年にはすでに[[釜山市の料理|釜山]]だけで16軒の「蒲鉾屋」があり<ref name="kamaboko01">[http://db.history.go.kr/item/imageViewer.do?levelId=npbs_1916_10_21_v0005_0800 蒲鉾屋に注意 ▽虎疫予防に就て] 、韓国史データベース、2017年11月2日閲覧</ref>、1920年代には[[釜山市の料理|釜山]]、また同じく南部の港町である[[慶尚南道の料理|慶尚南道]]の[[統営市の料理|統営]]にて製造業者向けの講習会も開催されるなど<ref name="kamaboko02">[http://db.history.go.kr/item/imageViewer.do?levelId=npbs_1925_09_17_v0003_0480 蒲鉾製造講習 二十日より二十日間] 、韓国史データベース、2017年11月2日閲覧</ref><ref name="kamaboko03">[http://db.history.go.kr/item/level.do?setId=1&itemId=npda&synonym=off&chinessChar=on&page=1&pre_page=1&brokerPagingInfo=&position=0&levelId=npda_1925_10_02_v0004_1020 慶南水産會에서 蒲鉾講習會(釜山)] 、韓国史データベース、2017年11月2日閲覧</ref>、この時期から広く普及していったと考えられる。また、1920年代後半の[[ソウル市の料理|ソウル]]には料理としてのオデンを販売する屋台が登場している。 | ||
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=== 1920年代 === | === 1920年代 === | ||
+ | [[ファイル:17110307.JPG|thumb|300px|練り製品をその場で揚げて販売をする屋台]] | ||
1920年代に入ると練り製品の製造はさらに盛んとなる。また、1920年代後半には[[ソウル市の料理|ソウル]]で料理としてのオデンも屋台で販売された。 | 1920年代に入ると練り製品の製造はさらに盛んとなる。また、1920年代後半には[[ソウル市の料理|ソウル]]で料理としてのオデンも屋台で販売された。 | ||
*釜山日報の記事 | *釜山日報の記事 | ||
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=== 1960年代 === | === 1960年代 === | ||
+ | [[ファイル:17110308.JPG|thumb|300px|釜山の居酒屋で提供される大皿の日本風オデン]] | ||
1960年代に入ると[[釜山市の料理|釜山]]では居酒屋で大皿に盛り付けた日本式のオデンを提供する店が登場し始めた。練り製品や牛スジ、魚介などを具とした大皿料理のオデンは[[釜山市の料理|釜山]]の郷土料理として地位を確立している。韓食ペディアの執筆者である八田靖史は著書『食の日韓論 ボクらは同じものを食べている』にて、[[釜山市の料理|釜山市]]中区南浦洞に位置する居酒屋「白光商会(백광상회)」のオデンを取り上げ、「定番である練り物に加え、牛スジ、コンニャク、サザエ、カマボコ、ちくわ、カニカマ、巾着、大根、サトイモ、エビ、タコ、コンブ、キャベツ、ゆで卵、餅と16種類もの具材が入って出てきた。ダシ汁にはかつおぶし、昆布、煮干し(サッパ)のほか、牛骨、干しエビ、干しダラも加えているのが韓国らしいところだろうか」と述べている<ref>八田靖史, 2016, 『食の日韓論 ボクらは同じものを食べている』, 三五館, P108</ref>。 | 1960年代に入ると[[釜山市の料理|釜山]]では居酒屋で大皿に盛り付けた日本式のオデンを提供する店が登場し始めた。練り製品や牛スジ、魚介などを具とした大皿料理のオデンは[[釜山市の料理|釜山]]の郷土料理として地位を確立している。韓食ペディアの執筆者である八田靖史は著書『食の日韓論 ボクらは同じものを食べている』にて、[[釜山市の料理|釜山市]]中区南浦洞に位置する居酒屋「白光商会(백광상회)」のオデンを取り上げ、「定番である練り物に加え、牛スジ、コンニャク、サザエ、カマボコ、ちくわ、カニカマ、巾着、大根、サトイモ、エビ、タコ、コンブ、キャベツ、ゆで卵、餅と16種類もの具材が入って出てきた。ダシ汁にはかつおぶし、昆布、煮干し(サッパ)のほか、牛骨、干しエビ、干しダラも加えているのが韓国らしいところだろうか」と述べている<ref>八田靖史, 2016, 『食の日韓論 ボクらは同じものを食べている』, 三五館, P108</ref>。 | ||
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=== 2000年代 === | === 2000年代 === | ||
+ | [[ファイル:17110309.JPG|thumb|300px|パルガンオデン]] | ||
*パルガンオデンのブーム | *パルガンオデンのブーム | ||
:2004年に[[プルタク(激辛のグリルチキン/불닭)]]の流行をきっかけとした激辛ブームが起こった。このブームに乗って屋台でも、パルガンオデン(辛口のオデン、[[빨간오뎅]])を出す店が増えた。 | :2004年に[[プルタク(激辛のグリルチキン/불닭)]]の流行をきっかけとした激辛ブームが起こった。このブームに乗って屋台でも、パルガンオデン(辛口のオデン、[[빨간오뎅]])を出す店が増えた。 | ||
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=== 2010年代 === | === 2010年代 === | ||
+ | [[ファイル:17110310.JPG|thumb|300px|オデンコロッケ]] | ||
*オデンコロッケ(オムクコロッケ)のブーム | *オデンコロッケ(オムクコロッケ)のブーム | ||
:[[釜山市の料理|釜山市]]影島区蓬莱洞に本社を置く「サムジンオムク(삼진어묵)」は、練り製品の中に具を詰めて揚げた「オムクコロッケ(어묵고로케)」を2014年より発売した。韓国におけるコロッケ([[고로케]])とは日本の芋コロッケなどとは異なり、パン生地に具を詰めて揚げた揚げパンの一種を意味する。韓国では2012年末からコロッケのブームがあり、それがオムクコロッケの背景にもなっている。 | :[[釜山市の料理|釜山市]]影島区蓬莱洞に本社を置く「サムジンオムク(삼진어묵)」は、練り製品の中に具を詰めて揚げた「オムクコロッケ(어묵고로케)」を2014年より発売した。韓国におけるコロッケ([[고로케]])とは日本の芋コロッケなどとは異なり、パン生地に具を詰めて揚げた揚げパンの一種を意味する。韓国では2012年末からコロッケのブームがあり、それがオムクコロッケの背景にもなっている。 | ||
== 種類 == | == 種類 == | ||
+ | [[ファイル:17110311.JPG|thumb|300px|オデンウドン]] | ||
オデンには次のような種類がある。 | オデンには次のような種類がある。 | ||
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;ハッバー | ;ハッバー | ||
+ | [[ファイル:17110312.JPG|thumb|300px|ハッバー]] | ||
:ハッバー([[핫바]])は揚げた魚肉練り製品を串に刺し、ケチャップやマスタードをかけて食べる軽食料理。名前のハッバーは「hot bar」に由来する。魚介やソーセージ、チーズなどと組み合わせることも多く、手軽なスナックとして町中の屋台や、高速道路のサービスエリア、コンビニエンスストアなどで販売されている。 | :ハッバー([[핫바]])は揚げた魚肉練り製品を串に刺し、ケチャップやマスタードをかけて食べる軽食料理。名前のハッバーは「hot bar」に由来する。魚介やソーセージ、チーズなどと組み合わせることも多く、手軽なスナックとして町中の屋台や、高速道路のサービスエリア、コンビニエンスストアなどで販売されている。 | ||
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== 地域 == | == 地域 == | ||
+ | [[ファイル:17110313.JPG|thumb|300px|ヤンニョムオデン。本来は練り物がモヤシの下に隠れている]] | ||
*[[忠清北道の料理|忠清北道]][[堤川市の料理|堤川市]] | *[[忠清北道の料理|忠清北道]][[堤川市の料理|堤川市]] | ||
:辛いタレで煮込んだパルガンオデン([[빨간오뎅]])が有名。堤川中央市場の名物として人気が高い。 | :辛いタレで煮込んだパルガンオデン([[빨간오뎅]])が有名。堤川中央市場の名物として人気が高い。 |