この記事はウィキペディアではありません。「韓食ペディア」はコリアン・フード・コラムニストの八田靖史が作る、韓国料理をより深く味わうためのWEB百科事典です。以下の内容は八田靖史の独自研究を含んでいます。掲載されている情報によって被った損害、損失に対して一切の責任を負いません。また、内容は随時修正されます。 |
浦項市(ポハンシ、포항시)は慶尚北道の東部に位置する地域。本ページでは浦項市の料理、特産品について解説する。
地域概要
浦項市は慶尚北道の東部に位置する地域。市の北部は慶尚北道の盈徳郡、東部は東海岸、南部は慶尚北道の慶州市、南西部は慶尚北道の永川市、北西部は慶尚北道の青松郡と接する。人口は49万4452人で、慶尚北道ではもっとも多い(2023年3月)[1]。慶尚北道では唯一行政区域として一般区を設置しており、市全体を北区(プック、북구)と南区(ナムグ、남구)に区画している。市の東部は東海岸に面しており、海に突き出た形になっている虎尾半島(ホミバンド、호미반도)の先端部、虎尾串(ホミゴッ、호미곶)は島嶼部を除くと朝鮮半島でもっとも東に位置する。西部は太白山脈(テベクサンメク、태백산맥)の最南部に位置する山岳地域である。観光地には日の出の名所として知られる虎尾串をはじめ、同じく虎尾半島に位置する九龍浦港(クリョンポハン、구룡포항)や、迎日湾(ヨンイルマン、영일만)に面した海水浴場などが代表的である。また、浦項は韓国最大の製鉄会社として知られるPOSCO(ポスコ、포스코)や、理系分野で韓国最高峰とされる浦項工科大学校(ポハン コンクァ テハッキョ、포항공과대학교)があることでも知られる。ソウル市から浦項市までは、ソウル駅から浦項駅まで高速鉄道のKTXで約2時間20分の距離。また、高速バスでは東ソウルバスターミナルから浦項市外バスターミナルまで約4時間30分の距離。金浦空港から浦項空港までは国内線で約50分の距離である。
食文化の背景
東海岸に面しており海の幸が豊富である。中でも九龍浦港に水揚げされるズワイガニや、黒アナゴ、マダコ、天然アワビなどが名産として知られる。ヒラメやカレイなどの白身魚をセンソンフェ(刺身/생선회)として味わうほか、刺身を冷たいスープ仕立てにしたムルフェ(水刺身/물회)、サンマを生干しにしたクァメギ(サンマの生干し/과메기)、魚介満載のスープに麺を入れたモリグクス(海鮮麺、모리국수)など、海産物を利用した郷土料理が豊富である。海産物以外ではホウレンソウの名産地として知られ、地域の名前を取ってポハンチョ(浦項草、포항초)と呼ばれる。
代表的な料理
クァメギ(サンマの生干し/과메기)
- クァメギ(과메기)は、サンマの生干し(「クァメギ(サンマの生干し/과메기)」の項目も参照)。市南東部の南区九龍浦邑(ナムグ クリョンポウプ、남구 구룡포읍)が名産地として知られる。かつてはニシン(청어)で作ったが、ニシンが不漁になったことからサンマ(꽁치)で代用されるようになった(ただし、近年はサンマも漁獲量が減少傾向にある)。生干ししたサンマを食べやすい大きさに切り、コンブやワカメなどに載せて、チョコチュジャン(唐辛子酢味噌、초고추장)で味わう。秋から冬にかけての季節料理であり、浦項市の郷土料理店、魚介料理店で味わえるほか、近年は浦項市で生産されたものが全国に流通している。
ムルフェ(冷汁風の刺身/물회)
- ムルフェ(물회)は、冷汁風の刺身(「ムルフェ(水刺身/물회)」の項目も参照)。一般にムルフェは刺身を冷たいスープとともに味わう料理だが、浦項市では白身魚などの刺身を生野菜と和えてフェムチム(刺身和え/회무침)のように提供する。これに別途、冷水か、または酸味と辛味のある冷たいスープを用意し、食べる人が好みで加えてムルフェとするが、そのまま混ぜて食べたり、ごはんを入れてフェトッパプ(刺身丼/회덮밥)として食べたり、それらを複合的に楽しんだりもする。
1950年代から60年代にかけて浦項市では、ムルフェを看板料理とする「浦項ムルフェ(포항물회)」(1951年創業?)、「嶺南ムルフェ(영남물회)」(1961年創業?)などの専門店が登場し、浦項市における元祖格として親しまれた(いずれも現在は閉店)[2]。1973年8月4日の朝鮮日報には、「松島海水浴場(송도해수욕장)内、80ヶ所の飲食店で販売されるこの地方の特味、ムルフェは最高の人気」とあることから、この時期には浦項市の名物として広く定着していたと考えられる[3]。
モリグクス(海鮮うどん/모리국수)
- モリグクス(모리국수)は、海鮮うどん。アンコウ(아귀)や、スケトウダラ(명태)、タナカゲンゲ(미역초, 벌레문치)といった魚を主材料に、ムール貝(홍합)や、エビ(새우)、豆モヤシ(콩나물)などを加え、どろっとした辛口のスープを仕立ててカルグクス(韓国式の手打ちうどん/칼국수)用の麺を入れる。南区九龍浦邑(ナムグ クリョンポウプ、남구 구룡포읍)の郷土料理であり、九龍浦里(クリョンポリ、남구 구룡포리)の「カックネモリグクス(까꾸네모리국수)」が元祖店として有名である。
- 語源
- モリグクスのグクス(=ククス、국수)は麺の意。モリの語源は諸説ある。もっとも代表的なひとつが、「モイダ(集まる、모이다)」の慶尚道方言である「モディダ(모디다)」を語源とするもので、大勢の人が集まって食べる麺、またはたくさんの海産物が集まって作られた麺との意味から、「モディグクス(集まる麺)」がモリグクスへと変化したと考える。同じく、「モルダ(わからない、모르다)」の慶尚道方言である「モリダ(わからない、모리다)」から、特に名前のない漁師料理であったが、料理名を問われた際に「モリンダ(모린다、わからない)」と答えたことからモリグクスになったとの説もある。モリグクスが生まれた九龍浦邑は、かつて日本人が多く暮らした町であり、日本語の「盛り(大盛り)」を語源とする説もある。
チョンボッチュク(アワビ粥/전복죽)
チョンボッチュク(전복죽)は、アワビ粥(「チョンボッチュク(アワビ粥/전복죽)」の項目も参照)。市南東部に位置する南区九龍浦邑(ナムグ クリョンポウプ、남구 구룡포읍)に専門店の集まる地域がある。九龍浦邑の近海では海女(전복죽)による天然アワビ漁が行われている。
フェ(刺身/회)
- フェ(회)は、刺身(「センソンフェ(刺身/생선회)」の項目も参照)。浦項市は港町であり、ヒラメ(광어)、カレイ(가자미)、クロソイ(우럭)、アワビ(전복)、スルメイカ(오징어)など、季節ごとの魚介を用いた刺身を味わえる。
コッセウフェ(シマエビの刺身/꽃새우회)
- コッセウフェ(꽃새우회)は、シマエビの刺身。迎日台海水浴場(ヨンイルデ ヘスヨクチャン、영일대 해수욕장)の付近には海鮮料理を自慢とする室内屋台が立ち並び、コッセウフェや、チョゲグイ(貝焼き/조개구이)などを提供している。コッセウフェは頭の部分をハサミで切り、別途塩焼きで提供する。
コドゥンオチュオタン(サバのスープ/고등어추어탕)
- コドゥンオチュオタン(고등어추어탕)は、サバのスープ。一般にチュオタン(ドジョウ汁/추어탕)といえばドジョウをすりつぶして作るが、それをサバでアレンジした料理である。下煮をしたサバから骨を外し、食べやすくほぐしたうえで、白菜などの野菜と煮込んで味噌仕立てのスープにする。北区興海邑(プック フンヘウプ、북구 흥해읍)の名物料理として知られる。また、浦項市では同様の料理をサンマで作るコンチチュオタン(サンマのスープ、꽁치추어탕)を提供する店もある。
ソモリコムタン(牛頭肉のスープごはん/소머리곰탕)
- ソモリコムタン(소머리곰탕)は、牛頭肉のスープごはん。ソモリクッパプ(牛頭部のスープごはん/소머리국밥)とも呼ぶ。北区竹島洞(プック チュクトドン、북구 죽도동)の竹島市場(チュクトシジャン、죽도시장)に隣接して専門店が集まっている。
代表的な特産品
- コムントルジャンオ(アナゴ/검은돌장어)南区東海面
- 東海面の迎日台海水浴場でとれる黒いアナゴ。地元の名物としてブランド化に力を入れている。
- テゲ(ズワイガニ/대게)南区九龍浦邑
- ズワイガニ。九龍浦港におけるズワイガニの水揚げは全国でもっとも多い。港にはズワイガニ料理の専門店が並び、スチームや鍋料理として味わえる。通年でロシアなどからの輸入物は出回るが、国産のズワイガニは12月1日から5月31日まで。
- トルムノ(マダコ/돌문어)南区九龍浦邑
- ポハンチョ(ホウレンソウ/포항초)
- 浦項で生産される改良種のホウレンソウ。
代表的な酒類・飲料
飲食店情報
以下は韓食ペディアの執筆者である八田靖史が実際に訪れた店を列挙している。
- キョンドン水産(경동수산)
- 住所:慶尚北道浦項市北区竹島市場13キル7-2(竹島洞2-145)
- 住所:경상북도 포항시 북구 죽도시장13길 7-2(죽도동 2-145)
- 電話:054-248-0508
- 料理:乾物販売
- カメリア(까멜리아)
- 住所:慶尚北道浦項市南区九龍浦邑九龍浦キル135-1(九龍浦里389-1)
- 住所:경상북도 포항시 남구 구룡포읍 구룡포길 135-1(구룡포리 389-1)
- 電話:054-278-2291
- 料理:トンベクサンド、ヨンシクサンド(バターサンドクッキー)
- パダイヤギ(바다이야기)
- 住所:慶尚北道浦項市北区海岸路107(斗湖洞611)
- 住所:경상북도 포항시 북구 해안로 107(두호동 611)
- 電話:054-255-9995
- 料理:チョゲグイ(貝焼き)、コッセウフェ(シマエビの刺身)
- 竹長然(죽장연)
- 住所:慶尚北道浦項市北区竹長面丙甫川キル863番キル53-23(上舎里445-1)
- 住所:경상북도 포항시 북구 죽장면 병보천길863번길 53-23(상사리 445-1)
- 電話:054-283-1530
- 料理:味噌、醤油、コチュジャンの生産
- ハボンソクテゲフェタウン(하봉석대게회타운)
- 住所:慶尚北道浦項市北区三湖路468番キル16-1(環湖洞513-8)
- 住所:경상북도 포항시 북구 삼호로468번길 16-1(환호동 513-8)
- 電話:054-252-1110
- 料理:テゲチム(蒸しズワイガニ)、センソンフェ(刺身)
- ハルメソモリコムタン(할매소머리곰탕)
- 住所:慶尚北道浦項市北区七星路56(南浜洞989-28)
- 住所:경상북도 포항시 북구 칠성로 56(남빈동 989-28)
- 電話:054-247-8660
- 料理:ソモリクッパプ(牛頭部のスープごはん)
- ハルメチョンボッチプ(할매전복집)
- 住所:慶尚北道浦項市南区九龍浦邑虎尾路315-2(九龍浦里209-1)
- 住所:경상북도 포항시 남구 구룡포읍 호미로 315-2(구룡포리 209-1)
- 電話:054-276-9022
- 料理:チョンボッチュク(アワビ粥)
- ヘヤンフェテゲセンター(해양회대게센타)
- 住所:慶尚北道浦項市北区竹島市場キル32(竹島洞574-4)
- 住所:경상북도 포항시 북구 죽도시장길 32(죽도동 574-4)
- 電話:054-255-2255
- 料理:テゲチム(蒸しズワイガニ)、センソンフェ(刺身)
- ファンヨフェッチプ(환여횟집)
- 住所:慶尚北道浦項市北区海岸路189-1(斗湖洞190-9)
- 住所:경상북도 포항시 북구 해안로 189-1(두호동 190-9)
- 電話:054-251-8847
- 料理:ムルフェ(水刺身)、ムルフェグクス(水刺身麺)
エピソード
- 韓食ペディアの執筆者である八田靖史は2013年3月に初めて浦項市を訪れた。かねてより世話になっている韓国人の兄さんから「あと来月浦項に来い。味噌仕込むから」「え゛!?」「取材していけ。メシぐらいおごるぞ」「え、えーっと……」という会話があった後、愚直にもその命令に従って味噌蔵の見学へと出かけた。一連の話は当時配信していたメールマガジン「コリアうめーや!!第288号」「コリアうめーや!!第290号」に詳しく記録されている[4][5]。
- 韓食ペディアの執筆者である八田靖史は、ドラマ『椿の花咲く頃(동백꽃 필 무렵)』が放送中の2019年10月に浦項市の九龍浦近代文化歴史通りを訪れた。ロケの様子がうかがえる装飾があったり、記念撮影をする観光客の姿を見ていたが、当時は韓国ドラマに興味がなくなんの感慨もなくやり過ごした。その後、コロナ禍の余暇時間を利用して韓国ドラマを視聴する習慣が生まれ、同作品にも傾倒したため、2023年3月に訪問した際は町の姿がまったく違って見えた。主要なロケ地である「カメリア(까멜리아)」で購入した「トンベクサンド(동백샌드)」「ヨンシクサンド(용식샌드)」(バターサンドクッキー)は感動的な味わいだったと振り返る。
脚注
- ↑ 주민등록 인구 및 세대현황 、行政安全部ウェブサイト、2023年4月8日閲覧
- ↑ [경상도 맛길기행 .76 日食 이야기- (10) 물회] 、嶺南日報2006年9月5日付記事、2023年8月13日閲覧
- ↑ [「비키니 群像」…原色의 파노라마 、NAVERニュースライブラリー(朝鮮日報1973年8月4日記事)、2023年8月13日閲覧
- ↑ コリアうめーや!!第288号 プレミアムテンジャンの可能性!! 、韓食生活、2018年11月29日閲覧
- ↑ コリアうめーや!!第290号 プレミアムテンジャンの工場見学!! 、韓食生活、2018年11月29日閲覧
外部リンク
- 関連サイト
- 制作者関連サイト
- 韓食生活(韓食ペディアの執筆者である八田靖史の公式サイト)
- 八田靖史プロフィール(八田靖史のプロフィール)