平昌郡の料理
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平昌郡(ピョンチャングン、평창군)は江原道に位置する地域。本ページでは平昌郡の料理、特産品について解説する。
地域概要
平昌郡は慶尚北道の中南部に位置し、洪川郡、江陵市、旌善郡、寧越郡、横城郡と接する。人口は4万3177人(2017年3月)[1]。郡のほぼ全体を太白山脈が貫く山あいの地域で、同じ江原道の麟蹄郡、洪川郡に次いで全国第3位の山林面積を誇る(総面積は第4位、山林率は81.57%で全国第13位)[2]。五台山(1563m)、桂芳山(1577m)といった名峰は登山客にも人気が高く、これら一帯は五台山国立公園にも指定されている。北東部の蓬坪(ポンピョン、봉평)地区はそばの名産地として知られており、またこの地域出身の小説家、李考石(イ・ヒョソク、이효석)の代表作『そばの花咲く頃(메밀꽃 필 무렵)』の舞台としても有名である。ソウル(高速ターミナル、または東ソウル総合ターミナル)から平昌バスターミナルまでは高速バスで約2時間~2時間20分の距離。ただし、平昌郡は広いので目的地によっては、大和、長坪、横渓、珍富などの各ターミナルを利用するほうが便利なことも多い。
食文化の背景
平昌郡は山間部にあって、海抜700m以上の地域が全体面積の約60%を占める[3]。これにちなんで地域のキャッチフレーズを「HAPPY700」と定めている。平昌郡は「海抜700m地点がもっとも幸せな高度」であるとし、「人体にもっとも適合する気圧状態で生態リズムにもっともよい」、「人間の生活とすべての動植物の生育に最適な条件を備えた場所」だと説明する[4]。食文化においてもこうした環境が活かされており、高冷地での農業や、韓牛(한우)を中心とした畜産業が盛んである。また、山間部にありながらも大関嶺(テグァルリョン、대관령)と呼ばれる峠を越えると東海岸までは意外に近く、ファンテ(황태)と呼ばれるスケトウダラの干物が名産であったり、スルメイカと豚肉を炒めたオジンオプルコギ(오징어불고기)が郷土料理として親しまれるなど、海産物とも馴染みの深い地域である。また、川魚としては五台川(오대천)一帯で養殖されるニジマス(무지개송어)が名物として知られる。
代表的な料理
平昌の蓬坪地区は全国的に有名なそばの名産地であり、そば粉を利用した名物料理が多い。また、東海岸の特産品であるスルメイカを豚バラ肉と炒めたオサムプルコギや、川魚のマスを刺身にしたソンオフェといった料理が有名である。なお、スケトウダラを野外で自然乾燥させたファンテや、大関嶺地区で飼育される韓牛については後述の代表的な特産品にて扱う。
マッククス(冷やしそば/막국수)
- マッククスはそば粉で作った冷たい麺料理(料理の詳細は「マッククス(冷やしそば/막국수)」の項目を参照)。郡内の蓬坪地区は全国的に有名なそばの名産地である。生産量では済州島などが上回るものの、韓国を代表する小説家、李孝石が蓬坪を舞台に書いた短編小説『そばの花咲く頃(메밀꽃 필 무렵)』の名声による印象が大きい。蓬坪では毎年そばの白い花が咲く9月に「孝石文化祭(효석문화제)」を開催[5]。蓬坪におけるそばを利用した料理の代表格がマッククスであり、蓬坪伝統市場(봉평전통시장)の周辺に専門店が多く集まる。
- その他のそば料理
- 蓬坪のマッククス専門店では、それ以外にもそば粉を用いた郷土料理を提供する。代表的なものにメミルブチム(そばのチヂミ、메밀부침)、メミルチョンビョン(キムチのそばクレープ巻き、메밀전병)、メミルムクムチム(そば寒天の和え物、메밀묵무침)などがある。また、蓬坪ではそば粉を利用した新しい料理も創作されており、チンパン(あんまん/찐빵)、タッカンジョン(鶏の蜜唐揚げ/닭강정)、チャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺/짜장면)、チャンポン(激辛スープの海鮮麺/짬뽕)などを提供する店がある。
オサムプルコギ(スルメイカと豚バラ肉の炒め物/오삼불고기)
- オサムプルコギはスルメイカと豚バラ肉を甘辛く炒めた料理。オサム(오삼)はスルメイカを表すオジンオ(오징어)と、豚バラ肉を表すサムギョプサル(삼겹살)の頭文字を取ったもの。プルコギは肉や魚介などをタレに漬け込んで焼いた料理を指す(「プルコギ(牛焼肉/불고기)」の項目も参照)。食べやすい大きさに切ったスルメイカと豚バラ肉を、白菜、長ネギなどの野菜とともに、コチュジャンベースの甘辛いタレに絡めて炒める。平昌郡の東側に位置する横渓(フェンゲ、횡계)地区の郷土料理であり、1970年代から専門店の増えた一画は、横渓オサムプルコギ通り(횡계오삼불고기거리)と呼ばれる。元祖格とされる古株店に、「横渓食堂(횡계식당)」、「ナプチャク食堂(납작식당)」、「トアム食堂(도암식당)」などがある。横渓地区は平昌郡の中でも東海岸に近い東部に位置し、新鮮なスルメイカを入手しやすかったため、山間部にあってこうした魚介料理が発達したとされる。
ソンオフェ(マスの刺身/송어회)
- ソンオフェはマスの刺身。ソンオ(송어)は漢字で「松魚」と書いてマスのこと。フェ(회)は刺身。正確には養殖されたニジマス(무지개송어)を刺身にしている。平昌郡の珍富(チンブ、진부)地区を流れる五台川一帯ではマスの養殖が盛んで、一帯にはマス料理の専門店が集まる。毎年12~2月頃には平昌マス祭り(평창송어축제)が開催される[6]。2017年1月16日には、国立水産物品質管理院が認定する水産物の地理的表示第23号に「平昌マス(평창송어)」が登録された[7]。江原道の水産物登録としては初の快挙である。
- ニジマス養殖の歴史
- 韓国におけるニジマス養殖の歴史は1965年にさかのぼる。この年、1月3日にアメリカのカリフォルニア州から運ばれたニジマスの種卵、約1万個を江原道華川郡の養殖場に放流したのが始まりである。当初は技術や知識の不足もあってうまくゆかなかったが、1967年に平昌郡平昌邑上里の施設に移したところ、この地域は湧泉水が豊富で、適当な水温を維持できたため、立派に成長させることに成功した[8]。
2018特選メニュー(2018특선메뉴)
- 2018特選メニューは冬季オリンピックに向けて開発された10種類の料理。平昌郡の特産物を利用して、有名シェフのエドワード・クォン(에드워드 권)がレシピを開発した。各料理は平昌郡内に位置する飲食店にて実際に味わうことができる。10種類の料理は以下の通り。
- ビビンバサラダ<女心花飯>(비빔밥샐러드<여심꽃밥>)
- そばパスタ<恋人>(메밀파스타<연인>)
- アップルパイ<よい日の愛>(사과파이<좋은날애>)
- マス餃子(송어만두)
- マス丼(송어덮밥)
- 韓牛プルコギ<アラリ>(한우불고기<아라리>)
- ファンテカルグクス(황태칼국수<눈대목>)
- チョコポテト(초코감자)
- ツルニンジンロールカツ(더덕롤까스)
- クルリミ(굴리미)
- ※カルグクスは韓国式の手打ちうどん(「カルグクス(韓国式の手打ちうどん/칼국수)」の項目も参照)。クルリミは転がすものという意味で、ジャガイモや、サツマイモを使ったデザートメニュー。
代表的な特産品
スケトウダラを野外で自然乾燥させたファンテは全国的に有名。高原地域ではジャガイモ、白菜、タマネギ、トウモロコシ、そばなどの野菜、雑穀栽培が盛んであり、また韓牛の飼育でも名高い。
ファンテ(乾燥スケトウダラ/황태)
- ファンテ(황태)は漢字で「黄太」と書いて野外で自然乾燥させたスケトウダラのこと。一般的なスケトウダラの名称はミョンテ(明太、명태)であるが、乾燥過程で黄色みを帯びることから名付けられた。また、その見た目がトドク(ツルニンジン、더덕북어)に似ていることからトドクプゴ(더덕북어)とも呼ぶ。プゴ(북어)は漢字で「北魚」と書いて乾燥スケトウダラの総称。郡内の大関嶺地区で盛んに生産されており、トクチャン(덕장)と呼ばれる丸太を櫓のように組んだ干し場をあちこちに見かける。スケトウダラが水揚げされる12月から1月にかけて乾燥作業を始め、3月から4月にかけて出荷を行う。この間、トクチャンにかけられたスケトウダラは強風にさらされつつ、また昼夜の寒暖差から自然冷凍と自然解凍が繰り返される凍結乾燥によって水分が抜ける。手間と時間がかかることから、スケトウダラの加工品としては最高級の扱いを受ける。ただし近年は国産のスケトウダラが激減していることから、ファンテの原料もロシア産のスケトウダラが主流を占めている。
- ファンテを使った料理
- ファンテを煮込んだスープ料理のファンテヘジャンクッ(干しダラのスープ/황태해장국)や、薬味ダレを塗って焼いたファンテグイ(干しダラの薬味ダレ焼き/황태구이)、セリや、大豆モヤシなどの野菜と蒸し煮にしたファンテチム(干しダラの蒸し煮/황태찜)の3種がもっとも代表的である。店によってはファンテ入りのプルコギ(牛焼肉/불고기)や、ミヨックッ(ワカメスープ/미역국)を提供するところもある。
- ファンテ生産の歴史
- ファンテはもともと朝鮮半島北東部に位置する咸鏡道の名産品であったが、朝鮮戦争(1950~53年)によって南北が分断されて以降、江原道でも生産されるようになった。平昌郡の大関嶺地区と、江原道麟蹄郡の龍垈里(ヨンデリ、용대리)地区が有名。平昌郡のウェブサイトでは「咸鏡道から下ってきた避難民たちが気候条件が北部と似ている大関嶺に干し場を作りファンテを生産し始めた」【原文1】と説明している[9]。
- 【原文1】「6.25직후부터 함경도에서 내려온 피난민들이 기후조건이 이북과 비슷한 대관령에 덕장을 세워 황태를 생산하기 시작한 것이다.」
テグァルリョンハヌ(大関嶺韓牛/대관령한우)
タングィ(トウキ/당귀)
代表的な酒類・飲料
平昌郡のマッコリ
- 平昌郡のマッコリはいずれも地域の特産品を利用して造られている。現在、4ヶ所の醸造場があり、珍富地区にある珍富醸造場(진부양조장)ではトウモロコシや、トウキを原料に加えた五台山マッコリ(오대산막걸리)を製造し、また同地区の五台醸造では藷酒(서주)と呼ばれるジャガイモマッコリを製造。蓬坪地区の蓬坪メミルF&B営農法人では蓬坪生メミルマッコリ(봉평生메밀막걸리)、芳林地区の桂村醸造場ではもち米とトウモロコシを原料とした桂村甘露酒(계촌감로주)を製造する。
飲食店情報
以下は韓食ペディアの執筆者である八田靖史が実際に訪れた店を列挙している。
- トアム食堂(도암식당)
- 住所:江原道平昌郡大関嶺面大関嶺路103、2階(横渓里323-6)
- 住所:강원도 평창군 대관령면 대관령로 103, 2층(횡계리 323-6)
- 電話:033-336-5814
- 料理:オサムプルコギ
- 蓬坪メミルハーブチンパン(봉평메밀허브찐빵)
- 住所:江原道平昌郡蓬坪面許生員ジャントキル11(蒼洞里280-1)
- 住所:강원도 평창군 봉평면 허생원장터길 11(창동리 280-1)
- 電話:033-336-4946
- 料理:チンパン
- ウォリメミルタッカンジョン(월이메밀닭강정)
- 住所:江原道平昌郡蓬坪面岐豊3キル33(蒼洞里352-6)
- 住所:강원도 평창군 봉평면 기풍3길 33(창동리 352-6)
- 電話:033-335-1289
- 料理:メミルタッカンジョン
- チョガチプイェッコル(초가집옛골)
- 住所:江原道平昌郡蓬坪面岐豊1キル5(蒼洞里404-8)
- 住所:강원도 평창군 봉평면 기풍1길 5(창동리 404-8)
- 電話:033-336-3360
- 料理:マッククス、2018特選料理(そばパスタ、韓牛プルコギ)
- 現代マッククス(현대막국수)
- 住所:江原道平昌郡蓬坪面トンイジャントキル17(倉洞里384-8)
- 住所:강원도 평창군 봉평면 동이장터길 17(창동리 384-8)
- 電話:033-335-0314
- 料理:マッククス、メミルブチム、メミルチョンビョン
- ファンテ会館(황태회관)
- 住所:江原道平昌郡大関嶺面ヌンマウルキル19(横渓里348-5)
- 住所:강원도 평창군 대관령면 눈마을길 19(횡계리 348-5)
- 電話:033-335-5795
- 料理:ファンテヘジャンクッ、ファンテグイ、ファンテチム
エピソード
- 韓食ペディアの執筆者である八田靖史は2011年12月19日に初めて平昌郡を訪れた。蓬坪での取材を終えて長坪バスターミナルに向かうタクシーの中で、北朝鮮の金正日総書記が死去したことを知って驚く。横渓までのバスを待つ間、地元住民とともにターミナルに設置されたテレビで、ニュースを見つめたことが印象に強く残っている。
脚注
- ↑ 주민등록 인구통계 、行政自治部ウェブサイト、2017年3月24日閲覧
- ↑ [산림기본통계 2015 산림기본통계] 、山林庁ウェブサイト、2017年3月24日閲覧
- ↑ 평창군 、斗山百科、2017年3月27日閲覧
- ↑ HAPPY700의 정의 、平昌郡ウェブサイト、2017年3月25日閲覧
- ↑ 평창효석문화제 、孝石文化祭ウェブサイト、2017年3月25日閲覧
- ↑ 평창송어축제 、平昌マス祭りウェブサイト、2017年3月26日閲覧
- ↑ 지리적표시 등록 공고(수품원 제2017-6호) 、FSIS水産物安全情報、2017年3月26日閲覧
- ↑ “송어양식에 오롯이 반백년의 세월을 바쳤습니다” 、水産人新聞、2017年3月26日閲覧
- ↑ 대관령황태 、平昌文化観光、2017年3月25日閲覧
- ↑ 진부당귀 지리적표시 등록 : 제38호 、国立農産物品質管理院、2017年3月26日閲覧