この記事はウィキペディアではありません。「韓食ペディア」はコリアン・フード・コラムニストの八田靖史が作る、韓国料理をより深く味わうためのWEB百科事典です。以下の内容は八田靖史の独自研究を含んでいます。掲載されている情報によって被った損害、損失に対して一切の責任を負いません。また、内容は随時修正されます。 |
尚州市(サンジュシ、상주시)は慶尚北道に位置する地域。本ページでは尚州市の料理、特産品について解説する。
地域概要
尚州市は慶尚北道の中西部に位置し、聞慶市、醴泉郡、義城郡、亀尾市、金泉市、忠清北道の永同郡、沃川郡、報恩郡、槐山郡と接する。人口は10万1962人(2016年11月)[1]。市の西部には小白山脈が連なり、忠清北道の報恩郡、槐山郡へとまたがる俗離山(속리산)は景勝地として有名である。東部の洛東江(낙동강)沿いには咸昌平野と尚州平野が広がり、古くからの穀倉地帯として栄えた。代表的な観光地としては、俗離山の展望スポットである文蔵台(문장대)や、洛東江に臨み「洛東江第1景」と称えられる擎天台(경천대)、尚州自転車博物館などがある。また、2011年6月には咸昌邑(합창읍)、利安面(이안면)、恭倹面(공검면)の3地域がスローシティとして認定された。ソウル(高速ターミナル、または東ソウル総合ターミナル)から尚州総合バスターミナルまでは高速バスで約2時間30分の距離。
食文化の背景
676年に新羅が半島を統一すると、687年に全国を9つの州に分割して統治を行った。その州のひとつが尚州(沙伐州)である。その当時から中東部の中心地域として栄え、高麗時代(918~1392年)にも地方行政組織である12牧(後に8牧)のひとつに尚州が含まれている。また高麗時代後期から現在に至るまで半島の南東部は慶尚道と呼ばれているが、この名称も慶州(경주)と尚州の頭文字から取られたものである。こうした歴史的な背景を踏まえ、尚州の両班家に伝わった料理書『是議全書』の料理を再現することにも力を入れている。地理的には小白山脈のふもとで栽培されるリンゴ、ナシ、ブドウ、柿などの果物類や、洛東江流域で生産される米などが名産として知られ、「大韓民国農業の首都」を掲げている。また、古くから養蚕も盛んにおこなわれており、名産品である米、干し柿、カイコの3つを三白(삼백)と総称して尚州の象徴としている。
代表的な料理
祭祀料理をもとにしたコノムルチムや、キジ肉を使った料理が名物である。
コノムルチム(干物の蒸し煮/건어물찜)
- 星州では祭祀膳にコノムル(건어물)と呼ばれる干物類を多く捧げる。これを祭祀後にまとめて醤油で甘辛く煮付けたものをコノムルチムと呼ぶ。チム(찜)は蒸し煮の総称。有名食堂である「カムコル食堂(감골식당)」ではコノムルチムを看板料理のひとつとしており、干しダラ(북어)、アカエイ(가오리)、スルメイカ(오징어)、鶏肉、鶏の玉ひも(排卵前の卵と卵管)、昆布といった食材を煮込んで提供する。
クォンシャブシャブ(キジ肉のシャブシャブ/꿩샤브샤브)
- 星州にはキジ肉料理を出す店が多く、クォンシャブシャブ(キジ肉のしゃぶしゃぶ、꿩샤브샤브)や、クォンタン(キジ肉の鍋、꿩탕)クォンマンドゥ(キジ肉餃子、꿩만두)といった料理を味わえる。
代表的な特産品
かつてはスイカの名産地であったが、1980年代に入ってマクワウリ栽培が盛んになった。盆地型で降水量が少なく、日射量が多いことからマクワウリ栽培に向いているとされる。
チャメ(マクワウリ/참외)
- 星州はかつてスイカの名産地であったが、1980年代に入ってマクワウリ栽培が主流となった。星州の気候条件などがマクワウリ栽培に向いていたのも要因であるが、シーズンに1度しか収穫できないスイカに比べて、マクワウリは最大で3~4回収穫できるメリットが農家にとっては大きかったとされる(八田靖史の取材記録より、2016年10月26日)。現在では全国に流通する約7割のマクワウリを星州で生産している[2]。
- 品種
- 現在の韓国で栽培されているマクワウリは大半がクムサラギ(금싸라기)の系統であり、もともとは日本品種の銀泉を改良したものである。星州においてもクムサラギ系統のマクワウリが主流として栽培されている。
- 栽培方法
- 病害虫を防ぐ目的から、カボチャに接ぎ木をして栽培する方法が主流である。もっともはやい2月末の収穫を目指す場合、10~11月に種をまき、接ぎ木をしたうえで12~1月に畑へと植え替える。
- 旬
- 本来は4~6月がいちばんの旬であるが、近年は出荷が早まっており、2月末頃から市場に出回る。9月から10月にはすべての出荷が終わり、貯蔵がきかないこともあって冬場に出回ることはない。
- 輸出
- 星州では日本、シンガポール、香港、マレーシアなどにマクワウリを輸出している。中でも日本への輸出がもっとも多く、2015年は168.4トンに上っている[3]。
- 関連施設
- 玉星里(옥성리)には星州農業技術センターに併設されて「マクワウリ生態学習院(참외생태학습원)」がある。ここではマクワウリの栽培方法や、品種改良の歩み、歴史について学ぶことができる。また、郡内各地にある流通センターには、シーズンになると簡易販売場が設けられ、そこでマクワウリを購入することもできる。
- 利用
- 星州ではマクワウリを使った加工食品作りも行われている。星山里(성산리)にある「スミダム(수미담)」では、マクワウリを煮詰めて水飴を作り、それを販売するとともにこれを利用した伝統菓子(한과)の生産も行っている。また、白雲里(백운리)の農家レストラン「ミル(밀)」では、マクワウリの漬物(장아찌)や、マクワウリ入りのビビンバ(비빔밥)蒸しパン(찐빵)などを作るとともに、マクワウリで甘味をつけた酢、水飴、コチュジャンなどを料理の味付けに利用している。
- スミダム(수미담)
- 住所:慶尚北道星州郡大家面星山2キル95-33(星山里1222-4)
- 住所:경상북도 성주군 성주읍 성산2길 95-33(성산리 1222-4)
- 電話:054-931-6464
トゥンギョジャン(大麦の糠味噌/등겨장)
代表的な酒類・飲料
星州郡のマッコリ
- 星州には伽泉醸造場の「星州伽耶山伽泉米生マッコリ(성주 가야산 가천 쌀생막걸리)」や、星州濁酒醸造場の「龍巌マッコリ(용암막걸리)」がある。
飲食店情報
以下は韓食ペディアの執筆者である八田靖史が実際に訪れた店を列挙している。
- カムコル食堂(감골식당)
- 住所:慶尚北道星州郡星州邑京山キル9-3(京山里 613-1)
- 住所:경상북도 성주군 성주읍 경산길 9-3(경산리 613-1)
- 電話:054-933-2416
- 料理:コノムルチム
- ミル(밀)
- 住所:慶尚北道星州郡修倫面徳雲路1566(白雲里1038)
- 住所:경상북도 성주군 수륜면 덕운로 1566(백운리 1038)
- 電話:054-931-2660
- 料理:韓定食、ビビンバ
エピソード
- 韓食ペディアの執筆者である八田靖史は2016年10月に初めて星州郡を訪れた。慶尚北道広報大使が取材、執筆する観光冊子『GB-Story Vol.3』にはこの時の取材をもとに、チャメやコノムルチムを中心とした話が掲載されている。