「江華郡の料理」の版間の差分

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2015年4月3日 (金) 18:07時点における版

この記事はウィキペディアではありません。「韓食ペディア」はコリアン・フード・コラムニストの八田靖史が作る、韓国料理をより深く味わうためのWEB百科事典です。以下の内容は八田靖史の独自研究を含んでいます。掲載されている情報によって被った損害、損失に対して一切の責任を負いません。また、内容は随時修正されます。

江華郡(カンファグン、강화군)は仁川広域市に位置する地域。本ページでは江華郡の料理、特産品について解説する。

来蘇寺の大雄宝殿

地域概要

江華郡は仁川市の北部に位置し、同じ仁川市の西区と甕津郡、京畿道の金浦市と接する。また、北部は川を挟んで北朝鮮の黄海北道開豊郡や、黄海南道白川郡、延安郡と向かい合う。人口は6万7118人(2015年1月)[1]。郡全体が西海岸に浮かぶ島嶼地域であり、韓国で5番目の面積を誇る江華島(강화도)をはじめ、喬桐島(교동도)、席毛島(석모도)といった15の島で構成されている。観光地としても人気が高く、古代から近現代に至るまで幅広い歴史遺産を残しているのが大きな特徴である。ユネスコの世界文化遺産にも指定された青銅器時代の支石墓群(高敞、和順、江華の支石墓群跡)や、神話上の始祖である檀君が天に祭祀を行った摩尼山(마니산)、高句麗時代の381年に創建されたとされる伝燈寺(전등사)、高麗時代の13世紀に臨時首都として使用された宮殿跡の高麗宮址(고려궁지)、朝鮮時代の19世紀後半に諸外国と対峙した防衛拠点の草芝鎮(초지진)など、各時代における歴史が縮図のように集まっている。ソウル(新村、弘大入口などの各バス停)から広域バスで約2時間の距離。

食文化の背景

漢江、臨津江、礼成江という3つの河川が流れ込む河口地域に位置するため、堆積地として肥沃な土壌を有することから、島嶼地域であっても漁業のみならず農業が盛んに行われている。


半島として西海岸に突き出た扶安郡は三方を海に囲まれ、また広大な干潟を有していることから四季折々の海産物に恵まれた地域である。例えば、格浦港(キョッポハン、격포항)のある刺身店では、春はマダイ(도미)、夏はスズキ(농어)、秋はコノシロ(전어)、冬はボラ(숭어)とそれぞれ旬の刺身を主力商品とし、そこに加えて3~4月は卵を持ったイイダコ(주꾸미)、5~6月はコウイカ(갑오징어)を提供する(八田靖史の取材記録より、2010年4月4日)。また、扶安の食文化においては干潟からの恵みを欠かすことはできず、アサリ(바지락)、バカガイ(개량조개)、アカガイ(피조개)、タイラガイ(키조개)、シオフキ(동죽)などがよくとれる。こうした干潟を利用した塩田事業も古くから栄え、天日塩を特産品とするとともに、豊富な海産物を用いた塩辛(젓갈)の生産も盛んである。一方で、養蚕事業も盛んであることから郡内には桑畑が多く、桑の葉(뽕잎)や、桑の実(오디)を利用した郷土料理も多い。食品以外では、高麗時代から青磁の生産地として栄えた歴史を持ち、現在も陶磁器作りが盛んである。

セマングム干拓事業

セマングム防潮堤
  • 事業概要

セマングムとは扶安郡、金堤市、群山市にまたがる大規模な干拓地である。セマングムのセは「新しい」、マンは万頃平野(만경평야)の「万」、グムは金堤平野(김제평야)の「金」(金堤の金はキムと読むが、別の読み方ではグムとも読める)から取られている。扶安の辺山半島から古群山群島を経て群山市までを全長33.9kmの防潮堤(2010年4月に完成)で結び、その内側を干拓することによって総面積4万100ha(面積でソウルの3分の2に相当)という広大な土地を新たに造成する[2]。この事業が計画されたのは1970~80年代で、当初は農業用地の確保がいちばんの目的であったが、地元や環境団体の反対もあって事業が長期化したことにより、当初の目的はすでに意味を失い、現在は東北アジア地域における経済の中心地としての開発と変更されている。

  • 食文化への影響

干拓事業によって多くの干潟が埋立てられ、漁業にも大きな影響が出ている。一例として、界火島(ケファド、개화도)一帯はハマグリの主産地として全国的に有名だったが、干拓事業によって生産量が激減した。あるハマグリ料理の専門店では、長らく使ってきた界火島産を諦め、北朝鮮の海州産に切り替えることとなった(八田靖史の取材記録より、2010年4月5日)。

代表的な料理

パジラッチュク(アサリ粥/바지락죽)

パジラッチュク

パジラッチュクはアサリ粥。地元でとれたアサリをむき身にして、米と一緒にゴマ油で炒め、水を加えてじっくり煮込んで作る。具にはアサリのほか、刻んだ野菜やキノコ、緑豆などを加え、店によっては高麗人参や、桑の葉などを加えて作ることもある。アサリの旬は春だが、専門店ではほぼ通年で味わえる。辺山面大項里に専門店が集まっている。

ペカプクイ(ハマグリ焼き/백합구이)

ペカプクイはハマグリ焼き。殻ごとアルミホイルに包んで焼く。ハマグリ料理の専門店ではほかに、ペカプチュク(ハマグリ粥、백합죽)、ペカプタン(ハマグリ鍋、백합탕)、ペカプチム(ハマグリと野菜の蒸し煮、백합찜)といった料理を提供する。ハマグリの標準語はテハプ(대합)であるが、扶安郡においてはペカプ(백합)という呼び名が広く使われている。

チョッカルジョンシク(塩辛定食/젓갈정식)

チョッカルジョンシク

チョッカルジョンシクは塩辛定食。地元で作られた塩辛を小皿にたくさん用意し、ごはん、副菜とともに提供する。塩辛の種類は季節ごとに変わり、例えば右の写真ではスケトウダラの内臓(창난젓)、ヌマエビ(토하젓)、タチウオ(갈치젓)、イシモチ(황석어젓)、牡蠣(굴젓)、ベイカ(꼴뚜기젓)、テナガダコ(낙지젓)、アサリ(바지락젓)、スルメイカ(오징어젓)の各塩辛が並んでいる。塩辛の生産が盛んなコムソ地区に専門店が多い。

オディハンジョンシク(桑韓定食/오디한정식)

オディハンジョンシクは桑韓定食。桑の実や桑の葉を用いた韓定食。扶安は古くから養蚕で栄え、蚕のエサとなる桑栽培でも栄えた。桑の葉と熟成させた焼きサバ、桑の葉キムチ、桑の実入りの釜飯などが並ぶ。

カボジンオグイ(コウイカ焼き/갑오징어구이)

カボジンオグイはコウイカ焼き。コウイカは日本でスミイカとも呼ばれる。コウイカと野菜を甘辛いタレに絡めて鉄板や石板などで炒めて作る。同じく扶安の名物であるヤンパギムチ(タマネギのキムチ、양파김치)と一緒に食べても美味しい。コウイカの旬は5~6月であり、この時期以外は急速冷凍したものが使われる。最後に鉄板でごはんを炒めて食べるのも定番である。

チュクミシャブシャブ(イイダコのしゃぶしゃぶ/쭈꾸미샤브샤브)

チュクミシャブシャブはイイダコのシャブシャブ。生のイイダコを野菜とともにアサリなどの海鮮ダシでさっとゆがき、チョコチュジャン(唐辛子酢味噌、초고추장)などで味わう。墨袋は取らずに一緒に煮込むため、スープは真っ黒になるが、栄養価が高まるとして評価されている。イイダコの旬はメスが卵を持つ3月末~5月である。

代表的な特産品

内陸部では米や野菜の栽培が盛んで、ジャガイモやスイカなどがよくとれる。海岸部では名産のアサリを中心とした貝類のほか、コムソ地区で作られる天日塩や塩辛も有名である。古くから養蚕事業で栄えたため郡内には桑畑が多く、桑の実や桑の葉を料理に使用している。

アサリ

アサリ漁の様子
扶安郡の海岸部は広大な干潟が続いており、良質のアサリを多く産する。アサリは代表的な料理であるパジラッチュク(アサリ粥、바지락죽)のほか、パジラッカルグクス(アサリうどん、바지락칼국수)や、ゆがいたむき身を生野菜と和えたパジラクフェムチム(アサリの刺身和え、바지락회무침)、またそれをビビンバに仕立てたパジラクフェピビムパプ(アサリのビビンバ、바지락회비빔밥)といった料理に用いる。

天日塩

コムソ地区の塩田
開岩竹塩は扶安郡で生産される焼き塩の一種。竹塩の生産はもともと寺の僧たちに民間療法として受け継がれてきた技法とされ、開岩竹塩は1990年代になって開岩寺(ケアムサ、개암사)から民間へと伝えられた。開岩竹塩の製造技術は全羅北道無形文化財第23号に指定されているが、その技能保有者も開岩寺のヒョサン住職である。
  • 開岩竹塩の製造方法
開岩寺のウェブサイトでは開岩竹塩の製造方法を以下のように説明している。
「開岩竹塩は清浄海域である国立公園辺山半島のコムソ塩田で生産されたミネラル豊富な天日塩を3年以上育った竹筒の中に入れ、黄土だんごで栓をした後、松の木の薪だけを燃料として使い、高温で焼き上げることを8度繰り返し、最後の9回目は薪に松脂をばらまいて加熱温度をよりいっそう高めることで塩が溶けて流れる、といった丁寧な過程を経、ていわゆる『紫色の宝物のような塩』が誕生することになる」(原文1)[3]
【原文1】개암죽염은 청정해역인 국립공원 변산반도의 곰소염전에서 생산된 미네랄이 풍부한 천일염을 3년 이상 자란 대나무 통 속에 넣고 황토 경단으로 마개를 한 뒤 소나무 장작만을 연료로 사용하여 고온으로 구워 내기를 8번 반복하고, 마지막 9번째는 소나무에 송진을 뿌려 가열 온도를 더욱 올리게 되면 소금이 녹아 흘러내리게 되는 정성스러운 과정을 거쳐 이른바 "자색보물소금"이 탄생하게 된다.

塩辛

四季の魚介が豊富で製塩事業でも栄えた扶安では両者を利用した塩辛作りが発展した。郡内のコムソ地区には塩辛団地(젓갈단지)と呼ばれる塩辛販売店の密集地域があり、常時20種類前後の塩辛が販売されている。

扶安郡は養蚕業が盛んであり、2006年には韓国で初めての「カイコ特区(누에특구)」が置かれた。堂山(당산)地区には「扶安カイコタウン(부안 우에타운)」というカイコと桑をテーマにした展示、体験施設がある[4]。扶安における桑の栽培面積は400ha(2014年)であり、全国の23%を占めてもっとも広い[5]。こうした背景から桑の実や、桑の葉の利用も発達し、桑料理の専門店ではオディヨンバプ(桑の実入りの蓮の葉ごはん、오디연밥)、ポンニプキムチ(桑の葉と一緒に漬け込んだキムチ、뽕잎김치)、ポンニプコドゥンオ(塩を振って桑の葉とともに熟成させたサバの焼き魚、뽕잎고등어)、ポンピンデトク(桑の実を加えた緑豆のお焼き、뽕빈대떡)といった料理を味わえる。また、後述するようにポンジュと呼ばれる桑の実酒や、桑の実を利用したマッコリも名産のひとつである。

代表的な酒類・飲料

ポンジュ

ポンジュ(뽕주)は桑の実を利用した果実酒。5~6月に収穫した桑の実を熟成させてから用いる。濃厚な甘味が特徴。

扶安郡のマッコリ

ポンジュと同じく桑の実を加えて作るマッコリが有名である。

飲食店情報

以下は韓食ペディアの執筆者である八田靖史が実際に訪れた店を列挙している。

  • 界火会館(개화회관)
住所:全羅北道扶安郡幸安面辺山路95(新基里211-2)
住所:전라북도 부안군 행안면 변산로 95(신기리 211-2)
電話:063-581-0333
料理:ペカプクイ
  • 格浦港フェッチプ(격포항횟집)
住所:全羅北道扶安郡辺山面格浦港キル24-5、2階(格浦里788-12)
住所:전라북도 부안군 변산면 격포항길 24-5, 2층(격포리 788-12)
電話:063-584-8833
料理:チュクミシャブシャブ
  • コムソシィムト(곰소쉼터)
住所:全羅北道扶安郡鎭西面青瓷路1086(鎭西里1219-19)
住所:전라북도 부안군 진서면 청자로 1086(진서리 1219-19)
電話:063-584-8007
料理:チョッカルジョンシク
  • タンサンマル(당산마루)
住所:全羅北道扶安郡扶安邑堂山路71(西外里177)
住所:전라북도 부안군 부안읍 당산로 71(서외리 177)
電話:063-581-1626
料理:オディハンジョンシク、ポンニプコドゥンオ
  • 元祖パジラッチュク(원조바지락죽)
住所:全羅北道扶安郡辺山面ムクチョンキル18(大項里90-12)
住所:전라북도 부안군 변산면 묵정길 18(대항리 90-12)
電話:063-583-9763
料理:パジラッチュク
  • ヘビョンチョン(해변촌)
住所:全羅北道扶安郡辺山面馬浦路27(馬浦里617-1)
住所:전라북도 부안군 변산면 마포로 27(마포리 617-1)
電話:063-581-5740
料理:カボジンオグイ

エピソード

  • 韓食ペディアの執筆者である八田靖史は2009年5月に初めて扶安郡を訪れた。以後、2010年4月、10月の計3度訪問している。
  • 2010年4月には「韓国語ジャーナル第33号」(アルク)の取材で訪れ、「干潟の恵みと四季の魚介、扶安まんぷくガイド」という記事にまとめた。

脚注

  1. 강화군정보 일반현황 、江華郡ウェブサイト、2015年4月4日閲覧
  2. 새만금의 위치 、セマングム開発庁ウェブサイト、2015年1月19日閲覧
  3. 개암죽염 유래 、開岩寺ウェブサイト、2015年1月21日閲覧
  4. 부안 누에타운 、扶安カイコタウンウェブサイト、2015年1月21日閲覧
  5. 부안참뽕, 차별화 전략으로 2014 국가브랜드대상 수상 、アジア経済(2014年4月4日記事)、2015年1月21日閲覧

外部リンク

関連項目