韓国における天日塩の生産は、その7割を新安(シナン)郡が占めています。手元に韓国の地図がある人は新安を探してみてください。全羅南道の海沿い、木浦(モッポ)や務安(ムアン)の西に散らばる島嶼郡をまとめて新安郡としています。有人島が72、無人島が932で、併せて1004の島々。
韓国語で1004は「チョンサ(천사)」と発音するのですが、これが「天使(천사)」と共通することから、一帯は天使の島々と呼ばれています。
そんな天使の島々における代表的なひとつが曽島(チュンド)。
2008年に韓国で初めてのスローシティに指定された地域としても有名です。
その曽島には国内最大の規模を誇る「太平塩田」があり、1953年より自然の恵みを活かした上質の天日塩を生産してきました。見渡す限りの広大な塩田に塩が浮いている……。いえいえ、地元の人たちは「소금이 온다(塩が来る)」と表現するそうですね。
塩が来ている光景はなんとも神秘的なものです。
そんな光景を眺めるのみならず、長靴へと履き替え……。
塩を集める作業を体験するのもまた楽しいものです。
簡単そうに見えてけっこうコツがいるものでした。プロがやるとすーっと塩がまとまるのに、僕らがやるとあちこちに散らばってうまく集まりません。
塩の山ひとつ作るのにも一苦労。
いえ、実際の製塩作業はもっともっと大変で、時間のかかるものですけどね。それでも天日塩がどのようにできていくのか、実際に作業をしてみると一目瞭然です。
併設されたショップではいろいろな塩を買えますが、いちばん高級なのは土板塩(토판염)と呼ばれる伝統方式で作ったもの。採塩作業をする場所は作業効率からタイルやポリ塩化ビニルなどの板を敷くのが一般的ですが、それを敷かずに干潟のままで採塩したものを指します。
干潟のミネラル分をより多く含むものの、生産効率が悪く、作業もたいへんになるので、現在は全国でも年間40トンほどしか作られていないとのこと。天日塩全体の0.1%にもならない、たいへん貴重なものです。
ちなみに現地で買っても、お値段1kgでW1万7500とけっこう高価。
「伝統方式を残すべきとの意見もあるが、正直どれだけ高い値段をつけても割には合わない。現代においては貴族の塩になってしまった」
と生産者の方が語るぐらい特別なものです。
塩田の後ろを振り返ってみると、群生するアッケシソウの姿が。
日本では北海道の厚岸町にちなんで命名されましたが、韓国語ではハムチョ(함초)と呼ばれています。漢字では「咸草」と書いて、塩辛い植物という意味ですね。塩分の多い土地で育つ特性を持っています。これも曽島を象徴するひとつ。
そんな背景から、曽島にはハムチョアイス(アッケシソウのソフトクリーム、함초아이스)なんて名物もあったりします。ほんのり塩味を効かせているのが特徴ですが、島にはほかにもいろいろな種類のソグムアイス(塩アイス、소금아이스)が売られていました。
ちなみにこちらはハムチョを食べさせて育てた鶏と、島の海産物で作ったカルグクス(手打ちうどん、칼국수)。味付けに使っているのも、もちろんこの島でとれた天日塩です。
朝ごはんとしておすすめのメニューですね。
夕食の場所にはこんな船を模したレストランはいかがでしょう。
船体に「Treasure Island」と書かれているのですが、実際にこの付近の海から14世紀に沈んだ船の遺物が発見されており、元の陶磁器など約2万3000点が引き上げられた経緯があります。レストランの2階にはそれを模して造られた陶磁器が展示されているなど、宝船の気分を味わえるというのがウリのお店です。
なお、天気がよければ夕焼けがとてもきれいだとも。
食べられる料理は付近でとれたお刺身がメイン。副菜にも海産物がずらりと並びます。
さて、そんな曽島に来たらぜひ泊まってみたいのがエルドラドリゾート。2006年のオープンですが、環境に配慮して島のいちばん端っこに建てられました。
ヴィラスタイルの宿泊施設に、プールや海水温泉サウナなど設備も整っています。
翌朝は干潟にかけられたムツゴロウ橋を散策したいですね。
干潟をよーく見ると……。
小さなカニやムツゴロウがわらわら動いているのを見ることができます。この生物の多彩な干潟があるからこそ、ミネラルたっぷりの天日塩に仕上がる、というのがよくわかる光景です。こうした美しい自然の中で、のんびりとした時間を過ごせるのが何より曽島の醍醐味ではないかと思います。
というところまで書いて、ずいぶんと曽島を持ちあげましたが、本題としては11月のグルメツアーでこの曽島にも行きますよ、ということですね。この美しい景観を見たい方、韓国の塩づくりに興味がある方、自宅用に美味しい塩が欲しい方には特におすすめです。
ただ、本題からさらに踏み込んで、本音をもうひとつ。
タイトルに「今すぐ行かねばならない」なんてアオリ文句を書いたのは、ツアーがあるからだけではなく、猛スピードで観光地化が進んでいるという部分に真意があります。本来スローシティの概念とは正反対なのですが、今回下見をしてきた限りでは時間の問題と感じました。
2008年にスローシティとなったときは船でしか行けない島でしたが、2010年に曽島大橋がかかったことで車でも行けるように。そこから一気に観光客が増えて、2013年にスローシティの再審査があったときは、いったん再認証を1年間保留され、昨年夏にようやく再登録されたとの経緯があります(このとき長興郡の有治面は取り消されました)。
僕が下見に行ったときも民泊の窓からは元気なカラオケの声が聞こえてきたり。
韓国らしいといえばらしい姿ではありますが、スローシティらしいかというとどうでしょうね。のどかな塩田の島としての曽島を楽しむには、もう1日1日がラストチャンス。いや、もしかしたらもう遅いのかもしれません。
ツアーのある11月はシーズンオフに差し掛かります(塩田の作業も基本は10月末まで、体験のみ11月の第2週目まで)。静かな曽島を楽しむという意味では絶好の時期とも言えますね。もちろん曽島だけでなく、ほかにも魅力的な地域、グルメを取り揃えました。9月11日(金)までは早割特典もありますので、ぜひお急ぎでご検討ください。
八田靖史と行く全羅南道まんぷくツアー4日間
http://www.sanshin-travel.com/tour/detail.php?sid=1682