長らく行きたいと思いつつ、機会のなかった地域のひとつが慶尚南道の河東(ハドン)でした。蟾津江を挟んで全羅南道との境にあり、シジミ(재첩)、アユ(은어)、モクズガニ(동남참게)、イタボガキ(벚굴, 강굴)など川の幸が有名。茶の名産地であり、始培地(初の栽培地、시배지)としても知られます。
朝鮮半島における茶の歴史は諸説あり、慶尚南道の金海や、全羅南道の求礼を始培地とする説もありますが、河東においては828年に唐から持ち帰った茶の種を、双渓寺(쌍계사)の一帯で栽培したのが始まりと考えられています。現地ではいまも茶畑が大切に管理され、希少な「始培地茶(시배지차)」として生産されています。
そんな稀少なお茶を、大韓民国大韓名人の肩書きを持つ方に、河東茶の歴史を解説していただきながら、直接目の前で淹れていただく光栄な機会がありました。名人手ずから9回に渡って釜炒りをするとのこと。緑茶と発酵茶の2種をいただきましたが、どちらも香り高く、甘味がじんわりと広がりました。
お茶をいただいた後は、始培地の茶畑を所有する双渓寺にお参り。大雄殿(本殿)は宝物第500号に指定されています。本来は大雄殿の前に、国宝第47号の真鑑禅師塔碑(진감선사탑비)が立っているのですが、現在は補修工事中で見られず。それでも国宝1点のほか、宝物13点を数える見どころの多いお寺です。
河東での食事は、まずなんといっても蟾津江でとれたチェチョプクッ(シジミスープ/재첩국)。白濁したスープの中に、たっぷりのシジミの身と刻んだニラが入っていて、いかにも滋養あふれる味わいです。この地域のヘジャンクッ(酔い覚ましのスープ/해장국)でもあるので、飲んだ翌朝の食事にぴったりです。
双渓寺の参道では、サチャルグクス(直訳は寺の麺/사찰국수)という料理に出合いました。シイタケのダシに、たっぷりのエゴマ粉とそばを入れた温かい麺料理。
寺の用語で麺料理は「僧笑(승소)」と呼ばれるほど好まれる料理。サイドメニューのピョゴジョン(シイタケのチヂミ/표고전)も青唐辛子が効いて美味でした。
こちらも河東の名産である松葉韓牛(솔잎한우)。希少部位の盛り合わせは、その日ごとによいところだけを盛り合わせます。この日はリブキャップ(새우살)、肩バラ(업진살)、三角バラ(치마살)、リブロース(꽃등심)。今回やたら牛肉料理が多いのは、昨年11月に済州島で豚肉をどっさり食べた反動かもしれません。選択肢には松葉豚(솔잎돼지)もあったのですが。
見どころとしては花開市場(화개장터)も有名。蟾津江の行商船が遡上できるもっとも上流域にあり、かつては全羅道と慶尚道の両地域から大勢の人が集まって内陸のものと海のものを交換したそうです。現在も韓方材が集まるほか、スットク(ヨモギ餅/쑥떡)、ススブクミ(タカキビ餅/수수부꾸미)などを販売しています。
ツアーでは酒造の見学も定番のコースですが、河東にも曽祖父の時代から続く老舗がありました。甘さは控えめで喉越しのよい通常のマッコリと、うるち米にもち米を加えて造るプレミアムマッコリの2種を製造。これを買い込んで宿での2次会もよいのでは、と下見が盛り上がったのは言うまでもありません。
というのも河東は夜が早く、昼間は賑やかな花開市場の一帯も19時になると閉める店がほとんど。トンダク(丸鶏揚げ/통닭)を肴に20時まで飲んでいた僕らは、帰りのタクシーがなくて苦労しました。ツアーに欠かせない2次会をどうするかは、地方に行くほど悩ましいところですが、宿飲みもまたオツなものです。
以上が、河東での下見報告。慶尚南道はあちこち見どころの多い地域ですが、今回はひとつの地域をしっかり見ることを念頭に、ほぼ3地域のみで行程を組みました。次なる地域が最終報告。引き続き、ご注目ください。
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