コリアうめーや!!第279号
<ごあいさつ>
10月15日になりました。
長く続いた残暑もようやく少し和らいで、
秋の気配が、色濃くなってきました。
とはいえ、もう10月も半ばなので、
秋本番どころか、すぐ冬支度でしょうけどね。
木枯らしに凍える日々が、もう目前に来ています。
そんな中、相も変わらず夏の出張話を、
実に4号連続で、書いてみたいと思います。
さすがにしつこいかなとも思ったのですが、
書きたいネタを、残しておくのもなんなので。
今号も広い心で、お付き合い頂きたいと思います。
コリアうめーや!!第279号。
季節に戦いを挑む、スタートです。
<東海岸で美食に出会うための大原則!!>
昨年末、やはり江原道に出かけた。
そのときの主たる目的はハタハタだった。
冬の東海岸はハタハタが旬を迎えるシーズンで、
卵を抱えたメスにかぶりつくはずだった。
港町の注文津(チュムンジン)まで足を運び、
市場の刺身専門店に入ったところまではよかった。
だが、期待むなしく、夢破れたのは、
メルマガの第261号に書いた通りである。
第261号/語源と逸話を楽しむ冬の旬魚!!
http://koriume.blog43.fc2.com/blog-entry-1349.html
その要旨をかいつまんで説明すると……。
「冬の東海岸でハタハタ食べるぞ~!」
「卵を持っているメスにかぶりつくぞ~!」
「すいません、ハタハタのチゲをください!」
「1尾目! はオスか……」
「2尾目! もオスだな……」
「3尾目! も、おんやぁオスだ!?」
「おばちゃん、ちょっとメスがいないんだけど!」
「あー、例年ならメスを入れるんだけどね」
「今年はなんだか旬が早かったのよ」
「いまはもう卵が固くなっちゃったからオスだけ」
「メスも一応あるけど卵は固いよ」
「がーん」
といった感じになる。
せっかく入念な下調べをして行ったのに、
今年はちょっと早かった、という理由でおしまい。
自然には逆らえないし、旬にも逆らえない。
いつかのリベンジを近いつつ、
「旬って難しいなぁ……」
としみじみ思った。
僕のように食メインの旅をしていると、
ときおりこの旬という難問にぶち当たる。
あの地域の、この料理を食べたいと思っても、
旬を外してしまうと、その願いは適わない。
かといって、旬に合わせて日程を組むのは難しい。
例えば、韓国から電話がかかってきて、
「メスのハタハタが入ったよ!」
「じゃあ、これからチケットとって行きます!」
という訳にはさすがにいかない。
新大久保にホイホイ出かけるならいざ知れず、
注文津まで行こうと思ったら……。
・自宅→(地下鉄など)→羽田空港
・羽田空港→(国際線)→金浦空港
・金浦空港→(空港鉄道)→弘大入口駅
・弘大入口駅→(地下鉄2号線)→江辺駅
・江辺駅→(高速バス)→江陵高速バスターミナル
・江陵高速バスターミナル→(市外バス)→注文津
というルートを刻まねばならない。
あるいは、もっと効率的なルートがあるかもしれないが、
それを調べるのも面倒なほど、注文津は遠い。
自家用ヘリで直行できるようなセレブでもない限り、
一介の旅行客が、旬に合わせるのは至難の業だ。
まあ、旬が3ヶ月ぐらいある食材なら別だけどね。
ただ、その一方で最近の韓国を見ると、
旬を超越するぐらいに「急速冷凍」が普及している。
韓国ではどうしても専門店のほうが好まれるため、
旬の限られる料理店は、冷凍に頼らざるを得ないのだ。
もちろんそれは善し悪し両面あるのだろうが、
取材を意識する立場としては、ありがたいことが多い。
例えば、今回の江原道でもこんなものを食べた。
東海岸の最北に位置する高城(コソン)の名物料理。
特産品のスケトウダラを澄まし仕立ての鍋にしたもので、
いったんこれを、ミョンテチリククと総称で紹介する。
料理名を分解すると、まず先頭のミョンテが、
漢字で「明太」と書いて、スケトウダラのこと。
日本で辛く味付けしたスケトウダラの卵を、
辛子明太子と呼ぶのは、この明太から来ている。
チリというのは、日本語の「ちり鍋」から来た言葉で、
韓国式の辛い鍋に対し、澄まし仕立てを意味する。
ククは汁物の総称で、この場合は鍋料理のこと。
スケトウダラの澄まし仕立て鍋!
というのが、一応の妥当な訳だろう。
そして、この料理におけるいちばんのポイントが、
日本語由来である「チリ」という部分にある。
スケトウダラの鍋は全国的にどこでも食べられるが、
たいていは粉唐辛子をたっぷり入れて激辛に仕上げる。
もちろんこれはこれでたいへん美味しい料理だが、
その一方で、鮮度をごまかせるメリットもある。
高城はスケトウダラの産地なので鮮度は抜群。
唐辛子を入れて、臭み消しなどを考える必要がないので、
シンプルに塩で味付け、刻んだ青唐辛子を少々。
「どうだい、新鮮なスケトウダラだろう!」
と胸を張るのがミョンテチリクク最大の魅力なのだ。
だが、ここでひとつ大きな問題が生じてくる。
スケトウダラが旬を迎えるのは寒い冬のシーズン。
11月から3月にかけてを漁期とする魚なので、
僕の行った真夏は、旬と正反対の時期になる。
すると、出てくるのはやはり冷凍。
スケトウダラはその状態によって呼び名がかわり、
冷凍物はミョンテ(明太)ではなくトンテ(凍太)と呼ぶ。
逆に生だと、センテ(生太)という名前になる。
先ほど、
「いったんこれを、~総称で紹介する」
と書いたが、この回りくどい表現は、
スケトウダラの状態によって名前が変わるため。
冷凍の場合はトンテチリクク、生だとセンテチリクク。
季節によって、料理名を呼び分けているのだ。
当然、尊ぶべきは冬のセンテチリククだが、
夏場に行ったのでは、当然トンテチリククしかない。
なので、旬を外しているのは百以上も承知。
過度な期待はしないようにして食べに行ったが、
その結果、
「こ、これはえらく旨いな……」
とびっくりする羽目になった。
たぶん、よほど鮮度のいい状態で冷凍したのだろう。
身に臭みは微塵もなく、風味だけが後引くように伸びる。
スープをすすると、溶け出た旨味がガツンと来て、
濃いめの塩気を、青唐辛子がさらに荒々しくまとめる。
具はぶつ切りにしたスケトウダラのほかに、
豆腐、長ネギ、タマネギ、豆モヤシとシンプルな面々。
まさに港町ならではの、漁師料理という感じだが、
見た目にも透き通ったスープが、実にクリアな印象であった。
冷凍でこの旨さ。
「これが旬のど真ん中なら、さらに旨くなるのか……」
あまりの驚きに呆然とするしかなかった。
いつかまた最盛期の味を確かめに行かねばだが、
それとは別に、東海岸の旬を体験する機会があった。
スケトウダラの感動を、まったく別の角度から、
より魅力的なものとして、補完できないか試してみたい。
トンテチリククを食べ終えた後、港の散策に出ると、
地元の人たちが、集まって何やら熱心に作業をしている。
近寄ってみると、なんとウニの殻剥き作業だった。
そう、真夏の高城はまさにウニの最盛期。
トンテチリククで満腹になった直後だったが、
それを見た瞬間、
「そうか、これだ!」
と頭上で電球がペカッと光った。
僕はそのまますぐ近くの刺身専門店に足を踏み入れ、
2度目の昼食として、季節限定のソンゲドッパプを注文。
すなわち、韓国式のウニ丼(ウニビビンバ)である。
産地で、しかも旬のど真ん中にもかかわらず、
「時価」
と書かれていたが、そこは覚悟。
出てきたものを見ると、日本のウニ丼とは違い、
刻んだ生野菜の上に、たっぷりのウニが載っていた。
そこにごはんをぶちこみ、コチュジャンソースをかけ、
わさわさかき混ぜて食べるのが正しい作法である。
すべてを韓国的に味わうのがもったいなかったので、
全体をかき混ぜる前に、少しだけ醤油でも味わってみる。
それはもう見事の一言であり、
「あはははははは!」
と無意味に笑ってしまうぐらいだった。
もちろん、韓国式の食べ方でもやっぱり至福。
サラダ感覚のウニ丼は、最初もったいないと思えたが、
食べてみると、爽快な仕上がりで意外によかった。
心配していた時価も、1万5000ウォンで収まった。
そこで思ったこと。
観光客の立場で、旬のど真ん中を目指すのは難しいが、
港町であれば、何か必ずシーズンのものがある。
なにかを目指して、旬にやきもきするのであれば、
むしろノープランで、出会い物に期待するのも悪くない。
「旬はちょっと過ぎたねぇ」
「がーん!」
よりも、
「いまはこれが旬」
「じゃあ、それをください!」
のほうが、美味しいものに当たる確率は高くなる。
気付いてみれば、ごくごく当たり前のことだが、
あまりに下調べが過ぎると、それが見えなくなるもの。
自分自身の姿勢を、おおいに反省した瞬間だった。
冷凍のスケトウダラと、旬のウニ。
どちらも美味しかったが、それを踏まえて余りある、
地方を旅するための、いい教訓をもらった。
<店舗情報>
店名:チェビホ食堂
住所:江原道高城郡巨津邑巨津里287-251
電話:033-682-1970
店名:チャメフェッチプ
住所:江原道高城郡巨津邑巨津里25-4
電話:033-682-7533
<お知らせ>
スケトウダラのシーズンにぴったり合わせつつ、
江原道ツアーを11月3~6日の日程で企画しています。
郷土料理ばかりを食べ尽くすグルメ至上の3泊4日。
出発が近づいて、もうそろそろ締切です!
八田靖史と行くコリアうめーや!江原道・まんぷくツアー4日間
http://www.sanshin-travel.com/original/010/entry/000754.html
<リンク>
ブログ「韓食日記」
http://koriume.blog43.fc2.com/
Twitter
http://twitter.com/kansyoku_nikki
FACE BOOK
http://www.facebook.com/kansyokunikki
<八田氏の独り言>
ウニの旬は7~8月だけの短い間。
こちらも狙って行くとなると大変です。
コリアうめーや!!第279号
2012年10月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com
メールマガジン購読・解除用ページ
http://www.melonpan.net/melonpa/mag-detail.php?mag_id=000669