コリアうめーや!!第261号

コリアうめーや!!第261号

<ごあいさつ>
1月15日になりました。
すっかり正月気分は霧散しておりますが、
韓国では旧正月が来週に近づいております。
今年の旧正月は1月23日の月曜日。
その前後が韓国では正月連休となって、
家族、親戚が集ってご先祖様にお参りをします。
日本と同様にトッククというお雑煮を作り、
また、ご先祖様に捧げた祭祀料理も味わいます。
すでに新暦で正月を過ごした身としては、
2度目の喜びといった感じでワクワクしますね。
さて、そんな中、今号のテーマですが、
先日の訪韓時に拾ってきたネタからご紹介。
韓国の東海岸でとれる冬の魚を取り上げます。
日本では東北地方でよく知られたあの魚。
韓国ではどのように食されているのか。
コリアうめーや!!第261号。
なぜか自己紹介から、スタートです。

<語源と逸話を楽しむ冬の旬魚!!>

突然だが、僕の名字は八田である。
いまさら何だというような話ではあるが、
これがなかなかに悩ましい名字なのだ。

僕と付き合いのある人は「ハッタ」と読めるが、
初対面で「ハッタ」と読めない人は多い。

「ハチダさんですか?」
「ヤダさんですか?」
「ヤツダさんですか?」

などと読んでしまう人がほとんど。

最近は子どもにつける読めない名前のことを、
DQNネームと揶揄するが、その例でいけば僕はDQN名字。
むしろ、開き直ってキラキラ名字を名乗ろうかとも思う。

ただ、その逆もあって、

「ハッタって読まれないんですよねぇ」

と軽く愚痴ると反論を受けることもある。
確かに希少な名字のほうに分類されるだろうが、
芸能人や有名人にもいないことはない。

今なら東大生芸能人の八田亜矢子さんがいるし、
ひと昔前なら女優のジャネット八田さんもいる。
読める人なら普通に読める、中途半端な希少名字で、
そのあたりが微妙にもどかしくもある。

だが、韓国に行くとこれまた事情が違う。

漢字が読みにくいのはまあ仕方ないにせよ、
読み方を教えても、正しく読まれないことが多い。
付き合いの深い友人であっても僕のことを、

「ハタ」

だと思っている人はけっこういる。

メールの宛名に「ハタ君!」と書かれるのは日常。
語感が面白いのか「ハタハタハタハタ!」と連呼する人もおり、
もう面倒くさいので、あえて訂正しないこともある。

そんな理由から、僕は魚の「ハタハタ」に親近感がある。

昨年末の訪韓時、2泊3日で江原道を訪れた。

それぞれの町で目指した料理はいろいろだったが、
そのひとつが冬に旬を迎えるハタハタであった。
韓国語ではトルムクと呼ばれる魚である。

トルムクという名前にはちょっとした逸話があり、
まずはその話を前提として語らねばならない。

地方の名産品にありがちなエピソードだが、
このトルムクも、朝鮮時代に王様が食べたと伝わる。
戦乱の時期に、王様が咸鏡道へ避難した際、
地元の住民らが、とれたハタハタを王様に捧げたらしい。

普段、宮中で食べたことのない味わいに、
王様は大喜びして魚の名前を尋ねた。

「この魚はムクと呼ばれております」
「なに、平凡だな。もっといい名前があるだろう」
「すると、いかように呼びましょう」
「腹が銀色だから、銀魚(ウノ)と呼ぶがよい」

ハタハタは銀魚と呼ばれるようになった。

やがて戦乱は落ち着き、王様は宮中に帰った。
すると妙に咸鏡道で食べたハタハタが思い出されてならない。
臣下に命じて、ハタハタをわざわざ取り寄せた。

「ハタハタでございます!」
「おお、待ち望んだぞ!」

だが、食べてみるとあまり美味しくない。

戦乱の時期に空腹状態で食べたのがよかったか、
そもそも産地で食べたため鮮度が違ったのか。
その理由は定かではないが、ともかくも王様は、

「こんなもの銀魚と呼ぶにはふさわしくない」
「トロ(もとの)ムクと呼べ!」

ということで激怒の中、再度の改称を命ずる。
それが「トロムク(もとのムク)」という状態で伝わり、
さらになまって「トルムク」になったという。

名前の由来としては面白すぎるほどの話だが、
調べてみると、この王様というのがはっきりしない。

主に、第14代王の宣祖が「壬辰倭乱」の時にと語られるが、
その頃、宣祖が咸鏡道に避難した記録はないらしい。
話によっては、第16代王の仁祖が「丙子胡乱」時にとなり、
また別の話では高麗時代の王が、ということもある。

面白いエピソードではあるものの、
後世の作り話と理解するほうがよさそうだ。
ちなみに現在の韓国で「銀魚」はアユを表す。

さて、僕が出かけたのは注文津(チュムンジン)である。

ほかにも目指した料理があったことと、
ソウルに直行バスで帰れるアクセスのよさが理由。

正直、ハタハタは東海岸のどこでもとれるので、
注文津でなければならないということはない。
束草でも、東海でも、三陟でもハタハタは味わえる。

逸話を聞いてしまうと咸鏡道を目指したくなるが、
現在は北朝鮮に属するため、そう簡単には行けない。

「いつの日か咸鏡道でハタハタを!」

そう思いながら注文津に向かっていると、
まさにその途中で、臨時ニュースが伝わってきた。

「金正日総書記死去!」

僕が咸鏡道でハタハタを食べる日は、
果たして近づいたのか、遠ざかったのか。
よくわからないまま注文津に着いた。

到着してみると、注文津には水産市場がドンと構え、
飲食店も多く、グルメ派にはぴったりの町だった。
市場近くの飲食店に入って、掲げられたメニューを見る。

そこにはハタハタ以外に、マダラ、スケトウダラ、
カジカ、クサウオ、ホテイウオといった名前が見えた。
なんとも東海岸らしいラインナップである。

ハタハタは焼き魚とチゲ、煮物の3種があり、
悩んだ結果、チゲを1人前だけ注文した。
本来は2人前からの注文しか受けていないそうだが、
ひとり客ということでなんとか受けてもらった。

ほどなくやってきたのは大きな鍋。
後で数えたところ、7尾が丸ごと入っていた。
カセットコンロで煮ながらこれをつつく。

ほろっと身離れのよい白身で味わいは上品。
それでも辛いスープに負けない独特の旨味もあり、
また、それがスープにも染み出ている。

「いいじゃないか、韓国のハタハタ!」

にんまりと笑いながらも、真の目当てはまた別にある。
旬のハタハタは、ブリコと呼ばれる卵も味わわねばならない。
ブリッ、ブリッと食感がよいからブリコである。

だが、ここからが大問題であった。

「1尾目! はオスか……」
「2尾目! もオスだな……」
「3尾目! も、おんやぁオスだ!?」

旬のハタハタ、オスが混じっているのはかまわないが、
メスが出てこないのでは楽しみも半減してしまう。

「メス、メスはどこだ!」

激高と困惑が入り混じりつつ食べ進むと、
あろうことか、なんと7尾すべてがオスであった。
ブリコにはまったく出会えなかったのである。

「産地でこんなバカなことがあるか!」

店の人に確認をすると、
なんとも無残な返事が飛んできた。

「あー、例年ならメスを入れるんだけどね」
「今年はなんだか旬が早かったのよ」
「いまはもう卵が固くなっちゃったからオスだけ」
「メスも一応あるけど卵は固いよ」

それでもと、すがるようにメスを煮てもらうと、
案の定、卵は噛むのもしんどいぐらいにガチガチ。
一部、美味しく食べられる部分もあったが、
やはり旬を逃した感は否めなかった。

そういえば韓国のハタハタには慣用句がある。

「マルチャン トルムク(すべてハタハタ)」

これは先に紹介したハタハタの語源である、
名前がもとに戻ったという逸話から派生したもの。

すべてがハタハタになる、すべてがもとに戻る、
すべてが台無し、要はオジャンになったということだ。
ならば、注文津まで行って旬を逃した僕は……。

「マルチャン 八田八田」であろう。

<リンク>
ブログ「韓食日記」
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<八田氏の独り言>
一緒に出たカズノコの和え物も美味でした。
辛い味付けで、海苔に巻いて食べます。

コリアうめーや!!第261号
2012年1月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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