コリアうめーや!!第256号
<ごあいさつ>
11月になりました。
カレンダーを見ると2011年11月1日で、
数字の「1」が5つも並んでいます。
となると来週に控える11月11日は、
「1」が6つも並ぶことになるんですね。
ちなみに韓国では11月11日をペペロデーと呼び、
ポッキーに似たペペロというお菓子を贈り合う日。
もともとは90年代に釜山の女子高生らが、
「ペペロのようにスマートになろう!」
と友人らで贈り合ったのが始まりだそうです。
「1」が6つ重なる2011年のペペロデーは、
より効力があってスマートになれるのかも。
なんて、間抜けな妄想をついついしてしまいました。
さて、話は変わって今号のテーマですが、
逸話のあるブランド食材を取り上げたいと思います。
地元が熱意を込めて復活を願うプロジェクト。
コリアうめーや!!第256号。
熱く血潮のたぎる、スタートです。
<済州島が誇る伝統のブランド牛!!>
今号のテーマはフグである。
初めてフグを食べたのはいつだったのだろう。
僕は東京生まれの東京育ちなので、
フグはまったく身近な食材ではない。
「今日の夕飯はフグちりよ~!」
という幸せなことはなかったし、
むしろ似たシチュエーションであれば、
「今日の夕飯はタラちりよ~!」
というのが定番であった。
あるいは冬場の鍋料理となると、
「今日の夕飯はおでんよ~!」
「今日の夕飯はちゃんこ鍋よ~!」
「今日の夕飯は鶏鍋よ~!」
といった感じがほぼすべて。
別段それに不満があった訳ではないが、
鍋料理の季節にもフグとは縁遠い暮らしだった。
これが下関出身とかであれば話も違うのだろうが、
僕にとってフグは相当に遠い存在である。
大人になった今もそれは同じことで、
フグを肴に飲む、なんてことはまずない。
「さ、八田先生。フグ刺しをどうぞ!」
「ほほう、これは大皿の絵柄が透けて見えて」
「重文級の古九谷でございます!」
という接待でもあればよいが、
相当未来まで見据えても期待薄である。
むしろ韓国のフグ料理専門店で自腹を切るほうが、
可能性としてはあるのかもしれない。
韓国でも日本と同様にフグは高級魚で、
専門店に行くと、予算に応じてフグを選べる。
フグの王様とされるトラフグは別格の値段だが、
シマフグ、シロサバフグ、ヒガンフグあたりはそれなりにお手頃。
これらは専門店でも刺身や鍋料理に利用するほか、
1品料理のスープで安く提供することも多い。
フグを具としたスープのことをポッククと呼ぶが、
だいたい1人前6~8000ウォンで味わえる。
フグのあっさりと上品な旨味とともに、
たっぷり入れたセリの香りが食欲をそそる一品。
釜山をはじめとした南部地域では朝食として人気があり、
早朝から営業したり、24時間営業のフグ店も多い。
飲んだ翌日に食べてもしみじみと美味しい。
と、ひと通り、フグを語ってはたと気付く。
「あれ、フグ!?」
うっかり魚のフグについて語ってしまったが、
今号のテーマはフグといってもフグ違い。
日本語ではなく、韓国語の「フグ」なのだ。
日本語と韓国語では時折りこういった誤解があり、
例えば、「コグマ」という単語は韓国語でサツマイモを意味する。
発音だけ聞くと「子熊」とまったく同じなので、
「コグマピザ」
「コグマケーキ」
「コグマラテ」
という単語に悩んでしまったりする。
そして、この場合のフグも同様で、
日本語の「河豚」ではなく、韓国語の「黒牛(フグ)」。
済州島で生産されるブランド牛を、
「黒牛(フグ)」
と称するのである。
あるいは「黒牛」でなく「黒韓牛」と書いて、
これを「フッカヌ」と呼んでもかまわない。
ただ、現地の人の話を聞いていると、
黒牛は「フグ」と呼ぶのが一般的である様子。
これから済州島に行く予定のある人は、
「黒牛(フグ)」
という単語を頭に叩き込んでみて欲しい。
さて、その黒牛。
おそらく韓国にそこそこ詳しい人であっても、
実際に食べた経験のある人は相当少ないだろうと思われる。
先ほど済州島のブランド牛だと書いたが、
済州島を何度か訪れていたとしても、
「なにそれ?」
という人のほうが多いはずだ。
そもそも済州島で「黒」といえば黒豚。
こちらは有名なので、ほぼすべての済州島好きが、
「済州島の黒豚は美味しいよね~!」
「皮付きの分厚いバラ肉をこんがり焼いて~!」
「脂がもう、滴るほどにジューシーで~!」
「皮の部分もクニクニとした食感がいい感じで~!」
と盛り上がれることだろう。
豊富な海産物とともに島を代表する食材だ。
だが、それでも話は黒牛なのである。
済州島の黒豚はもちろん美味しいけれども、
済州島の黒牛も美味しいというのが今号のテーマ。
ではその黒牛とはどんな牛なのか。
済州島の黒牛はもともと韓牛の一種であり、
時期は定かでないものの、古くから飼育されていた。
ただ、かつては一般的な韓牛と区別がなされておらず、
体躯が小さく、飼育に時間がかかる個体との認識であった。
産業的な理由もあって、1970~80年代に頭数が激減し、
貴重な固有種と気付いたときには絶滅間近。
「これってまずいんじゃないの!?」
と気付いた済州島の畜産関係者や大学などが協力し、
保護と育成に取りかかったのが90年代前半であった。
そこから血統のよい10頭ほどを集めて繁殖を始め、
ようやく今年に入って1000頭ほどまで増えたという。
限定的ながらも食肉としての流通にもこぎつけ、
「済州島の黒牛が復活!」
とアピールするに至ったのである。
また、その黒牛は種として貴重なだけでなく、
食肉としても優秀であることが確認されている。
済州島を代表する新たなブランド牛として期待が高く、
飼育の増加とともに、PRにも力を入れているのだ。
その一例が、畜産協同組合による焼肉店運営。
主産地の西帰浦市で2010年8月に、
堂々オープンしたのが、
「西帰浦市畜協黒牛名品館」
である。
関係者によれば生産と流通だけでなく、
地元での消費拡大と、地域密着を目指したとのこと。
名品館では貴重な黒牛を実際に味わえるほか、
精肉店として小売にも対応している。
ごく一部の百貨店における期間限定商品を除き、
黒牛を食べたり、購入できるのはここだけである。
そんな貴重な済州島名物である黒牛を、
取材ということで、今年4月に味わってきた。
初めての河豚体験ならぬ黒牛体験である。
目の前に運ばれてきたのは、
・サルチサル(リブロース/4万5000ウォン)
・トゥンシム(ロース/4万2000ウォン)
・アンチャンサル(ハラミ/4万5000ウォン)
という3種類の部位盛り合わせ。
一応、値段も横に書き添えておいたが、
1人前170グラムあたりの値段である。
これが2人前ずつ皿に盛られて出てきたので、
それだけでも、合計26万4000ウォンのセット。
今のレートでも、軽く2万円近くにはなる。
「これで2万円か……」
とおそるおそる箸を伸ばしたが、
その直後、
「旨っ!」
と大騒ぎしてあっという間に完食となった。
このときのメモが残っているのだが、
おそらく本当に興奮しながら書いたのだろう。
・肉汁がほとばしり、かつしつこさがない
・塩だけで食べても甘味や風味、いろいろな味がする
・トゥンシムは脂の乗った赤身質の肉という印象
・いい肉なので、塩すらなくてもうまい
・サルチサルはトゥンシムよりも柔らかく脂が多い
・ハラミは舌にふんわり当たる滑らかな柔らかさ
とずいぶんな絶賛である。
いや、実際に記憶を振り返っても美味しかった。
塩すらなくても、とメモに書いているが、
肉自体の旨味が濃く、それが脂だけに頼っていない。
脂の味ではなく、肉として味が濃いのである。
いままで韓国で食べた焼肉の中で、
「これがいちばん!」
と迷わず断言できる味であった。
まだまだ食べられる場所も少ないうえに、
価格面でもずいぶんとハードルが高い。
気軽に「ぜひ!」とはいいにくいものの、
その希少性にひかれる人は試してみて欲しい。
肉質そのものの魅力に加え、黒牛復活にかける、
地元の熱い思いもスパイスになることだろう。
いずれ生産が順調に進めば提供店も増え、
それにつれて値段もこなれていくはず。
やがて黒豚に匹敵する名物として、
成長する姿も、そう遠い未来ではないかもしれない。
済州島が誇るブランドの黒牛。
「フグ」の名を覚えて頂きたい。
<店舗情報>
店名:西帰浦市畜協黒韓牛名品館
住所:済州道西帰浦市吐坪洞262-1
電話:064-732-1488
<リンク>
ブログ「韓食日記」
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<八田氏の独り言>
一応、音のアクセントは「フグ↑」。
「錫」ではなく「鈴」で発音してください。
コリアうめーや!!第256号
2011年11月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com