コリアうめーや!!第247号

コリアうめーや!!第247号

<ごあいさつ>
6月15日になりました。
湿気が高く、蒸し暑い日が続きます。
先週は取材でソウルにいたのですが、
あちらは梅雨前にもかかわらず夏日でした。
半袖1枚でも汗がしたたるような陽気。
初夏も梅雨も飛び越えて盛夏という印象で、
ちょっとだけ夏を先取りした気分です。
そんなソウルの話もしたいところですが、
まずは5月に出かけた地方話を頑張ります。
前号では大田の料理を語りましたが、
今号では少し南に下って大邱がテーマ。
韓国第3の都市として知られるとともに、
ミスコリアを多く生んだ美人の里としても有名です。
その地にはいったいどんな食模様があるのか。
短い時間ながら、しっかり探索してきました。
コリアうめーや!!第247号。
タクシーの中から、スタートです。

<大邱はB級グルメを売りにすべし!!>

前号で大田の話を書いた。
地元の人たちが、

「いや、ほんっとにないんですよ!」

と語る郷土の味覚が、実はあった。

世間的に広く認知されていないだけで、
地元で愛される個性的な料理は大田にもある。
それを確認できたのは大きな収穫だった。

では、大邱はどうだろうか。

これについてはひとつ印象的な体験があった。
今回大邱を訪れて、地元の人とのファーストコンタクト。
それはタクシーの運転手さんとの会話であった。

ソウルからKTXに乗って1時間40分。

東大邱駅に到着した僕は大きな荷物を抱えたまま、
タクシーに乗って、ある飲食店の名前を告げた。
時間が限られていたので、まず1食行こうとの作戦である。
それが運転手氏の好奇心を刺激したのだろう。

「お客さん、どこから来たの?」
「大邱へは旅行? 仕事?」
「その店はどうやって知ったの?」

などなど。

タクシーで質問責めにあうことは珍しくないし、
韓国ではプライベートな質問もどんどん飛んでくる。
年齢から家族構成、仕事や当座の悩みについてなど、
初対面の人に、あれこれ語るのはすっかり慣れている。

逆に僕のほうからもいろいろ尋ねることが多く、
地方を訪ねての情報収集でタクシーは非常に有効。
このときも、運転手氏の質問をかいくぐりつつ、
僕からも大邱の情報を拾うべく問いかけた。

するとである。

運転手氏から返ってきたのは、
僕の予想をも大きく覆すものであった。

「大邱に料理なんてものはないよ!」

大田の人たちがいう、

「いや、ほんっとにないんですよ!」

よりも一段階上の強烈さである。

郷土料理や個性的なB級グルメはおろか、
運転手氏は料理そのものの存在を否定するのである。
驚きとともに、その真意を問うてみると、

「大邱の料理は料理じゃないよ!」
「いやね、そりゃタロクッパプとかはあるよ」
「他地域に知られる料理がない訳じゃない」

「でも、大邱の料理なんか辛いだけでさ」
「塩気も強いし、到底料理とはいえないだろう」
「大邱に料理なんてものはないんだよ!」

話を聞く限り、もともと大邱の生まれではない様子。
そのせいか、大邱の料理を好ましく思っていないようで、
その理由として特に、味付けの濃さをあげていた。

もともと大邱をはじめとした慶尚道地域は、
味付けが濃く、唐辛子も多用することで知られる。
同様にニンニクも多く使うため、刺激的な料理が多く、
素材よりも味付けを食べているとも評される。

「なるほど……」

氏のいうことはもっともなことであるが、
地元ならではの食を探しにきた立場としては複雑。
どうしたものか、と思っていたら……。

「でも、キミのいうヤキウドンはいいね」

と、突然プラスの評価が出てきて驚いた。

「あと、ちょっと離れたところになるんだけど」
「チャンポンのうまい店ってのがあるよ」
「人気店だから並ばないと食べられないけどね」

「それと、キムチチムの行列店もあるし」
「食べに行くなら、そういうものがいいんじゃない?」
「ヤキウドンも確かに美味しいけど」

どうやら大邱の料理を全否定する訳ではなく、
基本的には大邱の暮らしを気に入っているらしい。
地元を愛するがゆえに、短所を強く否定してしまうのは、
どこの世界でも往々にしてあることである。

しかも、氏が評価をした料理の数々も、
みな氏が否定する、辛く、塩辛い料理である。

「なんだ、やっぱり大邱が好きなんじゃん」

氏のツンデレ的な内面を見た気がして、
ちょっと微笑ましい気分で目的地に着いた。

到着したのは大邱でいちばんの繁華街。

大邱駅前から伸びる東城路と呼ばれるエリアに、
たくさんの店が集まって賑わいを見せている。
その一角、細い路地の中にあるのが最初の目的地。

大邱のB級グルメ、ヤキウドンを名物とする、
中華料理店「中和飯店」が店を構えている。

僕が到着したのは日曜日の午後4時だったが、
店の中は、カップルやファミリーでぎっしり満員。
いかに地元で愛されているかがよくわかる、
賑やかで、笑い声の響く店内であった。

「ヤキウドンをひとつ」

店員に注文した後、まわりを確認すると、
客の大半がヤキウドンを食べているようであった。
さすが辛口の運転手氏も褒める味である。

さて、ここで少し説明をしておこう。

大邱名物のヤキウドンとはいったい何か。
そもそも日本の焼きうどんとは関係があるのか。
調べてみたところ、以下のようなことがわかった。

大邱でヤキウドンが誕生したのは1970年代。

1968年に店を開いた「中和飯店」の先代が、
友人と飲んでいた際、大邱式の麺を作ろうという話になった。
大邱の味といえば、唐辛子とニンニクを効かせた刺激味。

インスピレーションに従って厨房に向かったところ、
野菜や魚介を、麺とともに辛く炒めた料理ができあがった。

もともと韓国の中国料理店にはチャンポンがあり、
日本とは違って、激辛の赤いスープで仕上げるのが流儀。
それをベースにしつつ、炒め物に仕上げた料理だった。

それを「ヤキウドン」と称したのは謎であるが、
そもそも韓国の中国料理店には日本語が多く残っている。

韓国語で餃子のことはマンドゥと呼ぶが、
焼き餃子を「ヤキマンドゥ」と称することはままある。
また、チャンポンなどとは別にウドンという料理があり、
これは辛くない白湯ベースの麺料理を表す。

「ヤキ」の手法で作った「ウドン」と考えれば、
これは日本語というよりも、韓国式中国料理店での造語。
背景を考えるに、そんな命名だったと推測される。

ともかくも、そのヤキウドンは好評を博し、
やがて店にメニューにも登場してさらなる人気を獲得。
いまや大邱市民に愛されるB級グルメに成長し、
他の中国料理店でも、普通にヤキウドンがメニューに並ぶ。

そのヤキウドンが目の前に運ばれてきた。

けっこうな大皿で、見るからにボリュームたっぷり。
1人前7000ウォンというやや高めの価格だが、
それを納得させるだけの第一印象であった。

目に飛び込んでくる具をまず確認すると、
エビ、イカといった海鮮がメインを張っているようだ。
そこに細く刻んだニンジン、キャベツ、タマネギ、
エホバク(韓国カボチャ)などが入っている。

「うむ、なかなかの陣容だな!」

ひとつ頷いて、麺をぞぞっとすすってみると、
そのすすった感覚で、最初の衝撃が襲ってきた。

「こ、これはまさしく焼きうどん!」

ヤキウドンではなく焼きうどん。

子どもの頃、土曜日の昼間によく食べた、
あの懐かしい感覚が口の中に広がった。

いや、厳密にいえば口の中ではない。

すすった感覚からすればむしろ口びるのあたり。
油でコーティングされた麺のテカテカ具合が、
まさに日本の焼きうどんそっくりだったのである。

母の作ってくれたカツオブシ入りの焼きうどん。
それが瞬時に、子どもの頃の記憶とともに蘇った。

もちろん、よく味わってみると辛さはあるし、
味付けの組み立ては韓国風のチャンポンに似ている。
ただ、麺は一般的なチャンポンに使うものよりも、
やや太く、細みのうどんに近い感じであった。

自分でも不思議だったのは、食べながら、
名古屋のあんかけスパゲティを思い出したこと。

赤い見た目と、ピリッと辛い刺激に加え、
野菜や油の甘味が混ざってそう感じたのだろうか。
確かに全体からにじみ出るB級色においても、
どこか共通する部分があるような気はする。

いい意味で無国籍な料理なのだろう。

発祥の経緯や、妙に日本語的な名前を含め、
キワモノ感は漂うが、素直な感想として美味しかった。
さすが大邱で愛される料理である。

というあたりで、ひと通りの話は終わりなのだが、
少し話を進め、大邱のB級グルメをさらに語ってみたい。

「大邱に料理なんてものはないよ!」

と語る運転手氏が、それでもヤキウドンや、
チャンポンといったB級グルメには評価を見せる。
それがある意味、大邱の食を象徴している。

今回、大邱を訪れるに当たっていろいろ調べたのだが、
予想以上に大邱には地元ならではの料理が多かった。

前回の大田で「大田6味」という単語に触れたが、
実は大邱にも「大邱10味」という言葉がある。

ヤキウドンもそんな大邱10味のひとつ。
残りの9味も含めて料理を並べてみると……。

・タロクッパプ(別盛りスープごはん)
・ポゴプルコギ(フグの辛炒め)
・ムンティギ(牛刺身)
・東仁洞チムガルビ(激辛の牛カルビ煮)
・ヌルングクス(煮干しダシの手打ちうどん)
・ナプチャクマンドゥ(平焼き餃子)
・ソマクチャングイ(牛の直腸焼き)
・ヤキウドン(辛口の炒め麺)
・ムチムフェ(刺身和え)
・ノンメギメウンタン(ナマズの辛口鍋)

こんなラインナップである。

前回の「大田6味」と比べてしまうのは失礼だが、
明らかに個性的な料理が多く興味がそそられる。

僕が食べたのは以前にタロクッパプとチムガルビ、
そして今回ヤキウドンとナプチャクマンドゥの4種類。
あと6種類の宿題を残していることになる。

コリアうめーや!!第84号(チムガルビ)
http://www.koparis.com/~hatta/koriume/koriume84.htm
コリアうめーや!!第89号(テグタン)
http://www.koparis.com/~hatta/koriume/koriume89.htm

ちなみに、タロクッパプとチムガルビについては、
過去にもメルマガで大邱料理として紹介した。

タロクッパプは大邱式のユッケジャンである、
テグタンと一緒に、その関連性を考察している。
興味のある方は、さかのぼって見て欲しい。

個人的には大邱式ユッケジャンのテグタンなども、
しっかり大邱料理としてPRして欲しいと思う。

また今回、大邱に出かけて10味に入っていない、
地元ならではの料理にもいくつか出会った。
大邱10味は10個限定ではなくベストテンらしいので、
それ自体を否定しないが、情報として加えておきたい。

・ヤンニョムオデン(辛口のオデン)
・タットンチプ(砂肝フライ)

ヤンニョムオデンは2004年に全国的にブームとなった、
辛口オデン(赤いオデン)の原型となった大邱料理。
魚介ダシの辛いスープで煮込んだオデン(練り物)を、
野菜などとも一緒に味わう屋台料理である。

煮汁の中に沈んでいるワタリガニが味のポイントで、
それが辛さだけではない濃厚な旨味を加えている。

タットンチプはフライドチキンの砂肝版。

平和市場というところに専門店が並んでおり、
ビールや焼酎の肴として人気が高い。

塩味と辛い薬味ダレを絡めたヤンニョム味があり、
その両方をハーフ&ハーフで注文することもできる。
砂肝と一緒に、サツマイモのフライが混ぜられており、
それが柔らかな甘さで、いい箸休めになっている。

今回、僕が食べられたのはここまでだったが、
ほかにも掘ればまだまだいろいろありそうだった。

「大邱に料理なんてものはないよ!」

という意見は心情的にもわからないではないが、
ことB級グルメの分野では相当充実している。
むしろかたまりで大邱名物と誇ってもいいぐらいだ。

今年、2011年は大邱訪問の年。

日本ではまださほど話題にはなっていないが、
8月27日からは世界陸上も開催される予定だ。
世界的なスポーツの祭典だけに多くの人が訪れるはず。
地元のグルメにも注目が集まっていくだろう。

大邱は個性的なB級グルメが集う街。

そんなアピールも悪くないのではと思う。

<店舗情報>
店名:中和飯店
住所:大邱市中区南一洞92
電話:053-421-6888

<リンク>
ブログ「韓食日記」
http://koriume.blog43.fc2.com/
ツイッター
http://twitter.com/kansyoku_nikki

<八田氏の独り言>
大邱で厳選して何かを食べるのなら、
ユッケジャンとヤキウドンをおすすめします。

コリアうめーや!!第247号
2011年6月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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