コリアうめーや!!第219号

コリアうめーや!!第219号

<ごあいさつ>
4月15日になりました。
例年であれば、ぽかぽか暖かい頃ですが、
今年はずいぶん冬将軍が頑張っていますよね。
カレンダーを見て、本当に4月なのかと、
思わず確認したくなるような春の寒さです。
ああ、これから行く釜山はどんな気候だろうか……。
と思わずつぶやいてしまうのですが、
実はこの挨拶を飛行機の中で書いています。
4月上旬に全羅北道を訪れたばかりですが、
今日からまた2週間の予定で韓国出張です。
釜山を中心に、慶尚北道、慶尚南道へも足を伸ばし、
その後、ソウルへと移動していくスケジュール。
場合によっては、全羅北道にも行く話もありますが、
なにしろ長丁場なので全容が確定していません。
旅の途中で、徐々にスケジュールが埋まっていく手筈。
不確定な要素を、逆に楽しみながら、
元気に食べ歩いていきたいですね。
と、そんな宣言はさておき。
今号のテーマですが、前の出張からひとネタ紹介です。
昨年から狙いだけは定めていたのですが、
ようやく念願をかなえることができました。
コリアうめーや!!第219号。
最後の1食を欲張る、スタートです。

<仁川空港から魅惑の2時間トリップ!!>

先日、出張で全羅北道を訪れた。
扶安に2泊、群山に2泊という4泊5日の日程。

美味しいものをたくさん食べてきたが、
その話は別で書くので、とりあえず割愛。
話は最終日の群山ですべての取材を無事に終え、
高速バスで帰途に着くところから始まる。

当初の予定では最終日の午後までいて、
昼過ぎのバスで仁川空港に向かう予定だった。

東京に戻る飛行機は18時45分出発。
郡山から仁川空港までは高速バスに乗って、
3時間15分から30分程度で到着する。

13時頃のバスがあればベストと考えていたが、
その読みはちょっとばかり甘かった。

地方から仁川空港を目指すバスというのは、
基本的に深夜から午前中にかけて出発するものだ。
深夜3時に群山を出れば朝イチの便に乗れる。
朝7時に出れば昼の便にはちょうどいい。

従って、遅い時間になるほど需要が少なく、
昼から午後にかけてはバスがほとんどなくなる。

楽観的に構えていた僕に地元の人がいう。

「んー、午後の便だとかなりギリギリですね」
「10時半のバスに乗ったほうがいいと思います」
「そうすれば14時頃には着きますから」

午後までの取材を念頭に置いていた僕は、

「ひゃあ、大変なことになった」

と慌てたが、一瞬後にふと思った。
仁川空港に14時着なら4時間以上の余裕ができる。

「ぬ、これはあの野望を達成できるかも!」

気付いてしまった僕の興奮は尋常でなく、
話はいきなり、仁川空港到着まで飛んでゆく。

僕がその情報を仕入れたのは昨年11月。

このメルマガでもさんざん熱く語ったが、
その時期、僕は仁川を食べ歩いていた。
観光公社の方の案内で、地元の郷土料理を取材。
その中でこんな会話があった。

「いやー、だいぶ仁川の食文化を理解できました」
「そうですか? まだまだ奥は深いですよ」
「ですよねー。あとどんな料理がありますか?」
「んー、個人的に友達と行くのは乙旺里(ウランニ)ですね」

「乙旺里? それは地名ですか?」
「ええ、仁川空港のすぐ裏手です。車で10分ぐらい」
「空港の裏に何があるんですか?」
「ふふふ、それがですね……」

観光公社の人は、にやっと笑みを浮かべた。

そもそも仁川空港は永宗島(ヨンジョンド)という島にあり、
空港ができる前は、ソウルから気軽に行ける海水浴の島だった。
仁川空港が開港したのは2003年のことだが、
僕も留学時代の2000年に1度訪れている。

親しい友人らと、泊まりがけでの海水浴旅行。
その当時は空港ができるなんてこともろくすっぽ知らず、
仁川港からフェリーに乗ってのんびりと出かけた。

島に着いた後は、安いだけがとりえの民宿に泊まり、
6畳ひと間に男女6人、身体を折り曲げながら雑魚寝。
シャワーすらも、海水しか出ないようなところだったが、
まだ20代前半の当時、それでも充分に楽しかった。

10年前なので、海水浴場の名前までは覚えていないが、
話を聞く限り、乙旺里かその近辺に違いない。
貧乏旅行だったので、美味しいものを食べた記憶はないが、
島だけあって、海鮮料理は豊富にあるのだろう。

「へー、あんなところに美味しいものがあったんですか」

思い出に浸りながら、僕は改めて問い直したが、
観光公社の人が語ってくれた話は実に魅力的だった。
いやはや、あんなところだなんてとんでもない。
空港の裏手は宝の山だった。

そもそも空港というのは不思議な空間で、
みな出発まで2時間ほどの余裕を見て到着する。
荷物検査や搭乗手続きに時間がかかるからだが、
2時間の余裕を見ると、これがたいてい時間が余る。

免税店や書店を巡りつつ、時間をつぶすものの、
さして楽しい訳でもなく、そのうちに飽きる。
僕のように毎度、同じ空港に行っていればなおさらだ。

「じゃあ、いっそ外に出るか!」

とも考えてみるが、
そこまでの時間的余裕があることは稀である。
せいぜい1時間程度の空き時間で、
空港外をウロウロするのはリスクが高い。

先日も仁川空港から他の国に乗り換える際、
3時間の余裕があったが、結局外に出るのは諦めた。
欲張って飛行機を逃しては元も子もない。

だが、その稀なチャンスが郡山からの移動で訪れたのだ。

空港カウンターで搭乗手続きをして荷物を預け、
時計を見ると、まだ14時を回ったところだった。
飛行機の出発まで、たっぷり4時間半はある。

「行くべし!」

僕は空港出口でタクシーに飛び乗った。

「どちらまで?」
「乙旺里まで!」
「乙旺里?」
「ふふふ、ヘムルカルグクスを食べるんですよ!」

僕はのけぞるほど胸を張って答える。
空港からタクシーを利用する客は、ほとんどがソウルへ向かう。
わざわざ食事に出ようという客はなかなかいないだろう。
韓国を知り尽くした達人的裏技である。

と、思いきや。

「ああ、じゃあ乙旺里じゃないね。少し手前だ」
「へ!?」
「あの店だろ。黄海(ファンへ)カルグクス」

なんと、運転手に軽くいなされてしまった。
驚くだろうと思っていた僕は、拍子抜けを通り越し、
あたふた、おどおど挙動不振の人になった。

後で、日本に戻ってから調べたところ、
エリアとして広く見れば乙旺里で間違いなかった。
正確な住所でいうと、少し手前ということだ。

知ったかぶりをすると、ろくなことがない。

また、事前に僕がチェックしていたのも別の店であった。
運転手の口ぶりからすると、どうやらその店が元祖っぽい。
僕は動揺を必死に隠しつつ……。

「そ、そうなんですよ。黄海カルグクスまでお願いします……」

と告げた。
タクシーはちょうど10分で店に着いた。

店に入ると、平日14時半を過ぎた時刻なのに、
ほぼ満員に近いぐらいの人で賑わっていた。

「おひとりさまですか?」

と確認された後、注文もせずに料理が出てきた。
ということは、単一メニューしか置かない専門店である。
経験上、こういった店はアタリが多い。

この店の看板料理であるヘムルカルグクスとは、
魚介の具をたっぷり入れて作る韓国式のうどんのこと
仁川ならずとも海岸地域ではよく見かける料理だ。

地域ごとに、地元の特産品を多く入れるので、
ハマグリがメインだったり、テナガダコがメインだったり。
近隣の海で何がとれるのか一目瞭然の料理である。

「はい、お待たせ致しましたぁ!」

と料理が出てきて思わずのけぞった。

「な、なんだこれはタライか!?」

タライはややオーバーかもしれないが、
洗面器ぐらいはある巨大な器が目の前に置かれた。
仁川には「洗面器冷麺」なる名物料理が別に存在するが、
「洗面器カルグクス」もあったとは知らなかった。

見れば、周囲のグループ客も同サイズの器を囲んでいる。

どうやら器は1種類で、この洗面器しかなく、
人数によって、麺と具の量を調整する方式らしい。
僕は当初、2人前が間違って運ばれてきたのかと思ったが、
どうやらやけに量の多い1人前で正しいようだ。

麺の量もさることながら、具の貝が異常に多い。

アサリ、ムール貝の2種類が潮干狩り並にどっさり。
加えてホタテが1枚、エビが1尾、小さな餅まで入っている。
1人前といいつつ、2人前以上はゆうにあるだろう。

スープをすすってみると、さすがにいいダシが出ていた。
また、貝の旨味の中に、独特の香ばしい風味も感じる。

「なんだろう……」

記憶をたどりながら、中を探ってゆくと、
貝や麺に隠れて、ファンテがにゅっと顔を出した。

ファンテはスケトウダラを乾燥させたもので、
スープに入れて煮込むと、これまた絶妙のダシが出る。
煮込む過程で、水分を吸って柔らかくなるので、
具としても食べられるありがたい食材だ。

すなわち仁川のヘムルカルグクスは、

「貝とファンテのダブルスープ!」

ということになる。
単純に量で勝負をするガッツリ料理ではなく、
しっかり工夫も凝らした料理であった。

改めていうまでもなく、その味は絶品。

「こんなに食えるか!」

と最初は思ったが、
気付いてみると、ぺろっと平らげていた。
後に残ったのは貝殻の山ばかり。

「な、なんだこれは貝塚か!」

というような残骸に再度驚いた。

そんな超ボリュームのヘムルカルグクスが
1人前6000ウォンというのは実にお得である。
大勢で行くなら、アワビ4個12000ウォン、
というトッピングも頼むことができる。

時価ではあるが、テナガダコの追加も可能。
単一メニューでも、オプションがあるのは嬉しい。

僕はゆったり1時間近くをかけてヘムルカルグクスを味わい、
帰りはタクシーがつかまりにくいのでバスで帰った。
302番、306番に乗ると、同じく10分で空港に戻れる。
正味、1時間半程度のショートトリップだった。

ただし、実際に行くなら2時間は余裕を見て欲しい。

僕はスムーズにバスをつかまえることが出来たが、
バス停まで少し歩かねばならないし、迷うことも考えられる。
イザというときに歩いて戻れる距離でもないので、
なにかトラブルがあった瞬間に窮地へと追い込まれる。

「パッと行って、パッと食べてくる!」

というのは、言葉でいうほど簡単ではない。

そんなスリリングさも含めて魅力のエリアではあるが、
くれぐれも無理なく計画を立てて欲しい。

最後の1食にこだわる、グルメ派の健闘を祈る。

<お知らせ1>
前号でお知らせしたムック本が発売になります。
飲食店情報のほか、地方料理、マッコリの話も書きました。

書名:韓国スターが訪れる店&美味しい韓食
版元:インフォレスト株式会社
発売:2010年4月21日

<お知らせ2>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
仁川空港からの帰国は4時間前着が基本。
そんな習慣が出来てしまいそうな感動でした。

コリアうめーや!!第219号
2010年4月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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