コリアうめーや!!第199号
<ごあいさつ>
6月15日になりました。
僕の住む東京もすでに梅雨入りしたようで、
常に雨の心配が付きまとう季節になりました。
湿気も高まって、じめじめ鬱陶しいですよね。
カラッと晴れた夏を心待ちにしつつ、
それでも雨の日独特の香りを楽しみたいと思います。
じとじと振る雨そのものは嫌いですが、
あの香りだけは、意外に好きなんですよね。
といった天気の話はさておいて。
いよいよこのメルマガも第199号です。
長く続いたもので、次号は大台の第200号。
本当によくこれだけ書くことがありましたよね。
書いている僕自身もびっくりですが、
これもすべて読み続けてくれる皆様のおかげです。
感謝の気持ちを込めつつも、まずは第199号。
前号、前々号から引き続いての、
全羅北道報告に全力を注ぎたいと思います。
コリアうめーや!!第199号。
自然に挑戦をする、スタートです。
<干潟で育てる天然「化」ウナギとは!!>
聞いただけでテンションの上がる言葉。
そんな魔術的な単語が世の中には存在する。
「給料日!」
「ボーナス!」
「臨時収入!」
あたりはまさにその典型例。
人間誰しも金銭のみに生きる訳ではないが、
お金をもらえる、というのはテンションが上がる。
僕の仕事でいえば、
「印税!」
「重版出来!」
「文庫化決定!」
などがより具体的だろうか。
ただ、僕自身これらの単語にあまり縁はなく、
まして文庫化の話など俎上に上ったことすらない。
まあ、あまり金銭絡みの話ばかりだと安易なので、
もう少し内面に切り込むような単語を探したい。
「9回裏2アウト満塁!」
「ロスタイムにPKを獲得!」
「3メートルのイーグルパット!」
あたりはスポーツファンならぐっと来るはず。
「極秘来日!」
「秘蔵映像独占入手!」
「舞台上で握手&ハグ付き!」
あたりは韓流ファンの興奮ワード。
「先輩って優しいんですね!」
「彼女サンとかって当然いますよね!」
「え、いないんですか!? らっきー(小さな声で)」
あたりは僕の妄想世界における、以下略。
というところまで引っ張っておきつつ、
何がいいたいのかというと……。
「ウナギ!」
って聞いただけで興奮するよね。
という前置きだったりするのである。
もちろん寿司や、焼肉でも興奮するが、
夏を迎えるこの時期、ウナギはやはり必食の一品。
テンションを上げつつ、ウナギの話を語りたい。
韓国でもウナギは高級魚として親しまれており、
一般的にはチャンオ(長魚)と呼ばれている。
ただし、このチャンオ(またはジャンオ)という単語は、
ウナギだけでなく、アナゴなど他の魚にも用いられ、
・ミンムルジャンオ(ウナギ=淡水のチャンオ)
・パダジャンオ(アナゴ=海のチャンオ)
・ケッチャンオ(ハモ=干潟のチャンオ)
といった感じに区別することもできる。
・ペムジャンオ(ウナギの別称)
・プンジャンオ(アナゴの別称)
・コムジャンオ(ヌタウナギ)
・モクチャンオ(ヌタウナギの別称)
などいろいろな呼び方があるので、
「チャンオを食べに行こうぜ!」
と誘われたときは、どのチャンオか確認が必要である。
ウナギを期待していたら、実はヌタウナギであった、
というような誤解が生じないとも限らない。
もちろんアナゴやハモである可能性も同じくある。
いずれのチャンオも食べ方はそれぞれだが、
ウナギの場合は、鉄板や網で焼いて食べることが多い。
日本料理のひとつとして蒲焼きやウナ丼も見かけるが、
個人的には韓国式で、豪快に焼いたもののほうが好みだ。
日本の蒲焼きは職人技が光る一品料理。
韓国のウナギ焼きは、どちらかというと焼肉風。
韓国語ではチャンオグイ(ウナギ焼き)と呼ばれ、
塩焼き、タレ焼き、コチュジャンダレ焼きの3種がある。
タレ焼きのタレは日本の蒲焼きダレにも似ているが、
八角を入れる場合も多く、香りの面で少し異なる。
食べ方もサンチュで包んだり、醤油ダレにつけたり。
薬味として細切りのショウガを用意し、一緒に食べたりもする。
サムジャンと呼ばれる味噌をつけて食べてもよい。
基本的に全国どこでも専門店はあるが、
やはり本場とされるのは、川沿いのエリアである。
日本で利根川、大井川、四万十川などが有名なように、
韓国にもやはりウナギで有名な川というのがある。
京畿道北部を流れる臨津江(イムジンガン)。
仁川の江華島を流れる津頭江(チンドゥガン)。
慶尚南道を流れる南江(ナムガン)
全羅北道を流れる仁川江(インチョンガン)。
全羅南道を流れる栄山江(ヨンサンガン)。
それぞれ韓国では名の通ったウナギ川である。
先日はその中から仁川江沿いの高敞(コチャン)に行った。
高敞といえば世界遺産に指定されるドルメン遺跡で有名な地域。
ウナギの名産地としても韓国内では名が通っている。
高敞のウナギは、
「風川ウナギ(プンチョンチャンオ)」
というブランド名がついており、
風川は海水と淡水の入り混じる汽水域を示す。
海水が入ってくるときに風を引き連れてくることから、
そこでとれるウナギに風川という名前がつけられた。
現在は高敞、仁川江よりも「風川ウナギ」という名称のほうが、
この地域を代表するウナギとして有名なのである。
ただし、日本でも天然のウナギが希少であるように、
韓国でも天然のウナギはほとんどとれなくなっている。
上にあげた川沿いにはウナギの専門店が多く林立するが、
基本的には養殖ウナギが主だったりもする。
僕も高敞の専門店で聞いてみたが、
「え、天然モノですか?」
「養殖に比べて、めちゃくちゃ高いですよ」
「1匹……うーん、10万ウォンぐらいですかね」
「まあでも、基本的には時価です」
という回答だった。
そもそもウナギの専門店に行っても、
メニューに天然という文字がない。
10万ウォンというのもあくまで目安であり、
そもそもとれること自体が珍しいとのことだった。
「じゃあ、産地まで来る必要はないじゃないですか」
僕が半ばあきれ顔でいうと、店の人は笑顔で、
メニューに書かれた文字を指差した。
「天然……化……。天然化ウナギ!?」
韓国語では「天然」のことを「自然産」という。
厳密にいえば、そこには「自然産化ウナギ」と書かれていた。
だが、天然化というのは、天然でないということとイコール。
かつて僕は、
「手打ち風うどん」
という表記を見て悩んだことがあるが、
それも要するに、手打ちでなく機械打ちということだ。
見た目一瞬のイメージをよくする効果はあるものの、
立ち止まって考えると複雑な気分になる。
「天然化って要は養殖ですよね」
さらに突っ込むと、店員はますます笑顔になり、
天然化の「化」について熱く説明してくれた。
「確かにおっしゃる通り天然化ウナギは養殖です」
「ただ、ウナギはまだ完全な養殖というのが難しいんです」
「卵を産ませて孵化させるという技術がないんですね」
「天然の稚魚を捕まえて大きく育てているんです」
「我々の天然化ウナギもウナギの稚魚を育てるのですが」
「一般の養殖ウナギとは、育て方がまるで違うんです!」
「稚魚の段階から川や干潟に放流し、自然な環境で育てます」
「養殖に比べると、効率はよくないですけどね」
「敷地から逃げたり、他の生き物のエサになったり」
「大きいサイズに育てるのにも時間がかかります」
「でも、自然な環境で育てたぶん、味は養殖に勝ります」
「毎日運動しているので、身が締まっていますね」
「どうしても通常の養殖よりも値段は高くなりますが」
「いつとれるかわからない天然よりも安定して供給できます」
「ぜひ自慢の天然化ウナギを召し上がってみてください」
「さあさあ、どうぞ、どうぞ!」
いつしか僕はテーブルの前に座っていた。
テーブルの中央には鉄板が据え付けられており、
そこに大ぶりのウナギがなんと3匹も並べられた。
鉄板を埋め尽くし、一部ははみ出るような分量。
「なんと豪気な!」
僕のテンションはまさにウナギのぼりである。
腹の側から焼き始め、ひっくり返して皮の側を焼く。
醤油ダレ焼き、コチュジャンダレ焼きもあるが、
まずは味を見て欲しいと、シンプルな塩焼きであった。
両側をほどよく焼いたら、もう1度ひっくり返し、
今度は韓国らしく、ハサミで全体をカットしていく。
焼肉ほどのひと口大。2~3センチの幅である。
今度はその切り口を下にして立てて並べ、
身の内部まで、じっくりと火を通していく。
カットしたウナギが縦に立つのは、
「身が肉厚ですから!」
という意思表示にも見えた。
いやが上にも気分は盛り上がっていく。
「さあ、どーぞー!」
との掛け声を合図に、全軍一斉突撃。
まずは塩味だけのウナギをそのままの味でひと口。
続いて八角の香りが効いた甘いタレにつけてひと口。
豆の葉の甘酢漬けにウナギと千切りショウガをのせてひと口。
サンチュとエゴマの葉にウナギと味噌をのせてひと口。
「う、う、う、うまー!!」
日本で食べる蒲焼きのような繊細さはないが、
韓国らしい豪快さと、種類豊富な食べ方が嬉しい。
心配したウナギの泥くささは微塵も感じられず、
脂も乗っているので、次から次へと手が伸びる。
そして喜ばしいことがもうひとつ。
「こちらも一緒にどうぞ!」
と出されたのは店が作る自家製の覆盆子酒。
韓国語では「ポップンジャジュ」と呼ぶ。
トックリイチゴなどの山イチゴ類を漬けたもので、
ほのかな渋みと甘味が交錯する伝統酒だ。
これがまた、なんともいえぬ絶品。
通常の市販品を飲むと甘さ、渋さが前面に出るが、
さすが自家製で、奥深いコクが甘さ渋さを見事に抑えている。
脂の強いウナギにはぴったりの、個性ある自家製酒。
さすがは地元と感心させられる黄金コンビであった。
ウナギを食べて、覆盆子酒を飲んで。
またウナギを食べて、覆盆子酒を飲んで。
なんとも幸せなひと時を過ごした。
さて、以上が天然化ウナギのリポートである。
天然化というキーワードに最初は違和感を覚えたが、
食べてみると、非常に納得のゆく味わいであった。
また足を運ぶ機会があったら、今度はタレ焼きも試してみたい。
ただし。
僕は天然化ウナギと比較対象になるべき、
本物の天然ウナギをまだ食べていない。
干潟で育てたウナギが本当に天然化したのか。
それは天然ウナギの、しかも上等なやつを食べてこそ、
「これは確かに天然化したウナギだ!」
と断定できるのではないだろうか。
とれる量が少なく、粒もなかなか揃わないため、
産地でも時価でしか販売できない天然ウナギ。
1匹10万ウォンとも、それ以上ともいわれる、
超高級ウナギをいずれは食べなければならない。
その日が来るのを心待ちにしつつ。
僕はまず貯金にいそしみたいと思う。
<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/
<お詫び>
前号にて「扶安」と「不安」が同じ発音との記述がありましたが、
正しくは「扶安=プアン」、「不安=プラン」で間違いです。
ブログ掲載などのバックナンバーでは該当部分を削除しました。
お詫びするとともに、訂正させて頂きます。
<八田氏の独り言>
日本でも天然を目指したウナギの話は聞きます。
まだ未食の「坂東太郎」を食べてみたいですね。
コリアうめーや!!第199号
2009年6月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com