コリアうめーや!!第195号
<ごあいさつ>
4月15日になりました。
僕の住む東京もすっかり春陽気で、
ぽかぽか暖かいどころか、日中は暑いです。
かと思えば、一転、夕方以降は肌寒く、
着るものの選択が難しい時期ですよね。
暖かくなってきてから風邪を引く。
そんな間抜けなことにはならないよう、
気温の変化に目を光らせたいと思います。
さて、そんな天気の話は置いといて。
同じく暖かな熊本に出張してきました。
目指したのは韓国料理と無関係な郷土料理ですが、
そこには意外なヒントがありました。
何を食べても、つい韓国とつなげてしまうのは悪い癖。
とはいえ、それも1本のネタになるのであれば、
それなりに大きな収穫だったのでしょう。
個性的な郷土料理の多い熊本の地より。
コリアうめーや!!第195号。
馬力をつけて、スタートです。
<熊本名物、太平燕を韓国的に味わう!!>
熊本。火の国と呼ばれる熊本。
肥後もっこす、肥後の猛婦がいる熊本。
阿蘇山を抱き、有明海に面する熊本。
市内に美しい熊本城を残す熊本。
街中を路面電車が優雅に行きかう熊本。
スザンヌが宣伝部長を勤める熊本。
空港から市内までが微妙に遠い熊本。
僕にとっては大学時代以来の熊本。
日記を遡ったら97年9月以来だった熊本。
当時、大学3年生だった僕は青春18切符を利用し、
24時間以上かけて東京から熊本に移動。
熊本駅で野宿した後、熊本城を見学に行ったり、
馬肉入りの蕎麦を食べたりして過ごした。
旅行中のことを書きとめた日記には、
そのときの話がこう記している。
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この肉ソバはソバにコシがありツユにコクがあり、
具の肉(馬肉)にいたっては嬉しいほどに、
エイヤッといっぱい乗っているという文句なしどころか、
口を開けば大絶賛という素晴らしいものだった。
あまりにも美味しいので料理長と握手でもしてこようかと思ったが、
僕はシャイなので、店の女将に帰りの道を尋ねる程度に留めておいた。
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若かりし頃の文章なので、元気は感じられるが、
その割に中身がなく、無駄に一文が長い。
それでも一応の感動が伝わってくるところをみると、
たぶん本当に美味しい蕎麦だったのだろう。
ちなみに僕はこの熊本から別府、鹿児島、沖縄と移動し、
全行程41日間にも渡る貧乏旅行をして歩いた。
いま振り返っても、青春時代の輝かしい思い出である。
その熊本の地へ、12年ぶりに降り立った。
馬肉入りの蕎麦こそ食べに行かなかったが、
刺身、串焼きなどの馬肉料理は堪能してきた。
脂の乗った馬刺しに、歯ざわりのよい馬レバー刺し。
酢味噌ダレで味わう馬カルビの串焼き。
そしてこれらを、熊本産米焼酎のロックで味わう。
出張絡みの短い旅だが、久しぶりの熊本を堪能した。
そして、もうひとつ。
今回、どうしても食べたい熊本名物があった。
話だけは前々から聞いており、個人的に念願だった料理。
それが太平燕(たいぴーえん)である。
太平燕は中華風のスープに春雨が入った麺料理で、
もともとは中国の福建省がルーツとされる。
熊本県内では一般的な中華料理として食べられているが、
熊本県民でも存在を知らない人がいたりするようだ。
事実、熊本で食べた後、熊本出身の友人に尋ねたが、
「太平燕? 何それ?」
という回答が返ってきた。
近年は関東でも有名ラーメンチェーンが提供を始めるなど、
知名度は上がっているが、まだメジャーな存在ではない。
僕も長い間、食べたいと思って店を探していたが、
あいにく東京では出す店が少なく、機会がなかった。
熊本では給食でも出されるという太平燕。
僕の中では熊本で食べたい料理のナンバーワンであった。
足を運んだ店は元祖格のひとつとされる「中華園」。
デパートのレストラン街に店を構えており、
ちょうど昼どきだったこともあって賑わっていた。
「太平燕をください」
「太平燕の単品でよろしいですか?」
「はい」
という会話があったことから、
もしかすると、単品で頼む客は少ないのかもしれない。
直後、隣の席に年配女性の2人組が座ったが、
「太平燕セット!」
「あたしも!」
という注文であった。
セットには太平燕のほか、ごはん、手羽先揚げ、
サラダ、杏仁豆腐が一緒についてくる。
太平燕は麺が春雨なので消化にもよくヘルシー。
単品では物足りなさを感じるのかもしれない、
などと考えていたら、念願の太平燕が運ばれてきた。
ぱっと見の印象はタンメンを思わせる感じ。
透明感のある鶏がらスープに野菜がたくさん入る。
白菜、タケノコ、ネギ、シイタケ、キクラゲ、豚肉、ゆで卵。
スープをすすってみると、ゴマ油の香ばしい風味を感じた。
シャキシャキのタケノコ、旨味の濃いシイタケも存在感が強い。
スープ、具を愛でながら、少し自分をじらした後、
おもむろに箸を深く差し込んで、メインの春雨を引き出す。
緑豆を原料として作る、細いタイプの春雨である。
「これだけ細いと食感も軽いのかな……」
と思いつつ、口に運んだらジャキッとした食べ応え。
固めに茹でられているので、麺を噛み切る快感がある。
そんな麺の食感も手伝ってか、思ったような物足りなさはない。
一品料理として充分な満足感を備えていた。
「美味いじゃないか!」
店の片隅でひとり感動しつつ、ぞぞぞと麺をすする。
と、同時にいろいろなことを頭の中で考える。
「これはもっと全国に広まっていい料理だ」
「春雨といえばヘルシー、そしてダイエットの代名詞」
「満足感がありつつ、カロリーが低いのもいい」
そして、そこから思考は韓国方面にも移行する。
「これは韓国料理にも応用できないだろうか」
「韓国にもタンミョンという春雨がある」
「チャプチェ(春雨炒め)にすることがほとんどだが」
「麺料理に仕立てても意外にいけるのではないか」
というあたりでピンと閃く。
「そうだ、キムチチゲには春雨を入れるじゃないか!」
「白菜を使い、豚肉が入るあたりも太平燕と共通する!」
「スープを多めにしたキムチチゲにタンミョンを入れれば……」
「充分韓国風の太平燕になる。太平燕チゲの誕生だ!」
降って生まれたアイデアに思わず鼻息が荒くなる。
スープの1滴までも飲み干して店を出る頃には、
もはや太平燕チゲ構想で頭の中がいっぱいだった。
だが、世の中同じことを考える人はいるものだ。
ホテルに戻り、インターネットでざっくり調べてみると、
熊本市内に「チゲ太平燕」の名で出している店があった。
僕のアイデアと語順こそ違うが内容は同じ。
「なんだ、あったのか……」
と多少、意気消沈しつつも、
実際に出している店があれば、それはむしろネタとなる。
もっといえば何かの仕事につながるかもしれない。
これは1度食べてみなければならないだろう。
僕はその翌日、チゲ太平燕を出す店に足を踏み入れた。
以下、その店での会話。
「いらっしゃいませ。ご注文はいかが致しましょう」
「えーと、ここにチゲ太平燕があると聞いたのですが……」
「チゲ……太平燕でございますか?」
「はい。ネットで見たのですが」
「しょ、少々お待ちください」
「……」
「あの、申し訳ありません、チゲ太平燕なのですが」
「はあ……」
「昨年9月までの限定メニューでして……」
「えっ!?」
せっかく見つけた熊本と韓国の歴史的融合料理。
仕事にもなるのではという、淡い思いは一瞬で砕かれた。
「豆板醤入りの辛い太平燕ならあるのですが」
「いえ、普通の太平燕ください」
出てきたのは水菜のたっぷり入った太平燕。
これもまた野菜と海鮮の多い、美味しい太平燕だった。
無念の熊本を通り過ぎて東京の自宅。
飲食店のチゲ太平燕にこそ出会えなかったが、
チゲと太平燕の融合は、アイデア的に悪くないはずだ。
市販されている春雨スープにもチゲ風の商品はある。
本場で食べられずとも、それなら自分で作ればよい。
僕は材料を買い揃え、自宅キッチンにこもった。
作業としてはこんな感じ。
1、タンミョンを水で戻した後、たっぷりの湯で茹でる
2、茹で上がったタンミョンは流水で洗った後、水にさらす
3、鶏がらスープに豚肉、魚介、白菜キムチを加え塩で味を整える
4、刻み野菜を加えてさらに煮込み、適当で春雨を加える
5、最後にゴマ油を少量振り掛けて出来上がり
ポイントとなるのはキムチチゲよりスープを多め。
タンミョンがメインなので、たっぷり入れるというくらいだ。
もちろん白菜キムチは発酵して酸味の出たものがベター。
全体的に具が多めになるので、ひとつひとつは少量でよい。
で、これを実際に食べてみたのだが……。
「やっぱり美味いじゃないか!」
タンミョンは緑豆春雨に比べてずいぶん太いため、
麺料理にすると味がぼけるかと危惧したが、それは杞憂であった。
太平燕よりも、もっちりとした食感にはなるが、
つるつるとすすれる軽快さはよく似ている。
「これは韓国料理に革命を起こすな!」
というのが実際に作ってみての感想。
自画自賛もいいところだが、
思いのほか、いい出来の料理に仕上がった。
ということで僕は今後、新料理の普及に力を注ぐ所存である。
将来的には太平燕チゲの専門店化までを模索しつつ、
太平燕の存在、チゲとの相性のよさ、ヘルシーさを広めていく。
いつの日か、韓国で太平燕チゲが大流行するその日まで。
先駆者として、発明者としておおいに奮闘したい。
「熊本と韓国を結ぶ太平燕チゲに幸あれ!」
と叫んだところで、ふと思いついたのだが、
馬肉チゲなんてのも美味しいんじゃないかな。
うん、これもいつか作ってみるとしよう。
<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/
<八田氏の独り言>
熊本にはまた是非行きたいものです。
食べ逃した熊本バーガーが気になっています。
コリアうめーや!!第195号
2009年4月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com