コリアうめーや!!第117号

コリアうめーや!!第117号

<ごあいさつ>
1月15日になりました。
もう成人式ではないので、ただの日曜日です。
お年玉くじ付き年賀ハガキの抽選日でもありますが、
1枚も当たらなかったので、やっぱりただの日曜日です。
50万本に1本しか当たらない1等は無理にしても、
5千本に1本の3等くらいは当ててみたいものです。
3等の商品は「地域の特産品小包」。
魚卵(筋子、たらこ、数の子)セットと、
ふぐのから揚げにぐぐっとひかれました。
ま、短い夢だったんですけどね。
気を取り直して本編に突入したいと思います。
今号のコリアうめーや!!ですが、
前号に引き続き、郷土料理の話をお届けします。
コリアうめーや!!第117号。
地方めぐり第2弾の、スタートです。

<羅州名物の赤いコムタンを食べる!!>

木浦で名物のナクチ料理を堪能した翌日、
僕とM氏は市外バスで羅州(ナジュ)に向かった。
羅州での目的はコムタンを食べることである。

羅州は全羅南道に位置する中規模都市。
特に何があるという町でもないが、
特産品のナシだけは全国的に有名である。

郷土料理のコムタンもそこそこ有名なはずだが、
韓国人に聞いてみるとナシほどの知名度はないようだ。
羅州といえばナシ。それが韓国人の一般的な理解だろう。

こうした地方都市を旅するには少しの技術がいる。
ガイドブックに載るような町ではないので情報収集が難しい。

もっとも有効なテクニックは「人に尋ねる」ということ。

韓国語ができないと少したいへんだが、
できなくても単語の連発でなんとかなったりする。
ともかく根気よく何度も「人に尋ねる」のが肝要。

鼻で笑ってしまうくらい当たり前のことだが、
僕はこれが韓国地方旅行における究極奥義だと信じている。

僕とM氏はが羅州の市外バスターミナルについたのは昼過ぎ。
空腹だったので、一刻も早くコムタンを食べたいが、
2人とも羅州は初めてで、店がどこにあるのかもわからない。

ゆえに、ここでまず究極奥義「人に尋ねる」を炸裂させる。
僕が声をかけたのは目の前を歩いていた地元の人らしき男性。

「あの、このへんにコムタンの店が集まったエリアはありませんか?」

店ではなく、まずエリアを聞くのがポイント。
韓国では名物料理の店が単体で存在することは少なく、
たいていは名物通りとして多くの店が共存している。

目指す店がわかっていれば問題はないが、
店すらもわかっていない場合はエリアを聞くのが無難。
ざっくりとした情報から手に入れたほうがわかりやすい。

突然話しかけられた男性は一瞬警戒した表情を見せたが、
こちらが旅行者であるとわかると、にこやかな笑顔に変わった。

「はいはいコムタンね。えーと、車で来たのかな?」
「いえ、バスで来ました」
「じゃあ、あそこの角から市内バスに乗りなさい。バス停があるから」

男性は100メートルほど先の交差点を指差した。
バスに乗ったら、運転手にさらに尋ねろとも言う。
どうやらコムタンの店はずいぶんと離れたところにあるらしい。
僕らは礼を言って、教えてもらったバス停を探す。

だが、どうしたことかバス停が見つからない。
交差点のところまで行って、再び途方に暮れる。

というわけで、究極奥義「人に尋ねる」を再度繰り出す。
相手は交差点のところにあった薬局の店員である。

「コムタンを食べに行きたいんですが、このへんにバス停は……」

すると店員は僕らがいま来た通りを指差し、
ここをまっすぐ10分ほど歩くように言った。

「交差点を越えると市場があるから、そこでまた聞くといい」

明らかにいま来た道を逆戻り。
しかもバスに乗る必要すらないようだ。
最初の男性が教えてくれた情報と大きく食い違う。

ここに韓国の地方を旅するための重要なヒントがある。

ヒント1、人によってまったく情報が違う

韓国人の名誉のために書いておくが、
どちらかが間違っていたり、嘘をついているのではない。
結果的にコムタンの専門店が密集するエリアは、
バスで行くほどではないが、歩くには微妙に遠いという位置にあった。

最初の男性は不慣れな土地で歩くのは大変だと思ったのだろう。
それに対して薬局店員は歩く道を教えてくれたに過ぎない。

重要なのは、韓国人が常に自信満々で答えてくれる点。

それが次善の策であったり、効率の悪い方法であっても、
自分の信じる回答を、真っ向から薦めてくれる。
日本人なら自信のないことはできるだけ言わないようにするが、
韓国人は知っていることはすべてビシッと教えてくれる。

なので、それを前提に情報の取捨選択をしなければならない。

ヒント2、情報の取捨選択は自分の責任で

僕らは薬局の店員を信じ、歩いてみることにした。
ついでにオススメの店についても尋ねてみる。

「うーん、色々あるけど……僕はテッチャリが好きだな」
「テッチャリが店名ですか?」
「うん。比較的店がきれいで落ち着いて食べられる」

さて、ここにも地方旅行のヒントが隠されている。

ポイントは「店がきれい」という点である。
薬局店員の口ぶりから、近くにはたくさんの店があるようだ。
それらと比較して、きれいということは、
その近くにあまりきれいでない店もあるということ。

確かにきれいな店で食事をしたほうが美味しいかもしれないが、
旅行者にとっては、少し古びて汚いくらいがよかったりする。
よって、こんな注意点も生まれる。

ヒント3、現地の人と旅行者の感覚の違いに注意

教えてもらった通りに10分ほど歩くと、
市場の入口があり、その周辺にはコムタンの店が林立していた。
間違いない。ここが羅州コムタンの中心地だ。

最終情報を目指して最後の「人に尋ねる」を繰り出す。
ヒマそうにしていた市場のおばちゃんに声をかけた。

「コムタンを食べに来たんですが、元祖の店はどこでしょう?」

この元祖の店を尋ねることこそ究極中の究極奥義。
韓国の名物料理は、ひとつの店の大当たりに始まることが多い。
それを見た隣近所の店が一斉に同じことを始め、
雨後のタケノコ化して、名物通りが誕生する。

どこもレベルが高く、どこで食べても同じということは珍しく、
たいていは元祖の店が際立って美味しいのが常である。
ゆえに最後のヒントはこのようになる。

ヒント4、地方料理は元祖の店で食べてこそ華

市場のおばちゃんは何も言わずに僕の腕をつかみ、
近くの十字路までグイグイと引っ張っていった。

「あそこに白い壁の家が見えるでしょ。そこが元祖だよ」

近くまで行ってみると、確かに白い壁の店があった。
しかも店名まで「ハヤンチプ(白い家)」となっている。
おそらくこのシンプルさは、あえてつけた名前ではなく、
あの白い家がうまいと噂が広がり、定着したものだろう。

中をのぞいてみると、確かに人でごった返していた。

薬局店員の薦めてくれたテッチャリという店も近くにあり、
ハヤンチプと同じく、たくさんの客が入っていた。
こちらも美味しそうだが、店の雰囲気という点で1枚落ちる印象。
新しくてきれいではあるが、それがゆえに威厳がない。

どちらに入るべきだろうか。
M氏と相談した結果、次のように決定した。

「せっかくだから2軒とも入ってみよう」

いくら韓国の地方が好きとはいえ、羅州まで来ることはめったにない。
この機会を逃さず、目一杯満喫せねば損である。

さて、いよいよ羅州コムタンの話に入ろう。

せっかく地方旅行の話を書いているので、
旅のコツくらいと思ったら、ずいぶんスペースをとってしまった。
急いで食欲モードに転換し、料理の話題に取りかかる。

そもそもコムタンという料理の説明もまだしていなかった。

コムタンとは牛肉をぐつぐつと煮込んだスープのこと。
正肉部分だけではなく、内臓も一緒にじっくりと煮込むので、
シンプルだがコクと深みのあるスープができあがる。

煮込んだ肉は薄切りにして具としても食べる。
また、スープにごはんを入れるのもコムタンの大事な魅力。
手軽に食べられて、おなかもいっぱいになる。
韓国では古くから食べられてきた庶民の味覚だ。

羅州コムタンの特徴は、透き通ったスープに唐辛子を振る点。

最近のコムタンは白いスープのものが多いが、
羅州コムタンは濃い肉汁と、唐辛子の影響で赤くなる。
肉そのものを溶かしたような、赤茶けたスープが特徴だ。

僕らはまずテッチャリで味の様子をうかがった後、
元祖格のハヤンチプで本格的にもう1杯食べることにした。

店の入口をくぐると、いきなり巨大な釜がどーんと現れる。
給食のカレーを煮るようなサイズ。それが2つ火にかけられていた。
それだけでも充分に迫力だが、店内の活気がものすごい。

時計を見ると2時近くなっているのに超満員。

肉が煮える独特の香りがもわんと店中に漂い、
釜からの熱気と、人の熱気が混じりあって充満している。
息苦しいほどの熱気が、店内を覆っていた。

まわりのテーブルを見ると、茹で肉(スユク)で焼酎を飲んだ後に、
シメとしてコムタンを食べているテーブルが多いようだ。
僕らもそれにならって、茹で肉と焼酎を注文する。

この茹で肉はコムタン専門店の裏メニュー。

肉を茹でてスープを取るのだから、当然煮込んだ肉が残る。
その肉を適当な大きさに切り、ゴマ油や味噌などで食べるのだ。
じっくり煮込んであるので、とろけるように柔らかい。
脂肪分は抜けているが、うまみそのものはきちんと残っている。

幸せな気分で飲んでいると、やがて店の人がやってきた。

「食事! なさいますよね!」

店が大忙しなので、セリフにも余裕がない。
ここで言う食事というのがコムタンのことだ。
韓国語では飲んだ後のシメを食事と呼ぶ。

店のおばちゃんはバタバタと厨房に戻ったかと思うと、
再びバタバタとアツアツのコムタンを運んできた。

黒い素焼きの器に、たっぷりのスープ。
刻みネギ、錦糸卵、ゴマ、粉唐辛子が薬味として振られている。

「うーん、やっぱりスープが赤い」

全体をかき混ぜると、唐辛子が散らばりさらに赤くなった。
おもむろに赤いスープを一口すする。

「あ、美味しい!」

大釜料理からは想像がつかないほど上品な味。
澄んだスープには雑味がなく、肉のうまみだけが突出している。

どちらかというとカルビタンにも似た味わいだ。

カルビタンは牛カルビだけを長時間煮込んだスープで、
単独部位だけを煮込むため、すっきり澄んだ味わいに仕上がる。
高価な部位なので、牛系スープの中でも1ランク上の料理だ。

羅州コムタンも、それに似た澄んだ味わいだった。
だが、やはりカルビだけではないので、秘めた力強さもある。
丁寧に煮込み、牛のよさだけを上手に汲み取ったような味。

底に沈んでいるごはんもスープを吸っていて実に美味しい。
直前に焼酎を飲んでいるので、余計に汁かけ飯がうまい。

この味で1杯5千ウォン(約500円)は本当に安い。

もともと地元の市場で売られていた料理なので、
安い、早い、うまいは当たり前といえば当たり前だが、
それをしっかりと維持しているところが素晴らしい。

50年以上の歴史がある羅州コムタンだが、
大きく変わったのは、練炭がガスに変わったことだけらしい。
シンプルな料理だけに、大きな変化はないまま、
地元の人に愛され続けてきたのだろう。

これまでずいぶんとあちこちの地方を回ってきたが、
これだけ地元の人に愛されている郷土料理は意外に少ない。

羅州コムタンは地元にしっかりと根ざした料理であった。

僕らは2杯のコムタンを食べて超のつく満腹となり、
胃袋タプンタプンの状態で、市外バスターミナルへと戻る。

次の目的地は海沿いの霊光(ヨングァン)という町。
今後は美味しい夕食を目指して、さらにバスで移動するのだ。

<おまけ>
メルマガに登場したお店データ

店名:ハヤンチプ
住所:全羅南道羅州市中央洞48-17
電話:061-333-4292
HP:なし

店名:テッチャリ
住所:全羅南道羅州市果院洞121-4
電話:062-652-7788
HP:なし

<お知らせ>
羅州コムタンの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<お知らせ2>
『ハングルドリル』と『ハングル練習帳』が新たな展開を見せるかもしれません。まだ発表はできませんが、面白い企画を頂きました。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4054029280/

<八田氏の独り言>
自宅で柚子茶を作りました。
キーボードを打つ手から柚子の香りが漂います。

コリアうめーや!!第117号
2006年1月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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