コリアうめーや!!第112号
<ごあいさつ>
11月になりました。
気温もだいぶ下がって肌寒い日が増えています。
明け方など寒さで目が覚めたりしますよね。
季節の変わり目、風邪を引きやすい時期なので、
体温調節などしっかり気をつけましょう。
さて、今号のコリアうめーや!!ですが、
これまで書き忘れていたメジャーな料理を紹介します。
いやあ、こんな有名な料理が残っていたんですね。
このメールマガジンは創刊から約4年半ほどですが、
なんの方向性もなく場当たり的に書いてきたので、
意外な料理が登場していなかったりします。
韓国料理の基本をまるで網羅できないまま、
今日この日まで驀進してきてしまいました。
こんなことでよいのだろうか。
ガラにもなく、自分を振り返ってみたりします。
もちろん反省の気持ちなどカケラもなく、
今後も思いつきで書いていくことは間違いありません。
コリアうめーや!!第112号。
今日も場当たり的に、スタートです。
<ワカメが刻む韓国人の年輪!!>
大学時代の友人からメールが来た。
――カットワカメにお湯を注いで茶漬けのように食べたら、
韓国の留学生が作ってくれたワカメスープの味になった!――
いきなり何事かという内容のメールだが、
彼の興奮具合だけはなんとなく伝わってくる。
その迫力に圧倒され、
「そうか。それはすごい発見だ!」
と、返信しようと思ったが、
よくよく考えてみるとさしたる話でもない。
カットワカメにはもともと塩味がついており、
適度にお湯を注げばスープのようにもなるだろう。
またワカメの量が多ければそれだけでも韓国っぽく見える。
韓国のワカメスープは韓国語でミヨッククと呼ばれ、
ワカメをどっさりと入れるのがひとつの特徴。
だがこれだけで韓国風を名乗らせるわけにはいかない。
韓国のミヨッククはもっともっと奥が深いのだ。
そこで僕は以下のように情報を付け加えて返信した。
――カットワカメにお湯だけで韓国を名乗ってはいけない。
韓国らしさを求めるなら、ゴマ油のひとたらしくらいはするべきだ。
可能であればみじん切りニンニクも少量加えるとさらによい。
研鑽を重ね、さらなる味の境地を目指して欲しい――
なにを偉そうに、というような返信だが、
付き合いの長い友人なので失礼云々はない。
「すごい!やってみるぜ即席韓国料理!」
という力強い再返信が、しばらくして届いた。
ちなみにこれが1週間ほど前の話。
つまりつい最近のことというわけだが、
このやり取りの中でひとつ気付いたことがあった。
このメルマガもかれこれ4年半ほど書き続けているが、
韓国人の魂というべきミヨッククについてはまだ書いていない。
いや、厳密に言えば書こうとしたことは何度かある。
だがその度にタイミングが悪くて諦めたり、
タイミングがよくても何か別のテーマがあったりと、
なぜか書きたくてもうまくいかなかったのだ。
そもそもこの料理はタイミングが難しく、
ピタリとくる時期は年に1度しかない。
ミヨッククは誕生日に食べる特別な料理。
ワカメにはカルシウムやヨード、ビタミン、ミネラルが含まれ、
韓国では、妊婦や、授乳期の母親が栄養をつけるために食べる。
母が子どものために食べる愛情の象徴がミヨッククなので、
これが転じて、誕生日には母に感謝しつつ食べることになったらしい。
僕の場合は8月2日が誕生日なので夏に書くべきネタである。
ここ何年かは必ず誕生日にミヨッククを食べており、
誕生日に近い8月1日の配信日に、
「ミヨックク食べてお母さんありがとう!!」
といったタイトルで書くことも充分可能であった。
だが、ついついそれを忘れてしまうのは僕が日本人だからか、
あるいは母とミヨッククのイメージが重ならないからかもしれない。
カットワカメ茶漬けという脇道から始まり、しかも3ヶ月遅れ。
感謝を込めるには半端だが、いい機会なのでミヨッククを語ってみたい。
遅まきながらお母さんありがとう。僕ももう29歳です。
さて、ミヨッククである。
韓国以外にもワカメスープを食べる国はあるだろうが、
とりあえず韓国での特徴は先ほど述べたとおりである。
ゴマ油が入り、ニンニクで香りをつける。
また調理の過程としてワカメを炒めるのも忘れてはならない。
よく熱した鍋にゴマ油をしき、ワカメと、みじん切りのニンニク、
薄切りの牛肉などをジャカジャカと炒める。
この作業を行うことでワカメの味が格段によくなるのだ。
後は炒めたところに水を注ぎ、じっくりと煮込むだけ。
味付けはシンプルに塩と少量の醤油のみだ。
作ろうと思えば10分もあれば完成してしまう。
シンプルな料理だけにアレンジの幅も広く、
家庭ごと、地方ごとにさまざまなレシピが存在する。
牛肉を使ったミヨッククがもっともポピュラーだが、
海鮮系材料を使う場合も多く、僕などはそちらが好みである。
アサリ、ムール貝、乾燥させたスケトウダラ、白身の魚。
基本的にはワカメをたっぷり食べるための料理なので、
スープはあっさり仕立てで、ほんのりおだやかに仕上げたい。
こうした海産物を使ったミヨッククは海沿い地域のあちこちにあるが、
もっとも象徴的なのが韓国の最南端、済州島(チェジュド)である。
済州島は四方を海に囲まれているだけあって海産物の利用が巧み。
この地域では韓国一贅沢なミヨッククを作って食べている。
まずあげられるのはウニを使ったミヨッククだろう。
済州島ではウニを生で食べるほか、汁物にも多く利用している。
煮込む過程でバラバラに弾けてしまうのが悲しいところだが、
ウニならではの鮮烈な香りが汁に溶け込むのも悪くない。
スープに散らばったウニは、一見すると油揚げのよう。
見た目でやや損をしているものの、それはあくまでウニ側の立場での話。
ワカメが主役のミヨッククでは最高の脇役となる。
もうひとつ済州島からアマダイのミヨッククも紹介したい。
アマダイは京料理にも頻繁に使われる高級魚。
関東ではあまり馴染みがないが、関西では「ぐじ」の名で珍重される。
済州島でも特産物のひとつに数えられており、
特に半干しにしたアマダイは町の食堂の人気メニューだ。
韓国でも高級魚なので決して安くはないが、
済州島に行ったらぜひ食べて欲しい料理のひとつである。
そのアマダイを贅沢に使ったのがオットムミヨックク。
オットムというのが韓国語でアマダイのことを表す。
このオットムミヨッククがたまらなく贅沢でうまいのだ。
表面を覆うたっぷりワカメをかきわけると、
半分に切られたアマダイが、1人前に1匹ぶん沈んでいる。
頭がゴロン、尻尾がゴロン。2つのカタマリがゴロンゴロン。
スープをすすればアマダイの甘く上品な香り。
アマダイそのものも、独特の香ばしい旨みがたまらない。
身離れがよく箸を当てるだけでホロホロとはがれるのもいい。
背骨のあたりに突き立てた箸がごそっと大きな身を運んでくる。
これを口に放り込んだら、間髪入れず箸をスプーンに持ち替え、
たっぷりのスープと、たっぷりのワカメを頬張るのだ。
この瞬間口の中が、アマダイの旨みとワカメの香りでいっぱいとなる。
ワカメスープがこんなにも贅沢でよいのだろうか。
夢中になってずるずると食べ、ふと気がつくと、
器の中にはアマダイの骨だけが残っているばかり。
文句なしにこれが今まで食べた最高のミヨッククだ。
そういえば、来年は30歳の大台にのる誕生日。
豪勢にアマダイのミヨッククを食べるのもよいかもしれない。
しかも僕の誕生日と、母の誕生日はたった3日違い(8月5日)である。
アマダイの入手は難しいかもしれないが、あるいはマダイを使っても、
豪華なミヨッククを自宅で作って一緒に食べるというのは悪くない。
めでたい上に、感謝の気持ちもこもった料理。
うん、これは我ながらなかなかよいアイデアだ。
という感じにちょっといい話で結ぶつもりだったのだが、
先ほどふと思いついて母に尋ねて事情が変わった。
「ウチでワカメスープって特に作ったことないよね」
「そんなことないわよ。よく作るじゃない」
「え、そうだっけ?」
「そうよ。ザーサイ入れてアタシよく作ったげたわよ」
「ザーサイ……」
そういえば確かにそんなスープが食卓にあがっていた。
もちろん韓国風ではなく、中華風のワカメスープだ。
ミヨッククのイメージとはまるでかけ離れていて思い出せなかったが、
これも考えようによっては母手製のミヨッククである。
なるほど。ならば誕生日の趣旨からもザーサイ入りが正しい。
来年の誕生日はアマダイもマダイも取りやめ、
感謝を込めつつザーサイミヨッククを食べることにしたい。
そのほうがきっと安上がりだし。
<おまけ>
オットムミヨッククが食べられるお店
店名:トラジ食堂
住所:済州道済州市一徒2洞1176-40
電話:064-722-3142
HP:なし
<お知らせ>
ミヨッククの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/
<お知らせ2>
『一週間で「読めて!書けて!話せる!」ハングルドリル』が無事に発売になりました。発売早々アマゾンで在庫切れを起こすほど、順調に売れているようです。書店での目撃情報もちらほらと寄せられるようになり、これでまずは一安心。あとは実際に買って試してみた人の評価が気になるところです。韓国語をこれから始めたい方、少し手をつけたけれどもハングルからもう1度勉強したい方、前作の『ハングル練習帳』を読まれた方にオススメの本です。当初在庫切れを起こしたアマゾンでも、今はきちんと買えるようになっております。興味のある方はぜひお求めください。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4054029280/
<八田氏の独り言>
来週から2週間ほど韓国に行ってきます。
次号は久しぶりに韓国からの配信です。
コリアうめーや!!第112号
2005年11月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com