コリアうめーや!!第95号

コリアうめーや!!第95号

<ごあいさつ>
2月15日です。
まだまだ寒い日が続きます。
日中はポカポカ暖かい日もありますが、
日が落ちて夜になると、ぐっと寒さが身に染みてきます。
早く春にならないかなぁ、とカレンダーを眺める日々ですが、
春になったらなったで、今度は花粉が舞うんですよね。
寒いのは嫌だけど、花粉はもっと嫌。
花粉を避けて、1ヶ月ほど韓国に高飛びしたい気分です。
もっとも、その時期の韓国は黄砂が舞うんですけどね。
さて、今号のコリアうめーや!!ですが、
韓国ではなく、北朝鮮料理をテーマに選んでみました。
といっても、北朝鮮料理と韓国料理は根本的に同じもの。
政治的には南北に分断されておりますが、
長い目で見れば、郷土料理のひとつにすぎません。
便宜上、北朝鮮料理と書いてはおりますが、
北部地方の料理という意味で読んで頂ければと思います。
コリアうめーや!!第95号。
ワンコリアを合言葉に、スタートです。

<北朝鮮料理を食べに行きたい!!>

2月9日の夜。
僕は東京の飯田橋で仕事をしていた。

仕事は大詰めを迎えており、徹夜に次ぐ徹夜で極限状態。
朦朧とする意識の中、やっとの思いで仕事をこなしていた。

そんな切羽詰った状況の中で、聞こえてきたのがこんなセリフ。

「今日、北朝鮮が負けたらテポドンが飛んでくるみたいですよ」

ちょうどこの日は、サッカーW杯のアジア最終予選が始まる日。
埼玉スタジアムでは、日本対北朝鮮の試合が行われていた。

「テポドンですかぁ。そしたらこの仕事やらなくてもいいですねぇ」
「ええ。日本が勝ったら、その時点で仕事を止めましょう」
「そうですね。止めましょう、止めましょう」

極限状態なので、そんなことしか考えられない。
現実逃避もいいところだが、誰もそんなことには気付かない。

「1999年7月に世界は滅亡するらしいよ」
「じゃあ、勉強するのやーめた」
「どうせ滅亡するなら、それまで遊んだほうが得だよな」

などと、青いことを言っていた小学生時代と同レベルだ。
人間、疲れすぎると、目も当てられないほどアホになっていく。
情けない話だが、数日前の偽らざる事実である。

結局この日、日本はロスタイムまで粘って劇的な勝利を収めた。

もちろんテポドンは飛んでこなかったし、
僕らの仕事も、なんとか最後まで終えることができた。

マヌケではあるが、めでたく晴れ晴れしい夜だった。

テポドンだの、粛清だの物騒な情報が乱れ飛んだ北朝鮮戦だったが、
僕の見ていた限りでは、フェアに進行された試合だったように思う。

ラフプレーもなかった訳ではないが、それは勝負の範囲内だろう。
審判のジャッジも、北朝鮮チームとは無関係の話だ。

となると、俄然、6月のアウェイ戦に興味が行く。

次なる試合会場は、平壌の金日成スタジアムなのだ。

すでにサッカー観戦ツアーの話が出回っており、
一緒に、多少の観光もできるらしいとの情報がある。
ツアー費用は高額だが、北朝鮮ツアーにしては割安らしい。

サッカーが見られるだけでなく、観光までついてくる。

そんな情報を耳にしているうちに、
段々と、ある考えが僕の頭を支配してきた。

「これは北朝鮮料理を食べに行くチャンスかも……」

普段であれば、おいそれとは行くことの出来ない国。

もちろん行こうと思えば、行けないことはないのだが、
よほどの動機がないと、踏ん切りがつけにくいのもまた事実である。
行っても大丈夫なのか、という不安もあるだろう。

だが、サッカー観戦となると話は少し変わってくる。

僕は韓国(朝鮮)料理好きで、サッカーも大好き。
その両者が融合するとなると、魅力は倍増以上となる。

「ん、ん、ん、北朝鮮かぁ……」

実際に行くかどうかは、まだしばらく悩むとして、
いい機会なので、北朝鮮料理についてまとめてみようと思う。

もし行くとしたら、ぜひ食べたいもの。

なにしろ北朝鮮の料理は、韓国(朝鮮)料理の中でも、
特に魅力的なものばかりなのだ。

もちろん本場モノはまだ食べたことがないが、
韓国でもいくらかは、北朝鮮料理を食べることができる。

話に聞いたものも含め、現時点での手持ち情報を並べたい。

まず、北朝鮮で食べたいものといえば、何をおいても冷麺だろう。

スープのある冷麺も、辛いタレを混ぜるピビン冷麺も、
どちらも北朝鮮を代表する料理として知られている。

スープのある冷麺は北朝鮮の首都である平壌が本場。
ピビン冷麺は東北部の咸興(ハムン)というところが本場だ。

どちらも魅力的だが、その中でも特に食べてみたいのが玉流館の冷麺。

玉流館は1960年に開店した超高級レストランのこと。
平壌を流れる大同江沿いに、豪華な本館と別館が並んで立っており、
国内外のVIPをはじめ、日々多くの客が招かれている。

2000年に行われた南北頂上会談の際には、
金大中大統領もこの玉流館で冷麺を食べたそうだ。

韓国で食べるどんな冷麺も、玉流館の冷麺には遠く及ばない。

そう語られる冷麺は、一体どんな味なのだろう。

北朝鮮といえば冷麺。冷麺といえば玉流館。
玉流館の冷麺をぜひとも味わってみたい。

冷麺と並んで有名な北朝鮮料理はマンドゥである。

マンドゥとは漢字で「饅頭」と書いて餃子のこと。
中国から近いため、北では餃子文化が発達している。

もっとも有名なのが、38度線近くの開城(ケソン)。

かつて高麗の都として栄えた町で、
朝鮮時代以前の宮廷料理を現代に残している。

開城マンドゥの名声は朝鮮半島全域に轟いており、
韓国内でも、脱北してきた人たちが専門店を開業している。

肉まんほどもあろうかという大きさが売りで、
中の具も、ひき肉に加え、豆腐、キムチ、各種野菜と豪華だ。
また、スープに入れて食べてもうまい。

開城で生まれた料理は数多く、料理にまつわる逸話も多い。

開城で生まれたとされるポッサムキムチは、
たくさんの具を入れることから、キムチの王様と呼ばれている。

セリ、大根などの野菜をはじめ、タコや牡蠣などの海産物、
栗、ナツメ、クコの実、松の実などまでが入る超豪華版キムチ。
これらの具をぐるっと白菜で巻いて作る。

正月に食べるトックク(雑煮)も一味違う。

通常、韓国で食べるトッククといえば、小判型の薄い餅を入れるが、
開城では雪だるま型の、一風変わった餅を入れて作る。

なんともかわいい形をした餅だが、由来は意外に血なまぐさい。

高麗を滅亡させ、朝鮮王朝を築いた李成桂の首がモチーフとされ、
胴体と首を切り離すという意味で、雪だるま型の餅が作られたのだとか。

もうひとつ。韓国では馴染みのない言い方だが、
タンバンと呼ばれる料理も、開城の名物料理のひとつだ。

タンバンは漢字で書くと「湯飯」。

スープの中にごはんを入れた、いわゆるクッパプ料理だが、
開城タンバンは、なんと朝鮮3大料理のひとつに数えられている。

朝鮮3大料理の残り2つは、平壌冷麺と全州ビビンバ。
これらと並び称されるほどのクッパプとは一体いかなる料理か。

開城に行けることがあったら、腹がはじけるほど食べてみたいと思う。

冷麺、マンドゥの次は、スンデだろうか。

スンデとはいわゆる腸詰のこと。

韓国では屋台でよく売られており、
豚の腸の中に春雨や野菜、豚の血などが入る。

北朝鮮式は、小腸でなく大腸を使った太いスンデ。

俗にアバイスンデと呼ばれるもので、
アバイとは北朝鮮の方言で「お父さん」のことだ。

このアバイスンデはとにかく贅沢さが売りで、
具には野菜、ひき肉のほか、モチ米、豆腐までがたっぷりと入る。

これを食べてしまうと、屋台のスンデは物足りない。
ぎっしりと具の詰まった本場のスンデをぜひ食べてみたい。

さて、ここまでずらずらと書いてきて、
最後にきっちりとオチをつけたいと思う。

というより、ここからの話を書きたくて、
北朝鮮の代表的料理を並べ立てたといっても過言ではない。

正直に言おう。ここからがメインだ。

ここまでの料理は、いわば表通りの料理である。
冷麺も、マンドゥも、スンデも、古くからの伝統的料理。
北朝鮮という国が、継承し、守っている味に過ぎない。

北朝鮮が本場であることは確かだが、
韓国でも食べようと思えば食べられないこともない。

どこぞの歌の文句を借りるならば、
ナンバー1であって、オンリー1ではないのだ。

もちろんナンバー1を否定する訳ではないが、
それだけでは、また寂しいのも事実。

北朝鮮で食べてこそうまい料理があるのならば、
北朝鮮でしか食べられない料理もあって欲しい。

北朝鮮ならではの料理をぜひ食べてみたい。

というわけで、選んだ一品。
驚くなかれ。北朝鮮にはこんな料理もあるのだ。

「ハマグリのガソリン焼き」

いやはや、凄まじい名前の料理があったものだ。

この料理を知ったのは、とある新聞記事でだった。

今もスクラップしてきちんと保存してある。
正確には2001年10月19日の朝鮮日報だ。

内容を一部、引用してみよう。

「ハマグリのガソリン焼きは野外で楽しむ珍味」
「ガソリンと聞いてしかめた顔が、食べた瞬間にさっと和らぐ」
「ガソリンのにおいはまったくせず、新鮮な味がそのまま活きている」
「ガソリンのかわりにアルコールを使うとさらに高級料理となる」

記事には写真が1枚添えられており、
砂利の上に並べられたハマグリが赤い炎に包まれている。

その名の通り、ハマグリにガソリンを振り掛けて焼く豪快な料理だ。

ガソリンなんかで焼くと、真っ黒になってしまいそうだが、
写真で見る限り、そんなことはないようだ。

一体どんな味になるのだろう。
本当にガソリンのにおいはしないのだろうか。
ハマグリの旨味はそのまま残るのか。

料理としてのおいしさはまた別として、
話のネタを考えるなら、文句なしの1位に違いない。

「北朝鮮でハマグリのガソリン焼きを食べてきました」

その一言の自慢話をするためだけでも、
北朝鮮まで行く甲斐があるというものだろう。

冷麺、マンドゥ、スンデ、そしてハマグリのガソリン焼き。

これらを味わうために、ぜひとも北朝鮮に行きたい。
あ、本当に行くかどうかは別としてね。

<お知らせ>
北朝鮮料理の写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<お知らせ2>
『目からウロコのハングル練習帳』は好評発売中。
3月中には増刷となる見込みです。

書籍刊行情報
http://www.koparis.com/~hatta/news/news_000.htm
表紙紹介ページ
http://www.koparis.com/~hatta/news/news_008.htm
内容紹介ページ
http://www.koparis.com/~hatta/news/news_009.htm

<八田氏の独り言>
観戦ツアーの値段は3泊4日で25万円ほどだそうです。
ソウルからちょっと北に行くだけなのに、5倍くらい高いです。

コリアうめーや!!第95号
2005年2月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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