コリアうめーや!!第94号
<ごあいさつ>
2月になりました。
早いもので、新年からもう1ヶ月です。
雑煮、お節料理はどこへやら。
気付けば目の前に、丸かぶり寿司が迫っています。
ちなみにお隣韓国では、これからがお正月。
陰暦で祝うため、今年は2月9日が新年となります。
隣の芝生は青く見える……じゃないですが、
ちょっとうらやましいというのも本音ですよね。
ああ、正月休みが懐かしい……。
ま、そんなことをブツブツ言っても仕方ないので、
気を取り直して、今号のテーマを紹介しましょう。
今回はなんと、かつてない大チャレンジをしてきました。
世界初、世界唯一の韓国料理を自ら製作。
その感動と興奮のリポートをお届けします。
コリアうめーや!!第94号。
未知なる世界へ、スタートです。
<プデチゲを超える師団チゲを作成!!>
プデチゲという料理がある。
ハムやソーセージが入った洋風のチゲ。
プデチゲのプデは「部隊」のことを表し、
直訳すると「部隊チゲ」、または「部隊鍋」となる。
なんとも物々しい名前だが、この名前にはちょっとした訳がある。
プデチゲが誕生したのは、朝鮮戦争後の食料が乏しい時代。
米軍基地からの流出食材でチゲを作ったのが始まりだ。
部隊で食べる食材を使ったから、部隊チゲ。
苦肉の策から生まれた料理だったが、
食べてみると意外にも相性がよかった。
これが人気を得て、徐々に全国各地へと広まり、
今では韓国を代表する料理のひとつとなっている。
と、普通にプデチゲの解説をしたところで、
態度をくるっとかえ、プデチゲに苦言を呈したいと思う。
いきなり料理に向かって苦言もないものだが、
常々、このプデチゲという料理には、思うところがあった。
誤解ないように、前もって言っておこう。
決して、プデチゲという料理が嫌いなわけではない。
むしろ韓国料理の中でも、好きな部類に入る。
嫌いではないのだが、なんとも残念なことがひとつだけあるのだ。
僕は声を大にして言おう。
プデチゲは自らの可能性を活かし切っていない!
もっともっと可能性に満ち溢れているはず。
プデチゲは韓国料理の中でも特別な存在なのだ。
普通の韓国料理では考えられない材料を使いつつ、
それでいてきちんと韓国料理の枠組みに収まっている。
未知なる食材を、がっしりと受け止めた料理。
韓国料理の概念を、大幅に塗り替えた料理。
フロンティアスピリットあふれる料理なのである。
だからこそ、僕は思う。
プデチゲはまだまだ進化できるのではないか。
韓国中で広く愛されるようになった今こそ、
さらなる高みを目指して、生まれ変わるべきではないか。
そう、それはプデチゲを超えるプデチゲ。
「師団チゲ」を目指すのだ!!
という、身勝手な理屈をこしらえたのが昨年末。
「師団チゲ」とは「部隊チゲ」よりも大規模という意味である。
実際にそういう料理がある訳でもなんでもなく、
まったくの創作、まったくのお遊び料理だ。
ちなみに、いろいろ御託を並べ立てたが、
言わんとすることは、特にたいしたことではない。
従来のプデチゲにはない、新たな食材を試してみようということ。
いろいろな材料を集めて、片っ端からプデチゲに入れてみる。
平たく言えば、韓国式の「闇鍋」をやろうじゃないか、ということだ。
プデチゲよりも具をたくさん入れるから師団チゲ。
内容があまりないときは、ネーミングで脅かすという、
企画の基本を忠実に守ったイベントを開催してみた。
参加者はホームページの掲示板で募集した。
アホな企画ではあるが、参加者はありがたいことに8名。
しかもこのえらく寒い時期に、会場はよりによって野外である。
料理の出来る適当な場所が屋内で見当たらず、
じゃあ、外でやろうか、というくらいの軽い気持ちであったが、
実際にやってみると、間抜けさが度を増しただけだった。
会場となったのは、東京湾に面するオートキャンプ場。
1月にわざわざキャンプをしに行く人はいないと見えて、
キャンプ場は笑ってしまうくらい見事な貸切状態だった。
現地に到着し、まずは食材の整理から始める。
一般的にプデチゲに使われる材料というと、こんな感じである。
スパム、ソーセージ、チーズ、インスタントラーメン、
オデンの練り物、韓国餅、豆腐、野菜・キノコ類、白菜キムチ。
具だくさんなイメージの料理だが、それでも普通は10数種類。
20種類を越すことは、まずないだろう。
だが、師団チゲはプデチゲの上をゆくチゲでなければならない。
我々が用意した食材は、次のようになった。
豚肉、タマネギ、ジャガイモ、長ネギ、ニンニク、サツマイモ、
シイタケ、シメジ、エノキダケ、リンゴ、スパム、うずらの卵、
コーン、ウインナー、豆腐、白菜キムチ、スライスチーズ、きりたんぽ、
マロニーちゃん、博多ラーメン、稲庭うどん、焼売、油揚げ、
餅、おでん種(はんぺん、コンニャクなど8種類)。
おでん種をひとつずつ数えると、全部でなんと32種類。
通常のプデチゲに比べ、食材の数は倍以上。
これだけあれば、師団を名乗ってもおかしくあるまい。
特筆すべきは、野菜類の隙間にリンゴが加えられている点。
他の食材は、なんとなく味の想像がつくが、
リンゴだけは食べてみるまで、結果がどうなるかわからなかった。
また、プデチゲが洋風の加工品を多く使用したチゲであることから、
きりたんぽ、焼売といった加工食品を多く準備している。
調理方法は、極力シンプルを心がけた。
具が大量なだけに、ややこしい調理はなるべく避けたい。
ベースとなるチゲをまず作り、そこにもろもろの具を投入する方式をとった。
まず鍋に野菜、豚肉を入れて炒め、そこに水を注ぐ。
水が沸騰したら、白菜キムチ、唐辛子、塩、醤油などで味をつける。
ソーセージなどの肉系加工品から順番に足していく。
正式なプデチゲの作り方とは異なるが、大量に作るときはこの方式が便利だ。
チゲのベースがある程度整ったところで、
シイタケ、シメジなどのキノコ類、缶詰類を投入していく。
リンゴもきちんとスライスされ、ちょっと見た限りでは野菜のようだ。
スライスチーズをたっぷりと乗せ、缶詰コーンもざらざらと入れる。
うずらの卵がプカプカと浮かび、きりたんぽがそこにぶつかる。
全部の具は入りきらず、2陣に分けるほどのごった煮感。
すべての具が入った頃には、鍋の中が満員電車のようになっていた。
無節操な具の混在ぶりはいかにも心配だったが、
何はともあれ、これで師団チゲの完成である。
さて、料理が完成したら後は食べるのみ。
「ようし、食べよう!」
の掛け声とともに、一同が割り箸と紙皿を持って集結。
我先にと争いつつ、鍋にお玉を投入していく。
すると、その時点でまず驚愕の事実が判明した。
お玉ひとすくいごとに、それぞれ違う食材が運ばれてくる。
鍋の中から、何が飛び出してくるのか、まったく予測がつかない。
食事の盛り付けというよりも、海に投網でも打つような感覚。
普通の鍋料理とは、また違う興奮である。
食べ始めると同時に、あちこちから色々な声があがる。
「むむっ、チーズが溶けてスープがすごくまろやか!」
「リンゴの酸味と甘味がきちんとスープに溶け出ている!」
「うーん、リンゴそのものも別に嫌じゃない!」
「コーンがけっこう利いている!」
あれだけ、節操のない材料構成でありながら、
不思議とまとまった感じがあるのは、チゲのフトコロの深さだろうか。
食材それぞれが少しずつ自分の持ち味を活かし、
上手に喧嘩しないまま、複雑でいい味わいを創りあげていた。
「ふむぅ、不思議だ。普通にうまい」
「具はむちゃくちゃだけど、きちんとチゲになっている」
「これは2度と作れない料理だねえ」
みんながそれぞれの言葉で褒める。
ただの闇鍋で終わることも覚悟していたが、
普通においしい料理となったようだ。
参加した皆が、それぞれ空腹だったこともあり、
鍋いっぱいの師団チゲは、あっという間になくなった。
鍋をいったん空にし、第2陣の具を投入する。
今度はおでん種を中心に、焼売、餅などボリュームのある食材。
第2陣で人気が高かったのは、焼売、はんぺん、がんもどきなどだった。
焼売の相性のよさは、事前に予想された通りだったが、
おでん系の材料は、合う食材と、合わない食材がきっぱり分かれた。
はんぺん、がんもどきなど、クセのない具はほとんどOK。
基本的にチゲのスープが染み込んでいく食材は、よく合うらしい。
逆に、スープの染み込まない材料は、食材の味がそのまま残った。
コンニャクはコンニャクの味のまま。
ゴボウ巻きも、ゴボウ巻きの味でしかない。
決してまずくはないものの、食材と味付けに一体感がない。
互いが自己主張をするだけで、相容れる部分は見受けられなかった。
というあたりから、師団チゲの結論。
チゲの味付けは、かなりの食材を受け止めることが出来る。
スープの染み込みにくい食材は使いにくい。
この2点に尽きるであろう。
これを教訓にさらなる具の可能性を追い求めたい。
最後に好評だった具だけを選出し、プデチゲを再構成してみよう。
まず、既存部隊から下記の6食材を選出。
豚肉、スパム、ソーセージ、白菜キムチ、長ネギ、スライスチーズ。
いずれもプデチゲには欠かせない食材ばかりである。
そして、新規参入部隊から追加として6食材。
コーン、うずらの卵、焼売、はんぺん、マロニーちゃん、稲庭うどん。
既存の6種類に、新規の6種類を加え、
これを次世代の進化型プデチゲと指定したい。
名付けて、特殊部隊チゲ。
師団の中から精鋭だけを集めた、最強の部隊である。
いずれまた、この特殊部隊チゲを個別に製作し、
その味の素晴らしさを確かめてみたいと思う。
<お知らせ>
師団チゲの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/
<お知らせ2>
『目からウロコのハングル練習帳』は好評発売中。
売れ行き好調を受けて、増刷の声も聞こえてきました。
書籍刊行情報
http://www.koparis.com/~hatta/news/news_000.htm
表紙紹介ページ
http://www.koparis.com/~hatta/news/news_008.htm
内容紹介ページ
http://www.koparis.com/~hatta/news/news_009.htm
<八田氏の独り言>
野外で韓国料理は意外に楽しいです。
暖かくなってきたら、また企画したいですね。
コリアうめーや!!第94号
2005年2月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com