コリアうめーや!!第276号
<ごあいさつ>
9月1日になりました。
夏が過ぎて、秋を迎える9月ですが、
いまのところ涼しさの気配は見えません。
先週、韓国出張に出かけていた頃は、
毎日雨がちで、けっこう涼しかったんですけどね。
東京に戻ってきたら、気合いの入った夏空で、
秋から夏に、逆戻りしたような感覚です。
あと少し……の辛抱でしょうか。
さて、そんな中、今号のテーマですが、
その出張先からの話をまず切り出してみます。
前もって、ひとつお断りをいれますが、
出張直後にもかかわらず、地味な話題です。
いずれ派手な話も用意しますので、
ひとまずお付き合い頂ければ幸いです。
コリアうめーや!!第276号。
ひと呼吸外しての、スタートです。
<江原道はパンチャン天国なのだ!!>
8月下旬に7泊8日の日程で韓国に行ってきた。
久しぶりの自主取材で、仕事というよりは、
行きたいところに行く、自由なひとり旅だった。
なので、7泊8日の内訳はこんな感じ。
1日目:仁川空港着→水原泊
2日目:水原→ソウル泊
3日目:ソウル→江陵泊
4日目:江陵→襄陽(五色薬水)泊
5日目:襄陽→束草→襄陽(洛山)泊
6日目:襄陽→高城→東海泊
7日目:東海→旌善→横城泊
8日目:横城→春川→帰国
もちろん、こうやってつらつら並べても、
地理がわからなければ、訳がわからないだろう。
ざっくりと書けば、3日目の午後までは首都圏にいて、
その夜からはずっと江原道(カンウォンド)にいた。
江原道は韓国の東北部に位置する地域。
東海岸に面して、豊富な魚介料理が味わえるほか、
内陸部では山菜料理や、肉料理が楽しめる。
海と山の両方を、いっぺんに満喫できるのが魅力だ。
ちなみに僕が江原道を訪れたのは……。
2000年夏:留学時代に海水浴で2泊3日
2003年冬:全国行脚の旅行中に4泊5日
2011年冬:自主取材として2泊3日
というわずか3度。
全部を合計しても11日間(8泊)。
韓国の津々浦々を、10年以上食べ歩いてきて、
わずか11日間しか滞在の経験がない。
しかも、2003年にまとめて行った後は、
2011年まで、8年間もブランクが空いている。
行きたい地域、食べたい料理は山ほどあるのに、
どうしたことか、足を運ぶ機会がなかった。
「これではいけない!」
と一念発起し、昨年12月とそして今回、
できるだけの町をわっと回ってきたという訳だ。
2012年夏:自主取材として5泊6日
これを追加し、それでもまだまだヌケの地域はあるが、
とりあえず、めぼしいところはすべて回った。
江原道の食をざっと俯瞰できたのは大きい。
そのうえで、いざ報告ということなのだが、
タイトルをもう1度振り返って頂きたい。
「江原道はパンチャン天国なのだ!!」
うむ、ビシッと決まった。
今回の発見として、まず語るべきと判断したのが、
江原道におけるパンチャンの素晴らしさだ。
ただ、多くの人の反応としては、
「は? パンチャン……?」
というのが大多数であろう。
パンチャンとは本来、おかずの総称だが、
飲食店においては、メイン料理につく副菜を示す。
小皿に盛られた、キムチやナムルなどの総菜類。
これらがずらりと並んで、韓国の食卓は構成される。
すでに手アカのついたような情報だが、
一応、ガイドブック的にしっかり説明すると……。
・韓国では料理を注文すると副菜がたくさんつく
・これらの副菜は料金を別途請求されるものではない
・気に入ったものがあったら、おかわりも自由
こんな感じの情報が基本であろう。
逆に韓国のガイドブックであれば……。
・日本での食事はパンチャンがないことも多い
・あっても、たくあん2~3枚というのは珍しくない
・パンチャンは基本的にお金を出して頼むもの
といった情報が載っている。
確かに、日本では定食店を利用するならまだしも、
麺類や、丼ものを頼んだら、基本的に副菜はつかない。
天丼を頼んで、天丼だけがどーんと出てくるシステムは、
韓国人にとっては、驚愕の光景であるらしい。
日韓における、外食の基本的な違いといえるが、
この話はあくまでも脱線であり、本筋とは異なる。
江原道のパンチャンが素晴らしかった。
これは決して、メイン料理への皮肉ではない。
メインの料理もたいへん素晴らしかったが、
そのうえで、パンチャンの魅力に発見があった。
「江原道料理の神髄はパンチャンにあり!」
とまで大風呂敷を広げてよいかは微妙だが、
滞在中、パンチャンのレベルに驚きっぱなしだった。
その理由として、次のようなものがあげられる。
・江原道は自然の恵みが豊富な地域である
・海沿いの地域では旬の魚介がパンチャンになる
・山間部では山菜やキノコがパンチャンになる
・いずれも土地のもので郷土性に富んでいる
もちろん地元の食材がパンチャンに加わるのは、
江原道に限ったことではなく、他地域でも同じだ。
だが今回、あちこちの町を巡りつつ、
「おっ!」
と思わせるパンチャンの比率が高かった。
初めて見る料理は、どうしてもメインに目を奪われるが、
にもかかわらず、目を引くパンチャンが多かった。
以下に事例を並べてみるとしよう。
事例1:ソンイプルコギの場合
襄陽で食べたマツタケ入りのプルコギ(牛焼肉)。
マツタケは地元の名産であり、日本と同じく旬は秋だが、
急速冷凍したものを、専門店では通年で出している。
パンチャンにはいろいろなキノコ料理があり、
メインのマツタケも含めて、キノコ尽くしになっていた。
生のシイタケを酢醤油につけて刺身風に味わうもの。
キクラゲをチョジャン(唐辛子酢味噌)で和えたもの。
エノキダケをマヨネーズソースで和えたもの。
いずれも主役に劣らぬ素晴らしい味わいだった。
事例2:ミョンテチリククの場合
高城はスケトウダラの産地として有名。
それを澄まし仕立てにした鍋がミョンテチリクク。
スケトウダラの魅力をストレートに楽しめる。
そんな主菜を、後方支援するかのように、
パンチャンのほうもスケトウダラがちらほら。
スケトウダラのアラを甘く煮付けたものと、
たっぷりの明太子(スケトウダラの卵の塩辛)。
これに同じく名物であるスルメイカの塩辛なども加えて、
なんとも、ごはんの進む食事となった。
事例3:コムチククの場合
東海や三陟の名物として知られるコムチは、
日本語でクサウオと呼ばれる珍妙な見た目の魚。
びろーんと、だらしない体型をしているが、
食べてみると、上品な白身で美味しい。
これを古漬けのキムチと煮込んだコムチククは、
江原道の東海岸における、朝ごはんの定番。
特に飲んだ翌日には、最適とされている。
そんなコムチククと一緒に出てきたパンチャンが、
同じく江原道料理のカジャミシッケ(カレイの馴れ寿司)。
酢でシメたような食感と、えもいわれぬ発酵の旨味。
江原道が誇る、魚文化、発酵文化の象徴である。
いずれのパンチャンもメインの料理を食べながら、
箸休めではなく、それら自身を夢中で味わった。
満喫したのは、やはりというか江原道らしさ。
パンチャンのひと品、ひと品に着目することで、
そこからもしっかりと郷土性が見えてくる。
そして、これら料理の特筆すべき希少性として……。
・目指して食べるのが非常に難しい
というパンチャンならではの特徴を指摘したい。
主菜となる料理なら、いずれも専門店がある。
だが、パンチャンとして出てくる脇役の郷土料理は、
ここに行けば食べられるという保証がない。
観光客の立場からすると、運否天賦の出会いであり、
場合によっては、千載一遇の機会かもしれない。
ここでこの料理に出会えたという一期一会の喜びを、
ひとつのパンチャンに見出したとき……。
「江原道はパンチャン天国なのだ!!」
という結論に達した。
瑣末なことに興奮しているかもしれないが、
今回、江原道で見つけた自分なりの感動。
目を開かせてくれたのは、まさに江原道が誇る、
パンチャンの素晴らしさにほかならない。
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<リンク>
ブログ「韓食日記」
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<八田氏の独り言>
僕の主張はともかく本当に素晴らしい、
数多くのパンチャンに出会った毎日でした。
コリアうめーや!!第276号
2012年9月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com
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