コリアうめーや!!第269号
<ごあいさつ>
5月15日になりました。
連休という、仕事三昧の日々が終わり、
平日という、仕事三昧の日々を過ごしています。
忙しいのはよいことなんですけどね。
バタバタしすぎて、仕事をおろそかにしないよう、
日々、集中して頑張りたいと思います。
なーんて、殊勝なことを書いてみたりして。
さて、そんな中、今号のテーマですが、
前号に引き続き、潭陽を舞台とします。
個性的なタケノコ料理も大きな魅力ですが、
その前に潭陽といえば、やっぱりコレ。
個人的にも念願かなった体験となりました。
コリアうめーや!!第269号。
まずはランキングから、スタートです。
<潭陽で味わう老舗のトッカルビ!!>
仕事をしていてどうにも行き詰まり、
無関係な作業に没頭してしまうことはよくある。
デスクまわりの整理整頓なんかはまさにそうだが、
僕の場合は、細かなデータ作成が多い。
エクセルを開いて、セコセコと情報をまとめ、
ひとり悦に入るというのは何よりの逃避。
いつの間にやら膨大な労力を傾けてしまい、
妙な達成感とは裏腹に、ずっしりと疲労が積もる。
その時点で、ようやく我に返り、
「仕事がまるで進んでいない!」
という無慈悲な現実に引き戻される。
呆然とする中、それでも締切は厳然と存在し、
結局は泣きながら仕事に立ち向かう。
とはいえ、そんなデータも無駄にはならない。
目の前の仕事とは無関係であっても、
長い目で見れば、どこかの局面では役立つのだ。
例えば、先ほどまで作っていたデータは、
このメルマガにも有効活用できる。
<自分が行った韓国の老舗ベスト20>
01位、1890年?:平山屋(釜山)
02位、1902年:里門ソルロンタン(ソウル)
03位、1909年:申食堂(潭陽)
04位、1910年:ハヤンチプ(羅州)
05位、1927年:咸陽チプ(蔚山)
06位、1929年:天鳳食堂(晋州)
07位、1930年?:東莱ハルメパジョン(釜山)
08位、1932年:湧金屋(ソウル)
09位、1937年:清進屋(ソウル)
10位、1939年:河東館(ソウル)
11位、1939年:皇南パン(慶州)
12位、1942年:迎春屋(ソウル)
13位、1945年:イソンダン(群山)
14位、1946年:クギルタロクッパプ(大邱)
15位、1946年:又来屋(ソウル)
16位、1948年:安東荘(ソウル)
17位、1949年:麻浦屋(ソウル)
18位、1949年?:チュンドンホットク(群山)
19位、1950年:平来屋(ソウル)
20位、1950年:ヨルチャチプ(ソウル)
ひとつ注意しなければいけないのが、
これはあくまでも、僕が行った店のベスト20。
韓国全土の老舗ランキングではない。
また、韓国の店は創業年度は俗説も多く、
店側が公式に名乗っているのか不明なものも多い。
特に1位の「平山屋」は1890年となっているが、
店側からの情報発信は見つけられなかった。
ネットで検索をすると、100年以上という記述が多く、
それが果たしてどこまで正確なのかはわからない。
個人的にも韓国でいちばん古い飲食店は、
1902年創業の「里門ソルロンタン」と聞いていた。
いずれ機会があれば「平山屋」で確認したい。
そもそもなぜこんなランキングを作ったかというと、
3位に入っている「申食堂」がきっかけだった。
昨年の12月に訪れた全羅南道潭陽郡の老舗。
前号でも、潭陽のタケノコ料理をテーマにしたが、
潭陽といえばほかにも有名な料理がある。
それが個人的にも大好物のトッカルビ。
上質の牛カルビをいったん叩いてから味付けし、
食感を柔らかくした焼肉のことである。
料理の詳細については後で語るとして、
この料理の専門店である「申食堂」の歴史がすごい。
創業1909年というと……。
「なんと、103年前!」
日本であればそこまで珍しい話でもないが、
韓国において100年オーバーは相当に希少。
大韓民国なんて、当然のごとく成立していないし、
まして、日本統治期でもなく……。
「大韓帝国時代の末期にオープン!」
という店が潭陽にあるというのは驚きだ。
そんなところから、韓国の老舗情報を調べ始め、
いつしか自分自身のランキングに至った。
仕事は進まなかったが、楽しい作業であり、
今後はこれを塗り替える店探しを楽しみたいと思う。
そして、ここからは余談だが、ついでに気になったので、
「日本最古の飲食店」で検索で調べてみた。
出てきたのは、京都市の「一文字屋和助」という甘味店。
西暦1000(長保2)年創業とケタが違う。
平安時代の後期にオープン!
と思うと、韓国の1909年が軽く見えるので、
これはスパッと忘れて潭陽の話へと戻る。
「申食堂」で出迎えてくれたのは、
4代目の若女将であった(3代目も健在)。
この老舗に嫁いで10年目とのこと。
最近でこそ、実の娘が後を継ぐことも増えてきたが、
たいてい店の秘伝は、嫁から嫁へと受け継がれる。
幼い頃から、商売の現場を見ている訳ではないので、
大変だろうなと、取材しながらもたびたび思う。
4代目の若女将は店の歴史から語ってくれた。
「初代が店を始めた頃は市場での商いでした」
「当時はチュオタン(ドジョウ汁)などがメインで……」
「トッカルビは特別なお客さんにだけ出したそうです」
「当時の牛肉といえばとても高価ですからね」
「その後も、汁物やビビンバなどを扱いつつ……」
「トッカルビ専門にしたのは90年代頃です」
「いまの3代目が専門店にしました」
こうした話はどこの老舗でもほぼ共通する。
市場で商売を始めた初代が、店を構えて家業とし、
それを代々続ける間に、やがて国民所得が上昇。
観光需要も増えて、地方の郷土料理が評価されるようになり、
土地ごとの老舗が「元祖」として全国に名を轟かせる。
また、店の自慢はもちろん歴史だけではない。
「ウチは全羅南道産の韓牛だけを使います」
「醤油、味噌、コチュジャン、キムチはすべて自家製」
「お客様に料理のことを知ってもらうために……」
「肉をカットするところは公開しています」
肉を切り分ける姿は、いい宣伝にもなるようだ。
残念ながら、その日の仕込み作業は終了していたので、
かわりに炭火で焼くところを見せてもらった。
作業を見学しつつ、さらに話を伺う。
「骨から外したカルビは叩いて餅型にします」
「その姿からトッ(餅)カルビと名付けられたそうです」
「餅のように柔らかいという意味もありますね」
「叩いた後に味付けをする店もありますが」
「ウチでは焼きながらタレを塗っていきます」
「自家製の醤油をベースに香味野菜や果物を加え……」
「じっくり1週間熟成させたものを使います」
焼き網はパタンと畳んで全体を返せるもの。
それに12個のかたまりを載せ、タレを塗りながら、
ときおり肉を入れ替えて、熱の通りを均一にする。
簡単そうに見えても、奥の深い技術だろう。
やがて醤油の焦げる香りが立ち上り、
ムラなく焼き目がついたら出来上がり。
「じゃあ、食べて行ってください」
という若女将の言葉に、
ありがたくいそいそと座席に戻る。
目の前に運ばれてきたトッカルビは、
表面を見ると、ぷちぷちと脂が弾けていた。
宮中料理店などで見かけるトッカルビに比べ、
サイズがだいぶ大きく迫力に満ちている。
餅のように柔らかく、という紹介よりも、
むしろストレートに、
「肉塊!」
のほうがしっかりくる。
郷土料理ならではのどっしり感が嬉しい。
期待を胸に、大口を開けてかじりつくと、
たっぷりの肉汁がぴゅんぴゅんと流れ込んできた。
タレの甘味はほんのりで、むしろ控えめな印象。
より強く感じるのは、肉そのものの味である。
そして、食感がなんとも肉々しい。
ハンバーグのような柔らかい食感ではなく、
ギュッと噛みしめて味わうステーキのような感覚。
完全に叩かず、肉としての粗さを残しているため、
噛むごとににじみ出る、肉の旨味を楽しめる。
「トッカルビとはこんなにも骨太な料理だったか!」
久しぶりに郷土料理で目からウロコが落ちた。
「いかがですか?」
若女将の問いに満面の笑顔で親指を立てる。
お世辞抜きで、なんとも幸せな食事であった。
ちなみに、トッカルビを食べた後のシメは、
チャンチグクス(温麺)が定番であるとのこと。
そちらも美味しく頂いたところで、さらにもうひとつ、
衝撃の情報が若女将から告げられた。
「ウチはカルビタン(牛カルビスープ)も人気なんですよ」
なるほど、これだけ旨いトッカルビがあるなら、
当然、その周辺部位で作ったカルビタンもうまかろう。
せっかくなので、それもと思ったが、
残念なことに、1日4~50杯限定で売り切れ御免。
「ランチ開始から30分でなくなることもあります」
とのことなので、昼にまた行かねばなるまい。
無念ではあるものの、宿題を残してこそ、
また足を運ぶための強い動機になるというもの。
これだけ魅力的な食模様がある土地だけに、
潭陽はまたぜひとも訪れたいと思う。
潭陽までは光州からバスで40分ほど。
美しい竹林や、竹細工、タケノコ料理も含め、
足を伸ばして絶対損のない町と、強くおすすめしたい。
<店舗情報>
店名:申食堂
住所:全羅南道潭陽郡潭陽邑潭州里68
電話:061-382-9901
<リンク>
ブログ「韓食日記」
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<八田氏の独り言>
潭陽からさらに淳昌までもバスで30分。
このあたりは効率的に美食巡りができます。
コリアうめーや!!第269号
2012年5月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com
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