済州島グルメツアー下見報告(1)から続きます。
下見報告(1)でも書きましたが、3月のツアーはミステリーツアー(参加者のみ2週間前に行程を告知)になっております。中身は内緒なので詳細は書けませんが、それでも今回の記事は本番の内容に若干肉薄している「可能性」があります。決して断言はできませんが、実際に参加を予定している方にはネタバレになる「可能性」がありますので、お読みになる際はその点をご了承ください。
冒頭の写真は済州島の南東側、城山邑新豊里というところから眺めた海です。
済州島の代表的な観光地である城邑民俗村や、済州民俗村からもほど近い場所に、写真のような建物があります。たくさんのパイプは先ほどの海から海水を汲み上げるためのもの。
パイプの先には……。
こんな空間が広がっており……。
たくさんのヒラメがビチビチと跳ねています。
いえ、ビチビチ跳ねているのは写真用にすくい上げてもらったからですね。実際は養魚場の底面でおとなしくしていますが、ちょっとでも人の気配を感じると、シュババババッとすごい勢いで動きまわります。なんとなく砂の中でじっとしている印象のあるヒラメですが、予想以上に動きが俊敏であることを初めて知りました。
というより、養殖を海でなく陸で行っているのも初めて知ったぐらい。
僕が事前に知っていたのは、済州島といえばヒラメの名産地。日本でも多く輸入している。同じく済州島の名産であるサボテンの実を食べて育つので「サボテンヒラメ(백년초광어)」と呼ばれる。ときおりフーデックスなどのイベントでサボテンヒラメを紹介するブースが出ていて、そこで試食をさせてくれる握り寿司がいつも大人気で美味しい。
そのぐらいでしょうか。
あ、あと把握していたのは、拙著『食の日韓論 ボクらは同じものを食べている』(p53)にも書いたのですが、韓国から日本にやってくる水産物というと「アワビ、ヒラメ、海苔」が三本柱ということ。これまで三進トラベルのツアーでは、2015年に全羅南道莞島郡でアワビの養殖場を、2016年に忠清南道洪城郡で海苔の生産工場を見学しましたので、残るはヒラメだなということでこの養殖場にやってきた次第です。
ちなみに上のヒラメが日本で人気のある1.1kgほどのサイズで……。
こちらはずいぶん育った3kg超えのヒラメ。
単純に大きければいいという訳でもないようで、韓国では1.7~1.8kgぐらいのヒラメが人気だそうです。値段のこともありますし、食べたときの食感も変わってくるようですね。日本では熟成させてうま味を引き出したヒラメが好まれるので1.1~1.2kgぐらい。韓国では活魚の食感を重要視するので、もう少し肉厚なもの。食習慣によっても需要は異なります。
こちらの方が今回下見の見学を引き受けてくださった「営漁組合法人日出峰(영어조합법인 일출봉)」のハン・ウジン社長。
韓国内の大手スーパーにもっとも多くの活魚ヒラメを卸しているのみならず、日本をはじめ、イギリス、アメリカ、シンガポール、マレーシア、ベトナム、アラブ首長国連邦(ドバイ)といった各国にも精力的に輸出をしていらっしゃいます。
その中でも日本への輸出がもっとも多いそうですね。
ひと通り見学をさせていただいた後は実食。
済州島内の飲食店で常時扱っているのは超高級ホテルぐらいらしいので、社長が懇意にしている刺身店に持ち込んでさばいていただきました。
今回のヒラメは1.4kgほどとのことでしたが、丸ごとさばくとこんなにも立派な量になります。手前のほうにはエンガワもどっさり。
ワサビ醤油のほか、チョコチュジャン(唐辛子酢味噌、초고추장)につけるか、サンチュ、エゴマの葉などの葉野菜に包んで食べるのが韓国式。
念のため書いておきますが、サボテンの味はしません。トゲも刺さりません。
サボテンの実を食べて育つというのは、サボテンの実を発酵させたエキスを飼料に配合するということであり、味に直接影響するものではないです。
サボテンの実は百年草(백년초)という韓方材で、消化促進や内臓機能の強化に効能があるとのこと。天然のヒラメに比べて潤沢にエサを食べている養殖ヒラメは、消化不良を起こすことも少なくないので、その予防として百年草が力を発揮するのだそうです。サボテンの実のエキスを飼料に加えて飼育することで、ヒラメが健康に育ち、それによって味もよくなるというのがメリットということになりますね。
実際、食べて驚きましたが、身はシャッキリとして脂もうま味もしっかり。
「え、これ熟成させたヒラメですか?」
「いえ、活魚ですよ」
という会話がありましたが、とかく食感ばかりを重視する韓国の刺身に比して、じっくり味わいを楽しめるのに驚きました。社長に言わせれば、いいエサを食べさせているからね、ということになるようです。
そのほか、握り寿司や……。
ヒラメをすり身にして作るジョン(チヂミ/전)。
ヒラメのアラで作るミヨックッ(ワカメスープ/미역국)など、さまざまな調理法で楽しめたのは嬉しかったです。韓国の刺身は大量なので、それだけだとどうしても単調になりがちですが、こうしていろいろ楽しめるのはいいですね。メウンタン(魚入りの辛い鍋/매운탕)でなく、ミヨックッというのも済州島らしいポイントです。
そんなヒラメのフルコースをツアーでも食べる「可能性」があります。そそられた方はぜひ下記のツアーページを確認してみてください。
世界遺産・グルメの宝庫 済州島 ハッタしてグー(三進トラベル)
http://www.sanshin-travel.com/tour/4589
さて、ツアーの下見としてはここまででよいのですが、韓国のヒラメというと実は少し厄介な問題があります。あまり踏み込むと食欲をそぐような可能性もあるので、別途書こうかとも思いましたが、大事なことなので以下に補足します。関心のある方だけ読んでください。
日本が輸入している活魚のヒラメはすべて韓国産で、そのほとんどが済州島産なのですが、その量は2011年以降に激減しています。2017年のデータを見ると輸入量は約2304.2トンなので、2010年の3963.5トンから比べると、58.1%にまで減った計算になります(財務省「貿易統計」より)。
これは2011年になって、ヒラメにつくクドア(クドア・セプテンプンクタータ)と呼ばれる寄生虫が日本で問題になったため。この寄生虫は食中毒の原因になるとされていますが、天然ヒラメよりも養殖ヒラメに多く、日本産よりも韓国から輸入されたヒラメにより多くの事例がありました。今回見学に行ったのはそのへんがどうなったのかなぁ、という疑問が個人的に大きくあったのもあります。
結論からすると、ずいぶんと対策が進んでいました。
2011年に問題が持ち上がった際、当初、韓国では事情がよくわからず、日本の市場から突然悪者扱いされたとの印象があったようです。ならば日本への輸出を止めよう、という話も当初はあったようですが、年月を経て少しずつ両国での研究が進み、また二国間での協議も重ねたことで、現在は日本が求める水準の検査を二重三重に実施しているとのことでした。
僕が調べた限りでは、以下のページが経緯も含めてよくまとまっています。
「ヒラメのクドアによる食中毒問題」韓国済州道での対応を視察(九州・水生生物研究所)
http://kyushu-lab.at.webry.info/201607/article_1.html
ポイントとなる部分を抜粋すると……。
・2015年8月に済州道での検査方法が改訂され日本と同じになった
・クドアによる食中毒発生件数が2014年の43件から、15年は17件に減った
という感じでしょうか。また、厚生労働省のサイトからその後の情報も調べてみましたが、2016年は22件、2017年はまだ速報値ですが8件と減少しています(厚生労働省「食中毒統計資料」より)。結果を見る限り、検査方法の改定は効果があったのでしょう。
厚生労働省のクドアについてまとめたページでも、「農林水産省及び水産庁では、食中毒防止策として、ヒラメの養殖場での適切な管理により、クドアがヒラメに寄生することを防止する取組みを行っており、食中毒数は低下しています」と書かれています。
ただ、クドアの問題が難しいのは寄生虫であるがために、全個体を検査をしない限り完全はないということです。現状、治療薬や予防薬のようなものもないので、統計上信頼できる数字の個体を検査するというのが最善の策になります(韓国に限らず日本においても)。加熱するか、冷凍すれば完全に解決しますが、ヒラメの刺身は冷凍すると味が格段に落ちます。
「ヒラメを生食するうえではどうしてもあるリスク」
ということになりますが、それでも生産側の対策が徹底されればそのリスクは減らせるということがようやくわかってきました。済州島で話を聞いたところ、生産者の意識もだいぶ変わったそうです。
当初はしばらく時間をおけば落ち着くかと思ったものの、クドアの問題はまったくそうならなかった。日本側が求めるのなら、それは顧客のリクエストであり、しっかり対応する道を選ばなければならない。また現状、日本以外の外国や、韓国内では問題になっていないものの、それがいつか同じように問題として浮上する可能性もある。そういった認識が時間経過のうえ、ようやく広く共通のものになったとの話でした。
そこでひとつ気がかりなのは、韓国が国としてクドアの対策に乗り出している訳ではないという部分でしょうか。
韓国では国としてクドアと食中毒を関連付けておらず、また韓国内の研究ではクドアを食中毒の原因とする(またはクドアだけに限定する?)ことを否定する論文も出ているそうです。この話、僕のほうで裏が取れませんでしたので、あくまでもまた聞きに過ぎないのですが、日韓で国として足並みが揃わないのはそのへんにも理由があるのかもしれません。
そのため、済州島におけるクドア検査というのは養魚場と水産協同組合による自主的な実施ということになります。国としての検査義務はないものの、お客様のリクエストに応えて検査をしているということですね。でなきゃ、売れませんのでそれは当然であり、仕方ないことかと思いますが、話を聞いている限りでは現場の負担とリスクになっているようにも思えました。
クドアの問題は現在進行形であり、完全なる解決法はまだありません。今後さらなる研究結果を待つしかないのですが、それでも着実に安全性を高める方向に進んでいると感じました。日韓ともに、生産者と消費者がともに、納得できる環境が整っていくことを期待したい、というのが現時点における僕自身のまとめとなります。
今後も引き続き、関心を持って追いかけていきたいですね。
ただ、この問題をあまり声高に語りすぎると、ヒラメのイメージ自体が大きく損なわれてしまうとの憂慮もあります。生産者や研究者の方々が努力を続ける中で、いたずらに危険性だけがひとり歩きするのも望ましいことではありません。ここまで読んでいただいたみなさまには、そのあたりの微妙な部分もご理解いただければと思います。
済州島のサボテンヒラメ、美味しいですよ! ぜひ1度ご賞味を。
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