今年になって最初の韓国出張は済州島でした。
3月に行うグルメツアーの下見がメインでしたが、目的を絞って巡ったことでだいぶ情報のアップデートができました。そのひとつが済州島の名産である黒豚の最新事情です。済州島は今回の下見で11度目というぐらい足を運んでおり、それだけ黒豚も食べてきたつもりでしたが、改めてあちこち食べ歩いてみると多くの発見がありました。
3月のツアーがミステリーツアー(参加者のみ2週間前に行程を告知)であるという関係上、あまり詳細には踏み込めないのですが、今回食べ歩いて気付いたことを少しまとめてみたいと思います。
発見その1、旧済州に黒豚通りができている。
できていると言っても、調べたところ造成されたのは2010年6月なので、これを初めて知ったのは単に僕のアンテナが低いだけです。東門市場から徒歩5分という観光客にとっても便利な位置にあり、また地元でも広く認知されている様子。
タクシーに乗った際、やや郊外にある豚焼肉店を目指して位置を告げると……。
「そんなとこまで何しに行くの?」
「黒豚を食べに行くんですよ」
「黒豚だったら、黒豚通りに行けばいいじゃない」
という会話がありました。
タクシーの運転手さんが薦めるというのはなかなかにポイントが高いかと。まあ、こちらが見るからに観光客というのもあったのでしょうが、ビギナーにとっての選択肢としてはまず名前のあがる便利な存在であるようです。
発見その2、オギョプサル大正義の常識が崩れ始めている。
済州島で黒豚を食べる、というのは往々にして黒豚のオギョプサル(皮付き豚バラ肉の焼肉/오겹살)を食べるということとほぼイコールでした。韓国人の豚バラ好きは言うまでもなく、脂が乗りに乗ったジューシーさと、皮のクニクニとした食感を同時に楽しめるのは何よりの魅力です。
また、済州島で黒豚というとよく聞く蘊蓄のひとつに、
「黒豚を食べるなら皮を必ずチェックするように!」
というものがあります。
黒豚の場合は皮に毛が黒くポツポツ残っているので、それが黒豚としての何よりの証拠。白豚を黒豚と偽って出すような店もあるので必ず皮をチェックすべし、というのが済州島における鉄の掟でした。
いまでもその蘊蓄自体は生き残っていますが、今回感じたのはそれが少し薄まってきたのではないかなということ。脂一辺倒のオギョプサル(左)だけでなく、赤身と脂が入り混じるモクサル(豚の肩ロース焼き/목살)(右)の存在感が以前よりも高まっているように感じました。
おそらく、クンゴギ(1斤肉、근고기)の定着がひとつの理由ではないかと。
クンゴギとは1斤=600gの肉を指し、済州島にある多くの店ではオギョプサルとモクサルをセットにして提供します。新済州郊外にある「トンサドン(돈사돈)」という店がたいへん有名ですが、この提供形式を採用する店が以前よりも格段に増えていました。
これを頼むと自動的にオギョプサルとモクサルの両方を食べることになるので、この店はモクサルがうまいなとか、そういった情報が出てくる訳ですね。
それとこれ。
発見その3、黒豚のクンゴギを出す店が増えた。
そもそもクンゴギは600gと量を決めて提供するので、店側としてはリーズナブルに提供しやすく、客側としても安くうまい肉をがっつり食べられるが魅力でした。だからこそ使っている肉も、質のよい済州島産の生肉ではあるものの、黒豚ではないのが当たり前だったんですね。
それを僕は2013年の記事で、
正直、黒豚を使っていても、あまりピンと来ない店はありますし、黒豚でなくとも、むちゃくちゃ美味しくて感動する店があったりします。特に済州島は豚肉の食べ方が豊富なので、黒豚にこだわらず、美味しい豚肉料理を探していくほうが幸せな食事に出会えます。
なんてことを書いたのですが、その主張も過去のものになりましたね。
ブランド価値の黒豚か、質実剛健のクンゴギか、という済州島における究極の二択がいつの間にか霧散し、どっちもという欲張りな結論を出せるようになりました。店によって黒豚と白豚の両方を用意し、値段で選べるという事例はありましたが、どうも黒豚のほうが全体を圧倒しつつあります。
たぶん、黒豚が以前ほど希少でなくなったんでしょうね。
発見その4、黒豚の希少部位を出す店が増えた。
というのもクンゴギの黒豚化と同じ理由がありそうです。先にも書いたように、以前は黒豚であることの証明が何より大事でしたので、皮付きで出せない他の部位はほとんど黒豚としての価値がありませんでした。オギョプサル以外は黒豚も白豚も一緒にして売られるなんて話を聞いていたのですが、今回見て回ったところ黒豚の盛り合わせメニューがずいぶん増えていました。
上の写真、いちばん手前に見えるのが、黒豚のハンジョンサル(豚トロの焼肉/항정살)。
黒豚でなくとも脂の乗った希少部位として人気ですが、それが黒豚として出されるようになったというのは時代の変化を感じました。他店ではセンカルビ(生カルビ、생갈비)、カブリサル(バラ肉を包んでいる肉、가브리살)といった部位を出しているところもあり、黒豚を部位ごとに楽しむというのはいまや当たり前のことになっています。
黒豚が以前ほど希少でなくなり、多くの店で取り入れたことから、絶対に騙されるまいと構える必要もなくなったのかもしれません。
発見その5、オシャレな雰囲気の黒豚専門店が増えた。
これは済州島全体に言えることですが、2000年代後半あたりからオシャレなカフェやレストランが至るところで目立つようになりました。海を一望できるイタリアンレストランとか、済州島の食材を巧みに扱うビストロとか、そのへんの流れがしっかり黒豚専門店にも来ています。
下焼きした黒豚にローズマリーが添えられているかと思えば……。
網を左右に分け、炭火の量で強火と弱火を使い分ける、なんて細やかな配慮を見せる店もありました。
韓国では大量の肉をワッといっぺんに焼くので、最初はいい焼き加減でも、そのうち焼きすぎてコゲコゲのカピカピ。どんなにいい黒豚でも焼き加減で台無しということが少なくなかったのですが、そのへんにも時代の波が来ているようです。
他店でも焼き台は普通ながら、ビシッとした若い店員さんが自分の担当テーブルをしっかり受け持ち、肉を焼くところから、炭火を外すタイミングまで完璧、という接客重視の店もありました。
「なんだ、しゃらくせぇ!」
「韓国の焼肉はワッと焼いてガッと食べればいいんだよ!」
「多少のコゲは焼酎で流し込め!」
といった旧世代のDNAが僕の中にもない訳ではないのですが、キレイな店で優雅に黒豚を食べるという、新しい選択肢は素直に歓迎したいと思います。
発見その6、オシャレ系の店では塩辛汁の濃度がマイルドに。
済州島の豚焼肉に欠かせないのが塩辛のタレです。イワシの塩辛に焼酎、ニンニク、青唐辛子を加え、豚肉を焼く鉄板で一緒に煮立たせるのですが、これをつけて食べることで豚肉の味が劇的に向上します。ただでさえうまい豚肉が、塩辛というまるで方向性の異なるうま味に包まれて、強烈にパンチの効いた味わいになります。
舌の上でどうこうというより、脳髄にガチコンと来るうまさ。
ただ、塩辛である以上そこそこ生臭いですし、香りのほうもけっこうな勢いでムワッときます。それこそが済州島の醍醐味ではあるのですが、慣れないとそれが嫌だという人もいるんでしょうね。オシャレ系の店を中心に、香りとクセを抑えた塩辛汁が登場していました。
最初は、
「薄っ!」
と思ったのですが、いくつかの店を巡ったところ、それがひとつの趨勢であることに気付きました。個人的にはムワッとくる濃厚タイプを心から歓迎するのですが、これもまた新しい流れと受け止める必要はあるようです。
発見その7、食事メニューに郷土料理を出す店も。
焼肉店における食事メニューといえば済州島に限らず、ネンミョン(冷麺/냉면)とテンジャンチゲ(味噌鍋/된장찌개)が双璧です。済州島においてもそれは変わらなかったのですが、今回訪れた店のひとつに……。
・モムクッ(ホンダワラのスープ、몸국)
・コサリユッケジャン(豚肉とワラビのスープ、고사리육개장)
という済州島の郷土料理を提供する店がありました。
せっかく済州島の特産品である黒豚を食べるなら、シメの一品までも済州島らしく。そういう発想の店が出てきたというのは感動でしたね。郷土料理の多い済州島だけに、ひとつの店でこうして複数の料理を味わえるのはありがたいこと。
こちらの変化はもろ手をあげて歓迎したいと思います。
さて、以上の7つが今回感じた黒豚の変化。地方料理もすごい勢いで進化しているということに驚きつつ、こまめな情報のアップデートが重要であることを改めて痛感しました。個人的にもたいへん貴重な機会であったと思います。
残る問題は、今回巡ったこれら5軒の中からどこへ行くか。
その答えはツアーにご一緒するみなさまに披露することにします。済州島グルメツアーは3月2日(金)~4日(日)までの2泊3日。黒豚以外にも美味しいもの満載でお待ちしております。まだ残席ありますので、興味をそそられた方は下記より三進トラベルのサイトをぜひご覧ください。
世界遺産・グルメの宝庫 済州島 ハッタしてグー(三進トラベル)
http://www.sanshin-travel.com/tour/4589