今回の延辺行きでは、こちらに親戚のある方に同行しました。同行といえば聞こえはいいですが、本来的には無関係なのについて行っただけですね。それでもあちこちでご親戚、ご友人のみなさまから温かく迎えていただきまして、たいへん感謝をしております。
そういった理由から都市部の延吉だけでなく、延辺内の地方にも足を伸ばせたのは大きな体験だったと言えましょう。都市とは異なる農村地域の風景を眺めながら、延辺北部の汪清県双河村というところまでご親戚を訪ねてきました。
ちなみに冒頭の写真は双河村のイメージカット。
今回訪ねた家とは関係ありませんが、空の広い、気持ちのいいところでした、ということで青空のきれいな写真を入れてみました。
と、ここで本題に入る前にひと呼吸。
今回の記事では、農村における家庭料理をレポートするのですが、その中には日本人にとってあまり馴染みのない食材も含まれています。地元で愛されている料理を「閲覧注意」などとは書きたくありませんが、人によって見るのもダメという人がいるかもしれません。
なので前もってお伝えしておきますが、延辺における冬のご馳走といえば……。
「そりゃ、やっぱりカエルだよな!」
ということだそうです。
中国でなくとも世界のあちこちでカエルは食べますが、延辺でも冬になるとカエルを食べるそうです。この後に出てくる画像は、見るからにカエル。そのまま丸ごとで調理されたカエルですので、どうしても苦手だという方は諦めるか、もしくは覚悟のうえでご覧ください。
味は美味しかったので、僕のほうは魅力的な食材として書き進めていきます。
ちゃぶ台風の円卓に並ぶご馳走。
写真で伝わるかわかりませんが、ごはんの器がふた回りほど大きくどっさり山盛り。この後、各自にスープも運ばれてくるのですが、それもなみなみとしていて「いっぱいお食べ」感が満載でした。
「あれ、おばあちゃんは一緒に食べないの?」
「アタシはもう食べたからいいの!」
みたいな会話もあったりして、若い衆にいっぱい食べさせようとするおばあちゃん像というのはどこの国でも一緒なんだなとも思ったり。
ひとつひとつ料理を見ていくと、まずはソゴギスユク(茹でた牛肉、소고기수육)。
写真にはありませんが、一緒に添えられた薬味醤油につけて食べます。煮込んだ肉のかたまりを食べやすく切っただけというシンプルな料理ですが、薬味醤油につけることでチャンジョリム(牛肉の醤油煮、장조림)風の味わいになります。
ツルニンジンをよく叩いて繊維を柔らかくし、コチュジャンのタレを塗って焼いたものです。韓国の山間部でもよく見る高級食材ですが、高麗人参に負けないぐらい豊富な滋養強壮成分を含んでいます。
「これはトドク(더덕)ですか?」
「そう、トドゥルギ(더들기)とも言うけどね」
みたいなやり取りが個人的には嬉しかったり。
ひとつひとつの料理名を尋ねたり、味付けを確認したり、なんだか面倒な外国人が来たなぁと思われていたでしょうが、僕にとっては普段接することができないレアな単語の収集祭りでした。いずれ朝鮮族料理用語もしっかりまとめて「韓国語食の大辞典」に追加していきたいと思っています。
プッコチュテジゴギボックム(青唐辛子と豚肉の炒め物、풋고추돼지고기볶음)。
延辺報告(2)で書いた北朝鮮レストランの料理とまさかの重複。朝鮮料理というよりは、中国料理に近い味付けでしたが、豚肉と青唐辛子を炒めるという料理は想像以上にポピュラーなのかもしれません。
しばし断面を眺めていたくなる白菜キムチ。
一般にキムチは南に行けば行くほど濃く、辛い味付けになると言いますが、そのセオリーに沿ってシンプルで飾らない味付けだったように思います。塩辛の気配もほとんど感じない白菜漬けのような味付け。
全羅道あたりの濃厚なキムチも好きですが、こういう白菜そのものを味わうようなキムチも大好きです。特に葉の肉厚な部分を噛み締めて、瑞々しさをプシュッと感じるような瞬間が。
先ほどの写真になかった各自用のスープがこちら。
ポドゥルゲ(アブラハヤ、버들개)という川魚を煮込んだもので、いわゆるミンムルコギメウンタン(川魚の辛い鍋、민물고기매운탕)の一種ですが、単一の魚なのでポドゥルゲメウンタン(アブラハヤの辛い鍋、버들개매운탕)と呼んでもいいでしょうね。とりあえずポドゥルゲと聞いて、「韓国語食の大辞典」を調べたらしっかり出てきたのは現地でガッツポーズでした。
過去のオレ偉い。
ただ、味付けはメウンタンというよりもカムジャタン(豚の背骨とジャガイモの鍋、감자탕)を思わせるような感じ。
なんでだろう、とそのときはわからなかったのですが、あちこちで延辺の料理を食べ歩くうちに、「ネギ(내기)」と呼ばれる独特の香草が使われているからと判明しました。これがエゴマの葉の香りとよく似ているんですね。
帰ってから調べたところ、韓国ではパンアイプ(방아잎)と呼ばれている葉っぱで、日本語だとカワミドリ。エゴマと同じくシソ科に分類される植物で、延辺ではこの葉っぱをエゴマの葉と明確に区別しながら、それでもどちらかがないときには代用できるぐらいの関係で使用しているそうです。市場でも乾燥させたネギがたくさん売られていて、延辺料理には欠かせない香りの要素とのことでしたね。
「この葉っぱ、何ですか?」
「ネギ」
「ネギ(葱)!?」
という音が似ていることからの迂闊すぎる勘違いがあったことはさておいて。
本日の主菜はハマタン(カエルの鍋、하마탕)。
現地でハマと呼ばれているカエルが、何ガエルなのかはよくわからなかったのでいったん保留とさせてください。水のきれいな山奥で11月から3月頃までとれる冬の風物詩ということで地元では愛されております。
※12月20日9時追記
朝鮮族の方からハマとは、中国語の「蛤蟆(ハマ)」をそのまま朝鮮語でも使用しているものとの補足をいただきました。蛤蟆は総称としてのカエルであり、朝鮮族の方でも何のカエルを食べているかはあまり意識していないようです。
「日本でも油は有名だろう」
と言われて最初はピンとこなかったのですが、よくよく話を聞いてみると「ガマの油」の話でした。油だけ日本に輸出しているなんて話もあるようで、であればガマガエルの一種ということでしょうか。
ちなみに冬限定というのはメスが卵を持つという意味で、パンパンに張ったおなかの中に黒い粒々の卵がみっちり入っています。どうやって食べるのかと思ったら、足をむしってモモ肉のあたりをかじって、おなかのところにはかぶりついて身と内臓と卵を一緒に味わう。骨はペッペッと出して、頭は食べなくてよろしい、ということでよいようです。
なかなかに勇気のいるビジュアルではありますが、食べてみるとモモ肉のあたりは手羽先の先っぽあたりを歯でこそげるときのような感じ。おなかのあたりはぷるぷると柔らかく、脂が乗っているあたりが、なんだかアユのおなかのあたりを食べている感じにも似ているな、とも思ったのですが、あまりいい例えではないかもしれません。まあ、カエルを煮たらこういう感じだろうなという食感。味は淡泊です。卵はねっとり。
味付けはコチュジャン、醤油をベースに、香菜粉(パクチー粉末)、味素(ウェイスー)と呼ばれるうまみ調味料、タシダ(韓国の粉末ダシ)とのこと。ここでタシダが出てくるあたりも驚きましたが、どうやら延辺でも活躍しているようです。それとともに先ほどのネギ(カワミドリの葉)が香りの面でいい仕事をしておりました。
カエルという先入観が邪魔をしていろいろ考えてしまいますが、食べての味は悪くないとの印象でした。でも朝鮮族の方々が大喜びするほどには、まだもう少しの慣れが必要なようです。
さて、場面変わってヤンコチ(羊の串焼き、양꼬치)。
別の日の夜ですが、朝鮮族の方の行きつけ店に連れて行っていただきました。「泰山羊肉串」というお店。いまや韓国でも日本でも朝鮮族料理といえばコレがもっとも有名ではないかと思います。もともとのルーツは新疆ウイグル自治区の料理だそうですが、80年代以降にすっかり延辺料理として定着。羊肉串(ヤンルーチャン)という呼ぶこともありますが、現地ではむしろチャル(촬)という呼び名が一般的とのこと。漢字で串と書いてチャル。
「串でも食べるか!」
というとなんだか焼き鳥を思わせる妙な新橋感が出てきたりもしますが、もしかすると延辺においても似たような雰囲気かもしれません。羊だけでなく、牛肉や、内臓肉などさまざまな串を肴に大勢の人がワイワイ飲んでいました。
せっかくなので焼いているところの動画を。
会話として日中韓のSNS事情がやり取りされていますが、あまり気にしないでください。見るべきは串を扱う慣れた手さばき。僕も新大久保あたりで食べるときは率先して焼き奉行を担当するほうですが、やはり本場の技術は参考になります。
韓国で言えばサムギョプサル(豚バラ肉の焼肉、삼겹살)とか、タッカンマリ(丸鶏の水炊き、닭한마리)あたりをハサミでチョキチョキするのが腕の見せどころということになりますが、延辺ではいい感じにチャルを焼き上げることでこなれた本場感を出せそうです。
焼けたら専用のスパイスにつけて賞味。
粉唐辛子、塩、ゴマ、クミンなどを混ぜたもので、この香りこそがチャルにおける何よりの魅力でもあります。哈尔滨啤酒(ハルピンビール)がぐいぐい進んだのは言うまでもなく。韓国でヤンコチといえば青島ビールが定番ですが、チャルに哈尔滨啤酒も忘れがたい味でした。
そこへ再びハマ登場。
市場で買ったものを店に持ち込んだのですが、こうした姿焼きも定番の食べ方だそうです。なんだかんだ延辺にいる間で8匹ぐらいのカエルを食べました。
せっかくなのでみなさんがギョッとしそうなものをもうひとつ。
黒っぽく見えている楕円形のシマシマがカイコのさなぎです。韓国でいうポンデギ(カイコのさなぎ、번데기)ですが、ヤママユガという種類のカイコでサイズが親指ほどに大きいです。いったん揚げてあったようで、表面がカリッとしてなんだかエビみたい。中からとろっとした身が出てきますが、全体的には香ばしい味わいでした。
延辺というか中国東北部では一般的な食材で、チャルの店ではこれも串に刺して食べます。
と、なんだか全体的にはゲテモノ大特集のようになってしまった感もありますが、僕ら日本での食文化と比較しても多彩な食材を食べているというのは伝わるかと思います。今回の旅では食べませんでしたが犬も外せない延辺グルメのひとつです。朝鮮半島の食文化と重なる部分が多々ありつつも、朝鮮族ならではの食文化も明確に分かれた状態で存在する。そしてそれは中国料理の文化とも重複が見える。
このあたりの多様性こそが朝鮮族の食文化を見るうえでの面白さでしょうね。ひいては食のみにとどまらず、朝鮮族という人たちの文化すべても似たような感覚で見られないかと。ならば、中国文化のほうにも目を向けてみようということで……。
次回、「延辺報告(4)~朝鮮族のお姉さんイチオシのグルメは四川料理だった!」に続きます。
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