昨年10月、阿佐ヶ谷でオープンした「HAN COOK(ハンコック)」。
すぐにでも飛んで行きたい気分でしたが、怒涛の出張ラッシュに阻まれ、初訪問がずいぶん遅くなってしまいました。オーナーシェフの林三樹夫さんとは、かれこれ10年ほどの付き合いで、取材でも何度となくお世話になり、また友人としてもあちこちの韓国料理店を巡る仲です。日本に拠点を置く韓国料理人の中では、僕がもっとも信頼するひとりですね。
かつて銀座の「韓国薬膳はいやく」で結婚披露パーティをしたときの料理長が林さん。白銀高輪の「高矢禮」で5万円コースを食べたときに副料理長として料理を担当してくれたのも林さん。韓国の宮中料理店「チファジャ」でも修行の経験があるなど、日韓のそうそうたる店で修行を重ねてきた方だけに、その実力は折り紙付きです。
そんな林さんが満を持して独立し、初めて構えた自分の店がコチラ。
美味しいものが食べられるのはまず当然と確信しつつも、数多あるレパートリーの中からどうメニューを組み立て、どんなお店に仕上げたのか、ワクワクで繰り出しました。
お店はJR阿佐ヶ谷駅から徒歩5分ほど。カウンターとテーブル席が中心ですが、いちばん奥に8名ほどは入れそうな小上がりがあります。いかにも韓国料理店という感じではなく、オシャレな和食居酒屋のような雰囲気。そもそもが「韓食×和食」というコンセプトで、韓国料理を中心としながら和のテイストもいいとこ取りしていく感じですね。
1杯目はサントリーのマスターズドリームから。これ、ウマっ!
まずは真鍮の器でキムチとナムルの盛り合わせが登場。
ナムルは小松菜、緑豆モヤシ、ゼンマイの定番3種ですが、ゴマ油の香りの立ち具合とか、絶妙な食感の活かし加減とか、これだけでも丁寧な仕事ぶりが伝わってきます。
白菜キムチは単品なので、さきイカの和え物はサービスだった模様。
醤油漬け盛り合わせ(有頭エビ、ホタテ、つぶ貝)。
この店におけるまず大きなウリが醤油漬けの充実でしょう。韓国料理で醤油漬けというとカンジャンケジャン(ワタリガニの醤油漬け、간장게장)が有名ですが、最近はエビを使ったカンジャンセウジャン(エビの醤油漬け、간장새우장)も流行っていますし、他の魚介を醤油漬けにするケースも増えました。
ここ、「HAN COOK(ハンコック)」でも、上記3種のほか、ワタリガニと、エゾアワビの全5種類を用意。残念ながらワタリガニは品切れだったので、有頭エビ、ホタテ、つぶ貝の3種盛りを注文しました。
で、エビですよ。
ホタテ、つぶ貝もそりゃ美味しかったですが、この立派なエビのぷりぷり具合と、エビミソの鮮度、濃厚さはいきなりこの日のクライマックスという感じでしたね。みんな無我夢中でかぶりつくは吸い付くわ。かと思えば、
「〇〇さん、確かエビアレルギーだったよね!?」
などと、あらぬデータを無理やり押しつけ、隙あらば2本食べようという意地汚いバトルが勃発するほど、参加者一同が我を失った美味しさでした。この後も、美味しいものわんさか出てきますが、最終的に振り返ってもこのエビは頭ひとつ抜けていた印象です。
ちょっと甘めの醤油が心をわしづかみにしましたね。
京生麩の唐揚げ。
むっちり食感に塩だけのシンプルさがいい感じ。「韓食×和食」なので、韓国と関係ないメニューもあります。茄子の揚げ浸しとか、ささみの湯引きとか、厚切り牛タンステーキとか。
少量でちょこちょこつまめそうなメニューも多いですし、カウンターがあるので、こっそりひとり飲みにも使えそう。ドリンクに日本酒、それも有名どころの地酒があったりするので、さっきの醤油漬けを食べながら日本酒をちびちびとか、たまらない幸せに浸れそうです。
これぞ韓国では味わえない韓国料理の楽しみ。
レンコンチヂミ。
現在のメニューにはまだ載っていませんが、近々リニューアルをした後には入る予定だそうです。さいの目に切ったレンコンがたっぷり入って、そのサクサク感がいい感じ。さらには刻んだイカも入っているので、サクサク、ぷりぷりと、賑やかな食感が楽しいですね。そして、これを塩で食べるというのがまた効いていました。
チヂミはほかに、海鮮ネギ、牡蠣、キムチチーズ、ジャガイモチーズとありましたが、ぜひレンコンも早くレギュラーにしてあげて欲しいです。
韓国においてチヂミにはマッコリが定番ですが、そこで蔚山(ウルサン)の「福順都家ソンマッコリ」を飲めるというのは、それだけで特筆モノですね。基本、常時あるそうなので、これだけでも行かなきゃ! と思う人はきっと多いはずです。
お店のメニューには「福順都家シャンパンマッコリ」とありますが、まさに「シャンパンのような」というのがこのマッコリの目指すところ。ほとんどの生マッコリは発酵によるガスを逃がすため小さな穴や溝を設けていますが、この蔵では鮮度と味を優先して、あえて密封。そのため、普通に開けるとシャンパンファイトのように激しく噴出してしまうのですが、それでも開け方を売り手や飲み手にきちんと伝えるという手段で、密封にこだわり続けています。
なので、ちょっと開けたらすぐ閉めて、泡を落ち着かせたらまたちょっと開けてすぐ閉めて、を延々繰り返すというのが正しい開け方。
お店のほうでもやってくれますが、慣れた方は自分で試してみてください。沈殿した部分が、ほんのわずかな空気の刺激で、底から沸騰するかのように沸きあがってくる、なんとも美しい光景を見られます。その泡立つ姿を見てこそ、「シャンパンのような」という意味がよく伝わることでしょう。
そしてまた、美しさだけでなくクオリティもマッコリとしては最高レベル。
1本3480円(935ml)と決して安くはない価格ですが、そもそも蔵元での卸価格が8000ウォン(約780円)。ソウルのマッコリバーなどで2万ウォン(約1950円)近くしますので、お店としては良心的な設定だと思います。個人でも1本1800円(税別)、2本からでネット注文できますので、日本でもう少し安く飲みたいという人は、個人で買ってもいいかと思います。
より詳細にはコチラの記事もご参考ください。
お店からのサービスということでいただいた、茹で岩中豚。
いわゆるポッサム(茹で豚の葉野菜包み、보쌈)ですね。岩手県産岩中豚のバラ肉をサンチュ、エゴマの葉に包んで食べます。しっかり水気を切ったアミの塩辛と、サムジャン(包み味噌)を載せて、ニンニク、青唐辛子を好みで足して。
この豚のとろけ具合がヤバかったですねぇ。
ライターとしては「ヤバかった」なんて安易な表現を使うのはよくないのでしょうが、噛むごとに口の中で脂が踊る感じは、「むほほほほほほ!」とか、「ふむむむむむ!」とか声にならない声が漏れ出て、どうにもこれは「ヤバい」がいちばんしっくりくるのでした。
ぜひ熱いうちに。
メインはタッカンマリ(丸鶏の鍋、닭한마리)。僕らは6人だったので1.5羽で注文しましたが、逆にハーフサイズも対応してくれるそうです。
写真からも伝わると思いますが、スープが実に濃厚。鶏肉も柔らかで、ジャガイモほくほく、長ネギの甘味もよく出ていました。そのままでも充分美味しいですが、少量のタデギ(唐辛子ペースト)を加えることで、全体がキリッとして、さらに美味です。
シメのカルグクス(うどん)まで堪能。幸せな夜でした。
さりげなく、『GB-Story Vol.3』も10冊ほど置いてきましたので、近々足を運ばれる方はぜひ手に取ってみてください。僕もワタリガニや、エゾアワビの醤油漬けを食べ逃しているので、すぐにでもまた足を運びたいと思います。
店名:HAN COOK(ハンコック)
住所:東京都杉並区阿佐谷北1-27-7有隣ビル2階
電話:03-6265-5990