北朝鮮報告(1)、(2)、(3)、(4)、(5)から続きます。
この北朝鮮報告も長らく続いてきましたが、どうやら次の(7)でまとめということにできそうです。最後にオマケの(8)を用意しようと思っていますが、一連の報告としては次の記事までにひと通りのことを書くつもりです。
冒頭の写真は、バットに並べられた大量のハマグリ。
これをガスバーナーで炙ると、バチンバチンと殻が弾け……。
こんがり焼き上がったら出来上がり。
ナイフで殻を開くと、美味しく焼けたハマグリを味わえます。
「なんて豪快な!」
と思った方はまだまだ甘い。
この料理、もともとは平壌近郊の南浦(ナムポ)という町の名物なのですが、正しくはハマグリにガソリンを振りかけて火を放つ、という大胆な手法で調理をします。
・チョゲプルコギ(貝焼き、조개불고기)
という名前で呼ばれるそうですが、本来はそっちのガソリン焼きを食べようという話だったんですよね。とはいえ、もともと南浦までは行く予定がなく、平壌市内でそれをリクエストしたため、アレンジ版のガスバーナー焼きに変わったという顛末でした。
それでもガイドさん曰く……。
「見た目は確かにガソリン焼きのほうが派手で面白いんですが、それをやると中のおつゆが全部出ちゃうんですよ。ガスバーナーで焼いたほうが味自体は美味しいです」
というメリットもある様子。いずれガソリン焼きのほうも食べてはみたいところですが、とりあえずはガスバーナー焼きのほうで楽しみました。
身は小ぶりでしたが、ほどよい塩気で美味しかったです。ひとりあたり6個で取り分けてもらいましたが、ぺろっと一瞬で食べ終えてしまったぐらい。
「こっちの人はひとり1kgぐらい食べるよ」
とガイドさんが言っていましたが、確かにこれだけ食べるなら充分いけそうな感じ。一方で、そのセリフが妙に聞き覚えあったのですが、そういえば南の洪城(ホンソン)でトリガイを食べたときにまったく同じことを言われました。北でも南でも、美味しい貝は1kg食べる! という共通点が見えたのは面白かったです。
また、
「ハマグリを食べるときは焼酎を飲まないとアタるから必ず飲んでくださいね」
という微妙に恐ろしげなことも聞こえてきたので……。
大同江ビールとともに、平壌焼酎をしっかり飲むことにしました。
おかげさまで誰かアタったという話は聞きませんでしたが、ガソリンよりも、ガスバーナーのほうがムラなく全部の貝に火が通るというメリットもあるかもしれませんね。
そんなハマグリをメインに、宮中料理の……。
・シンソルロ(神仙炉、신선로)
も店の自慢だということで注文。そうそう、書き忘れましたが、ここは平壌の普通江区域にある「西斎閣(서재각)」というお店です。
店員さんによれば32種類の具が入っているとのことでしたが、確かにこれひとつで6人が充分楽しめるほどの豪華版でした。短冊状に切り揃えられた肉や魚のジョン(衣焼き、전)をはじめ、野菜、キノコ、魚介、肉団子、卵、銀杏、ナツメ、松の実など、それぞれがダシを吸っていい味に仕上がっています。
ガイドさんおすすめの……。
・ミョンテフェ(スケトウダラの刺身、명태회)
も美味しかったですね。
刺身と言っても、生魚ではなく干しダラを甘辛酸っぱいタレで和えたものを刺身と呼んでいるようです。干しダラは水分を吸って柔らかで、噛むとじんわりタレの味が染み出して美味。もともとは咸鏡道の名物なので、咸興(ハムン)で食べておけばよかったとも後悔しました。
なお、咸興で言う……。
・フェレンミョン(刺身冷麺、회랭면)
にはこのミョンテフェが載るそうです。
ちょっと珍しいところで……
・カムルチジョリム(雷魚の煮付け、가물치조림)
も注文。南でも川魚料理の店に行くとメニューにあったりしますが、北朝鮮報告(5)で書いたソガリ(コウライケツギョ)と同様、北でも雷魚をよく食べるそうです。
個人的には金日成主席が好きだったという……。
・スンオクッ(ボラのスープ、숭어국)
なんかも平壌で食べてみたかったんですね。
かつては平壌を流れる大同江(テドンガン)でよくとれたそうですが、最近はダムを作ったことでボラが平壌まで上がってこれなくなったとか。ハマグリと同じく南浦あたりで食べる料理に変わったということなので、やはりいずれ南浦にも足を運ばなければならないようです。
・ロクトゥチヂム(緑豆のチヂミ、록두지짐)
・タルガルコンギチム(茶碗蒸し、닭알공기찜)
あたりはもう何度も出てきましたね。いま振り返っても、よく食べたツアーだったなと思いますが、これらを肴としてひとしきり飲み……。
最後は……。
・テンジャンクッパプ(味噌チゲ、된장국밥)
メニュー名はクッパプ(スープごはん、국밥)でしたが、ごはんは別で出てきました。甘味のある味噌仕立てで、野菜がとろとろになるまで煮込まれており、ちょうどいいシメになりました……というか、もう相当におなかいっぱいです。
さて、ところ変わって元山(ウォンサン)での昼食。
本来であれば分けて報告すべきでしょうが、ハマグリからの魚介つながりということでここにまとめちゃいます。今回の旅では唯一の港町ということで魚介料理がたくさん出てきました。
・パプチョゲグイ(ホタテ焼き、밥조개구이)
・イミョンスグイ(ホッケ焼き、이명수구이)
・ナクチチム(蒸しイカ、낙지찜)
・クンマンドゥ(焼き餃子、군만두)
というラインナップ。お店は「元山食堂(원산식당)」でした。
イカのことをなぜかナクチ(낙지、南ではテナガダコのこと)と呼ぶという話は北朝鮮報告(2)でも書きましたが、南でカリビ(가리비)と呼ぶホタテも、北ではパプチョゲ(밥조개)と呼び名が変わっています。ホッケ(이명수)は同じでした。
珍しいなと思ったのは……。
・テジゴギトッポックム(豚肉の団子焼き、돼지고기떡볶음)
これまでにも出てきた北朝鮮版ミートボールで、やはり中華っぽいあんがかかっているのですが、これをトッポックム(餅炒め)と呼ぶのは想像力が膨らみます。特に餅が入っている訳ではないので、餅型に作ったという意味なのでしょうが、南のトッカルビ(叩いた牛カルビ焼き、떡갈비)と関連するのかもしれません。
ごはんにはたっぷりのミヨックッ(ワカメスープ、미역국)がつきました。
興味をそそられたのは併設の売店に缶詰が多かったこと。
サバ缶、サケ缶とともに、ホッケ缶、チョウザメ缶なんていうのもあって、買うべきか迷ったのですが、製造年月日の記載がはっきりしなかったので止めてしまいました。いま思えば、食べる食べないは別として買っておけばよかったと後悔しています。
あと、このイクラも。
・ヨノアルジョッ(イクラ、연어알젓)
という呼び名は南と同じですが、もともと南で見ることってあまりなかったんですよね。最近でこそ回転寿司とかどんぶり料理が流行って珍しくなくなりましたが、こうやってビン詰めを見るというのは、やっぱりロシアから近いということかなとも思ったり。
北朝鮮報告(2)で中国からの影響に触れましたが、よく探すとロシアからの影響とかもあったりするかもしれませんね。聞くところによると、ロシア料理の専門店なんかもあるようなので、そのへんの混ざり方も見ていくと面白いかもしれません。
そのほか仕入れた魚介系の情報としては……。
・咸鏡北道の清津(チョンジン)はズワイガニ、ケガニ、タラバガニがとれる
・咸鏡北道ではカジャミシッケ(カレイの馴れ寿司、가자미식해)が有名
・江原道ではムール貝が有名でスープやお粥にする(南では홍합だが、北では섭と呼ぶ)
・そのほか東海岸の特産品にはサケ、スケトウダラ、ハタハタなどがある
・そのほか西海岸の特産品にはワタリガニ、イシモチなどがある
といったところでしょうか。
それぞれの特産品を目掛けるとすると、まだまだ先は長いようです。
というところで、いよいよ北朝鮮報告も終盤ですが、毎度最後に紹介している江華島・仁川旬グルメツアーも本日18時30分が締切。北朝鮮の西海岸でとれるというワタリガニは、南でも、中国でも同じ漁場を共有しており、ちょうどメスが卵を持つ今の時期に、争って操業している頃です。いちばんの旬は5月なので、江華島ではそのワタリガニを鍋とカンジャンケジャン(ワタリガニの醤油漬け、간장게장)で味わう予定。絶品ですよ。卵とろっとろ。
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北朝鮮報告(オマケ)~北朝鮮の町で見かけた飲食店の看板ギャラリー。