北朝鮮報告(4)で地方への距離感について触れましたが、平壌を出ようと思うとどこへ行くのにもそれなりの時間がかかります。道路や交通の事情もありますが、単純に面積で見ても、北が約12万平方キロメートル、南が約10万平方キロメートルと、北のほうが広いです。車でガタゴト揺られる時間が長いので、途中休憩のサービスエリアが楽しみになるのも必然。
というか、北朝鮮のサービスエリアというのも、最初はまるで想像がつきませんでしたけどね。冒頭の写真が、平壌から開城(ケソン)に向かう途中にあったサービスエリア。朝鮮語では……。
・ヒュゲソ(休憩所、휴게소)
と言います。これは南と同じでした。
建物の中にトイレなどがあるほか……。
建物脇にはこんな露店も出ていたりして。
ちょっと座れるスペースも用意されており、お姉さんがコーヒーを入れてくれたり、梨やリンゴを剥いたりもしてくれます。もちろん有料ですけどね。
北朝鮮で作られたお菓子やドリンク、書籍、切手などが販売されているので、ちょうどいいお土産購入のチャンスでもあります。
あれこれ物色してみると……。
なにやら見慣れたお菓子を発見。
かっぱえびせんでも、セウカンでもなく……。
・セウマッ ティギグァジャ(エビ味の揚げ菓子、새우맛 튀기과자)
という商品でした。僕らに馴染んだものと比べると、塩気がだいぶ薄め、形も扁平で大きくやはり別物との印象が強いですが、座を盛り上げるお土産としてはアリかもしれません。
ということで、こちらが比較的簡易なサービスエリアで……。
こちらがより充実したサービスエリア。
平壌から元山(ウォンサン)まで行く途中、黄海北道(ファンヘブクト)に属する新坪(シンピョン)という地域にありました。
川のほとりにあって、なかなか美しい景色を眺められます。
行きは元山で昼食だったので、コーヒーを飲んでおしまいでしたが、帰りはちょうどここでお昼ごはんの時間帯。当初はお弁当を用意して食べるという話だったのですが……。
食堂のメニューが予想外に充実しているのを発見。
定食に始まり、麺類、一品料理と種類豊富に揃っているうえ、
・カレバプ(カレーライス、카레밥)
・タルガルシィウムバプ(オムライス、닭알씌움밥)
・タッティギ(フライドチキン、닭튀기)
なんて、B級グルメ心を刺激するようなメニューもあったり。
さらには店の人に話を聞いてみたところ……。
「この季節は山カラシナがいちばんの旬です。炒め物にしてもいいですし、キムチも美味しいですよ。もう少し経って5~6月になるとタラの芽がとれるんですけどね。ほかに、ソガリ(コウライケツギョ)や、フナなどの川魚も有名ですし、肉類ですとイノシシ、キジ、ノロジカなどの料理があります。シイタケ、ワラビも土地の名産ですよ」
と地元グルメ満載であることが判明しました。
ならばそれを食べたいと予定変更。失礼ながら、名前を聞いたこともないような地方のサービスエリアに、ここまで充実したご当地メニューがあるとは想像だにしていませんでした。
そんな経緯があって出てきた山カラシナ料理がこちら。
・サンガッキムチ(山カラシナのキムチ、상갓김치)
・サンガッポックム(山カラシナ炒め、상갓볶음)
これがめっちゃうまかったです。
鼻にツーンと抜ける辛さがなんとも爽快で、水キムチの清涼なる味わいも、炒め物のほろ苦い大人の味わいも、いやはや見事と喝采すべきでした。個人的には平壌、咸興で食べた冷麺や、開城の飯床器(パンサンギ)に匹敵する感動がありましたね。
なお、山でとれるカラシナということで、ここでは山カラシナと書きましたが、「산(山)+갓(カラシナ)」ではなく「상」の字で間違いないとのこと。お店の方は「하얀 상(白いサン)」と漢字の説明をしていましたが、辞書などを調べてもそれがどの漢字かわからなかったので、もし心当たりの方がいらしたらぜひ教えてください。
また、中国で言う霊菜(영채)と同じだとする資料があるので、それを元に韓国の百科事典から当たりをつけていくと、コショウソウ(큰다닥냉이)が該当するのではと見込んでいます。ただ確証までは得られませんでしたので、これもいずれの課題ですね。
そのほか注文したのは……。
・メデジゴギボックム(イノシシの炒め物、메돼지고기볶음)
南ではメッテジ(멧돼지)と言いますが、北ではメデジ(메돼지)とするようです。こちらはちょっとケモノくささが残っており好みが分かれました。
メインは……。
・ソガリタン(コウライケツギョのスープ、쏘가리탕)
日本では馴染みのない魚ですが、朝鮮半島では最高級の川魚として珍重されます。残念ながら下処理がよくなかったのか、身は泥くささを残していましたが、スープにはいいダシが出ておりました。ニンニク、ショウガが効いています。
メニューを見る限り、フナのスープと比べても値段が2.5倍と北朝鮮でもだいぶ高級魚ですね。ちょっと贅沢な昼食だったかもしれませんが、地方の小都市にも豊かな食文化があるとわかった貴重な食事でした。
現状、ガイドさんたちからの話を聞く限り、咸興の冷麺や、開城の飯床器ほど有名なものはよく知られていても、地方ごとの食というのはそこまで情報が整っていないようです。
丹念に見て行けば、無名の地方にもきっと土地ごとの名物が見つかるはず。そう思えたのが今回の旅におけるいちばんの収穫かもしれません。ひいては今後の北朝鮮観光を考えるうえで、いずれ大きな資産になるだろうと確信しました。
なんてことを昼間っから飲んだくれつつ考えていたのは内緒。
写真は新坪休憩所で飲んだ鳳鶴ビール(봉학맥주)ですが、北にいる間は焼酎よりもビールのほうをよく飲みました。せっかくなのでビールの話題もここで紹介しておきたいと思いますが……。
いちばん好みに合ったのは、やっぱり大同江ビール(대동강맥주)でしたね。北朝鮮を代表するビールと言っていいかと思いますが、もっともポピュラーであり、もっとも愛されているビールだと思います。
それも、大同江ビールの2番。
ラベルに(2)と書かれているのがわかると思いますが、一般的に流通しているのはほとんどがこの(2)でした。あんまり(2)ばっかり見るので、
「(1)をください!」
なんて店の人にも言ってみましたが、どこへ行ってもありませんの連続。いつかは(1)を飲んでみたいものだと語らいながら、あるとき……。
「じつは(6)まであるんですよ」
なんて情報を仕入れて耳を疑ったり。聞くところによると(6)は黒ビールだなんて情報もあり、いつかは飲み比べてみたいものだと思いますが、結局最後まで(2)しか飲むことはできませんでした。
そのほか龍城ビール(룡성맥주)もよく見ましたし……。
龍城の米ビール(룡성쌀맥주)というのもありました。
あと、美味しかったのは平壌の高麗ホテル1階で飲んだ生ビール。ここでは自前のタンクを置いてハウスビールを造っています。普通のビールだけでなく、黒ビール、そしてハーフ&ハーフも飲めるのですが、造り立てだけにやっぱりうまかったですね。
最後はまた新坪休憩所の話に戻って……。
・ファンクロンイスル(ヘビ酒、황구렁이술)
これも新坪の名物だそうです。
写真で見ると白ワインサイズにも見えますが、実際はショットグラス程度の大きさです。焼酎ベースですが、ウィスキーを思わせるような甘い香りがあり、けっこう強いので飲むと喉のあたりがカッとなります。
ガイドさんによればアオダイショウの仲間ということでしたが、調べてみた結果、朝鮮半島にいるのはカラダイショウと呼ぶみたいですね。
そのカラダイショウをさらに分類し……。
・モックロンイ(アムールラットスネーク、먹구렁이)
・ファンクロンイ(コリアンラットスネーク、황구렁이)
と呼ぶらしいので、正確に訳すならば……。
「コリアンラットスネーク酒!」
うん、なんだかやけにカッコいい横文字になりました。
「ファンクロンイって日本語でなんて言うんですか?」
「いやぁ、わからないです……」
という会話がガイドさんとの間にありましたが、次回また機会がありましたらビシッと答えてカッコつけようと思います。
「コリアンラットスネーク酒!」
戸惑う顔が目に浮かぶようです。
さて、最後にいつものお知らせ。募集中の江華島・仁川旬グルメツアーは明日の18時30分が締切。北朝鮮の開城から種を持ってきて育てたという高麗人参の畑も見学できます。旬グルメも満載ですし、コスメライターとして活躍するジャヨンミさんの特別ゲスト参加、ドラマ「星から来たあなた」のロケ地見学など、盛りだくさんの内容でお待ちしております。
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