一昨日の記事で書いた、居酒屋のマッコリカクテル。
そのベースとなっているのが、この「ソウルマッコリ」でした。
昨年11月からテスト販売が始まり、この2月に業務用から本格販売。
いよいよベールを脱いだ、大物マッコリの登場を機に、
2011年のマッコリ事情を考察してみたいと思います。
まず、抑えておくべき情報が、韓国で流通しているコチラ。
これは「長寿(チャンス)マッコリ」という銘柄で、
韓国内ではナンバーワンのシェアを誇っております。
最近はマッコリブームの影響から、銘柄もずいぶん増えましたが、
ひと昔前までは、ソウルでマッコリといえばまずコレでした。
いまでも普通に頼めば、この銘柄が出てきます。
ちなみに僕が留学時代に寄宿舎で飲んでいたマッコリもやはりコレ。
徒歩1分のクモンカゲ(商店)までよく買いに走りました。
この長寿マッコリの製造元が、「ソウル濁酒」という会社で、
冒頭に載せた「ソウルマッコリ」もここが造っています。
一昨日の記事でも書きましたが、製造をソウル濁酒が担当し、
輸入をロッテ酒類、販売はサントリーと分業体制になっています。
ロッテとサントリーの関係は、焼酎の「鏡月」と同じですね。
マッコリ参入にあたって、「ソウル濁酒」が加わったことで、
なんとも強大な日韓の企業連合が誕生したことになります。
ちなみに、この「ソウル濁酒」がナンバーワンという理由ですが、
味もさることながら、地盤がソウルにあるというのも大きな要因です。
2001年までの韓国は、酒類の販売地域が地盤ごとに制限されていたので、
人口の多いソウルを有するのは、非常に大きなメリットでした。
逆に他社から見ると、ソウルに進出できないのは大きなジレンマ。
日本でも有名なマッコリに「二東マッコリ」がありますが、
こちらはソウルの北、抱川市で造られているマッコリです。
韓国でも全国的な知名度を誇るマッコリですが、その理由としては、
近隣に軍事施設が多く、慰労としてマッコリを多く提供していたため。
兵役中の若者は全国から集まっているため、
「抱川で飲んだマッコリがうまかった!」
とそれぞれが地元で帰って語ることになります。
このクチコミによって、「二東マッコリ」は有名になりましたが、
名声は得られても、地元地域以外では販売ができません。
さて、どうしたものか、というところから考えたのが、
韓国を出て、海外でマッコリを販売するという道でした。
「二東マッコリ」が日本への輸出を開始したのが1993年。
そこから現在まで、日本のマッコリ市場を牽引してきました。
事実、数年前までは、日本でマッコリといえば「二東マッコリ」でした。
まさに日本を象徴するマッコリであり、シェアもダントツでしたが、
そこに真正面から勝負を挑み、待ったをかけたのがこの銘柄。
2010年3月に全国発売を始めた「JINROマッコリ」です。
その背景にはさまざまな要素があり、
・韓国の地方マッコリが日本に進出
・韓国料理店や小売店が独自にマッコリを輸入
・国内の日本酒メーカーがマッコリ生産を開始
・酒造免許を取得する韓国料理店が誕生
といった感じで日本のマッコリ文化が拡大。
大手焼酎メーカーとしても、黙っていられない事態になり、
参入してきたことで、ブームに拍車がかかりました。
そんな中で、昨年「JINROマッコリ」が頑張ったのは、
主に、韓国料理店以外の、新たな市場開拓だったと思います。
居酒屋や、カラオケ店などで、マッコリをメニューに並べ、
またスーパー、コンビニでの販売も広く実現しました。
ほかにも、地上波のゴールデンタイムにテレビCMを打ったり、
都心部の目立つところに、広告の看板を掲げたりなど。
大規模な広告活動で、マッコリの知名度を上げた功績は大きいです。
マッコリブームがいわゆる韓国ファンの手を離れ、
世間一般でのブームになり始めたのが昨年だったといえます。
そんな意味から僕は昨年を、
「マッコリ元年!」
と呼んでいました。
というところまで書いて、いよいよ本題。
マッコリブームが日本で広く拡大していく段階において、
「ソウルマッコリ」が果たす役割はかなり大きいものになります。
サントリーという国内の大企業が販売にかかわることで、
おそらく、昨年以上のボリュームでマッコリが宣伝されるでしょう。
世間への浸透度は、これまでと比べて段違いになるはずです。
そして、その役割は宣伝のみならず……。
マッコリをメジャーな商品に仕立てていくすべての作業。
具体的には商品の安全性や、安定性といったあたりを、
国内メーカーの基準で、日本市場に届けていくことにあります。
基本的に韓国で流通するマッコリは加熱殺菌をしないため、
発酵が止まっておらず、時間経過とともに味が変化します。
それを防ぐには、火入れをして発酵を止めるのが一般的で、
日本に輸入されているマッコリは、これが大半でした。
火入れをすることで商品が安定し、賞味期限も伸びる反面、
火入れをしない状態での、発泡感や爽快さが失われるデメリットも。
火入れをしないマッコリを「生マッコリ」と呼びますが、
「生を知ったら戻れない!」
という意見はコアなマッコリファンからよく耳にします。
僕自身も、普段飲んでいるのは生マッコリが中心です。
そこで注目して欲しいのが、上の写真にある、
「炭酸入り」
という文字。
これは生マッコリではなく、火入れをしたものに、
炭酸を添加して、生らしさを演出したという意味です。
この技法は以前からあり、「ソウル濁酒」でも造っていました。
というか、「月梅(ウォルメ)マッコリ」という名前で、
すでにだいぶ前から日本でも流通しています。
三社連合がその炭酸入りで販売すると聞いたときは、
「やはり!」
という気持ちと、
「そうきたか!」
という気持ちが交錯しました。
日本の大企業が関わる以上、商品が安定しない生は難しいはず。
昨年冬に、眞露も生マッコリの発売を予定していましたが、
物流上のトラブルで断念したことが報道されていました。
なので、おそらく火入れしたものだろうと予測していましたが、
その上で炭酸入りを選択したのには大きな意味があります。
これによって今後、日本では、
「マッコリはシュワシュワするもの」
という認識で広く浸透していくことになります。
言い換えれば、生への布石が色濃く作られたということですね。
三社連合が今後、生も視野に入れているかは不明ですが、
まったく視野に入れていない、ということはないでしょう。
製造、流通の技術が追い付けば、安定した生も供給できるはず。
そのあたりも大きな企業が担うべき役割のひとつですね。
一方で、生を扱う他社には、当面プラスの要素になるのかも。
同時に本場への訴求力も、潜在的に生まれる気がします。
裏にこんな説明を載せているのも日本らしいですね。
なにしろ、これからマッコリに出会う人たちは、
飲む人も、売る人も、マッコリをよく知らない人が大多数。
振らないと沈殿するけど、振りすぎると炭酸であふれるという、
マッコリの基礎的な注意事項を、しっかり伝える必要があります。
このあたりのきめ細やかな情報提供もサントリーに期待する点。
先日、業界の方から「飲用時品質」という単語を教えて頂きましたが、
これは「お客さんが飲むタイミングでの品質」を意味します。
美味しいマッコリを造ったとしても、流通、保管、提供方法が悪ければ、
せっかくのマッコリも、美味しいとは思ってもらえません。
どう保管し、どう提供し、どう飲むと美味しさにつながるのか。
それを伝える過程で、最前線の営業マンや、飲食店のスタッフを通じ、
マッコリ基礎的な情報が、日本でどんどん共有されていくはずです。
メディアが語る情報とはまた違う、いわば裏方的な情報ですが、
マッコリが日本に浸透していくうえでは、大事な要素です。
また、その日本の大企業ならではの細やかなスタンダードが、
韓国企業、韓国系企業への影響力になればとの期待もありますね。
そして、つい先日発表されたニュースリリースから。
画像はリリースのページから借用しました。
サントリー/ニュースリリース
http://www.suntory.co.jp/news/2011/11011.html
この缶入りマッコリが、3月22日から全国で販売されます。
リリースを見ると、発売と同時にテレビCMを流すと書かれているので、
やはり大規模な宣伝活動が始まるのは間違いありません。
冒頭のペットボトルは業務用なので、世間的にはコチラが主力ですね。
しかも350ミリ缶で、希望小売価格が217円ですよ!
従来のマッコリは750ミリか、1リットルのペットボトルが主流で、
晩酌用、家飲み用には、やや量が多すぎるとの声がありました。
持って帰るのにも重いですし、種類をいろいろ試せませんしね。
この量で、この価格なら、試し飲みで気軽に購入できます。
缶入りのマッコリ自体は、以前からありましたが、
これを主力として持ってきた、というのはかなり衝撃的。
マッコリの買い方、飲み方にも大きな変化が生じるはずです。
一方で、こんな会社もマッコリを造り始めました。
日本酒メーカーの大手、月桂冠が造るマッコリです。
こちらも写真はリリースより借用しました。
月桂冠/ニュースリリース
http://www.gekkeikan.co.jp/company/news/201101_02.html
2月下旬から販売開始とのことなので、
もうしばらくで、店頭に並び始めることでしょう。
日本酒の酒蔵が造るマッコリはどんどん増えている状況ですが、
月桂冠のような大手までもが、いよいよ参入してきました。
しかも2種類同時発売で、片方は桃マッコリです。
「3月3日の桃の節句に向けて」
というコンセプトは面白いですね。
白酒のかわりにマッコリを、というのはユニークな提案ですし、
日本文化の中に、マッコリを浸透させようという意欲が見られます。
次なるタイミングとして、花見用のマッコリもぜひ欲しいですね。
桜とマッコリの組み合わせも、相性はよいのではと思います。
さて、最後に2011年マッコリ事情のまとめ。
「ソウルマッコリ」の発売で、市場規模は大幅に拡大し、
需要の底上げがなされるとともに、シェア争いはより熾烈になります。
従来の「二東マッコリ」、「JINROマッコリ」にはそれぞれ、
「ソウルマッコリ」に対する因縁めいた事情もありますしね。
二東にとっては、開拓した市場に昔のライバルが来た感じですし、
眞露から見れば、ロッテ&サントリーのコンビは焼酎のライバル。
この大手3社がバチバチとした争いを繰り広げることで、
日本のマッコリ市場は、ずいぶんと活性化していくことでしょう。
そこに絡むのは、麹醇堂、ウリスル、草家といった旧来の企業であり、
また、各社が独自のルートで輸入する、それぞれの韓国産銘柄たち。
さらには、そこへ月桂冠などの日本酒メーカーが造る国内物が加わって、
マッコリ業界は百花繚乱、ますます混沌としていくはずです。
次なる大手企業も、続々と参入してくる予感がします。
まずは、「ソウルマッコリ」の様子を見てからだと思いますが、
順調に売れていくようなら、他社も黙ってみてはいないでしょう。
ソウル濁酒、ロッテ酒類、サントリーという三社連合の図式と同じく、
準備を整えている、韓国企業はずいぶん名前があがっています。
これまで報道されたのは、CJ、農心、オリオンといった企業たち。
これらの会社と組めば、すぐにでも日本での大量販売が可能ですし、
あるいはすでに、水面下で話は動いているかもしれません。
日本におけるマッコリブームは、これからが本番。
今後、どんな話題が登場してくるか、非常に楽しみです。
3 Responses to 2011年マッコリ事情についての考察。