先日、「食客トーク」の後記を書いた中で、
「料理の詳細については別途いくつか語りたいと思います」
などと書きつつ、ずっと放置してしまいました。
出張の話、マッコリの話など書くべき話題がたまり、
どこから手をつけてよいか、自分でも混乱気味です。
とりあえず先日の出張報告でもあり、
食客トークのこぼれ話でもあるこの話題から。
第14話に登場する三千浦の煮干について語ってみます。
冒頭の写真は慶尚南道南海郡から臨む海。
向かい側の岸は慶尚南道河東郡になります。
河東は食客の中でも重要なロケ地として活躍しましたね。
そしてその河東郡の隣が三千浦のある泗川市です。
河東郡と南海郡を結ぶのがこの南海大橋。
この橋を渡ってすぐのところで、休憩を取ったのですが、
その小さな休憩所に、お土産を扱う店がありました。
そこで見つけたのが「チュッパンミョルチ」の文字。
チュッパンは漢字で「竹防」と書き、ミョルチは煮干。
または「チュッパンリョム(竹防簾)ミョルチ」とも呼ばれます。
食客の出てくる三千浦の煮干というのがまさにこれ。
三千浦と南海郡は隣町ですが、囲む海は同じなんですよね。
対岸でもしっかり特産品として販売されている訳です。
ちょうど食客トークの内容を考えていた時期でもあり、
それをお土産に買って帰るのも悪くないな、と思ったり。
最高級の煮干でダシをとれば、いいチゲができます。
で、店の人に声をかけたのですが……。
「ここはチュッパンミョルチがあるんですか?」
「……。んー、あるにはあります」
「おいくらですか?」
「……。んー、ずいぶん高いですよ」
なんだか歯切れが悪いことこの上ありません。
「こちらの煮干も南海産のいいやつですよ」
「これだったら1キロで1万5000ウォンです」
「少し質は落ちますが、1キロ1万ウォンの品もあります」
チュッパンミョルチのことはなかったことのように、
店頭に並んでいた商品をすすめられます。
「いえ、あの、チュッパンミョルチ……」
僕が食い下がると、店の人はため息をつきつつ、
店の中へと入っていきました。
で、出てきたのがコチラ。
店頭の商品はみなダンボール箱入りでしたが、
チュッパンミョルチはピンクの風呂敷で包まれていた上……。
なんと桐箱入りです。
冷凍庫で大事に保管してあったものを、
食い下がる僕のために、わざわざ持ってきてくれました。
「で、これいくらなんですか?」
「12万ウォンです」
「じゅっ……!」
高級品とはいえ、煮干は煮干となめていたようです。
せいぜい3、4万ウォンも出せば買えると思っていましたが、
1.5キロで定価16万ウォン、それを割り引いて12万ウォン。
レートが安くなっているとはいえ、1万円ほどの値段です。
「ここいらはチュッパンミョルチで有名ですが」
「決して、チュッパンミョルチだけが自慢なのではありません」
「南海産の煮干はみんな最高級の品なんですけどね」
「観光で来る方々は、みな有名なチュッパンミョルチを欲しがります」
「でも、大変希少なものなので、値段はどうしても上がります」
「価値をご存知の方は、贈答用として買いにいらっしゃいますけどね」
「うちの店でこうして保管しているのはそういう方のためですが」
「いつ売れるかわからないので、我々としては赤字です」
「チュッパンミョルチというのは漁法の違いで、魚は同じなんですよ」
「最初に私がすすめたこの煮干も、同じ海でとれた同じ魚です」
「食べてみてください。美味しいですから」
「こちらも食べてください。さあ、さあ」
たぶん僕のような観光客がわんさか来るのでしょう。
来るなり「チュッパンミョルチ!」と叫ぶ客にはもううんざり。
そんな心情が、セリフの端々からにじみ出ていました。
ちなみにその中身がこちら。
業務用の冷凍庫で保存されていたので真っ白ですが、
さすがに粒が揃っており、いい形をしています。
「ひとつ味見をしてもいいですか?」
と尋ねたら、とんでもない! と怒られました。
ドラマではソンチャンが勝手にもしゃもしゃ食べていましたが、
それを見て激怒した店の人の気持ちがわかりますね。
ソンチャンが3箱買うといったときに、手のひらを返す気持ちも。
ちなみにその漁法ですが、こんな感じです。
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水の流れに向けてV字型の竹杭(最近はクヌギを使用、5~10mほどの長さを用いる)を干潟部分に打ち込み、潮の満ち匹に乗って回遊する魚を捕まえる固定式漁法。竹と網で作った「竹防簾」という固定漁具でカタクチイワシを捕まえる。V字部分の先端が円形になっており、いったん入ったカタクチイワシが閉じ込められるのが特徴。干満の差と水の流れが激しく、かつ水深の浅いところでしかできない漁法だが、魚にストレスを与えず、また傷もつきにくいことがメリットにあげられる。さらにこの漁法では漁場から陸地までの距離が近いため、カタクチイワシを生きた状態で水揚げが出来るのも大きい。ただし、漁獲量自体は少ないため、自然と値段は高価にならざるをえない。
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なお、店の人曰く、チュッパンミョルチは偽物も多いとのこと。
漁法だけの違いなので、同じ地域でとれた上物の煮干を集め、
チュッパンミョルチの名前で売っているケースもあるそうです。
値段の安いものは避けたほうがいい、など教えてもらいました。
ソンチャンはいくらで買ったのだろう、と確認してみましたが、
札束をバラバラ数えているところで場面が切れます。
3箱のまとめ買いだけに、けっこうな金額になりますよね。
食客に登場する高級食材は煮干だけでもウン十万ウォン。
食材探しに奔走する姿はドラマの大きな見所ですが、
その金額は僕らの想像を、はるかに超えていそうです。
2 Responses to 食客トークのこぼれ話(三千浦の煮干編)。