韓国宮中料理のひとつにクジョルパンという料理があります。
写真の通り、8角形の器に8種類の具を盛り付け、
中央に置いたチョンピョン(小麦粉の薄焼き)で包んで食べる料理です。
シンソルロ(中央に炭火を入れる筒のある鍋料理)と並び、
代表的な宮中料理として広く認知されています。
ところがこのクジョルパン、細かな部分に目をやると謎だらけです。
かねてより師匠との懸案事項となっているのが名前の漢字表記。
「ク」の部分は数字の「九」でまず問題ないのですが、
「ジョル」も「パン」も資料によってかなりのバラつきがあります。
おそらくもっともよく見かけるのは「九折板」か「九節板」のどちらかでしょう。
稀に「九切板」という表記もありますが、あまり一般的ではないようです。
悩ましいのは「パン」のほうで、これはたいていが「板」の字を当てます。
ですが、百科辞典や宮中飲食研究院が出している本などを見ると、
なぜか「板」ではなく、「坂」の字が当てられていることが多いのです。
語義を考えると、「坂」であるのはいかにも不自然。
確認が取れないまま僕も何か書くときは「坂」を採用しておりますが、
どうにかこの問題に対する、決定的な根拠を知りたいところです。
もっともいいのは朝鮮時代に漢字で書かれた文献を見ることなのですが、
これまた厄介なことに、クジョルパンという料理はほとんど出てきません。
韓福眞先生の書かれた本によれば、宮中の宴会記録にも登場しておらず、
文献上、初めて現れるのは1900年代に入ってからとのことです。
もしかしたら意外に新しい料理なのでは……などと思ってもみたり。
その一方で、新羅時代の遺跡からクジョルパン型の漆器が発掘されていたりと、
器そのものの歴史はかなり古いような情報もあったりします。
来歴不明にもかかわらず、これだけ代表的料理扱いされているのは、
ひとえに見た目の豪華さと、五味五色の原則に忠実だからですかね。
謎の多い宮中料理の中でも、実に不思議な一品です。
クジョルパンの漢字表記について、情報をお手持ちの方はぜひ寄せてください。
何もお礼はできませんが、精一杯の感謝をさせて頂きたいと思います。
ちなみに上記情報の出典は以下の本より。
「ウリガ チョンマル アラヤ ハル ウリ ウムシク ペッカジ2」
(我々が本当に知らねばならない、我々の食べ物100種類2)
先日、師匠より頂いた貴重な本です。
3 Responses to クジョルパンについての考察。