コリアうめーや!!第255号
<ごあいさつ>
10月15日になりました。
このところ仕事の打ち合わせをしていると、
早くも「来年の」という単語が出始めています。
まだ10月も半分残っておりますし、
11月も12月も丸ごとそのままです。
来年の話をすると鬼が笑うとよくいいますが、
仕事の世界ではまったく関係なしですね。
来年のスケジュールがちらほら埋まることで、
年末気分が色濃くなる今日この頃です。
大きな事件の続いた2011年だけに、
残り2ヵ月半は平穏に過ぎて欲しいものですね。
さて、そんな中、今号のメルマガですが、
ちょっと地味な存在感の料理に注目します。
これまでまともに取り上げたこともありませんが、
最近、触れることが多く、気になっていました。
試みとしてメルマガで取り上げることで、
新たな魅力を発見できないかとの実験です。
コリアうめーや!!第255号。
手探りもいいとこの、スタートです。
<ティギムはもっと評価すべきだ!!>
秋の風がいよいよ冷たくなる頃。
ビニールの天幕で覆われた街角の屋台は、
漏れ出てくる湯気が看板がわりとなる。
それはウナギを焼く煙に匹敵するほど、
抗いがたい呼び声として歩行者を捕縛する。
天幕の隙間から先住者の数名も見えれば、
それはもはや首ねっこをつかまれたも同然だ。
人が集まっている屋台はいい屋台。
同格好の屋台が軒を連ねていたとしても、
素材の妙、調理の妙、接客の妙が立ちはだかる。
同じような花が咲いているように見えても、
出てくる料理は、同じからずである。
居並ぶ先住者の壁にも気後れせず、
身体をもぐりこませれば後は幸せのひととき。
「えーと、ティギム(天ぷら)を1人前!」
トッポッキ(餅炒め)を食べようか。
スンデ(腸詰め)をつまもうか。
キムパプ(海苔巻き)で腹を満たそうか。
天幕に踏み込むまで数秒間の積み重ねが、
居並ぶ花の姿を見て、いっぺんにひっくり返る。
それほどまでに存在感のあるティギムの山。
「この店はこれを食べに来るのか!」
半ばを過ぎた隣人の皿を横目で睨みつつ、
自らの迅速な方向転換に心の中で喝采を送る。
ほどなく目の前に出される6人の精鋭たち。
・オジンオティギム(イカの天ぷら)
・セウティギム(エビの天ぷら)
・コグマティギム(サツマイモの天ぷら)
・マンドゥティギム(餃子の天ぷら)
・コチュティギム(青唐辛子の天ぷら)
・キムパプティギム(海苔巻きの天ぷら)
いずれも個性派の面々に心が躍る。
親分肌のイカに、艶気で勝負のエビ。
地味な裏方役をサツマイモが着実にこなし、
餃子と青唐辛子が舞台の撹乱を狙う。
だが、真の主役は海苔巻きであろう。
厚い衣と海苔を割ってごはんが登場すると、
一緒に鮮やかな色合いの具も露わになる。
それは口に放り込んだ瞬間の早着替え。
一瞬で目を奪う舞台女優の華やかさだ……。
「……せい!」
「……んせい!」
「……せんせい!
「八田先生!」
「ん、んぁ!?」
「ちょっとなんですかこの冒頭!」
「出来そこないの三文小説みたいな文章!」
「過剰な修飾語が滑りまくってるじゃないですか!」
「もっと普段通りに書いてくださいよ!」
「あ、そう?」
「あ、そう、じゃないですよ!」
「ちょっと目を話すと妙なこと始めるんだから!」
「先生の文章は小説向きじゃないんです!」
「いつもの軽さを思い出してください!」
「あ、そうだよね。はーい……」
ということで強引に方向修正。
改めてティギムについて語ろうと思う。
ティギムは屋台料理のひとつであるが、
あまり表立って語られることの少ない存在である。
冒頭の三文小説に出てきた主人公の選択肢にも、
ティギムはそもそも入っていなかった。
もちろん人によっても話は違うだろうが、
少なくとも僕はティギム目当てで屋台に行くことはない。
だが、屋台に入って居並ぶティギムの姿を見て、
すぐさまティギムモードに入るのはよくあることだ。
地味ながらも人を引き付ける屋台料理のひとつ。
そして、これを得意とする店も実はけっこう多いのだ。
僕がこれまで出会った印象的な店をあげると、
まずは釜山の西面にあるロッテ百貨店脇の屋台がある。
名前を「ロッテ後門チプ」といって、地元に住む友人から、
「ここだけいつも混んでいるんだよ!」
と教えられて通うようになった。
実際、入ってみると人がひっきりなしで、
10個、20個とテイクアウトする人も多い。
中でも皿からはみ出るほど大きなイカが有名。
もともと釜山はイカのティギムが有名だが、
肉厚な割に柔らかく、イカの旨味もよく出ている。
揚げたてにそのままガブッとかぶりついてよし、
トッポッキのソースをちょっとつけて食べてもよしだ。
なお、釜山はほかにティギムの名店が多く、
極太トッポッキで有名な広安里の「タリチプ」や、
海雲台市場内の「サングギネ」もおすすめだ。
ソウルでティギムを食べるなら孔徳市場がいい。
孔徳市場は規模こそ小さな生活市場だが、
ジョン(衣焼き)とティギムはやたら充実している。
もっといえば豚足の専門店も必要以上に多い。
ジョンとティギムは2軒の専門店があり、
両店舗が細い路地で向かい合ってしのぎを削る。
どちらの店もオリジナルの商品を開発しているので、
他にはない個性的なジョン、ティギムを味わえる。
個人的に驚いたのが食パンのティギム。
8枚切りの食パンをナナメに切って衣をつけ、
油で揚げただけという直球勝負の1品だ。
どんな味だろうと興味本位で食べてみたが、
なんとも表現しがたい、そのものずばりの味だった。
食パンを天ぷらにしたとしか表現のしようがなく、
無理に例えるなら甘くないドーナツに似ていた。
食パンにすべてを代表させるのは乱暴だが、
それぐらい個性的なティギムが揃っている。
そして、嬉しいのはこの店が24時間営業であり、
店のすぐ後ろで飲食店も兼ねているということ。
ジョンとティギムを盛り合わせにしてもらい、
それを肴にマッコリをぐびぐび飲める。
マッコリ好きの宵っぱりには格好の舞台。
夕方や深夜などの半端な時間にぜひ訪れたい。
そしてここからはややマニアックなティギム。
いろいろな種類の盛り合わせではなく、
地域性のある特別なティギムも語ってみたい。
まず、いちばんは錦山のインサムティギム。
メルマガの第196号でも語ったが、
錦山名物の高麗人参をティギムにしたものだ。
第196号/こんなに美味しい高麗人参は初めてだ!!
http://koriume.blog43.fc2.com/blog-entry-966.html
錦山には高麗人参の卸売市場があるため、
近隣地域から良質の6年物などが集まってくる。
そのため若い3年物などは値段が安く、
それを屋台でティギムで気軽に味わえるのだ。
このティギムはつけて食べる蜜がポイントで、
高麗人参の蜂蜜漬けを作った余りを流用している。
蜜自体に高麗人参の香りが溶け込んでいるため、
ティギムの風味も蜜によって倍増するのだ。
同様に高麗人参マッコリも販売しており、
それを飲むことでより一層風味が増す。
ほろ苦さとほろ酔いを楽しむティギムである。
続いて、南原のミクラジティギム。
南原名物のドジョウをティギムにしたもので、
チュオタン(ドジョウ汁)の専門店で出会える。
丸ごとのドジョウに衣をつけて揚げてあるのだが、
泥臭さを消すため、エゴマの葉を使うのが特徴。
鮮やかな緑色が衣から透けており、
見た目からも食欲をそそるティギムだ。
最後は、季節物から済州島のメルティギム。
旬のカタクチイワシを丸ごと揚げたもので、
メルというのが済州島方言でカタクチイワシを指す。
春の時期にしか食べられない貴重な料理で、
刺身にできる新鮮なカタクチイワシを揚げて作る。
食べると青魚のくさみなどは微塵もなく、
熱で活性化したジューシーな脂が流れ出る。
刺身にしても、スープにしても美味しい魚だが、
春のメルティギムはたまらない味わいだ。
もし春の済州島を訪れる機会があったら、
菜の花観賞とともに、メルティギムも探して欲しい。
ビールにも、焼酎にも合うこと請け合いである。
といった感じにずらり並べたティギムの話。
正直なところ、どれだけ語れるか不安だったため、
やや羅列気味になったのはお目こぼし頂きたい。
肩に力が入っておかしな冒頭になったのも、
同じ不安要素に由来する、よくある失敗である。
ちなみにタイトルとして書いた、
「ティギムはもっと評価すべきだ!!」
というのは自分への戒めだったりも。
これまであまりティギムを意識することなく、
熱心に語ることもほとんどなかった。
今回はふとしたことからの挑戦だったが、
じっくり向き合えば語れることの多い料理であった。
いまはまだ羅列としてしか語れなくとも、
今後、さらなる深みに出会える可能性もある。
ティギムはもっと評価して然るべき料理。
次回は刮目し、襟も正して出会おう。
「……せんせい!」
「八田先生!」
「ん、んぁ!?」
「オチがまた妙にカッコつけていますよ!」
「どのみち内容の薄い回でしたけど!」
「そんなことで誤魔化される読者はいませんて!」
「刮目とか襟も正してとかいりません!」
「はい、すいません……」
<リンク>
ブログ「韓食日記」
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FACE BOOK
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<八田氏の独り言>
そもそもこの突っ込んでいる人は誰でしょう。
メルマガを担当する心の編集者がいるようです。
コリアうめーや!!第255号
2011年10月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com