コリアうめーや!!第242号
<ごあいさつ>
4月になりました。
日本ではエイプリルフールですが、
韓国では萬愚節(マヌジョル)といいます。
いつもの年ならどんな嘘をつこうか悩むのですが、
今年はその存在をすっかり忘れていました。
というのも、昨日から韓国の済州島に来ており、
昨日、今日と幸せいっぱいの郷土料理三昧。
嘘をつくことなど、すっかり頭から抜け落ち、
ただひたすらに食べまくっていた次第です。
いやはや、済州島は本当にいい島ですね。
今回はいつもより長めに滞在できることもあり、
マニアックな料理まで徹底的に食べ尽くす予定です。
その報告はいずれまた、ということになりますが、
それより先に報告しなければならないのが富山の話題。
楽しく、美味しく、また意義ある体験だったので、
まずはそれについてしっかり書きたいと思います。
コリアうめーや!!第242号。
黒さが魅力の、スタートです。
<これが富山式の韓国料理なのだ!!>
富山でオフ会をやる。
そう告知をしたとき、多くの人が僕にいった。
「なんで富山!?」
うん、その気持ちはよくわかる。
僕はメルマガでその経緯について説明したし、
また富山と僕の関係についてもきちんと語った。
10周年記念で地方在住の読者様に会いに行く。
これまでオフ会をした、東京でも大阪でもない地方へ行く。
そして地方に根付く韓国料理の姿を体感する。
そして、富山には志の高い韓国料理店があり、
その店に関わる、研究熱心な人たちがいる。
加えて富山にはいろいろ美味しいものがたくさんある。
だが、そういった前置きを丸ごとすっ飛ばし、
富山という単語だけを耳にした人はみな不思議がった。
「なんで富山!?」
東京や大阪、あるいは福岡などならいざ知れず、
富山と韓国の関係は、ちょっとにわかに想像しにくい。
富山という地域が、韓国とどう関わっているのか。
それを瞬時に判断できず、
「なんで富山!?」
という表現になったのだろう。
無理もない話で、いまだからこそ語るが、
「なんで富山!?」
という問いかけは僕自身の中にもあった。
オフ会の開催地を決め、お店の人と相談をし、
メルマガでその決定について語ってなお。
僕は出発直前まで富山に行く理由を探していた。
それは単純なオフ会の楽しさを超え、
ある種、意義のようなものを求める部分。
「行けばきっと何か面白い発見があるはず!」
とは思いつつも、その何かがどんなものなのか、
手がかりをつかみきれず不安だったのだ。
僕は富山と韓国の関係をインターネットで調べ、
自治体としての関わりや、貿易などの情報を拾った。
また、市内の韓国料理店や焼肉店情報も調べ、
そこに富山らしさが見出せないかも探ってみた。
だが、そこからは何も見えず、徒労に終わった。
富山県に韓国と姉妹関係にある自治体はなく、
また韓国と密接にかかわるような特産品も見当たらない。
富山の特産品が韓国料理に活かされている痕跡もなく、
富山でマッコリが造られているようなこともない。
このあたりの話はオフ会の会場を提供してくれた、
「コリアンキッチンカエン」の人たちともしていた。
「なんか富山っぽい料理とかないですか?」
「富山っぽい料理ですかぁ……」
「地元の食材を使ったキムチとかナムルとか」
「いやぁ、ないですねぇ……」
といった会話が事前にあった。
ゆえに、僕は富山オフ会の声かけをしつつ、
「なんで富山!?」
という問いに、自ら悩んだのである。
だが、その悩みは到着してすぐ氷解した。
どんな悩み事もそうなのであろうが、
いざ事態に当たるとそれだけで解決することは多い。
僕自身が思ったように、
「行けばきっと何か面白い発見があるはず!」
というのは正しかったのである。
ただそれは、一緒に主催をしてくれた「カエン」の方々が、
僕の悩みを事前にずいぶん察してくれていたのが大きい。
僕以外にも、東京から来る人がいるということもあり、
オフ会の料理に普段はない特別料理を加えてくれたのだ。
すでにブログでも報告済ではあるが……。
富山駅前(富山)「コリアンキッチンカエン」で富山オフ会。
http://koriume.blog43.fc2.com/blog-entry-1261.html
ホタルイカの韓国漬け、イカの黒作りなどの前菜。
富山湾の宝石と呼ばれる白エビのチヂミ。
湯引きしたマダイの刺身と、サス(カジキ)の昆布〆め。
マダイのアラを使ったメウンタン(アラ鍋)。
といった料理がずらずらと並んだ。
これらはまさに富山の食文化と韓国料理の融合。
この時点で僕は、
「なんで富山!?」
と悩んでいたことがすべて吹っ飛んだ。
韓国風に味付けされたホタルイカの前菜は、
コルトゥギと呼ばれるよく似たイカの塩辛を思わせる。
イカの塩辛がパンチャン(副菜)として出てくるのは、
黒と赤という色の違いはあれど韓国では定番。
地場の海産物で作るチヂミもポピュラーな工夫だし、
また、海沿いの地域で御馳走といえば地魚の刺身。
そして刺身を食べた後のアラでメウンタンを作るのも、
これまた定番すぎるほど定番のコースだといえよう。
となると、この日のメニューは極めて韓国的であり、
また富山という地の利を最大級に活かしていることになる。
僕はこれらの料理を食べながら、富山という地域が、
まるで韓国のどこか一地方であるように感じた。
「やはり富山でよかった!」
と料理を食べながらしみじみ思った。
だが、である。
上記にあげたメニューはこの日の特別料理。
富山という地域の食文化を見事に融合させているが、
一方でそれは、料理人の腕であるともいえる。
「カエン」のスタッフはしばしば東京に来て、
有名韓国料理店をハシゴしつつ最新の流行を吸収している。
もちろん東京だけでなく、韓国に出張することも多い。
富山にありながら、といってはたいへん失礼だが、
仮に東京にあったとしても、アンテナの高い韓国料理店。
この日、特別料理として作って頂いた料理の数々は、
そんな蓄積を活かした見事な創作料理であったと思う。
これはこれでたいへん意義深いことではあるが、
その一方で、富山の地に根付いた文化とはいいがたい。
上記の料理を頂きつつ、
「やはり富山に来てよかった!」
と思ったのは偽らざる本音だが、
「なんで富山!?」
の答えにまでは至らないのだ。
では、そういった料理には出会えなかったのか。
いや、出会えたのである。
もってまわった書き方をして恐縮ではあるが、
富山の地で愛されている、富山ならではの料理もあった。
そのひとつが、サムギョプサル(豚バラ肉の焼肉)である。
これは当日、話を聞いて初めてわかったのだが、
「カエン」で普段から使用しているサムギョプサルは、
地元では有名な「黒部名水ポーク」であるとのこと。
ブランド豚を使ったサムギョプサルというのは、
東京でも人気を集めるコンテンツのひとつ。
日本各地の豚はおろか、世界中からブランド豚が集まっており、
僕がここ最近、食べたサムギョプサルだけでも……。
・山形県産の純粋金華豚
・宮崎県産のきなこ豚
・茨城県産の梅山豚
・スペイン産のイベリコ豚
といった銘柄がある。
ある意味、流行の一形態だが、「カエン」の場合は、
地元のブランド豚を使っているというのがポイントである。
しかも、この豚肉を包んで食べるサンチュも富山産。
これは富山式のサムギョプサルといっても過言ではない。
富山の韓国ファンが普段から食べている富山式の韓国料理。
韓国料理が富山の地に根付いたひとつの証であろう。
そして、もうひとつ。
ここからがいちばんの驚きであったのだが、
なんと、プルコギ(牛焼肉)も隠れた富山式であった。
やや脱線するが、これをしっかり説明するには、
まず富山独特の黒いラーメンについて語らねばならない。
富山ブラック、または黒系ラーメンとも呼ばれる、
見るからに真っ黒な醤油ラーメンのことである。
富山に到着した直後、「カエン」の人たちの案内で、
富山ブラックを食べに繰り出し、そこでえらく驚いた。
「黒い、しょっぱい、でも美味しい!」
というのが感想のほぼすべてである。
塩気(むしろ醤油気)が強く、塩分がたいへんに濃い。
このラーメンは1950年代に誕生したとされ、
そのときは主に、肉体労働の従事者向けだったという。
汗をかく仕事なので塩分補給とボリュームが必要。
「ごはんのおかずになるラーメン」
ということで独自の進化を遂げ、
醤油を効かせた色の濃いラーメンが生まれたという。
しかも、ごはんのおかずを目指しているため、
スープだけでなく、チャーシューやメンマも味付けが濃い。
いずれも強烈なインパクトだったが、それ以上に驚いたのが、
その濃いスープを完飲した「カエン」の店長さんの存在である。
注文の時点で「濃いめ」を頼んで、かつ、
「ほかにももっと濃い店がある」
と語る彼の話にのけぞった。
富山の人たちは、この濃さに慣れており、
また、この濃さこそが富山の食でもあるという。
そして店長さんはこう語る。
「富山の味付けは醤油が要になるんですよ」
「ちょっと味が足らないなと思ったら必ず醤油をかける」
「富山でも西と東で少し違うんですけどね」
「東の人たちはやっぱり濃いめの味付けを好みますね」
富山ブラックの後だけに、それは説得力があり、
富山における醤油の重要さを、僕はラーメン1食で学んだ。
と、そこでふと思ったのが……。
「そんな醤油を活かした韓国料理はないんですか?」
という疑問である。
答えは感動的なまでにビシッと返ってきた。
「それはやっぱりプルコギでしょうね」
「富山の人の舌に合わせるので醤油が強いみたいです」
「こないだなんか韓国の人がプルコギを食べて」
「なんでこんなにしょっぱいんだって怒っちゃって……」
その瞬間。
「それだぁっ!」
と電撃のような感覚が僕の全身を貫いた。
すぐさま夜のオフ会で、それを食べたいとワガママをいい、
特別料理に加えてプルコギも出してもらうことになった。
「これでも前よりは醤油を減らしたんですよ」
というプルコギは確かに醤油の味が全面に出ており、
濃いけどうまいという富山ブラックスタイルであった。
その濃さは減らしたといっても、東京人の僕には充分濃く感じられ、
そのまま富山産のサンチュに包んでちょうどいいぐらいだった。
「なるほど、これが富山の味か……」
と心から納得をしたプルコギ体験であった。
翌日、地元のスーパーを訪ねてみると、
確かに醤油コーナーがずいぶんと充実していた。
富山の醤油を使い、富山ならではの濃さに仕上げ、
富山の人の口に合うプルコギは、まさに富山の韓国料理。
それは他地域の人に対し、積極的に喧伝するものではないが、
もっとも富山らしい韓国料理の姿ではないかと思う。
そして、その発見は大きな意味を持つ。
僕がこれまで考えていた郷土らしさの要素は、
郷土食材や、韓国と地域の関係で成り立つものが多かった。
そこには地元の食習慣や味の好みという視点がなく、
表層的な部分でしか郷土との関係を見ていなかった。
僕が出発前に、
「なんで富山!?」
と悩んでいた最大の失敗がそこにある。
僕は富山と韓国の関係ばかりに目を向けており、
富山そのものの食文化を、見ようとしていなかったのだ。
ただ、これこそまさに、行ってみて初めてわかる部分。
その土地の人が、どんなものを食べて、どんなものを好み、
その上に、韓国料理というキーワードがどう乗るのか。
それは土地の食を体感せねばわからないことだろう。
そんな発見を与えてくれた今回の富山オフ会は、
充分すぎるほどに意義深い機会であった。
韓国料理は日本の地で確実に根付き始めている。
その確信をいっそう深めたという点でも、
「なんで富山!?」
という問いへの答えとして充分だろう。
富山には富山ならではの韓国料理があるからだ。
興奮のあまり、個人的な話に終始してしまったが、
今回、富山でオフ会ができて本当によかったと思っている。
最後になって恐縮だが、オフ会に参加頂いた皆様。
そして「カエン」の方々、ほか富山で出会ったすべての人に。
心からの感謝したいと思う。深々と頭を下げ……。
「ありがとうございましたっ!」
そして、ふつふつとわく次への野望。
次はどこの地域を目指そうか。
いつになるかも未定だが、また他の地域も目指しつつ、
日本と韓国料理の関係を追い求めていきたい。
「ぜひうちの地域にもおいで」
という皆様。
熱烈なお誘いを今後もお待ちしております。
<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/
<八田氏の独り言>
富山ブラックプルコギは名物になりうるかと。
便乗色の強いネーミングではありますけどね。
コリアうめーや!!第242号
2011年4月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com