コリアうめーや!!第230号

コリアうめーや!!第230号

<ごあいさつ>
10月になりました。
ようやく夏の暑さが去ったと思ったら、
急激に冷え込んで、冬の気配がにじんでいます。
今年は本当に、秋の短い年でしたね。
かろうじて、サンマは食べましたが、
今年も「マツタケ、何それ?」という状態。
栗ごはんや、戻りガツオにも出会えないまま、
早くも湯豆腐が恋しくなっている今日この頃です。
今年のファースト熱燗はいつになるのか。
そんなことばかり考えております。
さて、そんな季節の移ろいを感じる中、
今号では赤く辛いスープの話題を用意しました。
身体を内側から温められそうな料理ですが、
その、赤く、辛いというのがやや問題。
韓国料理における大きな謎が潜んでいます。
ビシッと答えが出せればいいのですが、
なかなかそうもいかないのが歯がゆいところ。
コリアうめーや!!第230号。
首をかしげながらの、スタートです。

<カルビクッパは韓国料理なのか!!>

ここ最近あった2つの体験から、
まずは某テレビ番組スタッフとの会話。

「コリアンタウンを舞台に番組を作るんですけど」
「なにかクイズ形式にして出題したいんですよ」
「こないだは横浜の中華街で撮影をしたんですけどね」
「例えばこんな問題を作りました」

Q、次のうち日本で考案された料理はどれ?

1、春巻き
2、酢豚
3、冷やし中華
4、蟹爪の揚げもの

それをひとしきり出演者が悩んでみせ、
解答をフリップに書いて答え合わせ。

「答えは3の冷やし中華でした!」

という感じで盛り上がりたいとのことだった。

ちなみに冷やし中華の発祥は諸説あるものの、
日本の仙台で生まれた、というのが有力。

それと似たような韓国料理というと……。

「まず石焼きビビンバの可能性がありますね」
「韓国で生まれたという説もあるので曖昧ですが」
「日本の焼肉店が発祥という説も根強いです」

「じゃあ、それで問題を作ります!」

「あ、いやいやちょっと待ってください」
「テレビで紹介するには、ちょっと微妙な話題ですね」
「韓国の人たちは韓国発祥だと思っていますから」

「となると……」

「んー、んー、んー、あっ!!」
「カルビクッパなら日本発祥でいいんじゃないですかね」
「あれはまず韓国で見かけることはありません。」

「なるほど、じゃあそれで行きます!」

というのが、まずその1。
次いで、その2の事例がこんな感じ。

ある知人からの疑問メール。

「カルビクッパの定義ってありますか?」

なんでもカルビクッパについて調べており、
焼肉店を巡ったものの、仕上がりが各店バラバラ。
なんとなくイメージは浮かびあがったものの、
こうあるべし、という決定打が見つからなかったらしい。

「そうだろうなぁ……」

と思いつつ、僕の自分のわかる限りで返信。
だが、そこで僕も同様に思い悩む。

「カルビクッパっていったいなんなんだろう」

日本における現代韓国料理の迷宮。
その一端をカルビクッパが象徴している。

さて、そのカルビクッパ。
もろもろの誤解を恐れず大胆に発言すれば、

「韓国には存在しない韓国料理!」

ということで僕は解釈している。

冒頭に紹介した冷やし中華と同じく、
日本で誕生した韓国料理のひとつ。
これまでにも何度か韓国人に、

「カルビクッパって韓国にある?」

という質問を投げかけたが、
一様にみな、

「ん!?」

という表情をする。
そしてその後に続く答えは、

「あるよ」

だったり、

「ないよ」

だったりする。
ビシッと答えが揃わないのには理由があり、
その境界線が曖昧な料理だからだ。

そもそもカルビクッパとはいかなる料理か。

語義から考えるとわかりやすいのだが、
カルビは「肋骨および、その周辺部の肉」を表す。
一方、クッパは「スープにごはんを入れた料理の総称」。

「カルビを具としたスープごはん」

というのがカルビクッパの最低条件だろう。
そこに野菜なども入るし、溶き卵なども加わる。

これに対し、韓国に存在するのはカルビタンだ。

カルビクッパという名称はまず聞かないが、
カルビタンという料理名であれば広く認知されている。
この場合は「タン=スープ」という意味なので、
語義としては、

「カルビを具としたスープ」

というのが最低条件。
料理名だけから単純に判断するなら、

「カルビクッパ」-「ごはん」=「カルビタン」

という公式が成り立つ。

ただ、悩ましいのは、まさに「ごはん」の部分で、
韓国でカルビタンを頼んだ場合、ごはんも一緒についてくる。
しかも、韓国にはスープ料理にごはんを入れて食べる習慣があり、
韓国人の大半は、食事開始とともにごはんをスープに入れる。

「カルビタン」+「ごはん」=「カルビクッパ」???

という公式も成り立ってしまうため、
韓国人の答えは「ある」と「ない」に分かれる。

料理名としてはカルビタンなのだが、
食べ方としてはカルビクッパ。

また、店によっては最初からごはんを入れることもあり、
その場合は、カルビクッパと呼べないこともない。

ただし、ここからがいちばんの問題なのだが、
日本で見るカルビクッパは、韓国のカルビタンと大きく違う。
カルビタンにごはんを投入したからといって、
まったく同じ料理にはならないのである。

実は先日、これらの疑問を自分なりに消化するため、
都内にある某焼肉店で、実際にカルビクッパを注文してみた。
その店はカルビクッパに自信があるとみえて、
焼肉メニューとともに、名物という扱いになっていた。

「お待たせ致しました」

とのセリフとともに運ばれてきたのは、
たっぷりと大きな器に盛られた真っ赤なスープ。

そう、真っ赤なスープ!

この時点で、自分の知るカルビタンとは、
大きくかけ離れた料理であることを確認する。

韓国で食べるカルビタンは基本的に透明なスープ。

牛カルビを長時間煮込んでスープを取り、
塩をベースに、少量の醤油を加えて味付けをする。
薬味として粉唐辛子やタデギ(唐辛子ペースト)を用意し、
好みで足すことはあっても、味付けには用いない。

コムタンやソルロンタンといった牛スープと同じく、
味付けを最小限にして、牛の旨味を最大限に楽しむ料理だ。

また、具は煮込んだ牛カルビがメインとなるが、
大根や、長ネギ、店によっては溶き卵か錦糸卵が加わる。
基本的には牛カルビを味わうための料理なので、
さほど具だくさんである印象はない。

対して、僕が都内で食べたカルビクッパは、
真っ赤なスープに加え、具だくさんでもあった。

牛カルビ、大根、長ネギ、溶き卵という定番の具に、
ニンジン、シイタケ、ミツバなどが加わっている。
また、メインである牛カルビには下味がついており、
噛み締めることでほんのり甘味がにじむ。

スープはコムタン(牛スープ)をベースとしつつ、
辛さはあるものの、甘味も加えて上手に仕上げている。
韓国で食べるカルビタンとはまったく違うが、
これはこれとして、おおいに魅力のある料理だ。

さて、悩ましいのはここからである。

いったいなぜ日本にはこんな料理があるのだろう。
そして、どうみても韓国料理の範疇に入るべき料理を、
なぜ本場である、韓国で見ることがないのだろう。

素直に考えて、その発祥は日本の焼肉店にありそうだ。

韓国から渡り住んだ人たちが食文化を持ち込み、
焼肉店という形で、韓国のさまざまな料理を広めた。
その過程のどこかに、カルビクッパの起源があるはずである。

そして、それを解くカギのひとつには、
日韓における、食習慣の違いが指摘できるだろう。

韓国ではスープ料理にごはんを入れるのは当たり前だが、
日本にはその習慣がないので食べ方がわからない。
スープ料理を出されても、別々に食べてしまうのだ。

だが、韓国のスープ料理はごはんと一緒に食べてこそ。

ならばということで、最初からごはんを投入し、
クッパの状態で提供するスタイルが一般的になる。
現在の焼肉店でもメニューを見ると、

・コムタンクッパ
・テグタンクッパ
・ユッケジャンクッパ

といった表現をよく見かける。
いずれの料理も韓国においては、

・コムタン
・テグタン
・ユッケジャン

と表記するのが主流。
店によっては、最初からごはんを入れることもあるが、
経験上、ごはんは別盛りで出てくることが多い。

そもそも「タン」も「クッ」もスープを意味するため、
厳密にいえば、「~タンクッパ」は二重表現。
スープだったはずの料理が、クッパとして定着した経緯を、
言葉の重なりが、よく象徴しているように思える。

カルビクッパも同様にして誕生したのであろう。

もともとカルビタンとして登場したものに、
ごはんが入って、カルビクッパになった。

ただ、そこで問題となるのがスープの色である。

韓国で見るカルビタンは澄んだスープで、
日本で見るカルビクッパは真っ赤な色をしている。

家にある資料をいろいろひっくり返してみたが、
その疑問に対する答えは、見つけることができなかった。
もろもろ考えてみると、

1、カルビタンが変化してカルビクッパになった
2、韓国にもカルビクッパのような料理があったが、現在はなくなった
3、そもそも別の料理として誕生した

というような可能性が推測できる。

1の可能性はおおいにありそうだし、
2の可能性はテグタンという別の事例が存在する。
3の可能性もどこか捨てがたい気がする。

現状でその判断はつかないのだが、
さらに踏み込んで調べてみれば発見もあるだろう。
日本で独自に進化を遂げた韓国料理の研究は、
他の料理も含め、今後の課題としたい。

最後に余談だが、今回まったく別の角度から発見があった。

現在、日本で食べられているカルビクッパとは別に、
咸鏡道地方の名物としてカルビクッパがあったらしい。
咸鏡道といえば、現在は北朝鮮に含まれる地域であり、
現在もその食文化が残っているかは定かでない。

調べたところ、現在のカルビタンに似ているが、
中に入っている具がずいぶんと豪華である。

ソンジ(牛の血液)や、ユッケ用の牛細切り肉、
そして豆腐が具として入るスープごはんとのこと。
また食べ方が特徴的で、まず具とスープを楽しんだ後、
残ったごはんにコチュジャンをかけて混ぜて食べる。

韓国各地にスープごはんは数多く存在するが、
スープとごはんを別に楽しむ食べ方はかなり異例。

いずれ機会があれば、ぜひ食べてみたい。

日本にも北朝鮮にも存在し、韓国にないカルビクッパ。
ここまで書き進めてきて、改めて痛切に思うのだが、
本当に謎多き、迷宮のような料理である。

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
日本と咸鏡道のカルビクッパが持つ共通点。
赤いという部分に、なにか意味はあるのだろうか。

コリアうめーや!!第230号
2010年10月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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