コリアうめーや!!第224号

コリアうめーや!!第224号

<ごあいさつ>
7月1日になりました。
W杯とともに過ぎ去った6月ですが、
その日々はなかなかに充実したものでした。
日本も韓国も予想以上の健闘でしたね。
事前の期待値は地を這うほどでしたが、
揃って仲良くグループリーグを突破しました。
まだまだ世界のトップは遠くかなたですが、
今回のベスト16は誇れる結果だと思います。
なんだか妙に興奮をして、
「自分も全力で頑張らなければ!」
と気合のスイッチが入ってしまったりも。
勇気と感動をもらったことに感謝しつつ、
目の前の仕事に邁進したいと思います。
さて、そんな決意の下、今号のテーマですが、
気合とは裏腹に、かなり地味な料理を選びました。
南米選手の派手で華麗なプレーではなく、
日本代表の献身的な守備といった感じの料理。
サッカーかぶれがイマイチ抜けませんが、
コリアうめーや!!第224号。
地に足をつけての、スタートです。

<扶安で発見マイナー郷土料理の数々!!>

4月に全羅北道を取材してきた。
ここ2年ほど全羅北道ばかり訪れているが、
これにはいくつかの理由がある。

まず第1に、全羅北道の料理は美味しい。

ビビンバの本場とされる全州に始まり、
6市8郡のいずれにも魅力的な郷土料理がある。
食べても食べても、宿題が山積みになっており、
なかなかもう充分! という気にならない。

第2に、全羅北道が観光に力を入れていること。

日本からの観光客が増加しているのを受け、
韓国の各自治体は、広報活動に力を入れている。
中でも、観光客誘致に熱心なのが全羅北道で、
東京の四谷三丁目にも事務所も開設した。

こうした事務所があると、僕らメディアの人間も、
取材をするうえで、ずいぶんと助かるのである。
情報提供からはじまり、現地での取材協力などもろもろ。
自治体のお墨付きがあると僕らの信頼度も違う。

「日本からわざわざ何しに来たの?」
「取材? こっちもいろいろ忙しいからねえ」
「日本人のお客さんもそんなに来ないし」

というような対応が、

「あー、はいはい。役所から聞いてるよ!」
「遠いところからわざわざ御苦労さん!」
「これを機に日本人がたくさん来るといいねえ!」

という対応に変わったりする。

もちろん誇張した感がない訳ではないが、
地方に行くほど、役所の影響力が強くなるのは事実だ。
日本に事務所があるというのは本当にありがたい。

第3に、仕事はサイクルするということ。

僕が初めて全羅北道を訪れたのは2003年だが、
仕事として出かけたのは2008年3月が最初。
アルクの『韓国語ジャーナル第25号』に、

「全州ビビンバはなぜおいしいのか」

という記事を書いた。
これをきっかけとして全羅北道との関係が深まり、

・2008年03月(全州、淳昌、長水)
・2008年10月(全州、任実、南原、高敞、完州)
・2009年05月(全州、益山、任実、南原、淳昌、扶安、高敞)
・2009年06月(全州)
・2010年04月(扶安、群山)
・2010年04月(全州、淳昌)

と年2回ずつ足を運んでいる。
なお、2010年4月が2回あるのは、
別件の仕事で2度行ったからである。

これだけ立て続けに行く理由が出来たのには、

「○○で書かれた全羅北道の記事読みましたよ」
「いやあ、本当に美味しそうなものがいっぱいですね」
「ウチでもぜひ全羅北道を取り上げたいんですが」
「またちょっと取材行ってもらえます?」

「ぜひぜひぜひぜひ、喜んで!」

という展開があったりする。
ライターとしては本当にありがたいことだ。

そんな背景もあって。

このメルマガで書かれるテーマも、
確実に全羅北道の料理が増えている。

ここ3年分から抜粋すると、

第176号:全州の取材裏話
第184号:全州のマッコリタウン
第185号:南原のドジョウ
第186号:完州のおからドーナツ
第197号:全州の店飲みビール
第198号:扶安のアサリ粥
第199号:高敞のウナギ
第209号:全州のソバ
第222号:淳昌の韓定食

といった感じ。

今号を加えれば見事10本目だ。
しかもよく見ると、その中には3連続が2度あり、
読者諸氏も食傷気味ではとの懸念もある。

もうちょっと他の地域にもきちんと足を運び、
新規開拓をすべきだが、最近はそうもいかない事情がある。

以前は自ら旅行で食べ歩きに出ていたが、
最近は仕事で行くことが多く、プライベートな時間は少ない。
仕事として原稿を書き、その合間に食べたものを、
メルマガにて裏話を兼ねつつ書いているのが現状である。

もちろん、合間に食べる料理が感動的なこともあるし、
マイナー料理を取り上げられるメリットもある。

だが、やっぱり美味しいネタは仕事優先。

仕事で行く以上、得た情報は最大限に注ぎこむべきだし
まったく同じ内容をメルマガに書くこともできない。

でも、個人的には思う。

「素材が1級なら、身を取った後のアラも1級!」
「むしろアラを使って美味しく仕立てるのが職人の腕!」
「宝探しにも似た感動がアラにはあるのだ!」

ということで、今回の内容はアラ尽くし。
それが職人の技になるか、ただのダシガラかは僕次第なので、
頑張って感動を呼ぶ文章に仕立てたいと思う。

さて、アラを語るにはまず身の部分から。

4月の取材は「韓国語ジャーナル第33号」の仕事であり、
それが先日「韓国ゆったり旅」という特集で記事になった。
タイトルは、

「干潟のめぐみと四季の魚介 扶安まんぷくガイド」

そこで僕は以下の料理を紹介した。

・イイダコ料理(しゃぶしゃぶ、刺身)
・コウイカ料理(石板焼き、イカ墨入り粥)
・アサリ料理(お粥、ビビンバ)
・塩辛(天日塩と塩辛定食を含む)
・ハマグリ料理(焼きハマグリ、お粥、チヂミ)
・桑の実韓定食(キムチ、焼きサバ、釜めし)
・桑の実マッコリ
・タマネギのキムチ
・大豆モヤシの辛子酢和え

扶安という町は本当に食が豊かなところである。
タイトルにもあるように、周囲を肥沃な干潟が囲み、
四季折々の魚介が、潤沢に水揚げされてくる。

陸に上がれば塩田事業と塩辛作りが盛んで、
また、養蚕も行っているため桑の木が至るところにある。
桑の実、桑の葉を利用した郷土料理も作られている。

これだけ個性豊かな食が充実している町だと、
限られた誌面では、なかなか全部は伝えきれない。
最後にあげた、

・タマネギのキムチ
・大豆モヤシの辛し酢和え

については存在に触れただけ。
書ききれなかったことを言い訳しつつ、
書き手としても未練が残る、と原稿に記した。

その未練こそ、メルマガで晴らすべし。

アラと呼んでしまうにはもったいないほど、
この2品も魅力的な郷土料理であった。

まずはタマネギのキムチから。

扶安ではタマネギも多く生産しており、
中でも海岸に近い畑で育てたものがよいとされる。
海風を受けて育ったタマネギは糖度が高く、
キムチとして漬けたときの甘味が違う。

キムチによく合うのは柔らかな新タマネギで、
小ぶりなものを選んで、葉や茎と一緒に漬ける。

全羅道の他地域でもタマネギキムチは見かけるが、
扶安のこだわりは地元産の天日塩と塩辛。
この両者を使ってまずいキムチになる訳がない。

このキムチに出会ったのはコウイカの専門店で、
石板焼きの副菜としてタマネギキムチが出てきた。

「これも特産品のひとつだからねー」

と聞いて箸を伸ばしてみると、
なんとも軽快な歯触りのキムチではないか。
ひと口目を食べた瞬間、

シャクッ!

という音が耳の奥で響いた。
その瑞々しさは油断していただけに衝撃であり、
果物を食べたのかと思う水分量に驚いた。

一呼吸遅れてにじみ出てくる甘味も実に濃い。

「これが海風の実力か!」

と思わず、キムチを凝視してしまった次第。
ひと口で2度美味しいキムチである。

主菜ではないため、観光客が目指して食べるのは難しいが、
春先の時期に行けば、どこの飲食店でもあるとのこと。
ぜひ春に扶安を訪れる機会があれば探してみて欲しい。

そしてもうひとつがコンナムルチャプチェ。

直訳すれば、コンナムルが大豆モヤシ。
チャプチェは春雨炒めとなる。

だが、大豆モヤシ入りの春雨炒めかというと、
これが予想を裏切って、まったく違うものが登場する。
こちらはアサリ粥の店で副菜として出てきたのだが、

「これも扶安の郷土料理よ」
「大豆モヤシのナムルがですか?」
「ううん、ナムルじゃなくてチャプチェ」
「チャプチェ!?」

という会話があった。

そもそもチャプチェは漢字で「雑菜」と書き、
いろいろな素材を組み合わせた料理との意味である。
いまでは春雨がメインのように扱われているが、
朝鮮時代までのチャプチェは春雨抜きの野菜炒めだった。

そのチャプチェという単語が残ったのだろう。

扶安のコンナムルチャプチェにも春雨は入らず、
大豆モヤシをカラシと酢で味付けした和え物を指す。
好みで粉唐辛子を振ることもあるらしい。

さっぱりとした酢のもののような感じだが、
大豆モヤシがシャキシャキしており食感がいい。
ピリッと鼻に抜けるカラシも効いている。
地味ではあるが、食欲を引き立ててくれる料理だった。

いずれの料理も決して主役にはならないが、
扶安の食文化を語る上では、外せない要素だと思う。
話の展開上、「アラ」ということで表現したが、
むしろ、いぶし銀の名脇役と評価をしたい。

単独で全国から観光客を集めるほどではないが、
扶安が持つ、食の豊かなイメージを下支えしている。

「やっぱり扶安はすごい……」

というのが食べて正直な感想であった。

今回は取材という名目があったので、
短い間だったが、ずいぶんいろいろ食べた。
だが、やはり宿題はまだまだあるもので、
いずれまた足を運びたいと思っている。

メイン級の料理としては、

・格浦港の刺身
・秋のコノシロ料理
・冬のボラ料理

といったあたり。
今回紹介した「アラ」的料理としては、

・開岩竹塩
・アツケシソウのナムル
・マツナのナムル

といった感じ。
季節物が多いので、なかなか制覇はできないだろうが、
コツコツ通って、その魅力を感じたいと思う。

いままで韓国のあちこちを回ってきたが、
食文化の多様性で見ると、扶安は頭ひとつ抜けている。

「アラ」的料理の充実はその確固たる証拠。

ということでまとめ、今号のテーマはダシガラでないと、
なんとか虚勢を張ってみたいと思う。

韓国語ジャーナル第33号
http://www.alc.co.jp/kj/index.html

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
こんな料理もある、あんな料理もある、
と語ってくれた扶安の人たちが印象的でした。

コリアうめーや!!第224号
2010年7月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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