コリアうめーや!!第208号
<ごあいさつ>
11月になりました。
驚くべきことに、今年も残り2ヶ月。
急速度で怒涛の年末が過ぎ去ってしまえば、
なんと2010年がやってくるのです。
2000ヒトケタ年代はこれで終了。
後に続くのは2010年代という妙な違和感がありますね。
80年代、90年代という耳に馴染んだ表現に比べ、
10年代というのはあまりに実感がありません。
まあ、平成20年代はもっと実感ないですけどね。
来年は、えーと……平成22年ですか。
西暦に比べて、だんだんわからなくなります。
そんな年月の話はさておき。
今号のメルマガではちょっとした考察を試みます。
僕の中で、長年心に引っかかっていたある問題。
とあるきっかけを経て、一定の解決を見ました。
コリアうめーや!!第208号。
モヤモヤをすっきりさせる、スタートです。
<韓国料理に不可欠なものとは何か!!>
先日、自分のライターデビュー作を読み返す機会があった。
『韓国語をモノにするカタログ(2002年度版)』株式会社アルク。
現在、刊行されている『韓国語ジャーナル』の前身である。
僕はその頃、留学から帰ってきたばかりの大学7年生で、
卒業論文の準備をする傍ら、編集のアルバイトに精を出していた。
また、文章を書く、ということに目覚め始めた時期でもあり、
インターネットを通じて大量の駄文を発信していた。
このメルマガを創刊したのも、ほぼ同様の時期だが、
それにアルクの編集者さんが目をつけてくれた。
「韓国料理の話を書いてみませんか」
それまで好き勝手に書いていた僕は驚いたが、
これは大チャンス! と張り切って8500字ほどの原稿を書いた。
いま読み返すと拙い文章だが、自分なりに気持ちは込めた。
ともかくも「書く」ということに情熱を燃やしていた時期だった。
僕は今でこそ職業として日々、文章を書いているが、
おそらく書くという作業が根本的に好きなのだろう。
このメルマガだったり、日々更新しているブログであったり。
仕事とは関係ない文章も常に書いている。
それでも、以前に比べるとやはり忙しさに負け、
全体的な書く量としては、だいぶ減ったように思う。
仕事もなく、もっともヒマだった駆け出しライターの頃は、
このメルマガと同程度の分量を毎週書いていた。
親しい友人にだけ送る、ごく私的なメールマガジン。
この「コリアうめーや!!」は今号で208号になるが、
そのごく私的メールマガジンは、合計で235号を数える。
2001年1月から書き始め、休刊となった2006年2月まで。
毎週、毎週、なんだかんだ身の回りの話を書き連ねていた。
その一部はホームページなどに流用して日の目を見たが、
大部分はまったく世に出ず、ハードディスクに眠っている。
書くことを生業にしている立場としては、意味のない文章だが、
それだけの量を書いたという蓄積は自分の支えになっている。
そしてまたときおり。
思い出したかのように、その文章が必要となることもある。
そんな過去の亡霊テキストを、ひとつ引っ張り出してみたい。
それはごく私的メールマガジンの第75号。
僕は「韓国料理に不可欠なもの座談会」という話を書いた。
いまからもう7年以上も前に書いた文章であり、
配信日は2002年7月15日となっている。
韓国料理に不可欠な素材を考える紙上座談会。
といっても僕が参加者全員分のテキストを書いているので、
要は座談会の形式を借りたフィクションストーリーである。
その中で僕はニンニク、唐辛子という2つの素材を対決させた。
いうまでもなく、ニンニク、唐辛子は韓国料理に欠かせない食材。
4人の登場人物を作り上げて、ディベート形式で語らせてみた。
いま振り返っても、アイデアとしては悪くないと思うが、
内容は当時好きだった『本の雑誌』の「発作的座談会」をパクっている。
なんか面白いことを見つけて、
「これ韓国料理でも応用できないかな」
とあれこれ盗んでいく姿勢は当時から変わらない。
せっかくなので、その一部をここで再録してみよう。
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A「と、言う訳で今回は『韓国料理に不可欠なもの』というテーマで話をすす
めていくわけですが、事前に唐辛子とニンニクを対決させてみてはどうだとい
う意見がありました。まあ、どちらも韓国料理にはないと非常に困る野菜だと
思うんだけど、このテーマはどう?」
B「いいんじゃない。僕は唐辛子派で」
C「なに、そういう闘いなの。じゃあ俺、ニンニク派。って、そのBの言う唐
辛子派ってのはどっちなのよ。唐辛子がないと困るってことなの? なくても
いいってことなの(笑)」
B「なきゃ困るってほう。だって赤いんですよ韓国料理は。ニンニクで赤くな
りますか?」
D「赤くするだけならトマト入れたっていいじゃない」
C「Dはニンニク派ってことね」
A「じゃあ、俺が唐辛子派に回るってこと?」
B「いーや、1対3だって、むしろいいね。ボクちゃんがんばるもん」
C「よーし言ったな。お前1人で唐辛子派な。俺ら3人ニンニク派でいくぞ」
B「ふふん。かかってきなさい」
D「まあ、いきなりそんなアホな闘いに持ち込まないでさ。とりあえず検証を
してみようじゃないの。唐辛子がないとどうなるのか。あるいはニンニクがな
いとどうなるのか」
B「ニンニクが無くなれば韓国料理はクサイってレッテルをなくせるね」
C「クサイんじゃなくて香りなの、あれは」
B「ひいては韓国はニンニククサイってレッテルをなくせるね」
A「なるほど。差別的な問題から切り込んだわけね」
D「ちょっと説得力が出てきたな。韓国料理は赤いから必要ってレベルからは
少なくとも脱却した」
B「いや、赤くない韓国料理なんて考えられないよ」
C「お前ソルロンタンとかどうするんだよ。白いぞ」
B「カクトゥギ入れて食うもんね。赤くすればいい」
(中略)
D「要は唐辛子の役割ってのは辛さと色だろ。色はトマトだのニンジンだのと
赤い食べ物はいくらでもあるし、いざとなったら食紅みたいのを使ってもいい。
辛さだって胡椒などの代替香辛料があるだろう。でもニンニクの鮮烈な香りっ
てのは他に例がないぞ」
A「そんなことはないだろ。ネギだってニラだって相当臭いはきついぜ」
B「ちょっと待って。すごいことに気付いた! 唐辛子がないと、おちんちん
の事を婉曲的な表現でやわらかく呼べない」
(注:韓国語では男性器のことを隠語的に唐辛子と呼ぶ)
C「ぶはははは。お前そりゃあ卑怯だろう」
B「みんな、ストレートに『チ●ジ!』って言わなきゃいけないだろ。年頃の
女の子は恥ずかしくて生きていけないだろうなあ。唐辛子があるからなんとな
く平和に暮らせるんだよ。唐辛子はやっぱり必要だね。いらないのはニンニク」
D「なんかいきなり不利になったな(笑)」
(中略)
B「諸君。君たちが無人島に漂流したとする。するとそこの島に自生する植物
は唐辛子かニンニクのどちらかだった。生のニンニクをそのままたくさん齧る
のはしんどいよ」
C「お前、それは唐辛子だって生でたくさん食べるのはしんどいだろう。ニン
ニクは焼けばホコホコしてうまいじゃないか。ニンニクのがいいぞ」
B「じゃあ、先輩の家に出かけて行ったら生の唐辛子と生のニンニクを大量に
出された。残さず食べなきゃいけないとしたらどっちを食べる?」
C「なんでいきなり生限定なんだよ」
A「だからあのさ。今日の座談会は唐辛子とニンニクはどちらが偉いかじゃな
くて、韓国料理に不可欠な野菜はどちらかってテーマなの。無人島も先輩の家
も関係ないの」
B「唐辛子とニンニクだけしかなかったらどんな韓国料理が作れるのかなあ」
C「もういいよ。終わりにしようぜ」
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元の「発作的座談会」を知る人であれば、
そのパクリ具合と、影響された感じがよくわかるだろう。
基本的にはアホな話として展開するように組み立てており、
結論も出さずに終えたが、テーマについては真剣に考えた。
以来、今に至るまでこのテーマは懸案として僕の中に残っている。
と、ここまで書いてまだ話が迷走しているのだが、
僕が今号で書きたかったのは、
「韓国料理を韓国料理たらしめる素材は何か!」
ということなのである。
先日、ビビンバとタコライスの融合した料理を食べたのだが、
それ自体は美味しかったものの、韓国料理らしさを感じなかった。
ごはんにひき肉やトマトと一緒に、ちぎった葉野菜などが入り、
温泉卵とコチュジャンを載せて全体をぐるぐるかき混ぜて食べる。
ちょうどビビンバとタコライスの中間を取ったような料理法だが、
不思議なことに食べた感覚では、ほとんど韓国料理らしさがない。
「うーむ、なぜだろう」
としばし考えて、僕が思い至ったのは香りである。
その料理にはニンニク、そしてゴマ油の香りがなかった。
ゼロではなかったかもしれないが、印象として非常に薄かった。
僕は先の座談会でニンニクと唐辛子だけを戦わせたが、
人によってはゴマ油こそ、韓国料理に欠かせない要素とする。
「ふむ、これはもしかすると……」
と、そこで思い出したのが先の座談会であった。
ずいぶん長いこと放置していた問題だが、
実に7年以上という時間を経て、再び立ち向かおうと思う。
今回、行うのは前回のような紙上座談会ではない。
もっと実践的で、具体的な実験から結論を得たいと思う。
僕が思いついたのは、料理レシピからの統計的な抜粋。
時おりしも、先月素晴らしいレシピ本が発売になった。
『かんたん、ヘルシー韓国おつまみ』
大空出版刊、八田靖史著、定価1050円(税込)。
http://www.amazon.co.jp/dp/4903175251/(アマゾン)
http://www.ozorabunko.jp/ozora/(大空出版)
「なんだよ、宣伝かよ!」
と気付いた方は大正解。
長く引っ張るときのオチはたいていベタである。
といった内向きの理由はさておき。
実験の素材として適していると思ったのは本当で、
この本には、家庭で簡単に作れる韓国料理が124品掲載されている。
僕が作ったものが1/4で、残りは飲食店4店舗に協力を依頼し、
店で出している料理の作り方を教えて頂いた。
家庭で難しいものは、一部簡略化もお願いしているが、
基本的にはお店で出している料理のそのままである。
ならば、そこに入っている素材の統計を取れば、
まさに韓国料理に不可欠なものがわかるではないか。
もちろん料理によって主となる素材はかわるので、
野菜、魚、肉といった取材料でなく、調味料、香辛料の類。
味付けの要を探し、韓国料理らしさを決める要素を抽出する。
その結果が以下である。
ぱんぱかぱーん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱんぱかぱーん!
どどどどどどどどど、わーわー、きゃーきゃー、ぴーぴー!
どかすかぼこすか、ぐわわわわわわ、ずずーん!
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第1位:ニンニク(64品、51.6%)
第2位:砂糖(60品、48.4%)
第3位:ゴマ油(56品、45.2%)
第4位:塩(49品、39.5%)
第5位:醤油(43品、34.7%)
第6位:コチュジャン(37品、29.8%)
第7位:白ゴマ、すりゴマ(35品、28.2%)
第8位:サラダ油(33品、26.6%)
第9位:酢(31品、25.0%)
第10位:粉唐辛子(30品、24.2%)
第10位:コショウ(30品、24.2%)
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一覧にするとシンプルだが、この作業に数時間かかった。
ざっと眺めるだけでなく、その姿を噛み締めるように見て欲しい。
そして自分でも驚きだが、なかなか印象的な結果が得られている。
1位はやはりニンニクであった。
しかも50%をも超える使用率。
みじん切り、スライス、丸ごとなど用途はさまざまだが、
料理の2つに1つは、ニンニクが使われている。
2位は意外な伏兵現るという感じで砂糖。
確かに韓国料理には甘辛い味わいの料理が多くある。
日本の場合も醤油、砂糖で、塩辛いほうの甘辛さを構成するが、
韓国の場合は唐辛子系を加えて文字通り甘辛さを作る。
そして3位にゴマ油。
基礎調味料である塩、醤油を抑えての3位はすごい。
日本料理であればベスト10にも入れないと思われるが、
韓国料理では、3本の指に入る必須調味料として君臨する。
ニンニクとともに、その香りが欠かせないのは明白だ。
また、ニンニクとともに不可欠と思われた唐辛子は、
コチュジャンが6位、粉唐辛子も10位とやや振るわなかった。
両方足してもニンニクと同程度というのは意外な結果である。
ちなみに7位の白ゴマ、すりゴマであるが、
こちらは飾りとして最後に振ったぶんを除いてある。
レシピ本という性質状、見た目をよくするために多く使われた。
飾り用の白ゴマを加えると、73品、58.9%とダントツである。
同様に長ネギも、次点の12位(26品、21・0%)だが、
白髪ネギや刻んだ万能ネギを添えるケースが多く見られた。
これらを含めると、43品、34.7%の6位だ。
また、長ネギ以下の順位も見てみると……。
第13位:水飴(21品、16・9%)
第14位:旨味調味料(17品、13・7%)
第15位:酒(13品、10・5%)
第15位:顆粒牛肉ダシ(13品、10・5%)
といった感じに続いていく。
このあたりまでを自宅に揃えておくと、
韓国料理のほとんどを楽に作れるということだ。
ということで結論。
韓国料理にはニンニク、ゴマ油の香りが不可欠で、
かつ砂糖の甘さ、塩や醤油の塩辛さ、唐辛子の辛さが重要。
仕上げにはパラパラと白ゴマを振るのも大事である。
異議のある人は、
『かんたん、ヘルシー韓国料理』
を購入したうえで、検証してみて欲しい。
買ってくれた人の異議のみ受け付ることとする。
<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/
<八田氏の独り言>
発売から1週間で増刷が決まりました。
ありがたいことに好評を頂いております。
コリアうめーや!!第208号
2009年11月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com
登録解除用アドレス
http://www.melonpan.net/mag.php?000669