コリアうめーや!!第198号
<ごあいさつ>
6月1日になりました。
いよいよ梅雨が間近になりましたが、
それ以上にカレンダーの進み加減が心配です。
この6月が終われば、なんと上半期終了!
ついこないだ年が明けたばかりなのに、
もう1年の半分が終わってしまうのです。
光陰矢の如しとはよく言ったものですが、
あまりの速さにクラクラする思い。
気付けばこのメルマガもはや第198号ですしね。
大台となる第200号ももう目前。
第200号、第201号は記念企画があるので、
頑張って書かないと全羅北道報告も終われません。
5月半ばの出張をいつまで引っ張るのか。
ちょっと本気で悩ましいところです。
ともかくも、今号は全羅北道ツアーの続き。
海に突き出た半島から、2つの感動体験を紹介します。
コリアうめーや!!第198号。
カウントダウンも視野に、スタートです。
<器の中で行うアサリのザクザク潮干狩り!!>
韓国におけるお粥の話。
最近は韓国もヘルシーブームが定着し、
お粥の専門店が、あちこちに店を構えている。
旅行で出かけると朝ごはんに便利なため、
僕もちょくちょく利用している。
比較的、大ハズレの少ない料理だが、
ときおり大アタリにも出会うのが面白い。
その大アタリはソウルのチェーン店ではなく、
主に地方の郷土料理を探索していてだが、
「うひょ、ナニコレ! このお粥バカウマ!」
と大騒ぎをしてしまうことがある。
たかが粥。されど粥。むしろ粥。ぜひ粥。
その実例を少しあげてみよう。
まずは留学時代に食べたタッチュク(鶏粥)から。
友人らと1泊2日の小旅行に出かけたとき、
僕は例によって、夜の宴会で派手に酔っ払った。
翌朝は全身が胃液にまみれたような2日酔い。
身体を少し動かすだけでも、頭が割れるように痛い。
みんなが楽しく観光などをしている間、
僕はひとり、レンタカーの後部座席で倒れていた。
友人らが買ってきてくれた巨大な丸薬も、
目を白黒させながら飲みこんだがまるで効果がなかった。
そんな泥沼状態の中で、唯一僕を救ったのが、
帰り道の途中で食べたタッチュクである。
「キミのために昼ごはんをここにしたよ」
と友人が連れて行ってくれたのが鶏料理の専門店。
半死半生だった僕は、メイン料理の記憶がまるで抜け落ちているが、
タッペクスク(丸鶏の水煮)の店ではなかったかと思う。
鶏を煮込んだスープにごはんを加えてコトコト。
出来上がったお粥は、鶏の旨味がたっぷり溶け出ており、
金色に輝いて、見るからに美味しそうであった。
「こ、これなら食べられるかも……」
と手をつけてみて驚愕。
優しく、温かく、滋味深い味わいが身体を包んだ。
僕は力の入らない右腕を無理やり動かしつつ、
一心不乱にタッチュクを胃の中へと流し込んだ。
食べ終わる頃には額と背中に汗がにじんでおり、
内臓を含めた全身に活力が戻っていた。
ほかにもお粥の思い出はたくさんある。
済州島で食べた、濃厚な肝入りのアワビ粥。
忠清南道で食べた小さな川魚を煮込んで作る魚粥。
慶州の市場で食べた上品な甘さのカボチャ粥。
また、東京の某料亭風韓国料理店に行ったときは、
ホタテでダシを取った贅沢な野菜粥を食べさせてもらった。
上等な乾燥ホタテ貝柱があれば簡単にできるので、
自宅で作る定番粥のひとつとして採用している。
さて、そんな韓国の魅力的なお粥体験。
それが先の全羅北道取材で、新たに積み重なった。
これまで食べてきた韓国粥の中でも、
ひときわ輝きを放つほどの超感動体験。
それがなんとひとつの地域で2度もあった。
夕食にお粥を食べて感動。
翌朝、別のお粥を食べてまた感動。
2日連続というより2食連続。
道で1万円を拾ったら、次の電柱脇に財布が落ちていた!
というぐらいにありえない衝撃である。
そんなお粥の聖地ともいうべき土地が扶安(プアン)。
全羅北道の中西部、西海岸沿いに面した郡で、
土地の大半が、辺山半島として海に突き出ている。
海岸線は干潟で囲まれ、海からの恵みが豊富。
塩田事業で栄えた町でもあり、地元の名産品に塩辛がある。
食を語るうえではたいへん魅力的な地域だが、
恥ずかしながら僕は、行くまで扶安のことを何も知らなかった。
むしろ、国際空港がある全羅南道の務安(ムアン)だとか、
スキー場が有名な全羅北道の茂朱(ムジュ)と勘違いしていた。
事前に全羅北道の東京事務所長から、
「扶安は海産物が美味しいよ、ふふふ」
「とっても立派なコンドミニアムもあるんだよ、ふふふ」
「そこでとれる塩辛も有名なんだなぁ、ふふふ」
と聞かされたときも、
わかったフリをしながら適当な相槌を売っていた。
「いいですよね、扶安!」
などと笑顔で語りつつ、自宅に戻ってから、
「えーと、扶安、扶安……」
と一生懸命調べていたのは超機密事項である。
地図で扶安を発見した後も、
「うーんと、ここでいいんだよな……」
と少し不安であった(たぶんうまいことを言った)。
そのぐらいマイナーな土地柄なのである。
扶安郡に到着したのはツアー2日目の夜だった。
宿泊していた全州のホテルをチェックアウトし、
任実、南原、淳昌と歴訪してそれぞれを観光。
これらのエリアも書くべきことがたくさんあるのだが、
スペースの都合から割愛させて頂く。
何より語るべきは、扶安がお粥の聖地だということ。
僕らを乗せたバスは、ちょうど夕食時になって扶安に着いた。
だが、あたりはすでに暗くなっており、予約をしていた海側の席は、
まったくもって、暗闇しか見えない状況だった。
「んー、個室のほうに移動しましょう」
ふふふの所長は少し残念そうではあったが、
地元の関係者も含めて、20名ほどの大所帯。
個室でワイワイ、というほうが食事はしやすい。
その個室で、僕は1枚の貼り紙を見つけた。
――味と栄養を兼ね備える
真・オジュク 特許出願――
オジュクというのが料理名。
漢字で書くと「烏粥」となる。
鳥(トリ)粥でなく、烏(カラス)粥であるのがポイント。
よく似た漢字ではあるが線1本で大違いだ。
日本では不吉の象徴とされるカラスだが、
扶安郡では大事なタンパク源として古くから食用。
カラスの肉は多少固いものの味わいが濃く、
じっくり時間をかけて煮込むことで旨味がにじみ出る。
韓国では街中でハト、カササギはよく見るが、
その一方で、カラスの姿を見ることは非常に少ない。
これは扶安を中心として全羅北道エリアで古くから、
多く消費してきたため数が激減したのだ……。
……などと書くと本当に信じる人がいるかもしれない。
ただの悪い冗談なので、適当で止めておこう。
烏粥と名乗りつつも、実際にカラスを食べるのではなく、
見た目が真っ黒なので、そう名付けた次第。
実際にその黒さを演出しているのはイカスミである。
扶安は季節ごとにとれる魚介が変わり、
・春:イイダコ
・夏:コウイカ(スミイカ)
・秋:コノシロ(コハダの成魚)
・冬:ボラ
といったラインナップでローテーションする。
僕らが訪れた店でも、季節の食材利用が徹底しており、
春夏秋冬でメニューがガラッとかわるのだった。
春はイイダコの炒め物やシャブシャブ。
夏はコウイカの石板焼きと、イカスミの粥。
秋はコノシロを刺身で食べたり焼き魚にしたり。
冬はボラの刺身と、辛い鍋料理を楽しむ。
僕らが訪れた5月中旬はすでに夏メニューの時期。
コウイカの石板焼きをつつきながら、
地元名産のクワの実酒(ポンジュ)をガブ飲み。
そのシメとして烏粥(イカスミ粥)を味わったのだった。
そして、この烏粥がたいへんな逸品。
コウイカの下ごしらえをする際、背骨のような軟骨を抜くが、
これを集めて煮出すことで、味わいの濃いスープを作る。
そこにごはんと新鮮なイカ墨を加えてさらに煮込み、
黒ゴマもたっぷり加えて香ばしさと黒さを増す。
「うわっ、黒っ!」
と全員が驚いた次の瞬間。
「うわっ、旨っ!」
となって夢中で食べた。
コウイカの石板焼きも充分に美味しかったが、
最後のお粥で、すべてお株を奪われたぐらいの感動。
コウイカの旨味がお粥の中に凝縮されていた。
「いやあ、昨日のお粥はうまかったねえ!」
と全員がニコニコ顔で反芻する翌朝。
朝食のメニューは事前にすべて発表されており、
そこにはアサリ粥との記述があった。
扶安の海岸線は上質の干潟が取り囲んでおり、
アサリ、ハマグリの貝類が豊富に取れる。
「昨日あれだけ美味しいお粥を食べるとね」
という冷めた気持ちはなかったが、
正直、少し油断していたのではなかったかとも思う。
僕はアサリ粥が目の前に登場した瞬間。
写真を撮ろうとカメラを取り出しつつ、
「あ、アサリ粥だからアサリを見せなきゃ!」
と箸で沈んでいるアサリをほじくり出した。
むき身になった状態で5~6匹。
それを見ていたまわりの人が、
「さすがきちんと演出してから撮るんですね」
と褒めてくれた。
「いやあ、料理の写真ばっかり撮っていますんでね」
「自然とこういう小細工も見につくんですよ」
「少しでも見栄えよくとれたらいいなあって、アハハハハ」
若干の謙遜を交えながらも得意満面。
だが、それが極めて滑稽なことであるのが、
その直後、食べ始めてからわかった。
「アサリの旨味がよく出ていますね!」
「それに大粒のアサリがいっぱい入ってる!」
「ほんとだ、すごいいっぱい!」
「いっぱいどころかすごい量ですよ!」
「スプーンひと口につき、アサリ1匹の割合ですね!」
「どのぐらい入っているんでしょう、30匹ぐらい!?」
「いやあ、もっと入っていそうな感じですよ!」
「途中から数えてみたんですけど30匹以上ありますね!」
「アサリ粥を食べるというよりも潮干狩りをしているみたい!」
「ザクザク掘れるって感じですね!」
朝食から一同、大変な大盛り上がり。
僕が写真のためにほじくり出した5、6匹は、
むしろ、少なさの強調になってしまったのかもしれない。
本来は3、40匹もアサリが入っているのに、
5、6匹をちまちま見せる、というのは明らかに愚行だった。
帰り際、僕は店の人に少し話を聞いた。
「アサリ粥は何かダシを取るんですか?」
あまりに濃厚な味わいだったため、
何か別のダシを加えているのかと思ったのだ。
だが、これは愚行に次ぐ愚考。
聞いた店の人は爆笑とともに、
「なに言ってんの。真水とアサリだけよ」
「まずお米を炒めてから、そこにアサリを入れるの」
「ダシなんか作るより、よっぽど簡単だよ」
と答えてくれた。
1人前につき、3~40匹は入るアサリ粥。
確かにそれだけあれば、余計なダシは不要であろう。
我ながら聞くほうが愚か、という質問であった。
ともかくも、烏粥、アサリ粥とも見事なまでに絶品。
行くまでは扶安について何も知らなかったが、
行ってみて実に豊かな場所であるとわかった。
実に満足のゆく扶安初訪問ではあったが、
そのぶん心残りなのが、食べ逃した他の扶安名物である。
アサリ粥と並んで有名なハマグリ粥を食べ逃してきたうえ、
春のイイダコ、秋のコノシロ、冬のボラも未食である。
アサリ粥を食べた後に、名産の塩辛は買うことができたが、
その近所には、塩辛定食を出す飲食店もあるという。
聞けばごはんと汁物に加え、9種類もの塩辛がつくとか。
ここも機会があれば、ぜひ足を運んでみたい。
1度訪ねたおかげで宿題がどっさり。
おそらく探せばまだまだ美味しいものがあるだろう。
いずれゆっくり改めて探索したいと思う。
全羅北道の扶安郡。今回はお粥の聖地として紹介したが、
次の機会には、また違う聖地として語れるはずだ。
<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/
<八田氏の独り言>
その扶安では干潟の干拓工事が進行中。
アサリ、ハマグリ目当ての人は早めがいいかも。
コリアうめーや!!第198号
2009年6月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com