コリアうめーや!!第197号
<ごあいさつ>
5月15日になりました。
ゴールデンウィークが過去のものとなり、
通常業務の日々が戻ってきています。
連休中に羽を伸ばして遊びに行った方。
どこにも行かずゴロゴロ英気を養った方。
精力的に遊びすぎてむしろ疲労困憊な方。
いろいろいらっしゃるとは思いますが、
連休というものがあっただけで幸せです。
僕は毎日、ひたすらパソコンと格闘。
連休どころか休みと呼べる日も希少でした。
とはいえそんな毎日にご褒美があったのか、
ちょっと楽しい出張に出てきました。
3泊4日、全羅北道というエリアで食べ歩き。
かけがえのない体験をするとともに、
またこのエリアの魅力にどっぷりハマりました。
まずは全羅北道の中心的な都市である、
全州市から新たな発見を報告します。
コリアうめーや!!第197号。
ふふふと笑って、スタートです。
<全州はやっぱり酒飲みの町である!!>
先月、上野でひとりの韓国人と出会った。
全羅北道の淳昌出身。地元愛にあふれており、
「全羅北道は何を食べても美味しいよ」
と語りつつ、ふふふと笑う。
うんうん。それは僕もよく知っている。
初めて全羅北道に足を踏み入れたのは2003年。
全州のビビンバに感動し、これぞ真のビビンバであると、
メルマガの第47号で熱くその魅力を語った。
コリアうめーや!!第47号
http://www.koparis.com/~hatta/koriume/koriume47.htm
それ以降も、ビビンバをテーマに取材へ出かけたり、
旅行会社の協力を得て、ビビンバツアーを企画したり。
有名大学教授の講義を全州のビビンバ店で受けたこともあった。
ビビンバ好きであることにかけては韓国人にも負けない。
そしてまた、ビビンバだけではなく……。
第51号(コンナムルクッパプ/全州市)
http://www.koparis.com/~hatta/koriume/koriume51.htm
第55号(石焼きビビンバ/長水郡)
http://www.koparis.com/~hatta/koriume/koriume55.htm
第184号(マッコルリ/全州市)
http://www.melonpan.net/letter/backnumber_all.php?back_rid=594906
第185号(チュオタン/南原市)
http://www.melonpan.net/letter/backnumber_all.php?back_rid=596653
第186号(おからドーナツ/完州郡)
http://www.melonpan.net/letter/backnumber_all.php?back_rid=598736
これだけの全羅北道料理をメルマガで取り上げた。
ただし、これだけといっても微妙に号数が偏っている。
一時期にわっと集中取材をして書いたのがバレバレだが、
感動的な料理がたくさんあるのに違いはない。
「全羅北道の料理はいいですよねえ」
と意気投合していると、
そこで意外なオファーを頂いた。
「全羅北道には美味しいものがたくさんあるよ」
「今度、全羅北道に出張するけど一緒に行くかい?」
「みんなで美味しいものを食べようじゃないか」
僕は0.5秒の瞬発力で快諾。
「行く、行きます! 尻尾振ってついて行きます!」
かくして全羅北道への出張に参加した。
楽しい3泊4日の日程で、帰ってきたのがつい昨日。
まだ興奮冷めやらぬ、という状態である。
美味しいものをたくさん食べてきたので、
これからしばらく全羅北道の料理を熱く語りたい。
たぶんメルマガも数号は全羅北道だらけになる予定。
よろしくご覚悟頂きたい。
さて、その上野で出会った淳昌出身の彼。
彼などと親しげに書いたが、実はずいぶん年上で、
「全羅北道東京事務所長」という偉い肩書きを持っている。
かつては姉妹都市でもある鹿児島県に赴任しており、
全羅北道と日本をつなぐ仕事のエキスパートだ。
「全羅北道には美味しいものがたくさんあるからね」
「あちこち視察しながら、全羅北道の勉強をして」
「夜はみんなで美味しいお酒を飲みましょう」
出張というよりは、ただの美食旅行に思えるが、
これは旅行業界でFAMツアーと呼ばれる観光業務の一環。
マスコミや旅行業者を対象に、該当地域を見てもらい、
観光客の誘致へとつなげるプロモーションである。
ちなみにFAMは「Familiarity(精通・熟知)」の略。
旅行関係者がそのエリアを精通、熟知することで、
渡航客へのよりよい情報提供を目指す意味合いがある。
従って僕はツアーに参加することで、
・該当エリアでうまいものを食べる
・帰国したら「これがうまかった!」と熱く語る
という責務を負うことになる。
だが、それは責務というほどのことではなく、
むしろ普段から個人的にしていることに過ぎない。
「そんなんでいいの!?」
と思いながら、初めてのFAMツアーに参加してみた。
そしてそれは思いのほか楽しかったのである。
FAMツアー初日。
参加者の一団は成田空港から仁川空港に降り立ち、
そのまま用意されたバスで、全羅北道へと向かった。
益山の弥勒寺に寄り、全州へと移動して韓定食の食事。
たぶん本来はこのあたりをしっかり書くべきなのだろうが、
個人的にザクッと削り、その後のことを語ってみたい。
夜9時頃、予定の日程を終えてホテルにチェックイン。
ロビーで解散する前に、東京事務所長から、
翌日のインフォメーションがあった。
「明日は7時20分にロビー集合です」
「いったん解散ですが、飲みに行かれる方はいますか?」
「荷物を置いて15分後にまた集まってください」
普段は物静かで朴訥とした印象の所長。
しかし飲む話となると、メガネの奥で目がキラッと光り、
ニコニコとした笑顔が、よりいっそう柔らかく崩れる。
ああ、この人はお酒が好きなんだなぁ、
という愛すべきキャラクター。
ただこのとき、僕は参加者の一部有志と、
「テバサキを食べに行きましょう」
という話で盛り上がっていた。
テバサキとは日本語であり手羽先のこと。
名古屋料理として知られる鶏の手羽先唐揚げが、
何故か全州でだけ、勢力を拡大しているのだ。
名古屋で手羽先を食べたある社長が、
その魅力にハマり、全州に持ち帰ろうと考えた。
社長は名古屋の専門店に勤めノウハウを習得。
名古屋式のスパイシーな味付けを学ぶとともに、
韓国人の好みに合わせて、新たな工夫も追加した。
手羽先の中に、コーンやチーズ、青唐辛子を詰め、
中からいろいろな具が飛び出してくる手羽先を開発。
テバサキギョジャ(手羽先餃子)として売り出した。
そして、これが当たった。
いまや全州市内で10店舗以上が展開し、
益山、群山、金済、高敞といった周辺都市にも進出。
2004年の開業以来、わずか数年でのサクセスストーリーだ。
ただし、その成功は極めて限定的。
全州ではある程度の知名度を獲得したが、
周辺地域への出店は少なく、全国的な知名度はまだないに等しい。
全州という町は、ある種、名古屋的なところがあり、
個性的な食を多く抱えている反面、それが外に出ていかない。
地元でのみ愛されたまま、歴史を刻んでしまい、
「え、これって他地域にないの!?」
というケースが多々生まれる。
テバサキはどうも、その文化を踏襲している気がする。
今後、飛躍的に全国拡大するのかもしれないが、
このまま全州のB級グルメとして定着するかもしれない。
そんな予感から、僕はひそかに興味を抱いていた。
よって、所長主催の飲み会はさりげなく遠慮し、
個人的なテバサキ取材に出ようと思っていたのだ。
ところがである。
その話を伝えようと思った瞬間。
所長の目が再びキラリと光って細く鋭くなった。
「今日はカメクに行きます」
ん、カメク!?
そんな単語は聞いたこともない。
全州市内にある飲食店の名前だろうか。
「八田さん、カメクを知っていますか?」
「いえ、初めて聞く名前ですが」
「ふふふ、カメクに行きましょう」
所長の目はさらに細くなって目尻も下がる。
「カメクってなんですか?」
「カゲメクチュの略ですよ。店ビールです、ふふふ」
「店ビール?」
韓国語でカゲは店、メクチュはビール。
略してカメク、という単語が全州にはあるらしい。
「商店で売っているビールを買ってですね、ふふ」
「ビールケースを椅子にして、そのままそこで飲むんです、ふふふ」
「飲食店で飲むよりも安く上がるんですよ、ふふふふふふ」
所長はふふふ度を増し、ますますにこやかになった。
表情は見るからに喜びいっぱいで、妙な説得力があった。
察するに、酒販店の立ち飲みみたいなものなのだろう。
これは何かある、と僕はその時点でテバサキを諦めた。
ホテルから徒歩5分ほど。
行ってみるとカメクはなんとも不思議な空間だった。
見た目は普通の個人商店。
韓国でクモンカゲと呼ばれる駄菓子屋風の店が、
薄暗がりな道の四つ角に、ぽつんと位置していた。
夜の営業にしては意外なほど地味なオーラだが、
大勢の客が詰めかけ、店の外まではみ出して飲んでいる。
「な、な、な、なんだこりゃあ!」
店の外だけでなく、中にも客がいっぱい。
テーブルにビール瓶をずらずら並べて飲んでいる。
後で聞いたところによると、ビンビール1本2000ウォン。
飲食店で飲むと3000ウォンほどなので確かに安い。
席を作ってもらい、所長の注文で料理が並ぶ。
といっても出てくるのは乾き物が主流。
日本の立ち飲みで、裂きイカが出てくるように、
炙ったコウイカのスルメと、干しダラが出てきた。
それを所長が手早く裂き、
「このタレがうまいんだよ、ふふふ」
といって目の前の醤油ダレを指した。
ゴマがたっぷり入った醤油ダレ。
そこにスルメや干しダラをつけて食べるらしい。
地元の名産でもあるコウイカのスルメは、
噛み締めるごとに、旨味がじわじわにじみ出てくる。
干しダラは水分がをしっかり抜いて焼くのでカリカリ。
そのまま食べると口の中でパサつくものの、
醤油ダレにつけて食べると、一転、豊かな味になる。
スルメと干しダラは1匹7000ウォン。
ほかに卵焼きが皿いっぱいに出て5000ウォン。
激安というほどではないが、まあ割安。
スナック菓子やカップラーメンをつまみにも飲めるので、
安くあげようと思えば、工夫の余地はいくらでもある。
B級を通り越して、C級的な居酒屋ではあるが、
その飾らないスタイルが、妙に全州的で楽しい。
そもそも全州はマッコルリの一大消費地。
巨大なヤカンにマッコルリを1.5リットル注ぎ込み、
その値段さえ払えば、後の料理は全部タダ!
という妙なシステムの店が多く林立している。
その店が並ぶ一帯はマッコルリタウンと呼ばれ、
観光客も訪れるが、カメクもそれに負けていない。
「カメクは楽しいよねえ、ふふふ」
と所長はニコニコ顔をさらに崩していたが、
逆に僕はメラメラと興奮していた。
「所長、これこそ全州の資産ですよ!」
FAMツアーで見る観光地も重要だが、
こういう生の生活を感じられる場所はもっと重要。
このシステムは全州独特のもので他地域にはなく、
全州の酒文化をよく象徴する店舗形式でもある。
「これです! これこそアピールすべきです!」
僕は熱く語るとともに、その感動で酔いがまわり、
ビールをぐいぐいあおって、したたかに酔った。
翌朝起きられず、集合時間に遅刻してしまうのだが、
それを差し引いても、有意義な時間であった。
韓国でも食都として語られる全州。
しかし、その注目はビビンバや華やかな韓定食など、
表の名物料理に向けられることがほとんどだ。
だが、その皮を1枚ぺろっとめくると、
内側にはさらに魅力な食習慣が潜んでいる。
全州の食文化は極めて奥が深い。
他地域にはない、独特の文化が育まれており、
ひとつ知るごとにまた新しい何かに出会う。
それは食都が裏に秘める影なる実力である。
僕は今後、よりいっそう力を入れて、
このエリアを探索せねばならない。
全州、全羅北道の魅力にもっとハマる所存である。
そして、この日逃したもうひとつの裏全州名物。
テバサキは、3日目の夜に食べに行くことができた。
これまた全州らしいB級色に満ちた味わい。
観光客があえて足を運ぶような店ではないが、
ビールによく合う味で、地元民から愛されている。
特にテバサキ餃子の盛り合わせを頼むと、
中から何が出てくるかわからない楽しさがある。
「そっちは何だった?」
とビールを飲みながら盛り上がる。
名古屋と全州をつなぐ、妙な食の文化交流が、
じわじわ根を張っていることを報告しておきたい。
<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/
<八田氏の独り言>
全州は韓国の名古屋です。
全州メシという言葉を提唱したいと思います。
コリアうめーや!!第197号
2009年5月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com