コリアうめーや!!第189号
<ごあいさつ>
1月15日になりました。
正月気分も抜け、仕事に邁進する日々です。
連休中にもっと仕事をしておけば、
松が取れてこんなに苦労しないんですけどね。
まあ、休みで英気を養ったと思い、
溜まりゆく仕事と格闘することにします。
さて、そんな中、今号のコリアうめーや!!ですが、
とある2009年の注目エリアを紹介します。
多くの人にとっては通り過ぎるだけの町ですが、
じっくり見て回ると意外な面白さがあるもの。
僕も昨年9月に訪れたばかりですが、
今年また足を運びたいと思っています。
コリアうめーや!!第189号。
ひとり燃え上がる、スタートです。
<2009年は仁川ブームに沸くのだ!!>
アホでありたい。
などと酔狂なことを突然言い出したら、
人はどのような反応を見せるだろう。
「大丈夫、八田くんは充分アホだよ!」
と人から笑顔で言う人があるかもしれない。
肩にポンと手をかけ、笑顔で、諭すかのように。
「そうか、僕はアホかぁ」
と思わず僕も納得してしまうだろう。
自分のアホは充分承知しているし、
それでも生きていける範囲内なので問題ない。
あるいはもう少し心優しい人であったら、
「大丈夫、八田くんはアホじゃないよ!」
と慰めてくれるのかもしれない。
僕のセリフを真に受けて、心配してくれる人。
そういう純粋な人が周りにいる人生は幸せである。
ただ、その反応は逆に言葉を詰まらせる。
「あ、うん……」
後のセリフを飲み込むしかない僕は間違いなくアホだ。
アホでないが故に、アホになる状況も存在する。
場合によっては曲解され、
「大丈夫、ニンニクの話題だよね」
と大幅に話題が飛躍してしまうかもしれない。
スペイン語でニンニクのことを「アホ」という。
豆知識をもうひとつ。「バカ」は牛を表す。
従って、スペインに行くと今年はバカ年。
そんなことを書いて喜んでいる僕は、
これまた間違いなくアホだが、本題はそこではない。
アホでありたい。
それは同じアホでも「踊る阿呆」のこと。
阿波踊りの囃子言葉として有名な例のフレーズ。
「踊る阿呆に見る阿呆、同じなら阿呆なら踊らな損々!」
のアホである。
本場の阿波踊りを見に行ったことはないが、
東京の高円寺で開催される阿波踊りは何度か見に行った。
実に楽しそうで、まさしく踊らな損々という気分がよくわかる。
物事は往々にして、見ているよりやるほうが楽しい。
さて、そんな話からこの2009年。
韓国のある都市が賑わうことになっている。
阿波踊りほどの盛り上がりを見せるかは知らないが、
少なくとも昨年行ったらなかなか賑わっていた。
その地域というのが仁川(インチョン)。
ソウルの西に位置する海沿いの町で、
韓国に6つある広域市のひとつである。
人口はソウル、釜山に次ぐ第3位。
観光客にとっては空港のある町として有名だ。
この仁川市がいま懸命に笛を吹いている。
いや、仁川市だけではない。
観光公社や政府も一緒に笛を吹いている。
踊れや、踊れと囃し立てている。
僕はその気持ちに応えて、全力で踊りたい。
踊る阿呆でありたい、というのがここにつながる。
2009年は「仁川訪問の年」だ。
この「~訪問の年」というのは2004年に制定され、
・2004年:江原道訪問の年
・2005年:京畿道訪問の年
・2006年:済州道訪問の年
・2007年:慶尚北道訪問の年
・2008年:光州、全羅南道訪問の年
・2009年:仁川訪問の年
・2010年:忠清道訪問の年
・2011年:大邱訪問の年
というラインナップで続いている。
もともとは1994年にあった「韓国訪問の年」が発端で、
韓国の文化体育観光部が中心となって推進している。
この期間、該当する自治体は観光産業に力を注ぎ、
国内外からの観光客を誘致し、地元を盛り立ててゆく。
地方にスポットライトが当たる貴重な機会だ。
まあ、その一方で……。
2001年から2002年までは韓国訪問の年。
2010年から2012年までも韓国訪問の年。
だったりする。
さらに言えば、2002年は「日韓国民交流年」だし、
2005年は「日韓友情年」に指定されていた。
ここ数年、ずっと何かのイベント年が続いている感じで、
個人的にはちょっとやりすぎな気がしないでもない。
とはいえ、観光客にとってはいい機会。
また韓国メディアにとっても大きなネタになる。
この期間内は、政府からも観光用の支援金が出るため、
宣伝も兼ねて日本メディアを積極的に招聘する。
モデルツアーを組んで記者に取材してもらい、
観光地のPR記事を媒体に掲載してもらうという訳だ。
今年も仁川関連の記事を多く目にするだろう。
だが、ここでひとつ問題がある。
前年の光州、全羅南道や、一昨年の慶尚北道などに比べ、
該当地域が仁川ということで、日本メディアが戸惑っている。
昨年あたりから、こんな話をよく耳にした。
「2009年は仁川なんですよね」
「仁川って、何を取り上げたらいいのか……」
「ソウルからも近いし、地味ですよね」
うん、その理屈はおおいにわかる。
大多数の観光客にとって仁川とは空港の町に過ぎない。
仁川空港に降り立ったら、後はバスなり車なりでソウルへ移動。
仁川市そのものを観光の目的地とする人は稀で、
ただ通り過ぎるだけ、という人が大半だろう。
日本でいうなら千葉県成田市を盛り上げようという話に似ている。
地元の人にしてみれば、成田山新勝寺もあるし、
成田山公園もいいところだ、と憤慨されるかもしれない。
「成田市はウナギが名物だ!」
「成田市は栗ようかん発祥の地だ!」
「成田市は竹串に刺したせんべいがあるぞ!」
という意見もあるだろう。
充分に興味深いが、やはり少し地味である。
だが、時代は折りしもB級グルメブーム。
竹串に刺したせんべいというのは風変わりで面白い。
ここは年に1度のB-1グランプリに出品し……。
いかんいかん。
語るべきは成田市でなくて仁川市。
串刺しせんべいは気になるが、話を戻そう。
ともかくも日本メディアが仁川のPRに悩んでいる。
果たしてどう取り上げたものか困っているのだ。
そんな状況下。いよいよ仁川訪問の年を迎え、
なぜかひとり大盛り上がりの人物がいる。
僕だ。
実は仁川という地域、隠れたB級グルメの宝庫なのだ。
そしてまた他地域にはない郷土料理も多く抱える。
「仁川いいじゃない!」
と僕ひとりおおいにハイテンションだ。
ソウル旅行の合間に半日で行ける地方料理の旅。
それを今年は提唱、実践していこうと思う。
まずは以下に仁川の素晴らしい点をまとめる。
仁川の素晴らしい点、その1。
韓国でもっとも規模の大きな中華街がある。
仁川は空港が出来る前から国の玄関口。
1883年に仁川港が諸外国に対して開放されると、
日本や中国などから大勢の人が渡ってきた。
人ともに文化も伝わり、国際的な町へと成長。
現在の仁川駅前には中華街が広がっており、
週末ともなれば大勢の観光客で賑わう。
中国からの観光客も多く訪れているらしい。
この中華街で味わうべきはチャジャンミョン(炸醤麺)だ。
韓国式にアレンジされたジャージャー麺で、
甘味のある黒味噌を中華麺にどろっとかけた料理。
19世紀後半から20世紀初頭に中国から伝わり、
約100年の歴史を経て、今なお人気の国民食である。
もちろん他にもいろいろな中華料理が食べられるし、
そのほとんどはコリアナイズされていて面白い。
韓国でしか味わえない、中華料理が多数あるのだ。
他にも町を歩いていると月餅を売っていたり、
中国東北部の郷土料理、羊の串焼き屋台が出ていたりする。
ちょっと違った韓国を楽しむことができるという点で、
韓国リピーターにおすすめのスポットだ。
仁川の素晴らしい点、その2。
東仁川に個性派冷麺の専門ストリートがある。
仁川の隠れた名物がセスッテヤネンミョン。
直訳すると「洗面器冷麺」となる独特の冷麺だ。
その名の通り、洗面器サイズの器に入っているのが特徴で、
問答無用の超ボリュームが自慢である。
東仁川駅から徒歩5分ほどの花平洞に専門店が密集しており、
その路地に入ると、あちこち洗面器冷麺店だらけ。
実際、食べに行ってみたのだが、この冷麺が冗談抜きででかい。
「これ、本当に冷麺?」
と疑わしくなるぐらい。
いくら洗面器サイズとはいえ1人前の冷麺である。
値段が比較的安く、3500ウォンだったのにも油断した。
心の準備をしてきて、なおかつ度肝を抜かれるサイズ。
中央に置かれたゆで卵が、ウズラの卵に見える。
味自体は3500ウォンなりのチープな冷麺だが、
全部を食べきったときの充実感は悪くない。
韓国の「珍食」に興味を覚える人はぜひ訪れて欲しい。
仁川の素晴らしい点、その3。
東仁川の新浦市場はタッカンジョンが有名。
同じく東仁川駅前にあるのが新浦市場。
大勢の人で賑わう一角に、行列の絶えない店がある。
それが新浦市場名物のタッカンジョン専門店だ。
タッカンジョンとは揚げた鶏肉に甘いタレを絡めた料理。
似た料理にヤンニョムチキン(味付けフライドチキン)があるが、
骨付きのぶつ切りを使うヤンニョムチキンに対し、
タッカンジョンは主に骨抜きの鶏肉を使う。
また、両者とも揚げたチキンに甘辛いタレを絡めるが、
タッカンジョンはその後に、炒める行程がもうひとつある。
ヤンニョムチキンに比べてタレが蜜のように絡み、
独特の濃厚な甘味を、まとっている点が特徴だ。
残念なことに、これは食べて来ることができなかった。
昨年、市場の雰囲気だけは確かめてきたので、
僕にとっては、今年に引き継いだ大きな宿題である。
仁川の素晴らしい点、その4。
新浦市場に「シンポウリマンドゥ」の本店がある。
韓国のB級グルメに詳しい人なら、
全国チェーンの「シンポウリマンドゥ」をご存知だろう。
店名にもあるようにマンドゥ(餃子)を専門とする粉食店。
1971年の創業という粉食チェーンの老舗である。
店名は「新浦(シンポ)」市場にある、
「私たち(ウリ)」の「餃子(マンドゥ)」店という意味。
全国展開のスタートが、この新浦市場であった。
この店はマンドゥももちろん有名なのだが、
チョルミョンという麺料理を育てた逸話もある。
チョルミョンはコシの強い麺を生野菜と和え、
辛いタレをかけて混ぜて食べる冷たい麺料理。
夏場に食べると、さっぱりした味わいで爽快感がある。
この料理はもともと仁川の製麺業者が冷麺の麺作りに失敗し、
妙に太い麺を作ってしまった、ということに由来。
捨てるにはもったいないと、近隣の粉食店でこれを調理してもらい、
出来上がったのがチョルミョンであった。
その元祖の店はすでになくなってしまったというが、
かわりに全国へと大々的に広めたのが「シンポウリマンドゥ」。
チョルミョンを仁川名物たらしめる象徴なのである。
仁川の素晴らしい点、その5。
江華島名物にカブのキムチがある。
海に面する仁川はたくさんの島を有する。
中でも有名なのが、世界遺産をも抱える江華島である。
この江華島はウナギや高麗人参の特産地であるとともに、
韓国でも珍しいカブのキムチを作っている。
韓国ではもともとカブを使った料理が少なく、
カブのキムチは韓国人でも食べたことのない人が多い。
僕も話に聞いて、いつかは食べたいと思っていたが、
まだ出会う機会がなく、大きな宿題である。
また、江華島はサッパ料理でも有名。
サッパはコノシロに似た小さな青魚で、
岡山県ではママカリと呼ばれて親しまれる魚だ。
あまりの美味しさゆえに自宅で炊いたごはんがなくなり、
隣の家にごはんを借りにいくほど、という意味でママカリ。
韓国ではそれを刺身や、和え物、焼き魚にする。
こちらも今年、ぜひ食べに行きたい。
以上、つらつらと代表的な食を書き出してみた。
もちろんこれはごく一部だし、そもそも魚介類が豊富な港町。
港周辺には刺身通りもあり、魚介料理は全般的に自慢の品だ。
また、はっきりと明らかにはされていない模様だが、
カムジャタン(豚の背骨とジャガイモの鍋)も仁川発祥説がある。
19世紀後半の仁川では京仁鉄道の敷設工事が行われており、
この作業に従事した労働者の間で広まった料理だという。
本格的な調査をした文献などは見つからないが、
これもうまく情報があれば、ぜひじっくり調べてみたい。
といった感じに大半は自分自身の宿題でもあるが、
仁川という町には興味深い素材がたくさん転がっているのだ。
これをそのまま放置しておくのは実にもったいない。
食だけをとっても、語るべき部分がたくさんある。
2009年は仁川訪問の年。
僕はそれを真正面から受けて訪問しようと思う。
仁川の美食を訪ね、発信していくのが今年の目標。
踊る阿呆から、語る阿呆へと成長するのだ。
<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/
<八田氏の独り言>
新浦市場では色とりどりの中華まんも見ました。
妙に韓国らしくない色彩が興味をそそります。
コリアうめーや!!第189号
2009年1月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com