コリアうめーや!!第186号
<ごあいさつ>
12月になりました。
ついに2008年も今月で最後です。
先生が走る季節になって、世の中もどこか慌しい感じ。
流行語大賞が発表になったり、今年の漢字が決まったり、
重大ニュースを選んだりする時期でもありますね。
世の中の1年を振り返ってみるとともに、
自分の1年も振り返ってみるのにいい時期です。
あれができなかった、これができなかったと反省も多いですが、
残った1ヶ月もまだまだ捨てたものではありません。
僕などはもともと8月31日に宿題を頑張るタイプ。
野球は9回2アウトから、との格言もありますので、
この12月を目一杯頑張る月にするのもよさそうです。
といったあたりで、今号のメルマガですが、
ちょうど韓国の古都、慶州という町で書いています。
最新のネタもたくさん仕入れておりますが、
まずは前号、前々号からまたがる全州報告の続きから。
コリアうめーや!!第186号。
清らかな心で、スタートです。
<豆腐料理のデザートはドーナツだ!!>
新しいことにチャレンジして失敗する。
前向きなこととして、評価されることも多いが、
単なる失敗として深い後悔に包まれることもある。
壁を利用した三角飛び大ジャンプがマイブームになり、
仲間うちでも流行させようとした小学校時代。
某施設の壁を蹴り破ってしまい、大目玉をくらった。
斬新なファッションを実践しようと思い至り、
何を血迷ったのか、カニの首飾りを下げてみた高校時代。
単純に自分のあだ名が「カニ」になった。
ワイルドな旅人がカッコいいと思って沖縄に出かけ、
国際通りでギターを弾きながら歌っていた大学時代。
通り過ぎた若者に鼻で笑われて悔し涙を流した。
若い頃の失敗は将来への大きな糧になるというが、
上記の失敗は思い出して鬱になるだけの無駄過去である。
こうしてネタにできただけでも幸せかもしれないが、
書いてみたら、うまく本題につながなっていない気もする。
たぶんこれもそのうち鬱の種になっていくのだろう。
まあ、いつものことなので強引に話を続けよう。
このメルマガも書き続けて7年半になるため、
いろいろな反省点が自分の中に残っている。
その中のひとつが第49号に書いた草堂豆腐の話題。
韓国の東海岸で作られる、海水を使った豆腐に感激し、
その幻想的な味わいを、文章にも取り込もうと努力してみた。
豆腐の存在を知った頃からの経緯を細かく分割し、
わざと時系列をごちゃ混ぜにして、文章を組み立てた。
「ちょっと凝った映画仕立てになった!」
と自分では喜んだが、読者には伝わらなかった。
「何度も読み直したけどわかりにくかった」
「途中で理解を諦めて飛ばした」
「八田くん、なんであんなことをしたの?」
反応は見事にさんざんであった。
できればもう1度書き直したい話題のナンバーワン。
であるからして、今回の話には気合が入る。
地域こそ違えど、テーマは豆腐料理なのだ。
今度こそはきちんと後悔ないように書こう。
心のハチマキをぎゅっと締め、背筋を伸ばして本題に入る。
事の発端はとある雑誌の記事だった。
読んだのはもう5、6年前にもなるだろうか。
その雑誌では全州(チョンジュ)の特集が組まれていた。
韓流が盛り上がるよりもずっと前の時期。
今ほど韓国の情報は世にあふれておらず、
マイナーな地方都市の特集は目を引いた。
その記事ではグルメ情報にも力を入れており、
代表的な全州名物に加え、近隣エリアの料理も紹介。
そのひとつに花心(ファシム)という町の豆腐料理があった。
全州から車で30分ほどの隣町。完州郡に属する。
この花心という町は、古くから豆腐作りが盛んで、
50年もの歴史を誇る豆腐料理専門店もある。
滑らかな豆腐を使った鍋料理などが地域の名物だ。
だがこのとき琴線に触れたのは豆腐よりも脇役だった。
一般に豆腐料理専門店では大量の豆腐を生産するため、
自然とその副産物である、おからがたくさんできる。
多くの店ではこのおからをキムチ、モヤシ、豚肉などと煮込み、
ピジチゲと呼ばれる、おから鍋にして提供する。
ところがその雑誌で紹介されている店は変わっていた。
大量のおからを鍋料理にするのではなく、
なんと、ドーナツの生地に利用して揚げたのである。
店頭に置かれたフライヤーの写真が誌面に掲載されており、
揚げたてのドーナツが、油を輝かせながら並んでいた。
ジュワジュワと音が聞こえてきそうな、食欲をそそる見た目だった。
「いつかこのドーナツを食べてみたい!」
そう心に誓ったことを、いまだ新鮮な記憶として覚えている。
その願いが今回の全州旅行でついにかなった。
実をいうとこれまでにもニアミスの機会はあったが、
そのたびにやむをえない理由で涙を飲んできた。
最初の機会は2003年5月。
僕は韓国のテレビ局から取材を受けて全州へ遠征し、
ビビンバを食べたり、大学の先生から食文化の講義を受けたりしていた。
石焼きビビンバの器工場を見学しに行ったのもこのときだ。
撮影はあわただしかったが、途中でわずかなすき間があった。
僕はそれを逃さず担当のプロデューサーに訴える。
「あ、あの! 僕ちょっとおからドーナツ食べてきます!」
「おからドーナツ? 俺ら、これからソガリ食べに行くぞ」
「ソガリ!? ぼ、僕もそっちに行きます!」
という展開になって断念。
ちなみにソガリというのは韓国で淡水魚の王様とされる魚。
内陸部にしかいないうえ、かなりの高級魚で出会うチャンスは少ない。
正直、おからドーナツとは比べ物にならない誘いであった。
「うんうん、ソガリじゃ仕方ないよな」
自分自身を納得させつつ、おからドーナツはまたの機会とした。
次の機会に全州を訪れたときは仕事がメインだった。
日中はひたすら取材として、全州市内を駆け巡っていたので、
おからドーナツを食べに行くような余裕はそもそもなかった。
「まずはビビンバを山ほど食べて……」
「名物のコンナムルクッパプ(モヤシのスープごはん)も食べなきゃだな」
「これも2、3回は食べておいたほうがいいだろう」
「となると、おからドーナツはまた今度でいいや」
ということで、またも断腸の思いで諦めた。
地方のB級グルメは僕の大きなテーマではあるのだが、
B級すぎると、後回しになってなかなか出会うことができない。
それだけに今回の出会いは「ついに!」という思いだった。
長年の思いも含めて、3個1000ウォンのドーナツを熱く語りたい。
いま現在のレートで、1個わずか22円のチープな感動である。
花心豆腐村の専門店は多くの客で賑わっていた。
店に入ってメニューを見ると、さすがに豆腐料理ばかり。
看板料理のスンドゥブチゲ(押し固めない豆腐の鍋)をはじめ、
トゥブジョンゴル(豆腐と海鮮の寄せ鍋)、モトゥブ(温やっこ)、
トゥブジョン(豆腐のチヂミ)といった料理が並んでいる。
そして確かにおからドーナツもメニューの最後にあった。
韓国語ではピジドノチュ。ちょっとかわいい語感である。
いろいろ食べて、いちばん豆腐の味がわかったのはモトゥブであった。
四角く切った豆腐を人肌程度に温めてあるのがポイントで、
口に入れたときに熱いとか、冷たいとかの感覚がほとんどない。
温度を感じないうえ、豆腐という柔らかい食材であるため、
食感の刺激もなく、結果的に味だけを純粋に味わえる。
「豆腐ってやっぱり大豆から作るんだな」
という甘さ、香ばしさがよく伝わる。
豆本来の味を楽しめる調理法である。
そして、トゥブジョンもまた見事だった。
通常、トゥブジョンというと水切りしておいた豆腐を、
1センチほどの厚さに切り、小麦粉、溶き卵の衣をつけて焼く。
これを薬味醤油につけて味わうのが定番の食べ方だ。
ところが、この店のトゥブジョンは違った。
いわゆるプチムゲ(チヂミ)と似たお好み焼きスタイル。
生地の中に、豆腐が練り込まれているのだった。
練り込むというか、豆腐をぐずぐずにつぶして生地にした感じ。
それが滑らかすぎて、にわかに豆腐だとは気づかない。
日本でもお好み焼きを作る際に山芋などを入れるが、
そのかわりに豆腐を使った感じ、といえば想像しやすいだろうか。
全体をさっくり仕上げるのにも効果を発揮している。
そして、食感がまた驚くほど軽いのだ。
スンドゥブチゲやトゥブジョンゴルといった料理も美味しかったが、
それよりも脇役的なトゥブジョンのほうが印象に残った。
そして、その軽さが最後の一品にも生きていた。
デザートとして頼んだ、おからドーナツ。
待ち望んだ一品にしては、いかにも迂闊な話だが、
これが出てきた時点で相当な満腹だった。
胃袋のあたりが鉄アレイを飲んだように重い。
「あれれ、ちょっと食べ過ぎたかな」
「最後の楽しみが、これだと入らないかな」
「でもせっかくだから、少しだけ食べよう」
こうしてついに念願の瞬間は訪れた。
そして、ここで奇跡の感動がわき起こる。
「おからドーナツ、軽っ!」
先ほどのトゥブジョンを凌駕する軽さ。
ドーナツという洋風料理であるにもかかわらず、
バタくさい部分がまったくなく、味わいは素朴の一言。
にもかかわらず、物足りなさを感じるわけでなく、
満腹状態食べても2個、3個と後を引く味わいだった。
残念ながら閉店間際の店を訪れたため、
揚げたてではなく、冷めた状態だったが充分美味しかった。
店は大きな道路に面しているので、通常は揚げたてを随時販売。
食事目的の人だけでなく、テイクアウト需要も多いようだ。
いつかまた訪れて、揚げたてのドーナツを買おう。
心地よい達成感とともに、また訪れる口実の宿題を残し、
満足の表情で、僕は花心豆腐村を後にした。
と、ここまで書いて話はつい昨日の慶州へ。
取材仕事を終えて、帰りのタクシーに乗ったところ、
運転手さんからひとつの情報を得た。
「慶州には豆スープにもち米ドーナツを入れる店があるんだよね」
なにそれ。そんな料理いままで聞いたこともない。
早速でも食べに行きたいが、本日はこれから釜山に移動。
残念ながら、それを食べている時間的余裕はない。
せっかく達成したドーナツの後に、またドーナツ。
韓食探索の道は、まだまだ果てしなく遠い。
<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/
<八田氏の独り言>
慶州から配信しようと思いつつ直前で断念。
結局、釜山に移動してから書きましたとさ。
コリアうめーや!!第186号
2008年12月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com