コリアうめーや!!第173号
<ごあいさつ>
5月15日になりました。
ゴールデンウィークも終了し、再び仕事モードに。
そんな皆様も多いのではないでしょうか。
ちなみに僕のほうは連休中もひたすら仕事。
その修羅場を越えて、世間様とは一足遅れで、
ようやく1週間ほどの休みを満喫しています。
といっても韓国にいるので基本的に取材ですけどね。
美味しいものを食べながら毎日酔っ払い、
楽しい日々を過ごすのが僕の仕事です。
そしてそれを面白おかしく書き留めることも仕事。
今号のメルマガはそんな旅行中に書いています。
宿で書き、移動中にバスの中でも書き。
リアルタイムで韓国の空気に触れつつ、
先々月の訪韓話をまとめている次第です。
コリアうめーや!!第173号。
見えない臨場感を期待しつつ、スタートです。
<酒乱の夜はキムチチゲから始まるのだ!!>
「コプチャンの美味しい店が2軒あるんだよ」
僕に宿を提供してくれたI先輩が嬉しそうにいった。
コプチャンというのは牛や豚の小腸を表し、
広い意味では内臓全般の焼肉をも表す。
正確に書くならばコプチャングイである。
I先輩は昨年からソウルに赴任中で、
奥様と2人、中心街の超高級マンションに住んでいる。
部屋からキッチンまで何もかもが広々としており、
大きな窓からはソウルの街並みが一望できる。
お邪魔するたびに、ため息が出るような家だ。
「部屋は余っているから自由に使っていいよ」
との言葉に甘え、ここ最近はずっと泊まらせて頂いている。
タダでの宿泊に加え、食事までご馳走になっているありさま。
ちょっと甘え過ぎの感もあるが、あまりに居心地がよいので、
今年はソウルに足を運ぶ回数が格段に増えた。
このまま少しずつお邪魔する回数が増えてゆくと、
来年あたりは完全に居候化しているのかもしれない。
お世話になりつつも、図々しさにならないよう気をつけたいものだ。
I先輩の勧める美味しいコプチャンの店にも、
先日連れていって頂き、かつご馳走になってしまった。
どちらもすぐ近所だが、そこはヤンゴプチャンが専門の店。
ヤンは牛の第1胃のことで、日本ではミノと呼ばれる部位。
ゴプチャンは発音変化で語頭が濁っているが、コプチャンと同義。
つまり牛の胃と小腸を、一緒に鉄板で焼いた料理のことだ。
この料理は味噌ベースの下味をつける場合も多いが、
I先輩宅近所の店では、塩をベースとしたあっさり味にしていた。
そのかわり、焼いて食べる際にコチュジャンをつけて味わう。
このコチュジャンが実に滑らかな味わいでよかった。
コリコリとした歯触りのヤンに、脂がじゅわっと弾けるコプチャン。
じっくり焼き上げて、少し焦げたくらいが香ばしく、
食べ進むうちに、好みの焼き加減がわかっていくのも楽しい。
いつのまにか焼酎の空きビンが周囲にごろごろと転がり、
ほろ酔いから酩酊、その後2軒ハシゴの呼び水となった。
とここまで書いて、今号での話題はもう1軒のコプチャン店。
前号も含めて、ハシゴだらけの内容でわかりにくいが、
いま書こうとしている話は、3月の訪韓2日目である。
1日目に4軒ハシゴした翌日、5軒ハシゴして飲んだ。
その振り出しが、もう1軒のほうのコプチャン店だった。
冒頭の3軒ハシゴは、5月訪韓の初日でまた別。
要はソウルに来るといつも飲んだくれているので、
ずいぶんややこしいことになっているが、ご理解頂きたい。
もう1軒のコプチャン店行きは、意外な経緯から始まった。
発端は僕がかけた1本の電話である。
「じゃあ、キムチチゲのうまい店に行くか!」
そう誘ってくれたのは、韓国の某有名新聞社に勤める韓国人。
彼が日本に留学していたのをきっかけに知り合い、
日本でも、韓国でも一緒にあちこち食べ歩いている。
グルメ関係に強いため、お互いに話が合うのだ。
彼のほうが年上なので、韓国語では兄と呼んでいる。
いわば義兄弟の契りを交わしたような関係なのだが、
そうなると2人の関係には極めて韓国的な決まりが生まれる。
すなわち兄貴からの無理難題はすべて聞かねばならず、
そのかわりすべての支払いは兄貴任せにしてよい。
例えば兄貴が友人知人をバス1台に乗せて引率してきたときも、
僕はにっこり笑って早朝から朝の築地市場を案内した。
兄貴が日本の飲食店ガイドを出すことになったときは、
営業時間や定休日などの情報をひとつひとつ検証した。
取材に関する許可や、書類上の雑務も行ったことがある。
そういつもいつもではないが、これらは基本的にタダ働き。
従って、韓国では胸を張って兄貴にタカってよいのだ。
ところがその全力でタカるべき食事に、
「キムチチゲのうまい店に行くか!」
という提案を兄貴のほうからしてきたのである。
キムチチゲといえば、1人前3、4000ウォン程度の食事。
日本円にすればせいぜい3、400円にしかならない。
「キムチチゲ? あはは冗談でしょう、兄さん!」
「もっと焼肉とか、韓定食とか、酒池肉林とか!」
「豪勢で贅沢で高価でエクスペンシブで懐大打撃なものを!」
とでもいいそうになるところを、ぐっと踏み留まる。
料理に関しては造詣が深く、僕のこともよく知った人物。
僕に何を食べさせれば喜ぶかは、きっちり抑えている人だ。
それを踏まえた上でのキムチチゲであれば、
そこには何かの意味があるに違いない。
「了解しました。キムチチゲでお願いします!」
僕は元気よく答えた。
そしてそのキムチチゲがうまい店に着いてみると、
驚いたことに、そこはI先輩宅そばのコプチャン店だった。
「へ、ここって?」
「ここがキムチチゲのうまい店だ」
「ここはコプチャンのうまい店じゃなかったですか?」
「ほう、よく知っているじゃないか」
曰く、この店はコプチャンとキムチチゲがうまい店とのこと。
コプチャンでひとしきり飲んだ後に、シメとしてキムチチゲを頼むのだ。
「そのキムチチゲがまた絶品なんだな」
兄貴はしてやったりの顔でにんまりと笑った。
なるほど、ただのキムチチゲではないと思っていたが、
そういう趣向が隠されているとは想像できなかった。
I先輩も勧める店だけに、おおいに期待できるではないか。
そのコプチャン店であり、キムチチゲのうまい店は、
ガタピシという音が聞こえてくるような、年期の入った店だった。
知らなければ近寄りがたいような雰囲気だが、
扉を開けてみると、中はぎっしり満員である。
「まだ6時なのにすごいですね!」
驚いていうと、一応なりとも僕らの席がある状態はまだまだで、
昼時などは周囲の会社員がずらり行列を作るという。
そしてその大行列が、みんな同じものを同じように食べる。
まずコプチャンをはじめとした内臓各部位を焼く。
コプチャン、ヤンに加え、ポルチプ、チョニョプ、テッチャンなど。
ポルチプは牛の第2胃を表しハチノスのこと。
チョニョプは牛の第3胃でセンマイ。テッチャンは大腸を表す。
いずれも独特の歯触りと、こってりコクのあるうまみが持ち味。
これらを全部一緒くたにしてジュウジュウと焼くのだが、
それに加え、昼はチャルラと呼ばれる内臓の和え物もあるらしい。
内臓をぶつ切りにする様子から、チャルラ(切るの意)。
昼はこれをつつきながらメインのキムチチゲを待ち、
夜は内臓焼きをつまみに焼酎を飲んで、キムチチゲでシメる。
いずれも合理的であり、昼も夜も魅力たっぷりのコースだ。
夜にもチャルラがあれば、より楽しめるのかもしれないが、
一定の分量しか作らないため、ほとんどが昼で売り切れるそうだ。
兄貴が一応、店の人に聞いてはいたが、
「この時間にあるわけないでしょう!」
と無碍に断られていた。
種類豊富な内臓をつつきながら焼酎を飲み、
いい気分になりながら、少しずつ酔いを進めていく。
ちょっとしたイレギュラーが生じたのは、
シメのキムチチゲが登場してからだった。
絶品であるはずのキムチチゲが妙に水っぽい。
キムチチゲ特有の酸味やコクが明らかに欠けているのだ。
僕も妙だな、と思ったがこういう状況はままある。
たいていは強火でぐつぐつ煮て、さらに煮込めば解決する。
食べ始めるのが少し早い、ということだと思った。
予想通り、煮ていくうちに少しずつ白菜キムチのエキスが染み出し、
最後のほうには、しっかりと美味しいキムチチゲになった。
「うん、うまいです!」
だが兄貴のほうを見ると表情が暗い。
やはり予想とはかけ離れたものが出てきてしまったようだ。
食べ終えたあと、兄貴は硬い表情でぼそりといった。
「今日のキムチチゲはいつもを100点とすると59点」
「韓国の店はどうしてもこういう味のばらつきがあるんだ」
「これもまた韓国らしさのひとつと理解して欲しい」
なるほど。確かに韓国料理においてはよくある話。
褒められたことではないが、僕も同じ経験が多々ある。
人を連れて行ったときに限って、店のオーナーが変わっていたり、
その日に限って、入ったばかりの新人が料理をしていたり。
韓国料理全体にまたがる悩ましい問題である。
この日もなんらかのハズレ要素にぶち当たったのだろう。
それでも最終的にはまあまあ美味しく食べられたし、
それで59点なら、平常時の美味しさは想像できる。
食べ逃したチャルラも含めて、また食べにいけばよい話だ。
だが、最後の最後で盛り上がりを逃したのも事実。
であるなら、さらなる盛り上がりを求めて、
2次会ののろしを高らかにあげねばならない。
「ようし、もう1軒行きましょう。もう1軒!」
5次会までの道のりはこうして始まったのだった。
<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/
<お知らせ2>
今日5月15日に、新刊本が発売になります。
今回は韓国料理をテーマにした韓国語の初心者向け本。
新書なので、韓国料理の薀蓄もたくさん絡めつつ、
読み物としてすらすら読める内容を目指しました。
本のゴールは韓国語のメニューを読んで注文すること。
ハングルの読み方から、発音変化、簡単なフレーズまで。
お店の人の心をくすぐる文句などもちりばめています。
タイトルは、
『はじめてのハングル「超」入門 ビビンバを正しい発音で注文する』
です。
出版社はソフトバンククリエイティブ。
ソフトバンク新書の1冊としてラインナップに並びます。
価格は税込で767円。全国書店での販売です。
見かけたらぜひ手に取ってみてください。
アマゾンなどでも販売が始まっています。
http://www.amazon.co.jp/dp/4797345942/
<八田氏の独り言>
このメルマガを書きつつ忠清道を巡りました。
そのうまい話もそのうちきちんとまとめます。
コリアうめーや!!第173号
2008年5月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com