コリアうめーや!!第164号

コリアうめーや!!第164号

<ごあいさつ>
新年あけましておめでとうございます。
そして、セヘポンマニパドゥセヨ!
コリアうめーや!!を今年も宜しくお願いします。
2001年3月の創刊から数えると、
今年でもう丸7年。8年目に突入という、
なかなかの長寿メルマガになってきました。
これだけだらだら続いているのも、
飽きずに読んでくださる皆様のおかげ。
ここ最近はネタに困っている感もアリアリですが、
今年は積極的に韓国へ行こうと思っています。
できるだけ新鮮なネタを提供できるよう、
頑張っていきますので、宜しくお付き合いください。
さて、そんな2008年の1本目ですが、
どうしたことか、ちょっと堅い話になりました。
いつか伝えようと思っていた個人的な興奮。
堅さのなかにも、それがうまく伝われば幸いです。
コリアうめーや!!第164号。
ひとり萌えさかる、スタートです。

<韓国の古い料理書が大好きです!!>

年末のバタバタした慌しい日々の中で、
ポコンとエアポケットのような時間が生まれた。

ほんの1時間やそこら。

どうやって時間をつぶそうか考えつつ、
結局、目に付いた中型書店に入った。

ここ数年、書店に入って僕がまず目指すのは、
自分がかかわった本のコーナーである。

いまだったら『東京 本気の韓国料理店』の棚。
その陳列状況を見て、まず一喜一憂する。
ずらりと平積みになっていれば、

「うん、ここはいい書店だな。でかした!」

とほくそ笑み、表紙に向かってよく売れるよう念を込める。

だが、反対にいくら探しても見つからない場合とか、
扱い量が少なく、目立たないところに1冊だけあるとか。
そういう場合は、

「ケッ、こんな書店2度と来るか!」

と心の中で悪態をついて出る。
我ながら大人気ない話だとも思うが、
心の中でだけのことなので勘弁して欲しい。

ただ、都内の某大書店で、

「えーと、東京で本気の韓国料理がなんとかって本ないですか?」

と店員さんに大きな声で尋ねたことはある。

いかにも、注目の本であるぞとの隠れたアピール。
その一言にたいした効果はないのだろうが、
ついついそういうことをしてしまう。

そんなドタバタをまず演じてから目的のコーナーへ。

個人的に好きなジャンルの棚を眺めつつ、
気の向くままに本を手に取ってパラパラとめくる。
目に付いた面白そうな本を立ち読みしながら、
買おうか、どうしようか悩むのは非常に楽しい。

個人的にいま弱いのは大衆酒場がらみの本。

「なんだ、やっぱり食べて飲む話じゃないか」

という声が聞こえてきそうだが、
この日もつい、都内の大衆酒場ガイドを買ってしまった。
忙しくてなかなか下町の名店を飲み歩く時間もないが、
当分はこの本を見ながら、あれこれ夢想する幸せに浸れる。

日本の書店に行くと、たいていこんな感じだが、
韓国の書店に行くと、さらに興奮する事態となる。

なにしろ韓国の書店には気軽に行けない。

旅行で出かけた際に、ここぞとばかりに買い求めるが、
あまりたくさん買うと、持ち帰るのが大変である。
郵送してしまってもいいが、料金がかかるのもばからしい。
いつもスーツケースをパンパンにして持ち帰っている。

韓国の書店に僕のかかわった本は少ないので、
基本的にはまず食関連コーナーへと直行。

グルメ本、レシピ本、健康本などいろいろあるが、
僕がいちばん弱いのは現代語訳された朝鮮時代の本。
古い料理書が、少しずつ翻訳されているのだ。

関心のない人には限りなくどうでもいい話だが、
韓国料理に興味を持つ者としてはまさに宝の山。
いつかこの魅力について語ろうと思っていた。

マニア度全開で、韓国の古い料理書を紹介しよう。

多少、難しい話になるかもしれないが、
正月のお屠蘇気分で勘弁して欲しい。

1、『飲食知味方』(1670年頃)
歴史的貴重度:★★★★★
専門的役立度:★★★★★
個人的萌え度:★★★★★

書名の下にある★印は5つで満点。
つまり最初のひとつからすべて5点満点。
韓国の古料理書において、この本に勝る感動はない。

なにしろ、韓国ではこの本が現存する最古の料理書。
韓国料理の歴史を語る際はすべてこの本が出発点となる。

ちなみに、この本は安東地方に住む両班夫人が、
子孫に向けて、自分の料理知識を伝えるために書いた本。
しかも研究書ではなく、実用的なレシピ本なのだ。

パラパラめくってみると、現代に残る料理も多く、

「へー、この料理ってこんな時代からあったんだ」

という感動に満ちている。
一例をあげてみるとこんな感じ。

・スンデ(腸詰め)
・ケジャン(カニの醤油漬け)
・マンドゥ(餃子)
・ピンデトク(緑豆のお焼き)

スンデが豚でなく犬の腸を使用していたり、
ピンデトクの具にアズキや蜂蜜が使われていたり。
現代料理と微妙に違う部分もあったりするが、
そういった違いもそれぞれ興味深い。

さらに面白いのは、数多くの料理が紹介されていながら、
どの料理にも唐辛子がまったく使われていないこと。
唐辛子の伝来は16世紀末から17世紀初頭とされているが、
この本が書かれた時点ではまだ一般的でなかったようだ。

昔の韓国料理に唐辛子は使われていなかった。
それを証明する貴重な資料でもある。

2、『増補山林経済』(1766年)
歴史的貴重度:★★★★★
専門的役立度:★★★★-
個人的萌え度:★★★--

1の『飲食知味方』と対で語られるのがこの本。
料理に唐辛子が使われた、最初の記録が残されている。

『飲食知味方』から『増補山林経済』までの約100年間で、
新種の香辛料である唐辛子は急速に浸透するのだ。

キュウリ、大根、セリといったキムチに使用されるほか、
犬肉料理、牡蠣料理にも、唐辛子を使うという記述がある。
どころか、コチュジャンの作り方まで記されており、
この時代では唐辛子が食文化に根付いていたと考えられよう。

2冊の本が示す空白の時期に、どのような変化が起こったのか。
韓国料理最大の謎がこの100年間に凝縮されている。

また、この本に見られる現代まで続く料理は以下。

・チョンボッチュク(アワビ粥)
・カルビチム(牛カルビ蒸し)
・クルビグイ(イシモチの干物)
・オイソバギ(キュウリのキムチ)

そのほか、各食材ごとに適した料理法が記されており、
韓国で食べられていた当時の食材を知る上でも興味深い。

3、『東国歳時記』(1849年)
歴史的貴重度:★★★★-
専門的役立度:★★★★★
個人的萌え度:★★★★-

この本は書名の通り、歳時風俗を記したもの。
料理の紹介自体は少ないが、料理と旬の関係がわかる。
1月から12月まで詳細に紹介されているので、
見ていくだけで、当時の暮らしぶりが想像できて面白い。

いちばんのポイントは11月に記載された冷麺。

いまは夏の定番料理として知られるが、
かつては冬の料理として親しまれていた。
その典拠として必ず引用されるのがこの本だ。

ほかにも様々な季節料理が紹介されている。

1月:トックク(雑煮)、ヤッパプ(おこわ)
3月:タンピョンチェ(ムクとナムルの和え物)
6月:スジェビ(すいとん)、ポシンタン(犬鍋)
10月:シンソルロ(宮中鍋)
11月:冷麺、パッチュク(アズキ粥)

なお、正月のトッククはこんな話題も紹介されている。

「年齢を尋ねるときにトッククを何杯食べたかと聞く」

韓国では豆知識としてよく語られる話だが、
その裏づけはしっかりとこの本に記されているのだ。

4、『是議全書』(19世紀末)
歴史的貴重度:★★★★-
専門的役立度:★★★--
個人的萌え度:★★★--

著者不明、正確な執筆年代が不詳というこの本。
朝鮮時代後期の19世紀末に書かれたというのが定説である。
この時代の料理レシピを広く網羅しているのが特徴で、
現代でも知られる料理が次々に登場する。

・カルビタン(牛カルビのスープ)
・チョングッチャン(促成味噌のチゲ)
・トッポッキ(餅炒め)
・ビビンバ(混ぜごはん)
・ユッケジャン(牛肉の辛いスープ)

だいぶ現代に近づいてきているとはいえ、
19世紀末となると100年以上前のこと。
現代料理との感覚的ギャップにワクワクしてしまう。

ちなみにここでいうトッポッキは現代でいう宮中式。
コチュジャンを使った赤いトッポッキではなく、
醤油、砂糖などで味付けたものを指す。

ビビンバだけでなく、ビビン麺もあったりと、
ずいぶんバラエティに富んでいるのも面白い。

5、『朝鮮無双新式料理製法』(1924年)
歴史的貴重度:★★★--
専門的役立度:★★---
個人的萌え度:★★★--

朝鮮時代を過ぎて、日本の支配下に置かれた時期の本。
『是議全書』よりも、さらに多くの料理が登場している。

・コムタン(牛スープ)
・チュオタン(ドジョウ汁)
・テンジャンチゲ(味噌チゲ)
・チェユッポックム(豚肉炒め)
・カルチジョリム(タチウオの煮物)

ここまでくると現代の食堂メニューと変わらない。
面白いのは洋食メニューが増えてくる点。

・カツレツ
・サンドイッチ
・カレーライス
・ドーナツ
・アイスクリーム

といった料理の作り方が紹介されている。
同様に日本料理の作り方もあり、

・すき焼き
・親子丼
・寿司
・天ぷら
・味噌汁

などのメニューも見える。
カツオブシ、イワシのダシの取り方も書かれており、
かなり実用性のある内容になっている。

気になるのは中華料理の項目があるにもかかわらず、
チャジャンミョン(炸醤麺)の名前が見えないことか。
同様に韓国式中華を代表するチャンポンも見られない。
この2料理が韓国式中華を席巻するのはまだ先なのだろう。

といった感じに代表的な文献をつらつら紹介してみた。
ほかにも料理に関する本はいくつかあるが、
とりあえずよく引用される有名どころに限定してみた。

「へー、この料理はこんな昔からあるんだ」
「唐辛子が使われ始めたのは最近なんだ」
「料理の歴史って意外に面白いかも」

などなど。
それぞれの感慨があれば幸いである。

本当はもっと柔らかく書いていくつもりだったが、
いつの間にか、マニア心が先走ってしまった。
僕の興奮がいい形で伝わっていくことを祈る。

なんだか固い話にもなってしまったが……。

ともかく今年も韓国料理と真剣に向き合っていく所存。
今年もコリアうめーや!!を宜しくお願いします。

<書籍データ>
1、『飲食知味方』
著者:貞夫人安東張氏(1760年頃)
現代語版:『もう1度見て学ぶ飲食知味方』
監修:黄慧性
編集:韓福麗、韓福善、韓福眞
出版:宮中飲食研究院(2000年)

日本語版:『朝鮮の料理書』
訳者:鄭大聲
出版:平凡社(1982年)

2、『増補山林経済』
著者:柳重臨
現代語版:『国訳増補山林経済』
国訳:イ・ガンジャ他
出版:新光出版社

3、『東国歳時記』
著者:洪錫謨
現代語版:『新訳東国歳時記』
訳解:崔大林他
出版:弘新文化社(1989年)

日本語版:『朝鮮歳時記』
訳者:姜在彦
出版:平凡社(1971年)

4、『是議全書』
著者:著者不詳
現代語版:『是議全書』
国訳:イ・ヒョジ他
出版:新光出版社

5、『朝鮮無双新式料理製法』
著者:李用基
現代語版:『朝鮮料理製法』
編集:国学刊行会
出版:民俗苑

<お知らせ>
ようやくこれまでの更新ができました。
過去のメルマガも写真をアップしてあります。
http://www.koparis.com/~hatta/

<お知らせ2>
東京の韓国料理店ガイドが発売されました。
本当にいい店だけを厳選し180店舗を紹介。
新大久保、赤坂、銀座、麻布、六本木、上野などなど。
本場をもしのぐ名店揃いの1冊です。

タイトルは『東京 本気の韓国料理店』(実業之日本社)。

定価1200円(税込)で全国書店にて取り扱い。
飲食店だけでなく食材店、韓流グッズ店も含まれているので、
すべての韓国ファンみなさまにオススメです。

アマゾンなどのネット書店でも購入できます。

アマゾン
http://www.amazon.co.jp/dp/4408029793/
楽天
http://item.rakuten.co.jp/book/5129966/

僕にとっては長年の夢がついにかなった気分です。
魂のこもった1冊をぜひご購入ください!

<八田氏の独り言>
料理の歴史を振り返るのも面白いのです。
新年早々、小難しい話で申し訳ありません。

コリアうめーや!!第164号
2008年1月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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