コリアうめーや!!第159号
<ごあいさつ>
10月15日になりました。
いつの間にやら食欲の秋が全開です。
田舎から送られてきた栗をごはんに炊き込み、
アツアツに焼けたサンマを大根おろしと味わう。
たっぷりのキノコで鍋料理やシチューを作ったり、
デザートに梨やブドウを楽しんだり。
先日などは贅沢にもマツタケの握り寿司を食べました。
まあ、立ち食いで1貫105円でしたけどね。
忙しさを言い訳にスポーツの秋は見て見ぬフリですが、
食欲方面では充実した秋を満喫しています。
さて、そんな中、今号のメルマガですが、
ちょっとヘルシーな食材に着目してみました。
何よりも現代の韓国料理は健康が流行ですもんね。
コリアうめーや!!第159号。
歯を食いしばりつつ、スタートです。
<煮干をメインにテンジャンチゲ!!>
なんだか妙に忙しい。
忙しいのはいまに始まったことではないのだが、
もろもろの仕事がいっぺんに大詰めを迎えて大混乱。
徹夜に次ぐ徹夜で頑張るハメになっている。
どこかの国の新内閣は「背水の陣内閣」を掲げたそうだが、
僕の現状を見ると、首あたりまでどっぷり水につかっている。
「背水」すらも生ぬるく聞こえる「首水の陣」。
ちょっとでも水かさが増したらいきなり全軍壊滅。
まさにアップアップの状態で仕事をしている。
「忙しいことはよいことだ!」
と叫びつつも、精神的に少し余裕がなくなった気もする。
先日、ちらっと入った飲食店でこんなことがあった。
カウンターで食べる七輪ホルモン店。
隣の席に座っていた2人組は常連客のようだった。
いや、正確に言えば、男性のほうが常連なのだろう。
親しい女性を、自分の行き着け店に伴ってきた風だった。
慣れた感じに注文し、料理の薀蓄を語って聞かせる。
すぐ隣にいるので、聞かずとも聞こえてしまうのだが、
明らかに、ちょっといいところを見せたい感じだ。
「ここは焼き方にコツがあってね……」
から始まる焼き方講義。
「一度にざっと表面を焼いて、こうひっくり返す」
「このタイミングをなかなか習得できなかったんだよね」
「見える、この色? この瞬間でこう……」
初めての店だったため、僕もその技術が気になる。
「ちきしょう、隣は妙に楽しそうだな」
とやっかみ半分ながら横目でチラチラと盗み見。
確かに男は慣れた手つきでホルモンを焼いている。
「マスター、こんな感じでいいんだよね」
「いやー、さすがですね。私よりうまいくらいです」
「いやいや、そんなそんな。あははは」
客のツボを突いたマスターの見事な接客。
男は得意満面、鼻高々、さらに有頂天の三拍子だ。
そしてほどなく聞こえてくる女の子の……。
「あ、美味しいですぅ!」
という甘ったるい声。
この時点で脳血管の何本かがブチンと切れた。
「あー、隣は本っっっっ当に楽しそうだな!」
嫉妬交じりのイライラが腹の底でうごめく。
だが、このあたりまでは普通によくあるヒガミ根性。
テンションがガクンと落ちて、ムカツキにまで転じたのは、
出て来たホルモンが「!?」という品だったためだ。
それはもう、ゴムのように噛み切れないミノサンド。
ミノ(牛の第1胃)は確かに固さのある部位だが、
そこをいかに柔らかく食べさせるかが腕の見せどころ。
しかも、ミノサンドと名付けられる部分は、
ミノの中でも脂が乗って柔らかい希少箇所のことだ。
「にもかかわらずこの固さは何故だ!」
さすがに表立って憤慨したりはしないものの、
早々にドリンクを飲み干し、料理を残して店を出た。
普段なら、このメニューはハズレだったな、とか、
うん、この店はちょっとイマイチだったな、程度で済むこと。
だが、この日は隣の客への嫉妬も入り混じり、
ダメだ。もう帰ろうという精神状態になってしまった。
隣の席で食べているホルモンは本当に美味しそうだったし、
ミノサンドが出てくる前の数品もなかなかアタリだった。
にもかかわらず、そこでガクンと来たのは何故だろう。
あまりに忙しくて精神的余裕がないからか。
それともカルシウムでも足りていないのか。
「ん、カルシウム?」
おかしい! 足りていないはずがない!
ここ最近、カルシウムは豊富すぎるほど摂っているのだ。
僕の生活はカルシウム三昧といっても過言ではない。
ここ数号のメルマガでもお伝えした通り、
僕はいま東京の韓国料理店ガイドを製作している。
そのためこの夏は韓国料理店ばかり100軒取材。
現在は原稿書き、校正、データチェックなどの、
デスクワークに追われているといった日々だ。
発売は11月中旬くらいを予定。
現在はかなり切羽詰った正念場である。
毎日、家から出ず、ひたすらパソコンに向かっている。
そのため、外食をする機会もずいぶん減った。
韓国料理を食べたいときは自ら作るという状況が増えた。
そんな中、最近ハマっているのがテンジャンチゲ。
韓国の味噌で味付けた、いわば韓国式の味噌汁である。
あまりにも一般的な料理であるがために、
「たぶんメルマガでも書いたことがあるよなぁ……」
と思って調べたらなんと初登場だった。
しいていえば第58号に「味噌ビビンバ」がある程度。
これも厳密にいえばテンジャンチゲの部類に入るが、
麦飯にぶっかけて食べるという部分でやはり違う料理だ。
コリアうめーや!!第58号
http://www.koparis.com/~hatta/koriume/koriume58.htm
「ふむ。まだ書いたことがなかったか……」
第159号まで来てテンジャンチゲが初登場という怪。
韓国料理の中でもメジャーこの料理をここまで放っておいたのは、
僕が韓国料理の横道にばかり分け入っていたからだろう。
韓国料理にはこんな珍しい料理もある!
地方に行くと、まだまだこんなに魅力的な料理が!
こんな独創的なアレンジ料理を見つけた!
もちろんその横道探索も大事なことではあるが、
本筋をすっかり忘れていては意味がない。
「ようし、テンジャンチゲの魅力を語ろうではないか!」
と右手を振り上げかけて、この筆者はまた思い出すのである。
そういえば、冒頭の話題はカルシウム云々であった。
うん。書きたい話題もテンジャンチゲに使う「煮干」だった。
またもや本筋から外れるミニマム級のテーマ。
どうしてこう、マイナーな話題が好きなのだろう。
話はまたもや僕の留学時代へとさかのぼる。
僕がその頃、近所の食堂で食べていたのは3種のチゲ。
キムチチゲ、テンジャンチゲ、スンドゥブチゲだ。
この3種が朝食、昼食、夕食だったこともある。
寄宿舎の近所にあった学生向けの食堂に通いつめ、
毎日ほとんど同じものを食べるヘビーローテーション。
味もさることながら、大学そばにある食堂らしく、
ボリュームが多く、値段が安いのが魅力だった。
いまにして思えば目いっぱい貧相なチゲである。
スンドゥブチゲには最後に落とす卵が入っていない。
厳密にいえば入っているのだが、白身の部分しか入っていない。
黄身の部分は、石焼きビビンバの中央に使うのだ。
2つの料理でひとつの卵という超節約レシピである。
テンジャンチゲのほうも具を節約してある。
あるいは節約しているのは人件費のほうかもしれない。
エホバク(カボチャの未熟果)やタマネギといった具とともに、
ダシ用の煮干が4~5匹泳いでいるのだ。
普通の食堂であれば、ダシはダシで取ることだろう。
ダシガラとなる煮干はスープから外すのが基本。
まして飲食店なら布巾で漉すくらいはするのが当たり前だ。
そのまま入れっぱなしという店はその当時であっても、
寄宿舎近くの行き着け食堂くらいの話であった。
「煮干くらいちゃんと取ればいいのになぁ……」
と、思いつつも僕は意外にそれが好きだった。
時折り小骨を喉に刺しつつも、噛み締めると旨味がにじみ出る。
奥歯でクミクミと噛み締めながら、すするスープの味がたまらない。
その状態で、ごはんをわさっと頬張るのもいい。
子どもの頃はアゴが丈夫になるからといって、
スルメだの、煮干だのをよく食べさせられたものだった。
最近はアゴを鍛えるといえば、悔しいときに歯噛みするくらい。
煮干の懐かしい味わいを、ずいぶん忘れていた。
その煮干入りテンジャンチゲをいま自分で作っている。
最初はダシをとった煮干は取り出していたが、
どうもイマイチうまみが足らず、また戻すことにした。
一度引退したはずの煮干選手がカムバック。
すると、その煮干がいい仕事をするではないか。
野菜などの具を入れて煮込む過程でもそのまま。
味噌を溶いてぐつぐつ煮立てる過程でもそのまま。
完成して食卓に並べる段階でもそのままである。
さすがにここまで煮れば、搾り取るようにうまみたっぷり。
煮すぎると煮干は苦味が出てよくないともいうが、
頭とワタを取ってあるうえ、韓国味噌の力強さが勝っている。
家で食べるぶんには、これで充分美味しい。
具も1品増えて、かつ栄養もたっぷり。
カルシウムも豊富に摂れて、心の平穏すら手に入る。
冒頭ではミノサンドが固いだけでブチ切れていたが、
それは仕事のストレスに比して、カルシウムが足らないだけだろう。
おそらく煮干入りテンジャンチゲを食べていなかったら、
料理を残して帰るどころか、血の雨が降ったかもしれない。
それを考えると、煮干テンジャンチゲ様々である。
まだ、しばらくは忙しい日々が続く予定である。
あと半月かそこら。「首水の陣」で頑張らねばならない。
忙しさはピークだが、イライラしては仕事も台無し。
煮干テンジャンチゲを食べつつ、最後の力を振り絞るとしよう。
無事に終われば、後は晴れやかな開放感が待っている。
100軒取材した中の、どこで祝杯をあげようか。
煮干をかじりつつ、夢想の日々でもある。
<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/
<八田氏の独り言>
最近、ダシのうまさに目覚めています。
調理の時間より、ダシを取る時間のほうが長いくらい。
コリアうめーや!!第159号
2007年10月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com