コリアうめーや!!第158号

コリアうめーや!!第158号

<ごあいさつ>
10月になりました。
いよいよ今年も残りあと3ヶ月。
1年の終盤戦に入った気がします。
まだまだ夏気分でいたら、あっという間に冬が目前。
ここ数日こそ、ぐっと気温が下がりましたが、
9月いっぱいまるで夏のような陽気でしたもんね。
1年というのは本当に過ぎるのが速いです。
日々、バタバタ働いているようでもありますが、
1年という期間で考えると、果たして何を成せたかどうか。
2007年を悔いなく終えるためにも、
ラストスパートの心構えが必要になる時期です。
頑張らねば、頑張らねば、と思いつつ、
今号のメルマガではひとりで妙な頑張り方をした話。
夜中に黙々と、ある料理を作っておりました。
コリアうめーや!!第158号。
真夜中の台所にて、スタートです。

<深夜に格闘する手作りキムチマンドゥ!!>

小学校を卒業し、中学校にあがる春休み。
僕は親しい友人たちと千葉の九十九里に出かけた。

知り合いの家に泊めてもらい、ちょっとした旅気分。
海水浴の季節ではないが浜に出てワイワイ遊び、
夜はみんなで餃子を皮から作ってパーティをした。

餃子作りというのは適度な難易度がいい。

失敗してもせいぜい具がはみ出る程度だし、
味付けもさほど複雑でなく、適当でも美味しく食べられる。
具を手で混ぜ合わせる粘土遊び的な楽しさもあり、
皮で包むという、細かな技量を要する部分もある。

「何度やってもうまく包めない!」
「だからお前は具を入れすぎなんだよ!」
「オレはきれいにできたもんねー!」

などとワイワイ騒ぎながら作る楽しさがある。
市販の皮を使うなど、作業量の調節も融通が利く。
僕らも子ども心に大いに盛り上がって熱中し、
競うようにマイ餃子を作っていった。

事件が起こったのはそんな最中である。

ふと作業から離れて居間に移動した僕は、
見慣れない物体が床に落ちているのを発見した。

「こ、これはダブルバージョンのくし(櫛)?」

見た目はプラスチックのピンセット風。
緑色で、先端のほうがくし状のギザギザになっていた。
簡易的なくしをふたつつなげたようでもある。

何か珍しい発見をしたような気分になった僕は、
みんなのところに戻って意気揚揚と見せびらかす。

「見て見てー。なんかカッチョイイもの見つけたー!」

当時の僕はくりくりの坊主頭だったが、
いかにもキメている風に髪をとかしてみせた。
気分はビーバップ。気合の入ったリーゼントだ。

ピンセット状になった両方のギザギザを使い、
右から左から、交互に髪をとかしてゆく。

友人たちも餃子作りの手を止めて、

「なんかわからんけどカッチョイイのかも!?」

という表情で僕の浮かれ姿を見つめた。
一方、さっと青ざめたのは保護者役の大人たちである。

「や、やすし君。それは……」

僕がくしだと思ったのは、ハエ叩きの一部だった。

普段はハエ叩きの柄の部分にハメ込まれており、
ハエをビシッとやっつけた後に、それで死骸を拾うのだ。
ピンセット状なのは、ハエをつまみやすくするため。

僕はそんなこととはつゆ知らず、
あろうことか、くしがわりに使ってしまった。

「これ、使ったことないですよね!」
「うーん、たぶんあったと思うけど……」

祈るように尋ねた僕に、家主が冷たく答える。
僕はショックで固まるしかなかった。

その後、僕のあだ名はしっかり「ハエ」で固まり、
僕の作った餃子も「ハエ餃子」の汚名を着せられ嫌われた。
中学生になる直前の、つらく切ない心の傷である。

餃子の話を書こうと思って過去を振り返ったら、
ずいぶん昔の記憶にまで行き着いてしまった。

本来であれば韓国で初めて餃子を食べた話。

というのがよりふさわしい書き出しになるのだろうが、
あいにくそのハプニングについては本で書いてしまった。
僕が書いた初めての本、

『八田式「イキのいい韓国語あります。」』

の第2章にその話は掲載されている。

あの「わにゃわにゃわにゃ」事件をここで披露できたなら、
今回のメルマガも大爆笑、抱腹絶倒の傑作になったはず。

それがかなわず実に残念だ。
ああ残念だ。本当に残念だ。

あんなに面白い話はそうそうないのに。

と、ここまでもったいつけて書いておけば、
まだ読んでいない人が買ってくれるかもしれない。

もう4年前の本なのでたぶん書店にはないが、
アマゾンなどのネット書店なら購入可能。

先日、出版社の倉庫整理に引っ掛かってしまい、
一部が裁断処分になってしまったがまだ大丈夫だ。
絶版寸前だが、わずかに在庫が残っているようなので、
読みたい人がいたら、ぜひ早めに購入して欲しい。

えーと、なんの話だっけ。

妙な思い出話から宣伝へと話が迷走しているが、
今回のテーマは餃子。韓国語でマンドゥである。

もともと中華料理である餃子は日本でも親しまれているが、
韓国でもごく庶民的な料理として広く食べられている。

もっともよく見かけるのは屋台で食べるクンマンドゥ。

直訳すると「焼き餃子」になるのだが、
たいていは油たっぷりなので揚げ餃子風になる。
カリッとした歯触りのクリスピーな焼き餃子だ。

ほかにも蒸して作るチンマンドゥ(蒸し餃子)や、
茹でて作るムルマンドゥ(水餃子)ももちろんある。

あるいはマンドゥを具とした料理も多数。

スープの中にマンドゥを入れたマンドゥクク。
野菜や肉などとともに鍋仕立てにしたマンドゥジョンゴル。
韓国式の雑煮にマンドゥを加えたトンマンドゥクク。

スンドゥブチゲ(柔らかい豆腐のチゲ)のトッピングに、
マンドゥを入れて食べるなど、活躍の場は意外に広い。
存在は地味だが、いい仕事をする韓国料理界の2番打者だ。

そんなマンドゥを、とある9月下旬の深夜。

僕は自宅のキッチンにこもってセコセコ作っていた。
キムチ入りのマンドゥ。いわゆるキムチマンドゥである。
締切が翌日の朝イチという、レシピを含む原稿仕事があった。

料理人ではないのでレシピを作るのは専門外だが、
それでも仕事によっては引き受けねばならないこともある。
プロの料理人ならばキャリアだけで書けるかもしれないが、
僕の場合は不安なので、出来るだけ作るようにしている。

材料を揃えて、作業に着手したのが深夜1時。

締切ギリギリになっているのは自業自得だが、
夜中に自分は何をしているのだろうと、思ったりもする。
ときおり遠い目をしながらも黙々と作業を続ける。

だが、作業が始まってしまえばなかなかに楽しい。

「ハエ餃子」の痛い過去も思い出してしまったが、
そんな切なさも次第に忘れて夢中になっていく。

餃子というのはなかなかにフトコロが深く、
いろいろな具を受け入れてしまう魅力がある。
僕が作るとしたら、ひき肉、白菜、ニラ、ニンニク。

そこに生のエビなどを刻んで入れるととても美味しい。
場合によっては納豆や梅干なんかも意外に合う。

韓国のマンドゥもさまざまな具を入れて作るが、
特徴的なのは豆腐や春雨がよく使われることだろう。

水気を切った豆腐をぐずぐずにつぶして入れ、
春雨のほうは茹でた後、細かく刻んで具とする。
相対的にひき肉の使用量が減っていくので、
仕上がりはさっぱりとしたヘルシー風味となる。

今回の仕事は、某韓国ドラマと関連しており、
中に入れる具も、そのドラマの内容に沿う形とした。

春雨は使用しなかったが、豆腐、モヤシ、タマネギが主役。

そこに刻んだ白菜キムチとひき肉を混ぜて皮に包む。
白菜キムチは発酵が進んで酸味の出たくらいがベスト。
味付けは醤油、塩、ゴマ油程度でシンプルにした。

この段階で少し茹でて味の調節を図る。
パソコンの前で作ったレシピは少し塩気が薄かった。
やはり実際に作ってみる作業は大事なのである。

皮作りの工程は、紙面の関係からカット。
ただし韓国のマンドゥは包み方に特徴がある。

日本であれば半円に包んでヒダヒダを作るが、
韓国式は半円に包んだ端と端を、丸くくっつけて作る。
ちょうど皮で円を描くように包むという感じだ。

この作業を文章で伝えるのはちょっと難しいが、
仕上がりがコロンと丸い円形になるのがかわいい。

ヒダヒダ餃子の作り方に慣れていると難しいが、
しばらくやっているとコツも少しずつつかめてくる。
テンポよく、ひょいひょいと作っていると、
ほどなく、24個の餃子が手元に完成していた。

ヒダヒダ型が12個。コロン型が12個である。

後は蒸し器をひっぱり出してきて約10分蒸すだけ。
洗い物など、片付けをしながら待っていると、
プーッという蒸気とともに、自家製キムチマンドゥが完成した。

「さて……」

心持ち緊張しながら蒸し器のフタを開けると、
そこにはオレンジ色に輝くツヤツヤのキムチマンドゥ!

「いいじゃないの、いいじゃないの!」

と興奮しながら、即座に試食の準備をする。
湯気を立てるアツアツのキムチマンドゥをパクリ。
キムチ風味のジューシーな汁がピュッと飛び出る。

「あく、あふあふあふ、熱つつつ」

声にならないハフハフ声を出しながら、
予想以上のいい仕上がりに、興奮が頂点に。
作る前は不安交じりのレシピだったが、
実際に作ってみると、実にいい出来になっていた。

途中で、味の微調整を施したのが実に大きかった。

あまりに嬉しかったのでバクバク食べてしまった。
試食のつもりが、2個、3個、4個、5個。
缶ビールをプシュッと開けて、気分は祝勝会である。

「いやぁ、今日はいい仕事をしたなあ!」

ほろ酔い気分でレシピを修正し、気分よく就寝。
後は翌朝起きて最終チェックをし、編集者さんに送るだけだ。

いい仕事をしたときは、心地よい眠りがやってくる。

ゆっくりと熟睡し、ハッと起きたときにはもう昼。
締切である「朝イチ」をしっかりと過ぎていた。

「うひゃ、えらいことになった!」

オチまでしっかりついてメルマガネタに採用決定。
一石二鳥ともいえる、キムチマンドゥ作りとなった。

今日の標語「締切は守ろう!」。

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
マンドゥ作りと同時に作業写真も撮影。
マイカメラが粉まみれになりました。

コリアうめーや!!第158号
2007年10月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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