コリアうめーや!!第147号
<ごあいさつ>
4月15日になりました。
あれほど楽しみにしていた桜も散り、
花見シーズンも過去の話となっています。
結局、今年はまともな花見ができませんでしたね。
なんだかバタバタと忙しくしているうちに、
気がつけばタイミングを失っておりました。
今年は花見をしつつ、韓国料理店から出前を取ろう!
なんて夢のような企画も頭の中にはあったのに。
来年のこの時期、また思い出せることを祈ります。
さて、今号のコリアうめーや!!ですが、
自分の中のちょっとしたマイブームを語ります。
韓国で食べてきた、かつて嫌いだった料理。
いまは大人になって大好きになりました。
人の好みって変わっていくものですよね。
コリアうめーや!!第147号。
内面に攻め入る、スタートです。
<釜山で食べる牛の内臓ヤンゴプチャン!!>
内臓が好きだ。
というより、ここ最近好きになった。
しばらく前まで、内臓関係の料理は苦手だったが、
いつの間にか大好きになってしまった。
人間の好き嫌いというのは変わるものだが、
僕の場合は、特にその度合いが激しいらしい。
見るのも嫌だというくらい嫌いだったものが、
いつしか、毎日でも食べたいというほど好きになる。
その料理のよさを発見したからそうなのか、
それまで食べてこなかった分を取り戻そうと思うからか。
そのあたりは自分でもよくわからないが、
不思議なくらいに明確な、好き嫌いの大逆転が起こる。
ごくごく内面的な味覚の下克上だ。
これまでに起こった下克上を並べてみても、
・卵かけごはん
・握り寿司の高級食材
・焼き魚、煮魚
と、何故嫌いだったのかわからないものばかり。
「卵の白身って無駄にどろどろするじゃん!」
「イクラとか、ウニとかって口の中が生臭くなるじゃん!」
「焼き魚、煮魚は骨が邪魔くさいじゃん!」
まあ、平たく言えば子どもだった。
卵かけごはんは黄身と白身を丁寧に分け、
黄身だけをごはんに乗せて、醤油をかけて食べていた。
白身はどろどろするので、頑として食べない。
寿司店に行くと納豆巻きとタマゴ焼きだけを好んで食べ、
魚全般には見向きもせず、お吸い物を褒めて帰った。
焼き魚や煮魚は表半身のさらに中央部にだけ手をつける。
いわゆる「大名食い」というヤツである。
当時は子どもだったので、好き嫌いは叱られたが、
それでも我が家は、そこまで厳しくなかったように思う。
たぶん父親も地味に偏食家だったからだろう。
「新婚当初のお父さんなんかヒドかったんだから」
「料理の本を見ながら、半日かけてカボチャの肉詰め作ったのね」
「そしたらお父さん帰ってきて、なんて言ったと思う?」
「ほかに何かない? だって。失礼しちゃうわよねえ」
とは母親がよく語っていた話である。
すでに父は他界してしまったので昔話だが、
僕もおそらくその血を確実に引いているのだと思う。
我ながら好き嫌いの多さは尋常じゃなかった。
と言いつつ、でもお父さん。
「僕は少しずつですが好き嫌いが減ってきました」
卵かけごはんは白身も一緒に食べられるようになったし、
イクラやウニ、その他の生魚も食べられるようになった。
焼き魚や煮魚に至っては小骨などなんのその。
よくぞここまで、というほど骨だけになるまで綺麗に食べる。
「大名食い」が、今ではすでに「猫またぎ」。
猫に食わせるくらいなら、俺が食うと言わんばかりに、
身のあるところはほじってほじって、ほじり倒して食べる。
人間の好みというのは、本当に不思議なものだ。
そしてその好き嫌い逆転現象が内臓料理にも起こった。
キリッとした見た目の新鮮レバー。
溶けた脂がジュワっとしたたり落ちるホルモン。
ザックリコリコリした歯触りの胃袋。
ちなみにここでの内臓とは獣肉系がメイン。
スケトウダラの腸を塩辛にしたチャンジャだとか、
新鮮なサンマを焼き魚にしたはらわたのほろ苦さとか。
魚系の内臓も好きだが、それはまたの話としたい。
いまいちばんのマイブームが牛や豚の内臓料理なのだ。
韓国というのは実に内臓料理の豊富な国で、
牛でも、豚でも、実に細かい分類がなされている。
最近は日本でも希少部位がブームとなっているが、
韓国ではそれに輪をかけて分類が細かい。
単語がわからなくて辞書を引いても載っておらず、
あちこちネットで検索して必死で調べたら、
「牛の直腸の脂肪の多い部分」
というようなマニアック部位だったりする。
(注:韓国語ではコンジャソニ)
「いったいどこやねん!」
とにわか関西弁で突っ込みを入れたくなるくらいだ。
そもそも日本で使われている内臓の名称も、
もとをたどれば韓国語というものが意外に多い。
・コプチャン(小腸)
・テッチャン(大腸)
・チレ(脾臓) →韓国語ではチラ
・フワ(肺) →韓国語ではプア
・ヨントン(心臓付け根の大動脈) →韓国語では心臓の意
・ウルテ(気管)
センマイ(牛の第2胃)、ハチノス(牛の第3胃)なども、
韓国語を直訳、意訳して出来た言葉だとされている。
少なくとも日韓の比較では、韓国に一日の長がある料理分野だ。
従って、街中には内臓料理の専門店も多い。
韓国はもともとメニューを絞った専門店が多いが、
内臓料理の専門店も、そこからさらに分類されていく。
マクチャン、ホンチャンと呼ばれるギアラ(牛の第4胃)専門店。
テジコプチャンと呼ばれる豚のコプチャン(小腸)専門店。
カルメギサルと呼ばれる豚ハラミ(横隔膜)専門店。
そして、1月の訪韓ではヤンゴプチャンの専門店に行った。
ヤンというのが、韓国語でミノ(牛の第1胃)を表し、
コプチャンは前述した通り、牛の小腸を表す。
釜山をはじめとした南部地方の名物料理としても知られる。
店によっては他の部位を一緒に出す場合もあるが、
この2種類を看板とする店が、釜山にはたくさんあるのだ。
今回行ったのは南川洞(ナムチョンドン)にある店。
広安里(クァンアルリ)という有名な海水浴場がそばにあり、
夏場のシーズンになると、観光客で賑わう繁華街だ。
エリア的に日本人観光客の姿は少ないが、
歩いてみると、穴場的な飲食店がたくさんある。
店に入ると、シンプルなメニューが壁にかかっていた。
・特ヤン(上ミノ)
・ヤン(ミノ)
・テッチャン(大腸)
・ヤンゴプチャン(ミノ&小腸)
この店にあるのはこの4種類でおしまい。
しかも、メニューとしては4種類だが、
よく見ると出している部位はわずか3種類である。
上質のヤンだけを、別に分けている。
こういうピンポイントさが韓国の魅力でもある。
店側としても仕入れや仕込みの手間が省けるし、
客のほうもどれを食べようか悩む必要がない。
単純明快でわかりやすいサービスだ。
僕らはヤンゴプチャンとテッチャンを注文。
注文と同時に、炭火が運ばれてきて、
テーブルの中央にセットされて金網が乗る。
サンチュサラダやキムチも運ばれてくる。
料理が限られているのでサービスも迅速。
気がつけば、目の前にヤンゴプチャン一式が揃い、
いつの間にやら、金網の上でジリジリと焼かれ始め、
ふと見れば、いい感じの食べごろになっていた。
「そろそろいいわよー」
という店のおばちゃんの一言で我に返り、
頃合に焼けたヤンゴプチャンへと突撃する。
味付けはヤンもコプチャンも一緒である。
韓国では粉唐辛子をたくさん入れた辛いタレが基本。
醤油、砂糖、水あめ、果物の果汁などを混ぜ合わせ、
辛さの中にも、さらっとした甘さのタレで食べる。
ヤンは独特のコリコリした歯触りが魅力の部位だが、
しっかりと隠し包丁が入っているので柔らかい。
「ヤン、コリコリですねぇ!」
焼けたそばからどんどん箸が伸びていく。
食感のヤンに対して、コプチャンは脂が魅力。
口の中でじゅわっと溶ける脂の甘さがたまらない。
「コプチャン、とろとろですねえ!」
ヤンもコプチャンもあっという間になくなる。
金網から肉が消えると、途端に場は殺気立ち始め、
次のテッチャンが焼け出すと、また場は穏やかに和む。
テッチャンはコプチャンよりもさらに脂が強いが、
そのぶんだけ合間に飲む焼酎がより美味しく感じる。
韓国の焼酎は冷やして飲むストレートが基本。
脂でギトギトテカテカになった口の中を、
台所洗剤のCM並に、キュッと洗い流してくれる。
「焼酎うまいっ!」
この段階になると褒め言葉もシンプル。
満たされつつある食欲が、脳の働きを鈍化させる。
顔もヘラヘラとした締まらない笑顔だ。
そして最後のシメはテンジャンチゲ(味噌チゲ)。
メニューには載っていないが、これはあって当たり前。
韓国では焼肉系の料理を食べたら、必ず最後にシメを用意する。
テンジャンチゲは冷麺と並ぶ、シメの定番格。
熱いチゲと一緒にごはんを食べて、胃に満足感を作るのだ。
「ふううぅぅわああぁぁ」
もう言葉も出ずに腹をさするのみ。
満足。心から満足したヤンゴプチャンの宴である。
ただ、冒頭にも述べたように、
こういう楽しみ方が出来るようになったのは最近。
以前も釜山でヤンゴプチャンを食べたことはあったが、
そのときはまだ、「食べられる」という程度の段階だった。
「嫌い」は卒業していたものの、いまほど「大好き」ではない。
せいぜい並程度の「好き」だったのが悔やまれる。
記憶の中に残る、いつぞやのあの店、そしてあの店。
「すごい。このヤンゴプチャン僕でも食べられる!」
というえらく後ろ向きな褒め方をしていたが、
おそらく、いまの僕が食べればもっと美味しいに違いない。
記憶の中で妄想が膨れ上がり、もはや破裂寸前である。
可能であれば、これまで食べ歩いた店すべて再訪し、
頭の中にある内臓料理のデータを全面的に入れ替えたい。
そしてその入れ替え作業で、さらに内臓が好きになり、
入れ替えの途中で、さらなる入れ替え作業に突入したい。
むしろその無限ループに陥ってズブズブになりたい。
自分の味覚を鍛えての再チャレンジ。
フードコラムニストとしては未熟そのものだが、
好き嫌いが多い人生というのも意外に楽しい。
<おまけ>
メルマガに登場したお店データ
店名:ヒャンナムチプ
住所:釜山市水営区南川1洞11-20
電話:051-622-6727
HP:なし
<お知らせ>
ヤンゴプチャンの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/
<八田氏の独り言>
韓国での好き嫌いもだいぶ克服しました。
でも、ポンデギ(蚕のさなぎ)はまだダメです。
コリアうめーや!!第147号
2007年4月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com